「こんにちは!」
私がふらんと一緒にテレビでBLドラマを見ていると、来客があった。
ふらんの身に何があっても対処できるよう私の腕のギロチンを服の内に出す。
ふらんは従者たちと一緒に玄関に向かった。私も後を追いかける。
「はじめまして、斑木ふらんと申します~!どういったご用件で~?」
寝ぼけ眼を浮かべながら来客に対応するふらん。相変わらずフラフラしている。
「あっ!初めまして。僕は、
扉の間から見えるその顔に見え覚えがあった。
「えっ!目が覚めたわ。まさか『青年ズラブ』の
「はあ・・・」
終は、何だか、内に暗澹たるまなざしを浮かべてふらんを見ていた。後ろ暗いことでもあるのだろうか。
しかし、殺気は全く感じないし、私はギロチンを腕の中に戻した。
「ヴェロニカ~あなたも挨拶しなさい~」
私は、へこっとお辞儀をする。さっきまで画面の中で男同士の熱いキスシーンを繰り広げていた人物が目の前にいることは信じられなかった。
終は大きなスーツケースを引いている。
ふらんは屋敷奥の談話室に終を案内した。終の話はそこで聞くという。
「お待たせしました~」
ふらんは暖かい紅茶を2個持ってきた。私の分は用意してくれないのか・・・と少し思った。
「で、結局、話って何ですか?」
急にキリッとした目になって、ふらんはそう聞く。
「いえ、実は・・・僕、今朝、彼女を殺してしまったんです」
「はっ・・・?」
二人が話している最中は黙っているつもりが私は思わず声を出してしまった。
「まさか・・・そこにあるんですか?」
ふらんは紅茶をちゅびちょび飲みながら、終が持ってきたスーツケースを指さした。
「そうです・・・ここなら、どうにかしてもらえると噂で聞いて・・・」
そうボソボソと言葉を発してから、終はスーツケースを開けた。
スーツケースの中には、頭部・胸部・腰部・脚部が分かれバラバラになった死体が入っていた。
長く伸びた綺麗な黒髪がとても艶めかしく、透き通った鼻筋は生前の彼女の美貌を物語っていた。
その死体にはおかしなところが一つありそこが気になった。目が少しくぼんでいたのだ。
「なんで目がくぼんでんだ?」
いつの間にやら、ふらんの側に居た沖田が問う。
「うわぁ!化け物!」
終は沖田を見てすぐに頭(生首という意味では無い)を抱えて、喚き始めた。
「はあ・・・オレからしたら、人をこんな風にバラバラに殺したアンタの方が化け物だと思うぜ・・・」
沖田は大きなため息を吐いた。
しかし、沖田には可哀想だが、終が驚くのも無理はないと思う。沖田は人面犬なのだから。
ふらんは、死体の頭部を持ち、瞼を片方ずつ上げ始める。端から見ていた私でも気づいた。
死体である彼女の目玉が無いことに。
目があるはずのそこには暗闇が広がっていた。
「ふらん・・・これは・・・」
「ヴェロニカにも見えた~?目玉が無いのね~?」
ふらんは少し楽しそうだ。
「目玉はどこいったんだよ」
沖田は八の字眉を浮かべながら終に視線をやる。
終は視線を落とす。
しばしの時が過ぎ・・・
「僕が・・・食べました」
そう、言葉に詰まりながら発して沈黙を破った。
私は身の危険を感じ、腕からギロチンを出そうとするが、ふらんが止める。
「ヴェロニカやめてよ~お客さんだよ~」
「でも・・・」
「駄目なものはダメ~」
バチッ。
頭に電流が走る。
「キャア」
思わず叫んでしまった。また、ふらんが私の頭にある電極を作動させたのか・・・
何度浴びても慣れない痛さだ。
「どうかしました?」
終が私たちを心配そうに覗き込んできた。
「いえいえ何にもありませんよ~目玉はなんとかなりますからぁ」
ふらんは笑顔を浮かべて何事もなかったかのように対応する。
その後わかったことだが、この異常な事件の発端は終があるASMR動画を見たことだった。
その動画は、露出度の高い可愛らしい猫のコスプレをした配信者が眼球の形をしたグミをクチャクチャと美味しそうに食べているものだった。
終はその動画を見て自分も目玉を食べてみたいと思ったのだった。
グミではなく、本物の眼球こそ食感は良いのでは無いか?そう考えたからだという。
私にはよくわからないが、ふらんは頷いていた。
