連邦の野望   作:rahotu

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欧州情勢は複雑怪奇

宇宙世紀0079 10月 ユーラシア連邦首都ブリュッセル攻防戦は地球連邦優位に進み既に佳境を迎えていたが、地球連邦軍とて余力がある訳では無かった。

 

事実連隊の増援を求める声を無視したばかりか、その通信を封殺した事からも見て取れる。

 

この時、レビル将軍率いる軍は実は必要最小限の規模でしか無かったのだ。

 

欧州に上陸し早くもパリを解放した地球連邦軍は、当初の計画通りその軍を5つに分けていた。

 

第一軍は東進しライン川を超えルール地方占領を目指し。

 

第二軍は南下し南フランスの制圧及びイタリア北部への抑えを担当とし。

 

第三軍をこれはレビル将軍自らが率い北上してユーラシア連邦首都ブリュッセルを包囲。

 

第四軍はパリに留まり全軍の予備戦力として後方の守りを固め。

 

第五軍は西進してピレネー山脈を抑えジブラルタルのザフトを牽制する役目を負っていた。

 

この他にもブリテン島から続々と物資や兵力が陸揚げされている。

 

欧州においてその軍事バランスは急速に地球連邦軍に傾きつつあった。

 

一方の連合軍も唯指を咥えて見ていた訳ではなく、バルカン方面に展開していた主力を急ぎ反転させブリュッセル包囲を解くため強行軍で進んでいたが、その内情は連合構成各国の思惑のみならずユーラシア連邦を構成する国々もそれぞれの立場から複雑に絡み合っていた

 

そもユーラシア連邦はその成り立ちからして内紛の種を常に孕んでいた。

 

再構築戦争の折、混迷を極める中東情勢の泥沼に引き込まれる事を恐れ、西欧各国が再び1つの旗の下に集うべしと言う考えが生まれ。

 

こうして成立した第2次欧州連合であったが、連邦軍を離れ軍閥と化したモスクワ軍区の軍事的圧力に常に晒され、また大西洋を挟んで当時北米大陸に成立しつつあった新興の大西洋連邦との板挟みにあっていた。

 

旧世紀の流れを組む欧州連合と地球連邦の流れを組むロシア軍区、そして新興の大西洋連邦、この三者は再構築戦争の間互いに牽制し合いながら其々が独立を保ち続けたが、再構築戦争も終盤に差し掛かると情勢が急変。

 

地球連邦がその勢力を盛り返し始めたのだ。

 

当時史上初の全人類の統合組織である地球連邦は、ラプラス事変の後その存在意義を問われあわや解体かた思われた。

 

しかし紛争中も続けられた宇宙移民が軌道に乗り、これは地球規模での紛争の結果返って危険な地上を離れ未知のコロニーでの生活に希望を見出した諸国民や難民が挙って宇宙に上がり。

 

更にコロニーの産業基盤が整うにつれ受け入れ人員の大幅な拡大と戦争の危険の無い生活と言う点から移民が集中。

 

一時は国力が半分以下にまで衰退したのがこれにより回復しつつあり、地球連邦は一気に反攻に転じ各地の武装勢力や離反した国家を撃破し再び地球圏統一事業に乗り出した。

 

何せ紛争地を開放すればそれだけ労働力が得られるのだ、宇宙に上がった人々が生み出す富は連邦を潤し軍備の増強が図られ更に労働力を得られる。

 

有り体に言って当時の連邦軍は半ば人狩りの集団と化していたのは否めない。

 

宇宙移民が連邦による棄民政策から奴隷政策に変わる切っ掛けとも取れるし。

 

後のダイクンはその点を指摘し連邦を批判した。

 

だがもっと大きな視点から見ればこれがスペースノイド全体にとってプラスに働いた面もある。

 

紛争によって地上が荒廃する事で地上に拠点を置いていた企業が、戦火を離れ移民の波にのって拠点を宇宙に移す事で地球圏と言う新たなフロンティアを獲得し。

 

投資が宇宙開発に集中する事で特に月面の急速な都市化と、それと関係の深いサイド3が重工業国家として誕生する切っ掛けともなる。

 

更に言えば、地上に多大な利権を持っていた勢力が紛争によって衰退するか或いは連邦を離反した元構成国に合流する事で返って組織の若返り化と地上と宇宙とで相対的に後者の利権団体が政府中枢の重きを成すことで後の対スペースノイド政策の軟化に繋がった。

 

一時は衰退したが復活しつつある連邦に三者が脅威を覚えたのは疑い無い事である。

 

これに対し新興国の間で極秘の会談が何度も行われた。

 

大西洋連邦も欧州連合もそしてロシア軍区や他の国々も、それ単独では地球連邦に抗しえない事は分かりきっていた。

 

彼等はその為同盟する事を求められたが、当時からして其々のよって立つ理念や政治、歴史的背景からそれは難しい事であった。

 

一時、大西洋連邦が欧州連合を吸収する案まで出たが、結局独立を保ちたい欧州連合の抵抗にあい頓挫している。

 

