上も、下も、暗闇に支配された空間。
唯一の光源は、月に似た丸く巨大な灯りのみ。
その唯一の光も、
『――――ッ!』
まるで卵のように、中で不気味にうごめく『何か』が。
不規則に咆哮を上げ、闇を揺らしていたのだった。
「――――オオ、グレンゴースト様」
そんな主を恍惚と見上げるのは、虫の特徴を所々に持つ老人。
その名も『毒虫博士・Drウォーム』。
まことみらい市、ひいては世界を脅かす魔物軍団『ジャマンガ』の最高幹部であり。
魔物を生み出すマッドサイエンティストだ。
「もうしばしお待ちを・・・・今に『仕込み』が発動し、御身へマイナスエネルギーを献上致します・・・・!」
天空へ向けて、恭しく頭を下げるウォームへ。
『何か』は、ジャマンガの首領『グレンゴースト』は。
相槌代わりとばかりに再び咆哮を上げる。
「――――」
そのやり取りを。
『彼』は、静かに見据えていた。
「――――怪しいものは、見当たらないわね」
あんな達キュアット探偵事務所の面々と別れた後、街を一通り歩き回った平和は。
炭酸飲料を口にしながら眉を潜めた。
『しかし、魔的反応は感知されたのだろう?』
「ええ、でも・・・・ここまで空振りだと・・・・・」
『榊戸さんを疑うわけじゃないけど』とゴウリュウガンへぼやきながら、再びペットボトルを傾ける。
――――SHOTの魔法エンジニアである榊戸が、『魔物の反応がある』と報告してきたのが今朝の話。
微弱ではあるものの、無視出来ないことも有り。
平和と辰也の二人で、手分けして街を探索しているのであった。
『ではどうする?切り上げるか?』
「・・・・もう少し探す」
空になったペットボトルをゴミ箱へ投げ、平和は伸びをしながら立ち上がる。
「小さな見落としがとんでもない事態を引き起こすのは、あんたも知ってるでしょう?」
『・・・・そうだな』
物憂げな平和の言葉へ、ゴウリュウガンもまた、どこか沈んだ反応を返した。
「とはいえ、さすがにジリ貧ね・・・・」
『探す場所を変えようかしら』とぼやきながら、周囲を見渡していると。
「あ」
「・・・・」
ちょうど、平和と同じ目的で歩いていた辰也と出くわした。
「そっちはどう?」
「・・・・今のところは、何も」
手を上げながら話しかければ、首を横に振る辰也。
「そう・・・・こっちも空振りだから、場所を変えようとしてた」
「そうか」
きちんと答えてくれはするものの、だいぶ素っ気ない返事。
平和はこっそりため息をつきながら、『そういえば』と話題を切り替える。
「こないだの子達も、この辺にいるみたいよ。初めての依頼なんですって」
「・・・・そうか」
「あのねぇ・・・・」
またも素っ気ない返事に、今度は大きくため息をつく平和。
「気にならないの?あなたと同じ時代から来た子よ?」
「気にしたらなんかくれるのか?」
『辰也、その言い方は・・・・!』
徹頭徹尾崩れない態度に、辰也の腰に携えられたエンブレム『ゲキリュウケン』が窘めるが。
辰也はその間に踵を返してしまう。
「あんたが気にかけてるから、これ以上は要らんだろう」
「あ、ちょ・・・・!」
『コラ!辰也!』
去っていく背中を引き止めようとする平和だったが。
辰也の足は速く、もう届かないところにまで行ってしまっていた。
『平和、今日は諦めよう』
「・・・・そうね」
再三ため息をついて、平和もまた別方向へ歩き出そうとした時だった。
背後から、『ドカン!』と轟音が響き渡ったのだ。
「ッ何!?」
弾かれるように振り向けば、商店街の一画から桜吹雪が上がっている。
「・・・・ッ行くわよ!」
『ああ!』
探し回っている魔物の痕跡と、近くにいるはずのあんな達を想起して。
平和は全速力で駆け出した。
『なんだかんだ、気にかけているじゃないか』
「ッそんなんじゃないわよ!魔物だったらまずいでしょう!」
『フッ、そういうことにしておこう』
◆ ◆ ◆
「――――どっちが先に見つけるか!勝負だ!名探偵!」
――――バッグを奪ったのは、ファントムの新たな怪盗『ゴウエモン』だった。
どうやら、純一さんの漫画の原稿に、マコトジュエルが宿っているらしくて。