で、終は今朝、自分の彼女を自宅マンションに呼び出し、押し倒し、無理矢理両方の目玉をアイスピックで抉って取り出した。アサリの身を殻から抜き出すときのように。
その際、体を抑えるために終は彼女の首を思い切り掴んでいたため、彼女は窒息死してしまった。
その死体の横で目玉を終は本当に食べたのだが、
先ほど「目玉は食感も味もイマイチでした・・・」と述べていた。
目玉を完食した後、ベッドの上で泡を吹いて倒れる彼女を見て彼は、スーツケースに入れて山に捨てようとバラバラにした。
しかし、バラバラにした後、ふと、突然、恋人を失った喪失感に襲われたという。
その刹那、突然、ふらんというどんな状態の患者でも治してくれる医者が居るという噂を思い出し、車を走らせてこの研究所に向かった。
そして、冒頭に戻る。
私は人を殺したことは多々あるが、終のように生き返らせようという気持ちは全くわかなかった。
ふらんは、たまに死体を蘇生させて繋げて楽しんでいることがあるが、私にはその気持ちもわからない。
「お願いします!また彼女に会いたいんです!!」
終は自分の行った過ちを説明し終えた後、深々と頭を下げた。
頬を涙が伝っている。
「分かりました!彼女さんは絶対生き返らせます!ねえ、彼女と同じ性別、背丈の生きの良い献体もらってきて!」
従者たちにふらんはそう大きな声で命令した。いよいよ手術が始まるのだ。
ふらんは手術室に向かい、その後ろから件の死体が入ったスーツケースを従者たちが運ぶ。
しばらく経って、近くの病院からもらってきた献体も従者の手によって手術室へ運ばれた。
手術室を覗くと、ちょうど手術が始まる直前だった。
「術式開始!!」
そう大きな声で高らかと叫び、手術服を着たふらんは6本の手を体の内から出す。彼女はこの6本の腕を巧みに使うことで素早く適切な手術を可能にできるのだ。
献体から目を取り出し、まず、件の死体の目のくぼみにはめ込む。サイズはちょうど良かったらしい。ぴったりと入った。
次に頭蓋骨に電動ドリルで穴を開け、電動のこぎりで開頭をし、大脳をあらわにした。
2つの手で大脳を持ち上げ、4つの手で視神経をそこにつなぎ合わせる。
後は、頭部を献体の身体部につなぎ合わせて完成だ。
献体の方が臓器がまだ元気で、蘇生措置もしやすいからだという。
蘇生措置を終え・・・いよいよ・・・
「終さん手術が終わりましたよ!」
そう述べるふらんの後ろには裸の彼女が立っていた。
「
涙を流しながら、終は彼女を抱きしめた。
対して、彼女は明後日の方向を見て、ぼうっと突っ立ている。
彼女に終は用意していた服を着せて、車に引っ張っていった。
「ふらん先生、本当にありがとうございました!」
そう言いながら大きく終は手を振っている。
満面の笑みを浮かべながら。
車が去った後、ふらんは私に声をかける。
「大脳は彼女のままだけど、まだ新しい体に適応してないから、記憶が曖昧なのよね~記憶が戻ったらまたラブラブな生活を送れるのかしら~。ってかそういや『青年ズラブ』の続き見なきゃ!良いところだったのよ」
私は走ってリビングに戻るふらんを後から追いかけていく。そのとき、ふと、脳裏にとある最悪な結末が浮かんだ。が、頭を振り、脳内から消し飛ばす。
次の日の朝。女性刑事・
「どうしたんですか~?」
徹夜で『青年ズラブ』を一挙見して寝ぼけ眼を浮かべたふらんが対応する。
「実は、今朝、殺人事件が起きまして。山本恵さんという方が俳優の終亡人さんの胸を刃物で突き刺して殺したんです」
私の予想は当たっていた。しかし、こんな早く起きるとは思わなかった。
「そして、終さんは目玉をくりぬかれた状態で見つかりました。恵さんの犯行動機は”彼に目玉を食べられたことがあって、私も美味しいのかなと思って食べてみた”ということで・・・」
「ああ、そういうことね。似たものカップルだったのね・・・」
「終さんのドライブレコーダーにこの研究所に来た様子が映ってまして、署までご同行お願いします」
「ああ、だから来たわけね~ヴェロニカ~留守番頼んだわよ~」
そう暢気な声を出し、この館の主は沖田と一緒にパトカーに入っていった。
正直、今回の件を通して、目玉の食感が気になったのは言っておく。