連邦の野望   作:rahotu

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戦場を離れて

-ジャブロー-

 

南米に築かれた地球連邦最大の総司令部が置かれる最大の拠点にして地球連邦軍の象徴。

 

しかし、その本部の存在は隠匿されまた南米と言う広大な大陸とジャングルとで建設以来外部のものが総司令部(ジャブロー)まで辿りつけた者はいない。

 

そもそもジャブローという名称自体も怪しいものだ。

 

と言うのも、ジャブローとは地球連邦全軍を指揮し地球宇宙を問わず史上最大の軍事力を効率よく運用するために作られたものだがそれは運営する組織を指す物なのか又はその場所の名称なのかはたまたそれらを統合しての名称なのかさえ今となってはここジャブローにいる高官(ジャブローのモグラ)でさえ分からなかった。

 

 

 

南米の地下深く核の直撃にさえ耐えるの鍾乳洞の奥地に建設された人工物。

 

基地を建設するさいの拡張工事で崩落しないよう施設その物を支えとして巨大な支柱に設けられた司令部の中の会議室の一室で地球連邦を運営する組織の重鎮たちが集まっていた。

 

円卓に座る地球連邦を良くも悪くも動かし続けた者達がアフリカ戦線でのことについて話し合っていた。

 

しかし、その会話は純軍事的なものと言うよりも、戦争は政治の延長でありそれを利用して如何に自分達の利益にするのかという一癖も二癖もある者達がするそれであった。

 

「さて、漸く此方も重い腰を上げられそうですな。」

 

「いやいや、全く持ってそうですな。今回のザフトとアフリカ共同体の侵攻は明らかに侵略の意図を持っている。つまりは頑迷な構成国を動かすだけの格好の材料と言う訳ですな。」

 

地球連邦は開戦以来積極的な行動を取ってこなかった理由の一つに構成国の問題があったのだ。

 

一言で言ってしまえば危機感の違いであった。

 

地球は宇宙と違い、極少数の紛争や国境問題などがあるがしかし緊迫する宇宙とは違い比較的安定していたのだ。

 

地球連邦の基管理統治されていた構成国は宇宙のコロニー国家に比べ、その安定した統治と経済的な繁栄、更には地球連邦軍という史上最大の軍隊に守られているという保障の基今まで平穏無事に暮らしていたのだ。

 

開戦当初の際も、地球に住む市民等は宇宙に住むスペースノイド達とは違い身近に自身の生命や生活の危機と言うものを感じ難かった事もある。

 

それだけ地球と宇宙との間には実際の距離以上にも果てしない溝があったのだ。

 

更にNJが地球に打ち込まれた際にも、地球連邦が保有していた核融合炉によってエネルギー不足を回避した地球は逆に他国に援助を行うだけの余裕さえ持っていた。

 

つまり、地球に住む者達は自分達の直傍まで近づくまで戦争と言うものを実感出来ずにいたのだ。

 

だがザフト地上軍がアフリカで前面攻勢に出たことによって漸く地球に住むものたちは戦争と言うものが自分達とは全く関係ないとは言えなくなったのだ。

 

「しかし今回は随分と綱渡りでしたぞ。もし情報部が侵攻計画を入手していなければ消極的な構成国ではザフトの侵略を防ぎ切れませんなんだ。もう少し穏便に事を運ぶ事が出来たのではないですかな?」

 

「嫌々、平和ボケした市民にはこれ位が丁度いい刺激ですよ。これで地球市民(アースノイド)も積極的に戦争に協力してくれることでしょう。」

 

「ええ、ええ。如何に連邦のその生産力の半分以上が宇宙であるとはいえ地球での戦いは矢張り構成国の協力を得られれば今後の戦いもスムーズに行きますしね。」

 

「それに今回の戦争で地球の経済が活性化すれば近年躍進甚だしい宇宙経済に対して対抗もできますし。」

 

彼等は前線で戦う将兵のことなどまるで関心がないかのように自分達にとって都合が良い方向に向かう戦争にたいして非常に満足していた。

 

だが、その中で一人軍服を身に纏ったゴップ大将だけがそれを冷やかな視線で見ていた。

 

