シグルってたまるか外伝~刃牙道など行かん~   作:風袮悠介

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プロローグ2=エピローグから始まるタイムスリップ?=

 兄、藤木源之助に斬られた。

 オレこと藤木裕次郎は、全ての目的を果たした。

 

 死んだ後に転生した先は、なんとシグルイ世界。

 ハッピーエンドを目指したがしくじり続け、なんとか源之助のアニキと、虎眼流前当主でオレの義父だった岩本虎眼の娘である三重ちゃんを生かすため、真剣御前試合で二人が死ぬ運命をひっくり返して、オレは死んだ。

 源之助アニキによって殺されることで、オレの計画の全ては完遂した。

 

 満足したまま死んだはずだった……。

 

 

 

 

 目覚めたら、なんか顔一杯にお婆さんの顔があった。

 

「んぅ!?」

 

 びっくりして周りを見ると、なんか見覚えがあるようで見覚えがない、どこかの研究施設。

 すっげぇ久しぶりに見る、白衣を着た研究員たちがオレを見て苦い顔をしてる。

 何がなんだかわからないが、お婆さんはずぅっとオレに……キスか。キスをしてるらしい。

 

 情熱的だねぇ。

 

 前世、シグルイ世界では結局童貞のまま死んだからなぁ。前々世でも童貞だったけどよぉ。

 なんだろうな。ここで慌てたらお婆さんの思うつぼのような気がする。

 

 なので、お婆さんの頭を掴んで強く唇を奪うことにした!!

 

「ぬぅ!!?」

 

 強く唇を吸い、舌を入れ、これでもかとディープな奴をかましてやった。

 お婆さんは必死に離れようとするが、それでも逃がさん!! 男をからかった罰を受けるがいい!!

 おら! 逃げるんじゃねぇ! ジュルルルルウウウウウルルッルル!!

 そうやって十秒くらい、濃厚でディープなキスを交わしてから手を離した。

 顔を真っ赤にしてへたり込むお婆さんを尻目に、オレは体を起こした。

 

「ふぃい……なんともなんとも、起き抜けに情熱的じゃない?」

「は、はいぃいい……!」

 

 お婆さんは顔を真っ赤にしたまま、凄い速さで首を縦に振っていた。

 しかし、ここはどこだ? 研究員さんたちも随分と戸惑った様子だし、窓も無ければ扉もない。あ、いや自動ドアはあるか。

 久しぶりすぎて扉と認識できなかった。

 ていうかこれ……もしかして令和日本の時代……?

 

「ええと……で、あんたらは誰? オレ、死んだはずなんだけど……?? あれか!? いろいろとやり過ぎて地獄の閻魔から追い出されたのか!? そんなっ、オレがやったことなんて、襲いかかってきた牢人をふん縛って木に縛って背中にうんこ形の火傷の痕を付けただけなのに!!」

「いや他にもたくさん人を斬って殺したことは……?」

「え」

 

 研究員さんの一人にそうツッコまれて、オレは冷静に考えた。

 そうか、この時代では人を殺したら罪になるんだ! いや江戸時代でも人を殺したらある程度の罪になるけどさ。

 いかん、感性がシグルイ江戸時代ナイズされたままだった。

 

「あ、ああ~……ええと。なんかオレが目覚めたここは、人を斬り殺したらすっごい罪になってすっごい罰を受けるってこと?」

「はい。死刑……ええと」

「斬首かね」

 

 オレがあっけらんと答えると、研究員さんは呆気に取られながら頷く。

 うーむ、どうやらここは現代社会。現代日本。研究員さんの言葉や様子、服装、倫理観を見て確信する。

 体の奥底から喜びが湧いた。

 

 オレは、本当に帰ってきた!!

 現代日本に、シグルイ世界から帰ってきたんだ!

 

 思わず手や足を見る。……が、そこにあるのはシグルイ世界で馴染んだ藤木裕次郎の体であった。

 ……どうやら藤木裕次郎の体のままここにいるってことか?

 いやどうでもいいや! 現代日本に帰ってきたんだから!!

 

「いや~……ええと、その前に服をくれません? あと、どういう状況か教えてもらえますぅ?」

「あ、はい」

「良かった、断られたらそこのお婆さんにもう一度キスを交わさねばならんところであったぞ」

「え」

 

 

 

 

 話を聞いた。

 あんたらは誰で、なんでオレを蘇らせたのか。

 

 話を聞いて理解した。

 ここは刃牙世界じゃねーか!!

