サイド7
地球連邦が進めるコロニー開発の中で最も新しいコロニー。
しかし建造中に戦争が勃発し工事は中断、一応最低限どの施設などは揃ってはいるが既に人が住んでいる手前これ以上の工事の延期は市民感情から言って無視できない問題であり、地球連邦は最低限コロニーの環境を安定させる為コロニー公社に建造の再開を依頼。
各国も敢てこれを邪魔せず、またコロニーを攻撃された連邦がどのような報復に出るのか。
ラグランジュ1での事件以来スペースノイドの感情が地球連邦ジオン共和国に偏った今、下手に手を出そうとするものはいなかった。
だが、このコロニー公社から派遣された船団には裏がある。
それはサイド7開発が進んだ地球連邦初の本格的MS RX-78ガンダムを回収する為に船団に紛れ一隻の最新鋭強襲揚陸艦が護衛と称して随行していた。
ホワイトベース艦橋
「パオロ艦長、あと三日でサイド7に到着予定です」
「うん、よろしい。船団にも遅れた船はないな。だが気になるのは」
艦長席に座るパオロ・カシス大佐は天井にあるレーダーを見上げある一点を睨む。
「アンノウンとの距離はどうだ」
「はっ、依然一定の距離を保ちつつこちらの後を着いて来ます。やはり狙いはこの艦でしょうか」
オペレーターの報告から不明艦(アンノウン)に動きがないことを確認したパオロ艦長は軍帽をかぶり直し真っ直ぐ操舵席の先の宇宙を見つめる。
「それならば機会は沢山あったはずだ。実際ルナツー補給の際本艦は先行して航路の安全確認を行っていたのだからな。その時に何らかのアクションを取らないという事はアンノウンには別の目的があるのだろう」
パオロ艦長はそう言いつつも、心の中でこの作戦前に急遽予備役から招集された時のことを思い出していた。
新型艦の艦長に成れたのは嬉しいが、しかしこの戦いで息子をなくしたせいか余り気分が高揚したとは言えず、本来はそのまま退役する身であった自分が何故態々現場に呼び戻されたのか。
それを考えると今の地球連邦軍内にある大きな二つの勢力の派閥問題がかかわってくる。
ひとつはレビル大将を筆頭としたタカ派の連邦改革グループ。
もうひとつはジャブローのモグラと揶揄される今の地球連邦軍の硬直化した体制を作った保守派グループ。
戦争が始まってから保守派は大きく勢力をそがれ逆に改革派が大きく伸びたがそれゆえに組織内で歪な構造が広がってしまったのだ。
前線に近い者ほどレビル将軍を英雄視し彼を支持するが上層部や特に中間の管理職など後方勤務の者は保守派が多い。
これはお互いに距離感の違いから出てくる問題なのだが、しかし前線と後方の亀裂が実際の戦場にまで持ち込まれる可能性が今の連邦には常に付きまとっている。
例えばアイツはアイツと親しいから補給を滞らせたり、敢て危険な最前線へと飛ばして名誉の戦死をさせたり。
そして現在。
現役いま共に派閥に興味がなかったパオロは同期よりも大分昇進が遅れ退役したときには万年中佐と揶揄されていた程だ。
だからこそ彼のようなものに今回の作戦のお鉢が回ってきた。
連邦の威信を賭けたMS開発は今後の戦局のみならず地球連邦内の改革派保守派の抗争に大きく影響することとなる。
MS開発を戦前から押していた改革派が今回の成果で戦局が好転すれば連邦軍内部での主導権を取り、逆に保守派は追い落とされる羽目になる。
退役中佐の身で再び前線へと飛ばされしかも一階級進め大佐の地位を与えられたということは非常時の場合独自の判断を下す権限を与えると共に万が一の事態で責任の所在をはっきりさせる目的もある。
パオロは今まで連邦軍で働いてきた経験から自分が何を期待されまた何を背負わされているのかを薄々感じ取りつつ与えられた任務をこなしつつ行き帰りと何事もないことを祈りつつ指揮をとっていた。