-全く、老害どもめ。戦争をコントロールしよう等とそんな考えが実戦では通用するはずがない。戦争は経済的、政治的、摩擦で起こるものではない。無論それらは意図して操作する事が出来るが一番の要因である心理的摩擦、つまりは心や感情と言った問題は有史以来誰もコントロールすることなど出来ないのだ。-

 

内心目の前の不毛な議論に対して不満を持っているがそれを表には出さないよう表面上は軍部からの出席者として会議を静観していた。

 

暫くして漸く軍部からの報告という事に回ってきたのでゴップは立ち上がり軍人としての顔を表情に貼り付け勤めて勤務に忠実な官僚軍人というポーズを会議の出席者達の前に見せた。

 

「では軍部から報告をさせて頂きます。ザフトアフリカ連合は本日5:00をもって侵攻を開始。アフリカ中部及び東岸伝いに進行する二隊に分かれ5:10分には国境を越え連邦アフリカ領に侵入目下ザフトの侵攻に対して八個師団を投入して防衛に当たらせています。しかしアフリカ全面土での攻勢に備え後方には予備戦力として六個師団を当て並びに新設のMS大隊を侵攻方面の正面に配置しております。今の所は遅れは出ていますが当初の予定通り敵の戦力を一部突出させ敵戦力を拘束することに成功しています。」

 

「うむ。どうやら大してアクシデントもなく進んでいるような。ところでジオンの方はどうなっている?」

 

「はい、此方も我が軍と共同して複数のコマンド部隊と共に敵領内に潜入。進行開始と共に後方撹乱任務に当てています。それとジオンのMS部隊ですが少し苦戦しているようですな。ジンやシグーといったMSに対しては互角以上に戦えていますがディンと言った空中機やバクゥといった特殊なMSの前には流石に苦戦は免れぬようです。」

 

その報告に何人かの出席者たちが顔を顰めてうねっているが、当初の予定ではジオン地上軍を遊撃戦力として戦場を迂回、又は突破したMSに対して当ててこれを撃退する計画であった。しかし彼等の予想以上にザフトMSの威力は凄まじく報告書の中には前線からの苦戦の報告が列挙されていた。

 

「という事は、我が軍がMSを量産する際にはディンやバクゥと言った地上専用機にたいして何らかの対抗手段をもってしなければならないな。無論ジオンも唯やられている訳ではあるまい。何かしらの戦術を駆使しているのではないのか?」

 

「無論のことではありますが。バクゥの指揮官はあの砂漠の虎アンドリュー・バルトフェルドです。逆に戦力の誘き寄せどころか罠ごと食い破られるものが多数出ています。」

 

「う~む。ザフトは唯の民兵と侮るのは危険という訳だな。」

 

「勿論そうですが、何よりも数が足りません。」

 

「数が?か。どうしてだ。八個師団と言えば凡そ三十万の兵力ではないか。それにジオン地上軍が合さっているのだろう?数が足りないことはないんじゃないか。」

 

「いえ、寧ろ逆です。高々八個師団しか用意できなかったのです。現在我が軍は宇宙及び地球全土において敵軍と対峙しておりどの戦線でも戦力不足は問題になっております。現在地球連邦地上軍が常備している師団の数は百十個師団。しかし、大部分は戦時編成の為再編と再訓練とで動けず、各方面軍や国境警備郡では数が足りません。今回のアフリカ侵攻にたいしてもジャブローで再編が済んだ師団から順次送り出したので部隊の統制当面ではいまいちのところがあります。並びにこの八個師団というのはアフリカ全土においての八個師団と言う事なので三十万の兵力ではとてもアフリカ全土を支えきれません。これは早急に全土での戦時体制の移行と地上での軍の再編及び新たな師団の増強によってのみ解決される事です。」

 

その答えに何人かの軍関係者が苦渋に満ちた顔になるのをゴップは見逃さなかった。

 

彼らは連邦軍から兵器や装備の調達を任されている企業の関係者であるのだが、今次大戦において遅々として戦力の増強再編が進まないのはひとえに軍の調達が上手くいっていない事に起因する。

 

人員は用意できた、訓練も十分、しかし戦う為の装備がないのではお話にならなかった。

 

