連邦の野望   作:rahotu

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別れ

アフリカ、地球連邦議会が置かれるダカールにある軍病院の廊下を、一人の男が歩いていた。

 

特徴的な金髪にサングラスをかけ、薄紫色のシャツに赤いネクタイを締め白で統一されたジャケットにズボンと手には花束を持ってていた。

 

見舞い客にしては大変目立つ格好であったが、それらを颯爽と着こなす彼がナースの隣を通りすぎる度、彼女達はその後ろ姿を見て「何処の貴公子かと」噂しあった。

 

さて貴公子と言えばこの病院にはもう一人、それも正真正銘の貴公子が入院していた。

 

その名はガルマ・ザビ、ジオン共和国の指導者ザビ家の末弟である。

 

彼は先の戦闘で負傷し、ここにVIP待遇で治療に当たっていた。

 

颯爽と廊下を歩く男は、屈強な肉体をしたボディーガードが守る部屋の前に着いた。

 

そうして自分の訪問を告げようと口を開こうとした時、部屋の扉が開き仲から一人の女性が飛び出してきた。

 

慌てて飛び出したのか、男に気付かずぶつかりそうになったが件の女性の肩を両手で優しく受け止める男。

 

そこで漸く「あっ!?」と女性が声をあげる。

 

人目で美人と分かる女性であった。

 

豪奢な金髪に口元に薄く塗ったベージュが一輪の薔薇を思わせ、青いドレスが本人の若々しい印象を与えている。

 

笑えば、それこそ大輪の華を思わせるであろうその顔は今は悲しみに染まり、エメラルドグリーンの瞳には涙が浮かんでいた。

 

女性はか細い声で「ごめんなさい」と告げると、脇目もふらずにその場から去っていった。

 

その後ろ姿をサングラス越しに追った男は、少々気まずい思いをしながらも自分の来訪を告げた。

 

 

 

 

 

 

 

「やあ、シャアじゃないか。こんな格好で失礼するよ」

 

ベッドで寝たきりのまま、ガルマは親友の来訪を嬉しそうな声で歓迎した。

 

「ガルマ、療養中の所お邪魔させて頂くよ。だが、聞いていたよりも元気そうだ]

 

「その様子なら回復は早そうだなガルマ。今日は君のお見舞いにコレを持って来たんだが...先に先客が居たようだな」

 

シャアはそれまでつけていたサングラスをとると、目敏く部屋に飾られている真新しい花瓶の花の事を言った。

 

「それは、先ほどすれ違ったご婦人からの物かな?」

 

「ああ、そうだ。本来ならもっと正式な場で紹介するべきだが、もうあったのなら仕方がない」

 

「彼女はイセリナ、エッシュバッハと言えば君にも分かるかい」

 

「エッシュバッハ、彼女がか...」

 

シャアはエッシェンバッハの名を聞き、先程すれ違った女性があのエッシュバッハの一人娘だったのかと思い出す。

 

エッシェンバッハ家、地球連邦創設から続く連邦内でもなの知れた名家であり、現当主ヨーゼフ・エッシュバッハは元地球連邦大統領候補にも上がる程の人物である。

 

財界との繋がりも強く、元々北米出身の家と言う事もあり大西洋連邦との太いパイプもあると噂されている。

 

そのエッシュバッハの一人娘とジオンの御曹司が懇意だったとは、流石のシャアも知らなかった。

 

「イセリナ、彼女とは連邦のパーティーで知り合ったんだが、相手は僕の事を知らなかったが僕は彼女、いや彼女の家の事をよく知っていた」

 

ガルマは窓の外に目を向け、思い出すように独白する。

 

「その時僕の頭の中にあったのはジオンの為と言う身勝手な思いだけだった。でもそれが、いつの間にか本当に好きになってしまったんだ」

 

「彼女は自分達の仲を認めて欲しいと父親に懇願したんだが手酷く反対されてね。だから仕方無く誰にも内緒で婚約の約束を交わしていたんだが...」

 

