UC.0079 C.E.70 9月
ガンダムが地球に降り立ち、連邦群がMSを配備し始めた頃であるが、ここで一旦各国の状況を整理しようと思う。
UC.0079 C.E.70 2月14日に起きた「血のバレンタイン」より始まった戦争は既に七ヶ月を過ぎ、この時期地球宇宙共に各戦線は小康状態を維持していた。
広大な地上戦線を抱える地球連邦、地球連合の双方は戦況の泥沼化を恐れ積極的な行動を起こさず、プラントザフトも又一気に広がった戦線を維持する為各地での散発的な攻撃に終始した。
これは以前から復旧が急がれていたビクトリアのマスドラバーの機能が一部回復した事により、プラント〜地球間の航路が確保されアフリカ南部の地球連邦の宇宙基地を奪取する必要がなくなった結果であり、これにより一旦戦線を縮小すると共に戦力の再編が行われる。
ジオン共和国でもまた宇宙での戦局が安定した事を受け、地上における決戦に備え新たに兵力の増派を決定。
ズゴック、アッガイが配備され、各地でジオン潜水艦隊による情報収集が活発化する事となる。
一方でまた地球連合軍においてもある大きな動きがあった。
地球連邦軍が開発したMSの登場を受け、遅まきながら彼等もMSの開発に本格的に乗り出したのだ。
地球連合軍第8艦隊司令ハルバートン提督が提案する「G計画」が本格的に承認された事により、今次大戦における全ての陣営がMSを持つ事となる。
早期開発を目指し、中立国であるオーブ主張国連邦の国策会社とも言えるモルゲンレーテ社と共に極秘裏に開発が進められる事となり、それがまあ新たな歴史のうねりを作り出す事となる。
地球連邦軍もまた地上での反攻作戦に備えて、着々と準備が進み戦力拡充に余念が無かった。
この時期に、各地に出没する連邦軍のMSは敵の目を引く陽動の役割が与えられて、連邦軍の作戦目標を隠す隠れ蓑となっていた。
またジャブローにおいても、今次大戦の落とし所を探る動きも始まっていた。
全体的に見れば、各陣営共に余力を残し反撃に備えて準備を開始していると言える。
この先の戦況次第によっては、先に準備が完了した方が今後の主導権を握る形となるだろう。
さてここで話をアフリカへと戻す。
辛くもアフリカ共同体軍を退けたホワイトベースら一行だが、しかし状況は依然と好転しないままであった。
一旦はジオン共和国の助けにより希望が見えたかに思えたが、ジオン共和国指揮官ガルマ・ザビ大佐の負傷による後退で彼等は再び敵中に孤立する立場へと逆戻りした。
この時点で、既に難民達の我慢は限界を迎えていた。
度重なる襲撃と戦闘の恐怖、そしてなによりも故郷を追われた悲しみが怒りとなって爆発したのだ。
難民達の一部が暴徒と化し、クルーを人質にとっての立て篭りを引き起こしたのだ。
彼等の要求はただ一つ。
一刻も早く自分達を安全な所に降ろす事であった。
いつ死ぬかも分からない船に乗っているより、最後は母なる大地で死にたいとの思いが老人らを中心に周囲に感染し、この様な事態を引き起こしたのだ。
ホワイトベースの艦長代理を務めるブライト・ノア少尉は「勝手な事ばかり言うな‼︎」と怒鳴りたい気分であった。
クルーの中にはいっこうに助けをよこさない連邦軍に対する不信感が蔓延し、父親を亡くしたばかりのガンダムのメインパイロットであるアムロ・レイとの対立もあり、既に彼の我慢は限界をきたしていた。
しかしそこでリード中尉がとんでも無い事を言い出す。
「そうだ、この際奴らに役立って貰うんだ!」
リード中尉はまるで名案とばかり語りだす。
まず南極条約に則り、難民保護を名目に彼等を降ろす事を知らせる。
この時彼等の安全を確保する名目で国境線近くに接近し、難民達を降ろしたと共に一気に国境線を突破してしまおうと言うのだ。
この時仮に背後からホワイトベースが撃たれても、降ろした難民達が盾となる。
ホワイトベースから厄介者達を降ろせしかも味方と合流出来る、一石二鳥の作戦だ。
リード中尉はにやけた笑みを浮かべながら言った。
それを聞きブライトは愕然とした。
士官学校の授業で散々軍人は国民を守るものと叩き込まれた彼は、まさか同じ軍人がこうも非道な事を言うなど信じられなかったからだ。
呆然として言葉が出ないブライトを尻目に、リード中尉は勝手に難民達と交渉してホワイトベースから降ろす準備を始めてしまう。
ブライトは助けを求める様に操舵手のミライ・ヤシマに見るが、彼女も肩を落とし「仕方ないわ」と呟くだけであった。
爆発音に次いで黒煙が上がり、難民達を乗せた汎用輸送機ガンペリーは見る見るうちに高度を落とし、アフリカの大地に不時着する。
上空からガンペリーの様子を監視していたアフリカ共同体の偵察機は、戦場の流れ弾によるものと判断したが、結果これは誤りであった。