長年の連邦からの天下りと軍需産業との癒着により産業全体が硬直化し、軍の要求に対して満足に応えられないのが現状であったのだ。

 

「ゴップ大将。君の言いたい事は分かった。我々の方でも各方面に手を回しておこう。しかしそれまでの間連邦軍は堪える事は出来るのかね?」

 

議会の進行役をしていた男がここに来て初めて口を開き、しわがれた声でしかし目元は笑っているように見えてその瞳だけは真っ直ぐゴップを射抜いていた。

 

だが、ゴップはその視線をまるで気にする風もなく、あくまでも事務的に官僚軍人としての答えを言った。

 

「無論その為の連邦軍です。我々は地球連邦市民の生命と財産と安全を保障する為に存在しているのですから。」

 

 

 

その後の会議は幾つかの案件と、今後の戦争に対して各界に積極的に働きかけることで会議は閉幕し、其々が各々の役割を果たす為に部屋を後にしていく。

 

その中で一人ゴップ大将だけが最後まで残り、暫くしてゴップ大将以外誰もいなくなった会議室に一人の男が入ってきた。

 

「いやあ、久しぶりだね。レビル君。いや今はレビル大将閣下でしたな。」

 

会議室に入ってきたたっぷりと生えた白い顎髭が目立つ男がそこには立っていた。

 

 

 

ジャブローにて連邦軍が今後の戦況を左右する会議を開いていた頃、ここ北米大陸においても地球連合の経済界に於ける重鎮たちが会議を開いていた。

 

 

-北米大陸 ニューヤーク-

 

嘗て世界の富という富を集め限りない繁栄を誇っていた都市。

 

三度に渡る大戦においても一度として戦火に揉まれた事の無い都市。

 

人の限りない欲望と歓喜と、情熱と、冒険心と、ありとあらゆる感情を飲み込み膨らみ続け昼も夜ともつかない光に溢れていた都市。

 

しかし、今はそんな過去の栄華の面影さえ残さず暗い闇に包まれていた。

 

NJ投下による核兵器の無効化、その副産物として地球上の多くの国家が頼っていた原子力発電も停止し電力不足は瞬く間に地球全土へと広がった。

 

衛星からでさえ確認できた文明の光が、NJ投下と共に消えゆく姿を人々は何を思って知ったのだろう。

 

最早自らを守る文明の利器が力を失ったとき、人間という存在が如何に脆いのかを彼らは身をもって知ることとなった。

 

人類がその英知と限りない欲望と富とを結集して築いた摩天楼から差す影がエネルギーに困窮する人々の心を暗示していた。

 

 

 

 

部屋に集まった者達はモニターの光とわずかばかりの照明だけが頼りの中、各々薄明かりの中で今後の経済の行方について話し合っていた。

 

「聞いたか?政府が緊急特別法案を議会の承認なしに可決しようとしているらしい。」

 

「あの法案をか?馬鹿馬鹿しい。今あれを可決されれば自分達の首を締める事になるなるのが判らないのか。」

 

「それだけ政府も追い詰められているのだろう。宇宙での大敗と押されるばかりの地上。何よりあの忌まわしいNJで経済の建て直しどころか満足な情報も得られない。これでは幾ら我等が動こうにも有効な手段とはなりえん。」

 

「だが、少なくともエネルギーを何とかせねば戦争どころか国家自体が崩壊しかねないぞ。そうなれば一番得をするのは連邦だ。やつらは一挙になだれ込んで連合を併合するだろう。」

 

「それだけは避けねば。我等が積み上げた富を無理やり強奪されるなどあってはならない。」

 

集まった者たちはが次々に情報を交換するが、しかしながらそれらはどれもこれも現状を打開するには至らない。

 

いや、彼等自身もわかりきっていた。

 

近代国家においてエネルギーと情報とが断たれれば国家は成り立たないし、ひいては彼等自身にも崩壊の波は押し寄せるだろう。

 

だが、彼等が有効な手段を打とうにも情報が不足し、また国家を動かそうにもその苗処自身が既に死に体。

 