そうこうしているうちに地球連邦の力は日増しに高まってきており、決断が急がれる中妥協案としてユーラシアの統合が企画された。

 

つまり欧州と言う政治経済の中心地と再構築戦争を経験した精強な軍事力を誇るロシア軍区とが合併する事で、ユーラシアに巨大な国家を誕生させ地球連邦に抗しようと言うのだ。

 

これは両者にとって魅力的な案に見えた。

 

経済的には優れている欧州連合だが、それ単独では地球連邦の軍事力に抗しよえず、モスクワ軍区も軍閥と言う特性上寄って立つ経済的基盤は極めて脆弱であった。

 

その両者の弱みを消し会う形で連合すれば、確かに地球連邦に対抗できるが、そう事は簡単には行かない。

 

そもそも歴史的に見ても対立の歴史を繰り返してきた欧州とロシアである。

 

国民感情から言ってもつい昨日まで互いに銃を向けあっていた両者が、はいそうですかと握手できる筈がない。

 

そもそもどちらが主導権を握るかで大いに揉めたのだ。

 

ロシアの軍事的圧力に屈したくない欧州はあくまでもモスクワを一構成国として扱いたいし、経済的搾取を嫌うモスクワ軍区は軍事力を手放したくは無い。

 

そもそも連合など無理なのでは無いかと言う意見も出される始末で、このままでは早晩互いに共倒れになる事は必定に思われた。

 

ここにきて事態を静観していた大西洋連邦も動かない訳にはいかなかった。

 

と言うのも政治力学から言って、欧州とモスクワが倒されれば次は自分だと言うのははっきりしていたからだ。

 

自分達が生き残る為には、多少強引な手を使ってもでも欧州とユーラシアの統合を成立させる必要があった。

 

大西洋連邦は欧州連合に圧力を掛けて譲歩を引き出し、統合した国家においては兵権をモスクワ軍区が握る事を承認させたのだ。

 

大西洋連邦がモスクワに味方したのは、経済的には欧州連合と対立していたのと、アラスカ、アリューシャン列島のダイヤ鉱山における紛争からモスクワの手を引かせる事が条件であったからだ。

 

その代わりモスクワは欧州各国の政治に関われない事になり首都もブリュッセルに置かれる事となった。

 

しかしいざとならば軍事力を握っている方が強いのは当たり前であり、対外的に見ても欧州が大西洋連邦とモスクワ軍区との圧力に屈する形で連合する事となったのだ。

 

こうして成立したユーラシア連合だが、その内部には大きな禍根が残った。

 

欧州連合は各国の政治的独立こそ保てたものの、心情的には反モスクワであり政治的には大西洋連邦と敵対する道を選び。

 

モスクワも軍事力で欧州各国を押さえつけているが、経済は依然として握られたままで欧州に対して強硬的に成らざるえず。

 

大西洋連邦も又、ユーラシア連邦の成立こそ成功したものの成立における禍根から後年返って両者で足の引っ張り合いを演じるなど、決して得をしたわけでは無い。

 

欧州とユーラシアの統合と言う歴史的快挙の元生まれたユーラシア連邦と言う赤子は、その誕生の瞬間から手足と頭がバラバラに行動する宿命を背負っていたのだ。

 

そして今回のバルカン半島からの大返しでも、その内実が彼方此方で現れていた。

 

ユーラシア連邦軍を握るモスクワは、首都ブリュッセル包囲と言う状況を利用して欧州各国の失権を狙おうと画策していた。

 

具体的には『全軍を向かわせたが間に合わなかった』事にしたいのだ。

 

ユーラシア連邦の首都であるブリュッセルが陥落すれば、国家はその存続の為次の首都を選ばねばならない。

 

そうなると幾つかの候補が挙げられるが、ベルリンは敵との前線が近く、ワルシャワはほぼ平原の中の為防御に欠ける。

 

そもそも首都機能を失ってはスムーズな遷都も出来ない。

 

そうとなれば、俄然存在感を増すのがモスクワだ。

 

モスクワは前線からの距離も遠く、しかも旧モスクワ軍区の司令部とあってこと戦時の首都としてはこれ以上のものは無い。

 

実際かの地球連邦も、平時の首都をアデラートに置いているが戦時には大半の政府首脳がジャブローに移っている。

 

軍政が一体となって戦争を遂行し、然るに名実共にモスクワがユーラシア連邦の全権を握る事が目的であった。

 

その為ならば、欧州など幾らでも地球連邦にくれてやろうとすら思っていた。

 

逆にそうはさせまいと言うのが欧州各国であり、特に本土を失陥した旧フランスに主要なルール工業地帯を奪われつつある旧ドイツはいち早く失地回復を望んでいた。

 

イタリアも又連邦を追い出したいとは思っているが、大戦開始から不甲斐ないユーラシア連邦軍に不信感を抱いており、状況によってはどう動くか分からない存在となっていた。

 

バルカン諸国も又、ユーラシア連邦軍がいなくなる事でザフトが上陸してくるのではと言う懸念から、軍の転身に乗り気では無い。

 

正に欧州情勢は混迷の一途を辿っていた。

 

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