ガルマはそこで視線を自分の身体に向ける。

 

「こんな身体になってしまっては彼女に申し訳無いと思ってね、さっき僕の方から婚約の解消を申し出たんだ」

 

「最も、それも僕のヒトリヨガリだったんだが」

 

ガルマは寂しそうに笑った。

 

シャアそこで先程イセリナ嬢が流した涙の訳に合点がいった。

 

と同時に、自分が仕出かしたことで一組の男女の仲を狂わせてしまったのだと思い知らされた。

 

「こんなことを君に言うなんて恨み言みたいに聞こえてしまうかもしれないが、僕は誓って君の事を恨んだりなんかしていない」

 

この時のガルマの言葉に嘘はなかった。

 

シャアの誘いに乗ったのも己の未熟さと、男を上げイセリナとの仲を認めて欲しいが為と言う誇示的な欲求で動いたが為に、引き起こされたものだと正しく認識していたからだ。

 

自らの誤りを人のせいにでは無く、素直に誤りだったと認める彼の資質は非常に尊いものであったが、この時のシャアの心には棘の礫となって心に突き刺さった。

 

「ガルマ、私は...」

 

「シャア、僕は胸の中でたぎるこの思いを、この身の裂ける様な彼女への思いを、最後に人に伝えずにはいられなかったんだ」

 

「...僕は明日、ジオンに経つ。多分、もう二度と地球には戻ってくる事は無いだろう」

 

ジオン本国より、ガルマには治療のための召還命令が届いていた。

 

それは息子の身を案じる老いた父が心配して出したものであったが、それは同時に二人の仲を裂く結果となった。

 

シャア、彼らしくなく思わず「そこまでの思いで、なら何故彼女も連れて行かないんだ!?」と叫びそうになったが、それは口から出ることはなかった。

 

若いながら彼にも、「自制」の二文字が働いたからだ。

 

そんなシャアの思いを感じ取ったのか、ガルマは「ありがとう」と告げた。

 

それは何に対してなのかなど、聞かずとも分かることであった。

 

 

 

その後二人はとりとめの無い会話をし、別れ際に再会の約束を交わした後、部屋を出たシャアは病院の長い廊下を暫く歩き、誰にも見られないよう人気の無い角に立つと、壁を拳で叩いた。

 

それは後悔と自責の念から溢れる思いを、耐えるように彼の肩は震えた。

 

あの時、シャアがガルマをけしかけたのは彼を戦闘のどさくさで亡き者にしようと言う無意識の声に従ってしまったからだ。

 

と言うのも彼がシャア・アズナブルなどでは無く、ダイクンの忘れ形見キャスバル・レム・ダイクンであり、彼は幼い頃父が急死し妹と二人ダイクンの側近であったジンバ・ラルと共に地球に逃れていた。

 

ジンバは幼い二人に、父ダイクンが政敵ザビ家に暗殺されたのだと説き、いつか必ずその仇を取るのだとダイクンの思想を教育すると共に自らの怨念を刷り込んだ。

 

幼い頃より聡明であったキャスバルは無意識の内にジンバの思想が染み付き、逆に幼すぎた妹とアルテイシアは言ってる意味も分からず、その後二人を地球で匿っていたマス家に正式に養女として引き取られている。

 

ジンバ亡き後、彼がジオンに戻ったのも、心の内から聞こえる声に従ったからだ。

 

そうして、彼は軍での出世と共にザビ家に近付いて行くことになる。

 

シャアは、自身の行動が一体何処までが自分の意思で何処からがジンバの妄執なのか分からなくなって来ていた。

 

その結果、危うくガルマの命を危険に晒す事となり、自分の中で渦巻く相反する二つの思いがキャスバルが彼を悩ませ続ける事になる。

 

 

 

 





シャアはこのあと原作通り軍を辞めます。

そしてキシリアに拾われてズブズブとザビ家沼に浸かることに...

原作沿い、タグ要りますかね?

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