 

 皆さんご存じ格闘マンガの金字塔、グラップラー刃牙シリーズ。その第四シリーズの刃牙道シナリオの上に、オレはいたのだ。

 ここでは徳川光成が禁忌を犯して宮本武蔵のクローンを作り、そこに魂を吹き込んで宮本武蔵をこの世に顕現させた。

 烈海王を斬り殺し、多くの警官を斬り殺し、最後にはこの世界に馴染めないってことであの世に成仏させられる。

 

 無茶苦茶身勝手な理由だ……読者から外道って言われるわけだよ……。

 

 しかし、なぜ刃牙世界がシグルイ世界の延長線上にあるのかはわからない。

 確か刃牙世界はケンガン世界とカイジ世界とも繋がっている、同一世界線上の話だったはず。そこにシグルイ世界まで混ざってるとかもうわけがわからん。

 あるいはオレという特異点みたいな奴のせいだろうか?

 

「ええと、それで? オレを蘇らせたのは……」

「あなたには、武蔵と闘っていただきたい」

 

 お婆さんがオレに行った。全員が床に座っているなかで、お婆さんは綺麗な正座をしてる。

 

「は? 武蔵? 武蔵って誰?」

 

 あえて知らんぷり。

 

「知らんのですか? 宮本武蔵を……?」

「いや知らない。オレ、掛川暮らしが好きな田舎武士だし……」

「ご謙遜を」

 

 お婆さんは何故かしたり顔で語り出した。

 

「時の徳川幕府三代将軍家光公。その時代で、剣術指南役に選ばれし柳生新陰流柳生但馬守宗矩と、一刀流小野忠明を勝負で下し、徳川の威光を持つ検校すらもその手にかけ、徳川家光公の弟君である徳川忠長公が開きし駿河城内真剣御前試合前に忠長公と何かしらの話をしたと言われる、伝説の剣士。数多くの逸話と迷信を残し、今なお時代に名が刻まれた。その異名、『鵺』とまで言われる男が……」

「なにその伝説」

 

 なんか怖いよぉ……後の時代にそんな形で名前が残ってるとか怖いよぉ……。

 

「えと、それで……徳川光成公が抱える宮本武蔵って武士を殺せと?」

「……」

「いやハッキリ言うのは難しいのか。なんかこの時代、誰かを殺せとか死なすとか、殺すとかいう言葉に忌避感があるんだな? そういう考えがあるってことか」

 

 オレが言うと、お婆さんは気まずそうに頷いた。

 

 辛ぇ~知らんフリするの辛えぇ~!

 知ってるけどそれっぽく、理解してる感じで話すのキツいわぁ!

 江戸時代の荒れた時期を生き抜いた武士マインドはあっても根っこは現代っ子だから理解できてるけど、転生したから知ってます~なんて言えるわけねぇし!!

 

「あー……殺す、ではなく倒す、なら良いのか?」

「うむ……良いのか?」

「いやぁ、その、そっちの話を聞いてる限りはその方が良さそうだし」

「失礼、ちょっと良いかな?」

 

 おっとお婆さんの隣で正座していた外国人さんが話掛けてきた。

 

「なに?」

「その、キミは随分と現代に理解があるようだね? 戸惑いはないのかな?」

「あるよ? 当たり前でしょ。上の命令で死ななくていいなんて画期的だよ? お家のあれこれもないってサイコーじゃん。もう……上のことを気にして家族を守るためにアレコレしなくていいわけだし」

 

 なんか外国人さんが青ざめた顔をしてるな。

 

「上の命令ならば死ぬのか?」

「士はお家のために、死ねと言われれば死ぬ」

 

 俺はあっけらかんと答えた。

 

「それがないんだ。サイコーだよ本当に。それにこの着流しと褌! 凄く良いな! 軽くて丈夫だ! 何でできてんの?」

 

 化学繊維だろうなぁとわかっていながら、立ち上がってくるりと回った。うーん懐かしいポリエステルの肌触り。

 オレの様子を見た外国人さんが、なんか呆れたように笑った。

 

「キミを見てると武蔵殿と同じ時代のサムライなのか、疑わしいよ。気を張るのも馬鹿馬鹿しく思えてきた」

「ちゃんと同じ時代の士さ。時期はズレてると思うけど。それで」

 

 オレはスッと目を細め、外国人さんを見た。

 

「本当のところ、オレを武蔵って奴に当てるためだけに蘇らせたのか? それとも知的好奇心がいきすぎたからか?」

 

 声を低くし、圧を前回に言った。

 