今回はそれをターゲットにしているみたい。
「どうしよう、まだ本当の鞄も見つけてないのに・・・・!」
幸いバッグは戻って来たけど、純一さんの元々のバッグはまだ見つかっていない。
「とにかく戻りましょう!もしかしたら、手掛かりを求めて純一さんのところに行ってるかも!」
「ッうん!」
わたし達二人とも焦っていたけど、みくるは違った。
まずは純一さんのところに戻ることにする。
「――――怪盗が、なんで僕の原稿を!?」
無事でいてくれた純一さんは、まさしく『寝耳に水』って言いたげなリアクション。
「原稿は渡しません!」
「わたし達が先に見つけますから!」
もちろんわたし達は、絶対に取り戻すって宣言したんだけど・・・・。
「もう、いいよ・・・・」
純一さんの顔は、沈みきってしまっていた。
「僕、みんなを笑顔にしたくて漫画を描いてるんだ・・・・なのに・・・・僕の漫画の所為で、探偵さん達が危ない目に遭うなんて嫌だよ!」
・・・・多分、わたし達が子どもだからかな。
わたし達を心配して、そう言ってくれる純一さん。
・・・・悔しいんだろうな。
今日、出版社に持ち込むまでに、いっぱいいっぱい努力してきたんだろう。
漫画を通じて、漫画で笑顔を作りたい。
その気持ちが本物だから、わたし達のことを気遣ってくれているんだろう。
・・・・だからこそ!!
「わたし達も同じ気持ちだよ!」
「探偵も、困った人を笑顔にしたいの!」
そんな純一さんを助けたいって!
心から思っている!
「だから、受けた依頼は必ずはなまるに解決します!わたし達名探偵に任せて下さい!」
みくるも同じ気持ちだって、分かっているから。
わたしは力いっぱい宣言した。
「探偵さん・・・・!」
ウソをついているつもりはないけど、ウソじゃないっていう気持ちは伝わったみたい。
純一さんの顔は、すっかり明るくなっていた。
「事務所で待っててください!・・・・あっ!純一さんの漫画、あとで読ませてくださいね!」
「・・・・うん!」
元気を取り戻した純一さんのことはジェット先輩に任せて。
わたし達は改めてバッグ探しを再開しようとした、その時。
「――――明智!小林!」
呼ぶ声の方に振り向くと、平和さんが手を振りながら駆け寄ってくる。
「平和さん?」
「平和さん、どうして」
「轟音だの桜吹雪だの見えたから、さすがに気になってね・・・・」
どうも、平和さんも心配してくれたみたい。
『怪我はない?』と聞いてくる声は、どこか優しくてくすぐったい。
『二人とも、無事でよかった』
「ゴウリュウガンさんも、ありがとう」
さっきは挨拶出来なかったゴウリュウガンさんも心配してくれて、さらに嬉しくなる。
「何があったか、聞いてもいい?」
「はい、ちょっと手伝ってほしいです・・・・!」
それから、真剣な顔になった平和さんに。
純一さんのこと、ファントムのこと、入れ替わってしまったバッグのことを話す。
「ふむ・・・・確かに、ちょっと急いだほうがいいわね」
一通り聞いてくれた平和さんに、『バッグ見せてくれる?』と聞かれたので。
中身も一緒に見せた。
「じゃがいも、りんご、たまねぎに・・・・食パン?ビニールにすら入ってないじゃない」
「あと、エプロンもあります」
「本当だ」
『パンがあるから、パン粉を使うとんかつ屋さんか』『いやいや、カレーかもしれない』なんて、みくると相談していると。
「・・・・うん?」
実際にお野菜を手に取った平和さんの顔が、なんだか渋い表情になった。
「どうしたんですか?」
「これ、痛んでる」
「ええっ?」
「ほら、じゃがいもなんて芽が出ちゃってるわ。こんなん店で出したら警察沙汰待ったなしよ」
見せてくれたじゃがいもは、確かに全体が緑色になっていて。
何より芽が伸びてきている。
確か、芽が出て緑色になったじゃがいもには、『そらにん?』っていう毒が出来ちゃっているから。
絶対に食べちゃダメだって話を、お母さんがしてくれたんだっけ・・・・。
そういえば、食中毒になったニュースも見たことあるのを思い出した。
・・・・お母さん。
(って、今はそうじゃなくて・・・・!)