連合は徐々に崩壊へと向かっていることをここに集まっているものたちは薄々勘付いていた。

 

「何をしけたことを話しているのです。そんな事では空の化け物を駆逐するどころか、戦争遂行することさえ出来ませんよ。」

 

暗い雰囲気の部屋の中に似つかわしくない若い男性の声が響く。

 

しかし、その響きは何処と無く人を馬鹿にしたようないや明らかに見下した侮蔑の意味を込めた響きを持って会議室に響いた。

 

「いいですか皆さん。いま我々が求められているのは、一刻も早く地上を汚すあの害虫(コーディネイター)を駆除し、最後の一匹までも殺しつくすことです。そして宇宙での反攻でプラントを殲滅し、地球を正しい姿に戻すことそう蒼き清浄なる世界を取り戻すことこそいま我々に求められているのです。」

 

スーツを身に纏、並居る経済界の重鎮達を向こうに置くこの若者こそ現国防産業連合理事にしてその驚異的経済手腕によってロゴスやひいては彼の後援を組織であるブルーコスモスを地球圏において一大勢力にまで上り詰め実質的なロゴスの指導者として辣腕を発揮する男、ムルタ・アズラエル。

 

彼は自慢の金髪をかき上げ、アズラエルは周りの反応を見る。

 

「だがアズラエル、君の言ってることは判るがしかしながら現状を見てくれ。何処もかも自分の事だけで精一杯だ。とてもではないが戦争など出来る筈が無い。いや我々自身もそうおちおちしていられないぞ。実際この場に集まっているメンバーは実際の半分以下だ。」

 

一見すると広い部屋であるが、これは各方面から集まった経済界の重鎮やオーブバザー、経済学者や政府高官など様々な人物を収容し会議を行うための広さであり、薄明かりに照らされた部屋の中にはよく見れば空席も目立つ。

 

それだけ彼等が如何に追い詰められているのかが手に取るように判る。

 

しかし、アズラエルは弱気な産業界を鼻で笑いこういった。

 

「何を弱気になっているのです。嘗て再構築戦争を引き起こし、再び国家を我等が手に納めた貴方方が此れしきの事態で動揺するなど、いやはや年は取りたくないものですね。それにそんな貴方達だからこそ僕を必要としたのでしょう?だったら僕の言うことにはちゃんと従って貰わないと。そうでなきゃ、皆さん戦犯として裁かれる事になるんですよ。それでもいいんですか?」

 

その言葉に会議室は一斉に押し黙った。

 

誰しもが避けていた最悪の事態を事も無げに言ったアズラエルをあるものは憎憎しげに、またあるものは傍観を持ってしかし内心はどす黒い渦を巻きつつ額を流れる汗を拭きもせずにアズラエルを見ていた。

 

「ふう、やっと僕の言うことを聞いてくれる様になりましたね。それじゃあちゃっちゃと始めますか。」

 

そういってアズラエルは椅子に座りなおし、今後の方策を次々と打ち出していった。

 

もし此処でアズラエルではないものがロゴスのトップであれば、早期の和平もあったであろう。

 

しかし、ロゴスは選択してしまった。

 

自ら歪な醜い肉塊と成り果てた巨体を生かそうと若い指導者を必要とした。

 

だがその若き指導者の内に燃える狂気と憎悪の炎をとをいまは誰も知らない。

 

 

 

 

地球のアフリカでザフトと地球連邦軍との戦いがヒートアップしている中、ここ宇宙では比較的小康状態が続いていた。

 

初戦において地球連合宇宙艦隊は壊滅し、月の裏側がジオン共和国の支配下に入ったあと連合宇宙軍は月面基地プトレマイオスに引きこもり以後宇宙空間での作戦能力を完全に喪失していた。

 

連合を下したプラントもまた、ジオンの絶対防衛ラインであるソロモン要塞攻略戦で戦力を消費し、地球にまで軍を派遣した結果戦力の余裕を失い航路確保に終始していた。

 

その間隙を縫うようにして地球連邦はある一大作戦を発動した。

 

世界樹攻防戦により被害を受けたサイド5の内比較的損害の少ないコロニーを修理しサイド7まで曳航しようというのだ。

 