星々の煌きと暗黒の空間で彩られた宇宙。
人類に残された最後のフロンティアにして人類の生存を拒む最も過酷な世界。
その宇宙に浮かぶ巨大なシリンダーの物体。
スペースコロニーに、三つの影が近づいていた。
単眼、中世の騎士と野武士を合わせた様なフォルムをして、背中に一対のブースターを備えたそれらはMSと呼ばれる人類が開発した宇宙で戦う為の鎧であった。
三機はセンサーの死角を巧みに掻い潜り、コロニー表面に静かに着地し建設用の大型物資搬入口の扉を開ける。
ゆっくりとコロニーの遠心力が作り出す人口重力の中を進みとある場所に出た。
コロニーの大地の部分と外壁の丁度真ん中の位置する広大な空間。
無論酸素など無い荒涼とし大地が広がっている中一人があるモノを発見する。
近づいてコンピューターが識別したそれは通称ガンタンクと呼ばれる連邦のMSモドキであった。
しかし、何かの標的にでもされたのか、両肩の砲身部分は取り外され右肩から半身がドロリと溶け落ちている。
ライブラリーで検索しても、MSの装甲をこうまで破壊する兵器など見付からない。
そして彼らは気付く、周囲に同じようなものがゴロゴロと転がっているのを。
背中に悪寒が走る。
ここはMSの墓場だ、そして自分たちは新たな加わる仲間だと。
最早動かないはずの唯の鉄屑となったMSが今にも動き出しそうな気がして彼等は段々と平常心を失っていった。
PiPiPi
警報、衝撃、迂闊。
そう余りにも迂闊であった。
ここは既に敵地、それなのに三機が一箇所に集まっているなどまるで見つけて下さいと言わんばかりの暴挙。
事実コロニーの内側と外側との間の空間を警戒する哨戒機が三機のジンを発見するのにそうは時間がかからなかった。
と、同時に三機も又、本来真っ暗な闇が広がっているはずの地上部分、彼等にとって外壁を下とすると丁度真上にコロニーの大地がくるがその一箇所に不自然な光を発見したのだ。
夜間飛行する航空機が灯す光の反射を察知した彼らは自分たちが敵に発見され包囲されようとしていることを悟る。
すると一機が手にもつ76mm重突撃銃を上空に向けあろう事か哨戒機に向け発砲した。
この瞬間警報は戦闘開始の合図となり、コロニー全域にシェルターへの避難勧告が出されたのはMSジンが地表に出る寸前であった。
宇宙世紀0079 九月十八日 サイド7近海 ローラシア級イーゴリ
サイド7に向かう輸送船団を追跡してから二週間。
連邦の哨戒網を潜り抜け、常に緊迫した艦内で既に乗員のストレスは限界に達しようとしていた。
艦長であるアーノルド・クオリャーロフは輸送船あがりの四十代ほどの男性であるが、目元に大きく熊を浮かべ正に疲労困憊。
乱れた服装を繕う力も無く、グッタリと艦長席に横たわっている。
彼らはプラント評議会直々に指示を受けて動いていた。
ザフト情報局が掴んだ地球連邦のMS開発計画。
長年ザフト内部で噂されていた連邦のMS開発はここに来て遂に事実である事が判明したのだ。
早速連邦のMS開発状況を躍起になって探ろうとしたプラント評議会だが、連邦の分厚い防諜の前に早くも頓挫しようとしていた。
だからこそ、ザフト及びプラント評議会は危険を承知で貴重な戦力から抽出し彼らはその白羽の矢が立ったというわけだ。
慎重に連邦の勢力圏を掻い潜りつつも、運よく目的のMS関連と思わしき新型艦を発見した彼らは慎重に慎重を重ねて追跡し、遂に連邦のMS開発の拠点と思わしき場所を発見したのだ。
サイド7近海まで辿り着いた彼らは、そこで微量ながらミノフスキー粒子の反応をキャッチした。
クオリャーロフ艦長はしかし緊張の糸を解そうとせず、浮遊していたデブリの影に隠れてじっと機会が来るのを待っていた。