「料理用、じゃない・・・・?」
「でも、料理以外の使い道って・・・・」
ううん・・・・分からなくなっちゃった・・・・。
頭を抱えているわたしと違って、みくるは自分のほっぺたをぱちん!と叩いてから。
「『行き詰った時は、始めから考える』!探偵の鉄則よ!」
「そっか、バッグが入れ替わったところ!」
幸い、現場はここから近い。
今度は平和さんも一緒に、駅前の広場へ戻ることに。
・・・・こんな時のみくるは、本当に頼りになって。
すっごく、かっこいい!
「とはいっても・・・・何を見ればいいのか・・・・」
駅前広場。
さすがに純一さんとバッグが入れ替わってしまった人は、来ていないみたいだったけど・・・・。
「・・・・うん?」
ふと、違和感。
何なんだろうと、バッグを観察して。
「アスファルト・・・・」
呟いてから、気が付いた。
そうだ、バッグの汚れ!
「あんな?」
「・・・・何かあったの?」
「あ、あの!このバッグの汚れなんですけど!」
気が付いてくれた平和さんとみくるへ、バッグを見せる。
「落として汚したのかと思ったけど、アスファルトで・・・・!」
「・・・・本当だ、私もてっきり泥汚れかと」
じゃあ、これは一体なんの汚れ・・・・?
考え始めた、その時だった。
「ポチーッ!」
「ポチタン!?」
ポチタンの悲鳴が聞こえて、びっくりしながら振り向くと。
『ペンキ塗りたて』の張り紙がされたベンチに触っちゃったのか、ちいちゃなおててが真っ青に・・・・。
「ポチィ・・・・!」
「もぉー、ちゃんと落ちるかなぁ」
泣きそうになってるポチタンのペンキを拭いてあげようと、ハンカチを取り出す。
と、一緒に落ちていくものが。
「何か落ちたわよ」
「すみません、ありがとうございます」
平和さんが拾ってくれたのは、さっきもらった絵画教室のチラシ。
デッサンをしている子どもの写真や、絵具塗れのエプロンが。
載って、いて・・・・。
(――――ぁ)
受け取ったチラシを、じっと見る。
食べられない食べ物たち。
バッグの汚れ。
エプロン。
頭の中で、ぱちぱちと心地いい音を立てて。
パズルのピースが埋まっていく。
(――――来た)
――――何度も味わった感覚。
羽が弾けて、目の前が一気に晴れ渡る様な。
何もかもがはっきり見える感覚・・・・!
そして、
「「――――見えた!」」
こんな時は。
「「これが、答えだ!」」
みくるにも、同じものが見えている・・・・!
「・・・・分かったみたいね、どこに行けばいい?」
「こっちです!」
純一さんの、原稿が入ったバッグがあるのは・・・・!
「「さっきも通った、あそこだ!」」
「絵画教室・・・・なるほど、そういうことか!」
「はい!デッサンのお手本にするなら、食べられなくても問題ないし」
「それに、絵画では食パンを消しゴム代わりにするっていうのも聞いた事があったので!」
「やるじゃない」
ここまで来たら、平和さんにも答えが見えたらしい。
褒めてもらったのを嬉しく思いながら、中へお邪魔すると。
「――――一歩遅かったな!」
「だ、誰ですか!?」
先に来ていたゴウエモンが、バッグを取ってしまっていた!