これは、戦争初期のおりサイド1、およびサイド5はプラントと連合との戦闘に巻き込まれ多大な被害を出したため、急遽コロニー市民の疎開が行われていたのだ。

 

しかし、各サイドも戦争中ということもありそれ程余裕はなく、また難民受け入れを表明している各月面都市もその収容人数には限りがあり実質避難したコロニー市民の立場が宙に浮く結果となった。

 

これを受け、連邦政府は比較的無事なコロニーの回収と安全な宙域曳航を目的とした作戦の発動を決定。

 

条約によりサイド1の安全の確保と帰属権は保障されていたが、しかしNJによって有耶無耶になったサイド5についてはその地理的要因から各勢力共に狙っており、互いに牽制し合うことに終始していた。

 

だが、ザフトと連合の作戦能力が衰退した今、地球連邦にとって悲願のコロニーの確保が可能になったのだ。

 

しかし、回収しようにも戦闘後の残骸回収を目的としたジャンク屋ギルドや海賊がコロニー内部に侵入し勝手にジャンクを漁ったり中には火事場泥棒的に置いて行かれた市民の財産を奪っていくものがわんさかと集まっていたのだ。

 

地球連邦は最初、コロニー所有の正当な権利と即時退去と財産の(回収されたコロニー資材を含む)返還を勧告した。

 

しかし、ジャンク屋ギルドはギルドの特権を主張し返還と退去を拒否。

 

なおも連邦が呼びかけるが、今度は傭兵を雇い追い返される始末。

 

ここにきて連邦軍はコロニー市民の財産を守るためルナツーより艦隊を派遣。

 

ザフト連合に対する通商破壊を行っていた各任務部隊も急遽招集されサイド5は完全に包囲された。

 

しかい、ジャンク屋ギルドおよび中に立て篭もる海賊はなおも抵抗をやめず各方面に連邦の横暴だとして圧力をかけるよう働きかけていた。

 

だが、地球圏において連邦と対等に渡り合えるはずであった連合はプラントとの戦争で疲弊し、他のギルドを承認した諸国もNJの被災時に連邦から多大な救援物資や資金援助などを受け比較的連邦よりであった。

 

唯一オーブだけが形式上の遺憾の意を示したが、中立国であるオーブではそれ以上の動きは期待できなかった。

 

ならプラントはどうかというと、確かにコロニーをめぐる問題は同じコロニー国家であるプラントにとっても無視できない問題ではあったが、開戦時からプラントに対する宇宙市民の感情は冷え切っておりここでジャンク屋を指示すればますますプラントが孤立しかねないと沈黙を持って答える以外なかった。

 

各国各組織に見放されたジャンク屋ギルドは勝ち目がないと分かるやすぐさま遁走を開始し、離脱者があいつだが連邦の執拗な追撃の前に多くが拿捕されジャンク屋ギルドの吸引力は急速に落ちていった。

 

傭兵もまた、勝ち目がない戦いはご免こうむると次々とコロニーを後にし中には信用第一とコロニーに残るものもいたがそれはごく少数であった。

 

しかしコロニーから無事出られたとしてもその後の彼らの運命はそう変わりはしなかった。

 

降伏するかそれとも抗って宇宙の塵になるかの二つに一つなのだから。

 

最後は呆気ないものであった。戦力は減るばかりのジャンク屋はついにコロニーを明け渡しその多くが連邦軍に拘束される結果となった。

 

中には最後まで抵抗する者もいたが、ジャンク屋は所詮無法集団。国際法の管理外である彼らの運命は多くは語るまい。

 

こうして無事コロニーを取り返した連邦は早速コロニーの修繕と曳航の準備へと入った。

 

コロニーの修繕に対してはコロニー公社のスタッフが当たったが何分世界樹のデブリが余りにも多く作業は難航した。

 

だが、商売根性たくましいやらこの事かとなんとジャンク屋ギルドの方から協力しようという者が出てきたのだ。

 

彼らの多くは宇宙に身を置くスペースノドが中心でコロニー公社と協力してデブリの除去やコロニーの修繕作業などに携わった。

 

