連邦の野望   作:rahotu

21 / 40
10月会談

 

UC.0079 10月

 

この時期になると、各国の間で戦争の落とし所を探る動きが活発化し始める。

 

既に開戦から半年以上が過ぎるも、いまだ地球はエイプリルフールクライシスから回復したとは言い切れず、決定打に欠ける各陣営の戦線は膠着し厭戦気分が蔓延し始めていた。

 

長引く戦争の負担は国家国民に重くのし掛かり、これを憂慮したプラント評議会議長シーゲル・クラインは個人的な親交もあり各国上層部との太いパイプを持つマルキオ導師を通じ各国との和平を模索し始める。

 

特に済し崩し的に宣戦を布告する事となった地球連邦との和平を、何としてでも成し遂げなければ成らないと強い思いを抱いていた。

 

と言うのも、今プラントでは戦局の打破を掲げる国防委員長パトリック・ザラ等の戦争推進派が勢力を伸ばし始めていた。

 

彼が語る所のコーディネイター至上主義や地球に住むナチュラル軽視などの過激な論調は、若年層を中心に広がりを見せている。

 

シーゲルはこのままではプラント国民が、ひいてはプラント以外のコーディネイター全体が戦争に巻き込まれ兼ねないと、強い危機感を覚えていたからだ。

 

そうなる前に、彼は何としてでも戦争を終わらせなければ成らなかった。

 

そしてその期待を一身に背負ったマルキオ導師もまた、期待に応えるべく勢力的に活動した。

 

まず最初に訪れたアフリカダカールではシーゲルが熱望する地球連邦との会合を模索したが、一方的に宣戦を布告された事もあり、また議会内でも根強いプラント不審から物別れに終わってしまう。

 

次いで同地にあるジオン共和国大使館を訪れるも、大使と面会することすら叶わずすげなく追い返される。

 

これはジオン上層部が戦争の長期化を望んだと共に、今の内にプラントを叩き戦後の地球圏の主導権を握ろうと画策した為であった。

 

この時点で地球連邦、ジオン共和国共にまだまだ余力を残しており、特に地球連邦は反攻作戦を間近に控え、今の段階での和平に魅力を感じていなかった事による。

 

大西洋連邦、ユーラシア連邦、東アジア共和国はそもそもこの時期の和平は国民感情の関係から納得し難く、特にブルーコスモスの伸長著しい大西洋連邦はマルキオ導師でも身の危険を感じた程だ。

 

地球での活動は思うような成果を得られなかったが、しかしそこで有益な情報を入手する事が出来た。

 

地球連合のオルバーニ事務総長が和平を模索していると耳にしたからだ。

 

詳細な裏付けを取る暇もなく、マルキオ導師は単身大西洋連邦ニューヤークにある事務総長のオフィスを訪れた。

 

彼としてもここで何とか好感触を得なければ導師としてクラインに対し立つ瀬がなく、オルバーニとの会談に一縷の望みかけて臨んだ。

 

しかしそこでマルキオ導師は、意外な程にオルバーニからの歓待を受けた。

 

地球連合事務総長であるオルバーニは、長引く戦争と何よりもエイプリルフールクライシスの影響による地球規模でのエネルギーと食糧不足に危機感を覚えていた。

 

既に季節は10月、早い所では雪が降り始め、暖を取る為の燃料も不足し食糧も足りないとなれば餓死者が出る事は必至であった。

 

そうなる前に、何としてでも各国の難民救済と社会基盤の復旧を速やかに行わなければいけない。

 

その為には、連合のみならず地球圏全体の支援が必要だ。

 

オルバーニとしてはそのパートナーに地球連邦が相応しいと思っていた。

 

と言うのもこの危機に際し地球連邦の勢力下では餓死者の話は聞かず、そもそも各コロニーから地球に送られてくるエネルギーにより地球の産業は復興し始めている程だ。

 

嘗て文字どおり全人類の統治者であった連邦の底力に、心胆が寒くなると同時に頼もしいとの思いもあった。

 

しかしオルバーニもまたマルキオと同様連邦との和平案は纏まらず、ならばと次に目をつけたのがプラントであった。

 

プラントは開戦前の工業力が温存されており、その高い技術力は地球復興の何よりの助けとなる筈であり、何とかしてプラント上層部と接触出来ないかと考えていた時にマルキオ導師が訪れたのだ。

 

つまりマルキオの来訪はオルバーニにとっても渡りに船であった。

 

会談は二時間にも及び、オルバーニからプラント評議会議長シーゲル・クラインへの親書と譲歩案を託されたマルキオ導師は、彼に見送られつつ直ぐさま宇宙へと上がった。

 

プラントに到着したマルキオ導師は旅の疲れを癒すまもなく、その足でシーゲル・クラインの元を訪れオルバーニより託された親書を届けた。

 

親書を読み終えたシーゲルはマルキオ導師の労を労うと共に、自らの意見に賛同する和平グループを極秘裏に集めての協議を行った。

 

譲歩案の内容はプラントと地球、双方の現状を踏まえた内容であり双方どちらにも偏らず、互いがギリギリで許容出来るラインを攻めたものであったが、同時に相手が本気で和平を考えていると言う証左でもあった。

 

シーゲルとオルバーニ、両者の直接会談を目指し始まった和平への道は、後に「10月会談」と呼ばれる事となる。

 

地球とプラントとの極秘会談は、こうして水面下で静かに進行していった。

 

UC.0079 C.E.70 戦乱はいまだ混迷深める中、後に歴史の転換点とされるこの出来事は、人類の歴史に大きな足跡を残す所となる。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。