偵察に向かわせた三機のジン。
これ程の戦力を偵察のみに使うなど本来ならばあり得ない事なのだが...。
サイド7内部
爆発、轟音、炎が揺らめきコロニーの脆弱な大地に二体の巨人が聳え立つ。
偵察に出たジンだが、しかし内部で連邦が設置したセンサーに発見され一人が暴走。
コロニー内で戦闘を始めるという暴挙に出た。
突如として出現したザフトのMSは、慌てて迎撃に出た連邦軍を蹴散らし連邦軍期待のMSが乗るトレーラーに迫ろうとしていた。
「何をやっている。早くトレーラーを動かせ、民間人は後回しでいい。何としてもガンダムだけは守りぬくんだ」
ガンダム開発主任であるテム・レイ博士はガンダムに搭載するミノフスキー・イヨネスコ型核融合炉の調整中に警報を聞き直さまガンダムをトレーラーに乗せて移動させようとしていた。
だがしかし、MSジンの攻撃で道路が崩落しトレーラーは立ち往生してしまったのだ。
「テム博士、ここは危険です!!一刻も早くシェルターに退去を」
トレーラーを守っていた警備兵の一人がテム博士に近づいて退避するよう促す。
「何を言っているんだ。まだコイツは完成したばかりなんだぞ。それをみすみす敵に奪われるなど...」
テム博士が最後まで言葉を言い切る前にジンが放った砲弾がトレーラーの近くを直撃する。
「うわ!!」
道路の支えの部分を撃ち抜かれ一気に崩落する道路からトレーラーと共にテム博士達が転げ落ちる。
ドオオン、と土ぼこりをたてながらトレーラーは窪地の下で止まり、覆われていたシートの一部が剥がれMSがその素顔を外に晒す。
テム博士以下、ガンダムの移動に関わっていた者達はしたたかに体を打ち非常時用にノーマルスーツを着ていなければ大怪我をする寸前であった。
だからといって彼等が危険を免れたわけではない。
それどころか危険は向こうから彼等に迫っているのだ。
興奮したMSジンのパイロットは連邦のMSの顔を確認しゆっくりと近づいていった。
足元に居る避難民を無視して一歩一歩近づいていくその姿は、正に旧約聖書に出てくる傲慢な巨人ゴリアテそのもの。
もう一機が連邦軍コロニー防衛部隊と戦闘を繰り広げている中ジンのパイロットはガンダムに近づいていくが、その視界の隅に一人の少年が連邦のMSに向かって飛び出しているのを気づいては居なかった。
「父さん!!」
「!?アムロ。こっちに来ちゃいかん」
テム博士はこちらに走ってくる息子の姿を見て思わず叫ぶ。
「父さん!!」
アムロは走り出していた。
自分でも何故そうしているのかさえ良く分かってはいなかった。
しかしアムロは足を止めようとは思わない。
あそこには父がいるからだ。
母親と別れ、碌に家に帰ってこない世間的に見ても酷い父親だと思う。
近所の人達からの評判も、コロニー設計に携わっているが実際は何をやっているのか判ったものじゃないと、陰口を叩かれているのをよく耳にした。
それでもアムロは必死に坂を下り、足元に転がる人だったモノに転びそうになりながらアムロは走る。
帰りの遅い父の書斎に勝手に入り、コンピューターを覗いていた日々。
そこで見つけた連邦のMS開発の設計図と操縦マニュアル。
アムロはそこで気付いた。
父が本当は何をしているのかを。
コロニーの皆に内緒で連邦のMSを作っていてそれがどんなに危険なことなのか。
アムロはこの時から内内に溜めていた父への反発を強めていった。
でもアムロは父を見捨てることは出来ない。
喉が渇く、それほど走っては居ないはずなのに既に汗はダラダラと流れ服はびっしょりと濡れている。
鼻で吸い込んだ空気に血と今まで嗅いだ事のない臭い、これが硝煙の臭いなのか?