コンソールと計器の位置を知らせる非常灯以外の光の無い狭い空間で、アムロは一人じっと耐えていた。
そして作戦開始の合図となる、ガンペリーの格納庫が開く振動を感じた。
この作戦を聞かされた時彼は無茶だと思った。
それ以前にも彼はブライトとは気が合わなかった。
何かと偉そうに自分に指示をする男が気に入らず、若い青年にありがちなちっぽけなプライドを刺激された。
いまだに思い出すだけでも頬の腫れを感じ、アムロは一人悔しそうに呟いた。
「やってやる、やってやるさ」
真っ暗な格納庫から、灼熱の太陽が照らす大地へと姿を現したガンダムはまず目障りな偵察機にビームライフルの照準を合わせた。
「左舷弾幕薄いぞ‼︎何やってるの」
ホワイトベースの艦橋で、ブライトは怒鳴りながら必至の指揮を執っていた。
案の定、敵はホワイトベースから難民を乗せたガンペリーが離れるや否や一時停戦協定を破り攻撃を開始した。
この時ばかりはアフリカ共同体もメンツをかなぐり捨ててザフトに協力を要請し、アフリカ共同体空軍とザフトMS隊と戦車隊の包囲でホワイトベースを追い詰める。
「MS隊はガンダムが合流するまで持ち堪えるんだ‼︎」
ガンペリーに密かに運び込まれていたガンダムが敵の包囲の外より攻撃して来るのを、この時のブライトは待っていた。
最も内心では、そのまま難民と共に国境線を超えてくれればと思っていた。
最悪ガンダムだけでも味方の元へ送り届けなければ、犠牲になった者達が浮かばれない。
その間にも、敵の攻撃はより一層の激しさを増す。
空中からは戦闘機からのミサイルが迫り、地上からもザフトのジン6機がホワイトベースに乗り移らんと果敢に突撃を仕掛けてきた。
「ブライトキャプテン⁉︎このままでは」
操舵手のミライは攻撃の余りの激しさに驚き、ブライトを振り返った。
「まだだ、まだガンダムとアムロが来ていない。この作戦はあいつにかかっているんだ」
ブライトにもホワイトベースが不味い状況にある事は分かっていた。
しかし彼はここで退く訳にはいかなかった。
「随分と信頼しているのねアムロのこと」
ミライは、今まで随分と素っ気ない態度を取っていた男が急に心境の変化があったと見た。
「あいつじゃない、ガンダムの性能に期待しているんだ」
ブライトはそうぶっきら棒に言い放つと、直ぐに指揮に集中する。
「オスカー、マーカー、味方との通信は取れないのか」
「こっちから何度もやってるんですが、こうジャミングが酷くちゃ」
「いいから呼びかけろ。連邦軍の支援さえあればここを何とか出来るんだ」
一方で地上でも…
「このくそーっ⁉︎やってやる」
カイの乗るガンキャノンは両手をついた膝立ちの姿勢で両肩にも装備されたキャノン砲を放つ。
強力な240㎜キャノンの威力を前に、流石のザフトMSも攻めあぐねている様子だ。
「ハヤト、兎に角撃って敵を近寄らせるな。近付かれたら終わりと思え‼︎」
「はいリュウさん。この前のとは逆の方法でやれば良いんですね」
「そうだ、ホワイトベースに一機たりとも近寄らせるな」
リュウとハヤトの乗るガンタンクも必死に砲火を吐き出しつつ敵を近寄らせまいと奮闘するも、彼等の活躍虚しく敵はジリジリと近づいてくる。
あと一歩の所でホワイトベースに飛び乗れそうな距離にまで接近された時、突然ジンの一機が背後から倒れこんだ。
突然の事に驚き慌て、動きが止まるジン。
その隙を見逃すまいとまた一機、大地へと倒れ伏す。
それは包囲の外から駆けつけたアムロ止まるガンダムからの、痛烈な一撃であった。
「アムロ⁉︎」
「アムロか!」
「アムロ、来てくれたのか」
「アムロ、よくここまで…」
ガンダムの出現に、ホワイトベースのクルーの士気は上がった。
前後から攻撃を受ける形となったザフトMSは瞬く間に撃ち減らされ、残るアフリカ共同体軍も状況を不利と見て撤退を開始していく。
そしてその機を逃すまいとブライトは一気に国境線を突破しようと試み様とした。
しかしその彼等の前に、連邦軍から派遣されたマチルダ隊のミデアが危機を知らせた。
この先の国境線では既にザフトアフリカ共同体の本隊がホワイトベースを罠にかけようと待ち構えている、との情報を伝えてきたのだ。
マチルダ隊の先導によって辛くも虎口を脱したホワイトベースら一行は、地上に来た初めて連邦軍からの支援を受ける事となった。
UC.0079 9月も終盤、マチルダ隊より補給と今後の方針をジャブローから伝えられ、ホワイトベースは改めて連邦軍の一部隊として正式に認められる事となる。
彼等がジャブローより与えられた新たな指令、それはアフリカを縦断しヨーロッパに迎えとの事であった、