ちょっと遅かった・・・・!
「マコトジュエルの宿った原稿、頂いていくぜ!!」
「待ちなさい!」
平和さんがアトリエの先生を庇う中、ゴウエモンはあっという間に外へ逃げ出してしまう。
・・・・いけない、純一さんの原稿が!!
「追うわよ!」
「ッはい!」
すぐにアトリエを飛び出して追いかけるけど・・・・ッ速い!
建物の上をスイスイ飛び跳ねてる!
わたし達も、プリキュアになれたら出来るけど。
ここで変身するわけには・・・・!
「ッ二手に分かれましょう!あんた達はそっち!私はこっち!」
「分かりました!」
「ポチ!」
ちょうど良く、建物の間に降りていくゴウエモンも見えた。
わたしとみくる、そして平和さんの二組に分かれる。
「待てー!」
「逃がさないよ!」
「は、来たか!」
路地に飛び込めば、思った通りゴウエモンがいた!
追いかければ、当然逃げるけど。
「――――そこまでよ!」
その先では、平和さんが立ちふさがる。
「おっと・・・・!」
「『鬼平』の末裔の前で盗み働きなんて、いい度胸してるじゃない!!」
「へへ、まさか追いつくとはな!」
前も後ろも塞がれているのに、ゴウエモンは焦っていないみたい。
「どうして絵画教室に原稿があるって分かったの!?」
「――――パンだよ」
時間稼ぎするつもりなのか、みくるが睨みを利かせながら聞くと。
ゴウエモンは意外にもあっさり答えてくれる。
「なんでも絵描きは、パンを消しゴム代わりに使うっていうじゃねぇか・・・・マ、見抜いたのはうちの新人だがな」
「新人・・・・?」
なんだかプロっぽい構えを取っていた平和さんは、『新人』って言葉に引っかかったみたいだけど。
「――――この俺に追いついたご褒美をやろう!」
それどころじゃなくなっちゃった・・・・!
「ウソよ、覆えぃッ!!」
歌舞伎役者みたいに見得を切ったゴウエモンが、扇子を一振り。
「来やがれぃ!!ハンニンダー!!」
出て来た桜吹雪が、純一さんの原稿に当たってしまって。
・・・・いけない、来る!!
「――――ハッ、ンッ、ニッ、ンッ、ダー!!」
――――怪盗団ファントムが、マコトジュエルを使って呼び出す怪物。
『ハンニンダー』が出てきちゃった!
「ッ、ゴウリュウガン。これって・・・・!」
『ああ、どうやら結界の一種のようだ』
ほぼ同時に、嫌な気配が周囲を包み込んで。
空間が閉じられたのを感じる・・・・!
「「・・・・ッ」」
「逃がす気はないってことね・・・・逃げる気もないけど!」
わたしがみくると見合って頷く傍ら、平和さんも頼もしい笑顔を浮かべる。
「「オープン!」」
「ゴウリュウガンッ!」
わたし達はジュエルキュアウォッチを、平和さんはゴウリュウガンさんを手にして。
「「ジュエルキュアウォッチ!」」
「リュウガンキー!発動!」
『Change, Ryugunoh !!』
そうしてわたし達は。
「「プリキュア!ウェイクアップタイム!」」
「剛龍変身!!」
一緒になって変身した。
~今日のSHOT情報~
平和「今日のSHOT情報は、私が変身する魔弾戦士『リュウガンオー』よ」
「ゴウリュウガンの力で変身する『魔弾銃士』、放つ弾丸はもちろん百発百中!」
「乱れ撃とうが狙い撃とうが、逃げられるとは思わないことね!」
「必殺技は『ドラゴンショット』!きつーい威力の弾丸を、たっぷりお見舞いしてやるの!」
「『鬼平の子孫』の誇りに懸けて、魔物は全部ハチの巣にしてあげるんだから!」