生まれて初めて戦場の臭いを嗅いだ少年は自分の両足がまるで鉛の重しを付けられたようにガクッと重くなったのを感じた。
それは恐怖であった。
生まれて初めて体験する戦場の恐怖、身近に感じる肉親の危機と人の死。
二十歳も過ぎない少年にとってこれは自分の価値存在感生きる意味、全てを揺るがすほどの衝撃的な出来事だ。
アムロは重い足を何とか前に踏み出す。
あと少し、あと少しの所で。
そこでアムロは初めて気がついた。
自分がさっきからハロを抱えたまま走っているのを。
途端アムロはなんだか自分の姿が滑稽で笑い出しそうになった。
避難民の列に並び幼馴染のフラウと一緒にシェルターに向かおうとしていた時に、連邦軍のトレーラーが割り込んできて群集が非難の声を上げていた。
そんな時でもアムロは家から出たままの姿で手にハロだけを持っていた。
父親に生まれて初めて買ってもらったオモチャ。
これ以外にプレゼントなどされたことの無いアムロにとって父から送られた大切な宝物であり親友であった。
うんと小さい頃、地球を離れる時に買い与えられた子供をあやす為の道具。
もう随分と古くなってしまったがアムロは独学で学んだ工学で様々な改造をして今でも持ち歩き続けていた。
群集が割って入ったトレーラーに今にもつめいりそうな雰囲気になったときそれは起こった。
突如として大気を裂く轟音と共に嫌な風きり音が響く。
轟音のうちに崩壊する道路と巻き込まれるトレーラー。
幸いな事に道から落ちた避難民は居なかったが、しかし、自分達のコロニーを攻撃しているものの仕業と知ると群集は我先にとチリジリに逃げ出
してしまった。
人々の悲鳴が聞こえる中、アムロは見てしまった。
ほんの、人の姿が小さな人形の様に見えるような遠くなのに何故かノーマルスーツのヘルメット越しに父の顔を見てしまったのだ。
その後は自分でも良く分からない。
瞬間的に体の中が、カッと熱くなりそして今現在に至っている。
そして父に向け。
「父さん!!」
と叫ぶ。
父の声は遠くて聞こえなかったがしかし自分の声が届いたような気が、そんな気がアムロにはしていた。
「アムロ、危ないー!!」
父テム・レイの声がアムロの耳に入った気がするが、突然後ろから車に撥ね飛ばされたかのような衝撃を受け、地面に叩きつけられたアムロにとってそれを確認する余裕はなかった。
戦場の流れ弾が運悪くこちらに来て、その爆風によって風に飛ばされる木の葉のように宙を舞い、地面に叩きつけられたアムロを見た瞬間。
テム・レイは半ば無意識に飛び出し息子に駆け寄った。
「おい、アムロ。しっかりしろアムロ」
「ううう」
幸い爆風に煽られただけで目立った怪我も無く、それに安心したのも束の間、今この瞬間にも一歩一歩近づいてくる敵の存在にテム・レイは一瞬迷った。
このままアムロと共に逃げるか、それともガンダムの為に息子を見捨てるか。
だが、次の瞬間テムの心は決まった。
息子を抱え、トレーラーの梯子に手をかける。
肩に息子を担ぎながら、男の子一人分を加算された体重を片手一本で支えながら登るテム博士。
ノーマルスーツの内側を汗でびっしょりと濡らしながら、不思議とそれが苦にはならなかった。
息子とガンダム。
どちらも自分の生涯を賭けて守り、あるいは育てたものだ。
それをどちらか一方を選べなど出来るはずがない。
ガンダムのコックピットを外側から開け、シートにアムロを座らせるとそこで漸く、テムは息子がずっとハロを抱えたままだったことに気付く。
「そうか、お前はずっと一緒だったんだなハロ」
テムはノーマルスーツのポケットから長方形の光学集積媒体を取り出し。
「アムロ、お前にガンダムとこのガワラスキー回路を託す」
ハロの蓋を開け内部にガワラスキー回路を差込、蓋を閉めた後もう一度息子の顔を見る。
母親譲りの優しい目元に、跳ねっ返りの強い癖毛。
コンソールを操作してコックピットを閉める中、ノーマルスーツ越しのテム・レイの顔は何故か満足そうであった。