無論中にはこの機に脱走しようという者もいたが宇宙作業艇では旧式となったセイバーフィッシュを相手に逃げ切れるはずがなく無駄な抵抗に終わった。

 

そんな中でもジャンク屋ギルドのメンバーは黙々と作業を続けていた。宇宙ではほんのちょっとしたミスで死ぬことはままあるなか明日は我が身かと仕事に打ち込むものが多かった、まあ拘束された者たちにすれば協力することによる恩赦を期待していたのだが。

 

多くのアクシデントが起きたが無事コロニーの修繕は完了し連邦軍護衛の下コロニーの曳航が始まった。

 

複数のコロニーが艦隊にひきつられ同時に曳航されるなどなかなか見れない姿を見ようと各国の放送局や中には偽装した連合軍の姿も見受けられた。

 

しかし、コロニーの周辺を取り巻く連邦艦隊の姿にだれしもが圧倒されコロニーという巨像を従える軍団の前に改めて連邦の底力を思い知ることとなる。

 

連邦はコロニー移送の為だけに計三個艦隊を派遣し、周囲を警戒する任務部隊を入れれば四個艦隊に相当した。

 

地球と宇宙に多くの戦線を抱えるなか是だけの規模の軍を動かせるのは後にも先にも連邦軍だけであった。

 

彼らはこれから三カ月をかけてコロニーをサイド7に送る任務が待っている。途中での厄介事を回避するためにもここで連邦軍の健在ぶりを衆目に示しておくことの意義は実際の戦力よりも大きく影響を及ぼす。

 

ゆえに地球連邦政府は今回のコロニー移送を一種のショーとして演出し連邦軍もまた自らの威信を示す結果となった。

 

だが、何よりも連邦にとって重要なのはこのコロニー輸送によって宇宙市民の大半を連邦支持へと向かわせたことである。

 

この一手はのちの地球連邦の計画の布石であることはこの時まだ誰も知らない。

 

 

 

 

0079 六月二十八日 地球連邦宇宙軍第六艦隊旗艦ウィンビルドン

 

ワイアット提督の朝は早い。

 

英国紳士たる提督は、常に時間に正確でなければならず、また慌てず部下の規範になるように態度で示さねばならない。

 

今日もワイアット提督は、時間きっかりに起き、シャワーを浴び、クリーニング仕立てのまっさらな皺のない制服に裾を通す。

 

ワックスをかけて丁寧に磨かれた軍靴と軍帽、ピカピカと輝く胸の勲章に両肩の階級章。

 

癖毛一つない、真っ直ぐと整えられた髪。

 

そう、英国紳士たる提督は常に身嗜みもどんな時でも崩さず、整えていなければならない。

 

どんな時でも動じない英国紳士の鏡、それこそがワイアット提督の誇りである。

 

艦橋には朝早くから人員がつめかけ、みな其々の日々の業務に携わっていた。

 

エレベーターを使い、艦橋に上がった提督はまず一言、

 

「おはよう諸君。」

 

「「おはようございます。提督。」」

 

敬礼しながら挨拶を返す部下たちに手で応じながらワイアット提督は優雅に自身の定位置であるシートに座った。

 

提督が座るのを待っていたのか、艦橋には似合わない給仕服を着た男が、優雅な仕草で提督に朝のアッサムティーを淹れる。

 

艦橋に充満する紅茶の香りが、朝の清々しい空気を演出し、ここがとても軍艦の中だとは思えないほどであった。

 

カップをソーサーごと受け取った提督は、カップの取っ手に手をかけ、一口口に含む。

 

「う~む、やはり朝はアッサムティーに限るな。料理長、また腕を上げたな。」

 

料理長は提督に恭しく礼をすると、飲み終わったカップとティーセットを片づけ、艦橋を後にした。

 

普通の軍艦では、まず許されない事が公然と罷り通っているワイアット艦隊であった。

 

ワイアット提督は常に「嘗て七つの海を制した英国提督達は紅茶を欠かさなかった。また、紳士たる彼らは戦場においても一種の清涼剤としてアフタヌーンティーを楽しんだのだ。その栄光ある血脈を受け継ぐ我が連邦宇宙軍が紅茶を軽んじる道理などない。」

 