「慎重に、正直に答えろよ? もしその目的が叶ったとしたら、オレは殺されるかもしれないだろ?」

「こ、殺すだなんてそんな」

「本当か? 話を聞く限り、その武蔵って奴はこの現代の教育なんて何も受けて無いんだろ? お前ら、あえて特に教えずに連れて歩いてるんじゃないか? オレが細かく質問しなかったら答えなかったこともあるだろ?」

 

 オレの追求に、研究者とお婆さんが顔を青くした。

 

「おい、オレたち士をなんだと心得ている? 呼び出して遊んで飽きたら捨てるか? 蘇らせておいてこの現代に馴染むように教えるべきことを教えず、紹介状や寺の人別帳のようなものに明記できるような身分を作らずにほったらかしか?

 心して答えよ。答えによっては、お前らの首を折る」

 

 実の所、お婆さんの正体も研究者さんたちの正体もちゃんと覚えてて知ってる。

 確か原作だとこのお婆さんは、武蔵を呼び出した張本人である、地下闘技場オーナー徳川光成の姉の寒子さん。

 外国人さんは……ホナー博士? だっけか。

 そしてこの人たちは、興味本位と知的好奇心、己の欲で武蔵を呼び出し、戦わせ、救うことを放棄してあの世に還した。

 

 オレはこの一連の流れにおいて、武蔵は全面的な被害者だと思ってる。

 

 確かに烈海王は斬られて死んだ。警察もたくさん殺された。ピクルはズタズタに斬られた。

 この点において確かに、武蔵が加害したと言えばそうなるだろう。

 

 だが、その全てが武蔵の加害行為で責任は武蔵にあると言われると、オレは全否定する。

 

 武蔵は最初に光成に言われた。

 「あなたはあなたのまま、それ以外は望みません。戦ってください」と。

 だから武蔵は戦国時代の倫理観、光成の望みのままに戦った。

 観客が言うようにぶった斬った。

 烈海王の覇気を認めて殺した。

 

 そしたらどうだ?

 烈を斬ったら光成に複雑な表情をされ、渋川には仇討ちと殴られ、観客からはドン引きされた。

 さらには己の生き方、在り方について範馬勇次郎からは純度が低いと言われる始末。

 徹頭徹尾、武蔵は望まれたように戦い、相手の気概を認め、そして出世を目指して戦国時代の倫理観のまま戦ってきたのにだ。

 殺せば文句を言われ、殺さなければ対戦相手からは侮辱するなと文句を言われる。

 そしてこの時代では己が一切認められず、土地と人の縁もなく、出世を目指そうにも人を斬っても無理であると理解した

 だから武蔵は、原作後半の凶行に至ったわけである。

 オレには死に場所を求めて武士としての武蔵のまま殺してくれと泣きわめいているように見えた。

 全てはこいつらが無責任に武蔵を呼び出し、好き勝手理想を押しつけたせいだ。

 

 特にオレら江戸時代の士にとっての『徳川』というものについての認識が甘い。

 

 『封建社会の完成形とは少数のサディスト多数のマゾヒストによって構成されるのだ』と評される通り、徳川に死ねと言われれば死ななければいけないのがオレたちだ。

 お家のため、主君のため。己の命は己のものにあらず。

 主君のための死に場所を得ることが部門の誉れと言えるほどよ。

 

 その徳川に、あなたのまま戦えと言われた武蔵は、武蔵のまま戦おうとして、裏切られたんだ。

 

 それをオレにもしようとしてる。

 オレは一切、それを許さない。

 

「お前ら、命をなんだと心得る?」

 

 

 

 

 オレの叱責に全員が頭を下げて謝罪をしてきたので、オレは改めて要求した。

 

一つ、オレと武蔵で日本で生きられるように身分を作れ。

二つ、オレと武蔵が日本で生きられるように学びの場所を作れ。

三つ、オレと武蔵の後見人としてお前らが名前を出せ、責任を取れ。

四つ、オレと武蔵に仕事を斡旋しろ。社会勉強を兼ねつつここで生きられるように食い扶持を得られるように。

 

 最後に五つ目。

 オレに大小の刀を用意しろ。特注品として、多少の質は妥協するが仕掛けを施したものを寄越せ、と。

 

「そういえば、その武蔵とやらは今、どこにいるの?」

「今は烈海王と呼ばれる拳雄と、地下闘技場で武器を解禁して戦っておる」

「っえ」

 

 時間軸そこかよ!!

 オレは怒鳴りながら、そこまでの移動手段を用意させて、地下闘技場に乗り込んだってわけだ。

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