「さようなら、私の愛しい息子よ」
コックピットが閉じ、完全な闇の中でアムロは一人ガンダムの中にいた。
「うううう、とお...さん?」
父に名前を呼ばれたような気がした。
「ううう...父、さん?」
ガンダムのコックピットで目が覚めたアムロは半ば反射的に明かりを探した。
人間は暗い所では明かりがないと何も見えないのだ。
コクピット内を照らす各種計器の薄明かりの中を手探りで探し、偶然モニターのスイッチに手が触れた。
モニターの強い光りがコクピットを照らし、アムロは初めて自分がガンダムの中に居るのを知った。
「何で、僕はここに...。はっ!!父さんは」
MSのコクピットに居る事を、そっちのけでアムロは父の姿を探した。
そして、モニターの向こう側にアムロが良く知る姿があった。
父、テム・レイである。
「父さん!!そこにいちゃ駄目だ。早くこっちに!!」
だが、アムロの叫びは無常にも、戦場を横切る砲弾によってかき消されてしまう。
その光景が、最初アムロには理解できなかった。
衝撃に目を瞑った次の瞬間、父の姿が宙を舞っていた。
サー、とアムロの顔から血の気が引いていく。
が、それと同時に沸々とアムロの心の中から、やり場のない怒りが、悲しみが湧き出で。
アムロは自然とガンダムの操縦桿を握っていた。
「よくも、よくも父さんを!!」
初めて乗ったガンダムを、唯我武者羅に操り、アムロがガンダムを跳躍させビームサーベルを抜き払う。
ジュバッ!!
溶けたバターを切るように、何の抵抗もなくガンダムのビームサーベルはジンを胴体から真っ二つに切り裂く。
コクピットは荷電粒子で蒸発し、ビームサーベルから漏れたメガ粒子の余波がジンの推進剤を起爆させ、コロニー内部での爆発は大地を揺らした。
本来バッテリー駆動であるMSが爆発を起こす危険性は少ないが、可燃性の推進剤や弾薬など、その爆発の衝撃は作りかけのコロニーを容赦なく襲いかかり、その規模の大きさにアムロは冷や汗をかいた。
「動力炉付近は危険だ。コクピットを狙わなくちゃ...!!」
ハロ、ハロ、
ガンダムのコクピットでアムロの膝に乗るハロが瞳を点滅させながら答える。
サイド7は今回の改修作業が始まったばかりで、完全とはいえない。
そして、コロニーは本来戦場に出来るほど頑丈でもない。事実アムロが今一慎重に成らなければいけない事、それは爆発の余波でコロニーの外壁に亀裂が入りそこから空気(エアー)が漏れ出すことだ。
コロニーに住む者にとって外壁に穴が開くと同様、空気(エアー)の流出は恐怖以外のなにものでもない。
故に、アムロは気付かなかった。まだ、戦いは始まったばかりだということに。
仲間を倒されたもう一機のジンが、ブースターをMAXまで上げアムロが乗るガンダムに向け、腰に下げた重斬刀を振り下ろした。
味方が撃破された事から、ジンの76mm重突撃砲は効果がない事を見抜き接近戦に切り替えたのは、熟練のパイロットが成せる技である。
そして、同胞意識が強いザフトにとって仲間がヤラれた事で頭に血が上り、未知の敵に対して真正面から挑むという暴挙にも出てしまう。
無論、先の戦闘でアムロは民間人で始めてガンダムに乗った素人中の素人。
対するザフト兵は、このような特殊作戦に抜擢されるほどの腕利き。
その、彼等から見ればアムロの操縦は素人そのもの。
コーディネイターである彼等が、唯の人間(ナチュラル)に後れを取るはずがないという、心理的な思い込みがパイロットの運命を決めた。
重斬刀を飛び掛りながら振り落とす、というのは自重を上乗せし確実に相手を仕留められる方法でもある。
これが唯のMS相手であれば通用したかもしれない。
だが、ガンダムは連邦の技術の結晶でありテム博士が生涯をかけて作り上げた傑作。
そして、アムロとガンダムを補助するチップを入れられたハロのサポートがある。
アムロはビームサーベルの出力を限界まで絞り、爆発が起きないよう調整した。