と、公然と宣言している為、艦隊司令部は渋々ながら認めている状況であった。

 

無論、それでも苦言を申す士官らはいるが、実際ワイアット率いる艦隊はアフタヌーンティーの導入と、地球産の紅茶を惜しみなく将兵にふるまう事で有名で、それにより将兵の士気も高くストレスレス対策にも一役買っていた。

 

また英国紳士たる提督を見習って、連邦軍一の規律と、紳士的振る舞いは内外でも高い評価を得ていた。

 

因みに、今日提督が飲んだアッサムティーは、態々インドから運ばれてきたもので、提督がただの提督等ではなく、地球から直接物産を取り寄せる事が出来る程の力を持っていることの証明である。

 

連邦軍においては、地球産というのは殊のほか珍重される。

 

レビル将軍のトレードマークである葉巻も、ハバナ産の葉巻を愛用していて、原作ではルナツーに持ち込むほどの愛好家であった。

 

地上軍とは違い宇宙では地球からの補給も難しい、下士官の殆どがスペースノイドで構成されている以上、彼らの地球への憧憬は深い。

 

そんな中、地球から補給が来る、その事実だけで艦隊の背骨である下士官らの士気は大いに上がるのだ。

 

そして、地球から態々補給が来る、という事はそれだけ提督が骨を折り、また来させるだけの政治力と確固たる実績を上げている事の証明であり、提督の階級以上の権力の象徴であった。

 

ワイアット率いる第六艦隊は、第五艦隊、第九艦隊の計三個艦隊を伴ってコロニー輸送を行っていた。

 

彼らの任務は先の世界樹攻防戦の折に、壊滅的な被害を受けたサイド5を修理し、安全なサイド7まで移送することが目的であった。

 

この作戦は、軍事的側面よりも、極めて政治的側面、戦争協力のための連邦政府のスペースノイドに対するアピールであった。

 

曰く、『連邦こそ、宇宙の民を導き指導し、また連邦は決してスペースノイドを見捨てない』

 

そういうメッセージを多分に含んだ作戦であった。

 

だが、ワイアット等、実際にスペースノイドに接する彼らからすれば、今回の作戦は政府が思う以上の成果は上げないだろうという、見通しがあった。

 

何故か?

 

言ってしまえば、宇宙市民は連邦の考えなどお見通しなのだ。

 

確かに、コロニーは彼らにとって重要な場所だ。

 

だが、もとはと言えば、そのコロニーは自分たちの祖先を閉じ込めておく棄民政策の道具だ。

 

連邦の甘言や恫喝、時に実力行使を伴って行われた宇宙移民は、歴史に刻まれなくともスペースノイドの一人一人の心に大きな頸木を打っているのだ。

 

その血を脈々と受け継ぐスペースノイド達にとって、連邦政府の行動は一見歓呼の声を持って迎えられているが、内心では酷く冷めた目で見ていた。

 

実際ワイアット等この作戦に参加した提督達が見た下士官らの反応は極めて冷静かつ酷く無感動であった。

 

地球連邦とスペースノイド。

 

両者の関係は、表に見えずとも日に日に溝が深まっていることを提督達は知っていたし、またこれが長年放置してきた棄民政策のツケであること連邦軍全体で共有していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




あとがき

連邦とスペースノイド。この作品だお一見するとうまくいっている、と思っている方もいるかと思いますが、実際はそうではありません。

結局宇宙移民は棄民政策ですし、地球に戻る事さえできないスペースノイドにとって、地球連邦の行いは非常に厳しい目で見られている筈です。

原作ですと、連邦の組織的怠慢のせいとされていますが、連邦のシステムその物こそ、スペースノイドとの溝を深めている原因に他ならないかと思います。

だからこそ、スペースノイド達はジオニズムに心酔し、ザビ家を支持するし、ダイクンは救世主であり、ニュータイプは解放の象徴とされながらも、内心では非常に冷めた目で見ていたのではないでしょうか?

宇宙移民にとって独立云々人類の進化云々は方便でしかなく、ただ一心に連邦の楔から自由になりたかったのだと思います。

まあ、私が勝手に思っているだけなんですけどねwwww
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