そして、飛び掛ってくる相手に対し、正確に狙い通りコクピットにビームサーベルを突き立てた。
その瞬間、ジンのパイロットはこの世に唯影を残すだけとなり、操縦者を失ったジンは糸が切れた人形のように動かなくなった。
「はあ、はあ、はあ、はあ...」
初めての戦場で、生まれて初めてMSを操縦し敵のMSを二機撃破するという驚嘆に値るす戦果を挙げたアムロであったが、その内面は複雑だ。
コクピットの操縦桿を握る手は震え、全身から汗が噴出し、喉はカラカラ。
唇は真っ青に染まり、顔も顔面蒼白と成果て、その姿は酷く怯えていて今にも脆く崩れそうであった。
無理もない。
実の父親が目の前で死に、初めて自分の意思で人を二人も殺したのだ。
多感な十五歳の少年にとって余りに一度に大きな衝撃を受けた結果、戦闘中アムロの精神は麻痺していた。
だが、一度緊張の糸が切れれば、後は堰を切ったように様々な感情が頭の中を埋め尽くす。
アムロの初めての実戦は、彼の心に大きな傷を残していった。
宇宙世紀0079九月十八日
サイド7襲撃の報は、既にルナツー基地にも届いていた。
基地司令ワッケイン少将は自身のオフィスにて報告を聞き、急ぎジャブローのレビル将軍と連絡を取ろうとしていた。
「レビル将軍、こちらルナツーのワッケインです。緊急の要件でお伺いいたします」
NJの影響で画像が不鮮明だが、複数の中継ステーションを通す連邦軍の長距離レーザー通信装置は前線において重宝されていた。
ワッケインはレビルのオフィスと直接回線が繋がるよう、特別なコードを割り振られており、部屋には彼以外の姿はない。
暫くして、モニターの前にレビル将軍が姿を現す。
ワッケインは敬礼し、レビルに事の次第を伝える。
「レビル将軍、重大な事態です。サイド7がザフトに襲撃され、目下これと交戦中との事です」
ピクリとレビルの白く眉毛が動く。
「サイド7は本日試作MSをミノフスキー粒子下での試験の為、索敵に支障が発生し敵の発見が遅れました。現在コロニーには多数の市民の他にもMS開発に携わる技術者や試作MS授与の為、入港しているWB(ホワイトベース)がいます。しかし、現状のルナツーの兵力ではサイド7救援を出す事が出来ません」
現在のルナツーの主力艦隊は前線に張り付いて連合、ザフトを牽制していた。
それ以外にもコロニー移送艦隊や各任務部隊など、現在ルナツーに存在する艦隊は再建中の艦隊とティアンム提督肝いりの改修中の艦隊。
実際の戦力は二個艦隊程度とお寒い限りであった。
ワッケインはルナツーの窮状を踏まえ、そこまでいい終えるとレビルの反応を待つ。
「分かった。ワッケイン君よく知らせてくれた。後はこちらで引き受ける」
「はっ、了解しました。それと今回の件既にジャブローには...」
ワッケインがサイド7の状況を知ったのはつい先程である。
だが、既に複数のルートで情報がジャブローに入ってきているだろうとも予想はしていた。
「まだそれほど浸透はしておらん。最悪の事態を考慮して、既に生産設備はジャブローに移転している。開発計画が止まる事はない」
ほっ、とワッケインは胸をなでおろした。
ワッケインも連邦のMS開発がこの戦いの行く末を決める鍵だと確信している。
もし万が一にも、連邦のMSが奪われる、或いは破壊されることになればMS推進派であるレビルの立場がジャブローで揺らぎかねない。
そうなればレビル派と目されているワッケインにとっても人事では無い。故に、レビル将軍の言葉の裏に既に根回しはすんでいる事を確認したワッケインはある提案をする。
「でしたら将軍。是非お願いしたい事が...」
「...成程。分かった、こちらの方でも探りを入れてみよう」
「ありがとうございます。将軍」
レビルとの通信を終え、一息ついたワッケインは次にやる事が待っていた。
万が一の事態に備え、ルナツーに駐留する全艦隊の出撃準備と付近の任務部隊の呼び戻してである。
その他にもやるべき事はあるが、ワッケインは遠くサイド7を思いつつも基地司令室へと急いだ。
一方月の裏側に位置するサイド3ジオン共和国のキシリア機関でも、サイド7の情報が伝わってきていた。
地球連邦とまでは言わずとも、共和国成立以前から構築されていった諜報網はキシリア・ザビの思惑通り連邦のMS開発を事前に察知すらしていた。
そして、敢てキシリアはそれをギレンには報告しなかった。
自分が切れるカードとして手元に置いたのだ。
詳細は分からずとも、キシリアはこれで戦況が大きく動くと見ていた。
特に、今後注意すべきは地球軌道上に集中されるはずだ。
ならばザフトと連合、そして連邦の次なる一手は...。
今後の局面をどう扱いどう操作するか、に思考を割いていたキシリアに又新たな情報が寄せられる。
文面に目を通し、その中で注意すべき点を見つけ、キシリアはニヤリと口を歪めた。
キシリアは早速その報告書を手に携え車に乗る。
彼女がこれから向かう場所は共和国の最高権力者がいる場所。
共和国史上最年少の議長にして、恐るべき弁舌と政治的センスを持つ彼女の兄。
ギレン・ザビの元であった。
-C.E70 L3 サイド7暗礁宙域-
クオリャーロフ艦長はジン三機を偵察に向かわせた後、デブリが散乱する暗礁宙域の中、大きなジャガイモの形をした隕石の影にイーゴリを隠し接舷していた。
デブリの影にいる関係上索敵機器などは使えず、又少しでも悟られないよう艦内電源も落とされている為、ローラシア級イーゴリのクルーは悶々とした気持ちでいモニターを見続けている。
どれ位時間がたっただろう。
漸くコロニーから偵察に出ていたジンが戻ってきた。
しかし、最初三機いた筈のジンは一機しか居らず、クオリャーロフは直に格納庫に通信を繋ぎパイロットから報告を聞いた。
「ば、馬鹿な...たった一機のMSにジンが二機もやられるなど...連邦のMSは化け物か」
状況から偵察に出たジンのうち一機が暴走。
それによりコロニー内で戦端が開かれた結果、ジン二機を喪失し戻ってきたパイロットからの報告では連邦のMSにはこちらの武器が全く通用しなかったらしい。
クオリャーロフは連邦のMSの恐るべき威力を前に、この後どうするか悩んだ。
戻ってきた一機を含め、まだ四機のジンが残っている。
だが、例の新型艦とMSの性能が未知数の上、時間をかければ連邦軍が救援に来るはずだ。
そうなれば、自分達は前後で挟み撃ちとなり全滅しかねない。
しかし、ここで連邦のMSを取り逃がせば次の機会は無いとも、直感している。
攻めるべきか、引くべきか...クオリャーロフは暫し悩んだ後、通信用の長距離アンテナを立てるよう指示を出した。
兎に角、これ以上の判断は現場では出来ない。
一旦評議会に報告してそれから、それから後のことを考えればいいのだ。
コロニー内での戦闘を終え、アムロはガンダムのコクピットモニターに突然現われた、ブライト・ノアという軍人の指示に渋々従いながら、ガンダムを操り必要な物資をコロニーの港に駐留しているホワイトベースという戦艦に積み込んでいた。
ホワイトベースのMS格納庫にガンダムを移動させ、艦橋に連れられて行く途中はぐれたフラウ・ボウと再開し、アムロはフラウの母親の死を知る。
フラウのお母さんは、近所に住む気のいいオバサン。
コロニーに引っ越してきたばかりのアムロや父に良くしてくれた事を覚えている。
その人が死んだと聞いたとき、あんなにいい人が死ぬなんて間違っているとアムロは父の死と動揺怒りがこみ上げて来た。
それにあのブライトとか言う軍人。
自分達が勝手に始めた戦争でコロニーを滅茶苦茶にして、そのクセ自分達は上から目線と、アムロには全てが気に入らなかった。
しかし、今は生き残らなければならない。
MSとの戦闘でコロニーは滅茶苦茶になり、このままじゃ危険だから皆、港のホワイトベースにかけ込んで来ている。
自分達の生活を滅茶苦茶にした相手に頼らなければいけない。
それが分かっている事を含め、アムロは今だ心の中に大きな蟠りを抱えつつあった。