もうこのままの勢いでいきたいです。
戦場を疾走するハーマン・ヤンデル中尉率いる61式戦車5式の群れは、隊を半数に分け一方は正面の鹵獲ジンに対し注意を引き受けつつ、もう一方は敵の背後に回り込むべく戦場を迂回していた。
「急げ急げ、5式!テメエの力はこんなもんじゃないだろう⁉︎」
不整地を時速90㎞の速度で進む事が出来るスーパー戦車、61式戦車5式は唸り声をあげ猛然と加速していく。
「戦車長!このままのスピードではモーターが焼き付いてしまいます!」
操縦手兼通信手のノイマン・スラーは、車体各所の異常を告げるアラームやランプの点滅を見てヤンデル中尉にそう言うも…。
「バカ野郎⁉︎俺達が遅れればそれだけ味方がヤラレるんだぞ。分かっているのか‼︎」
ヤンデル中尉は足元のノイマンを蹴ってそう叱咤した。
いきなり蹴られたノイマンは、後頭部に打撃を受けて思わずツンのめる。
(自分が義足だって分かっているのか!このヒトは⁉︎)
そうハーマン・ヤンデル中尉は義足の戦車長であった。
彼はここに来る前アフリカ戦線で戦車長をしており、その時敵のMSとの戦闘で負傷し足を失っている。
優秀な戦車乗りであった事もあって、彼はそのまま除隊では無く帰郷して治療に当たる事になった。
しかし、帰った時故郷はNJの投下によりエネルギーの供給が止まり、死の街と化しており家族も何処に行ったのかその行方さえ知れなかった。
その後、義足を得て軍務に復帰してからと言うものの、彼は前にも増して敵をそしてMSを憎む様になっていた。
そのやり場のない怒りを、NJを投下した張本人であるプラントとその象徴であるMSにぶつける事で、それを晴らそうとしたのだ。
その姿は味方からも「死神」と称される程であり、ノイマン・スラーは彼の元に配属されてからま言うものの嫌という程思い知らされていた。
そうしてヤンデル中尉率いる61式戦車5式11両は、敵の側面を迂回しつつその背後に回り込もうとしていたが一方の正面はと言うと…。
「何をやっとるか⁉︎早く撃たんか!」
ミケーレ・コレマッタ少佐がホバートラックの上でそう叫ぶ。
本隊からの増援を却下され、現有戦力のみでの対処を命ぜられたコレマッタ少佐は、心の中で上層部に悪態と呪いの言葉を吐きつつも指揮を取っていくも、状況は刻一刻と悪くなっていく。
61式戦車の主砲150㎜連装砲を強化した155㎜連装砲を装備した61式戦車5式の主砲がジンに命中するも、戦車の装甲を張り合わせた増加装甲に阻まれ内部まで貫通する事が出来ない。
逆にジンが放つ76㎜重突撃機銃は、元が宇宙戦艦の装甲を破壊する為に作られた事もあり、61式戦車をまるでブリキのおもちゃの様に吹き飛ばす。
既に正面に配置された61式戦車5式は半分にまで減り、味方からの重砲の援護も絶えて久しい。
「せめて、空軍の援護さえあれば…」
とないもの強請りして空を見上げて見ても、空から爆弾が降ってくることなど無い。
「ん?」
と見上げた空に、黒点が一つありそれは段々と大きくなっていく。
よく見れば、それは此方に近づいてくる様に思え益々目を凝らして見ると…。
ガンッ‼︎と大きな音を立ててホバートラックの直ぐ横の地面に突きささる。
よく見れば、それは正面のジンから放たれた流れ弾の砲弾であった。
コレマッタ少佐はそれを最初なんだか分からなかったが、しかし段々とその正体に気付きかおが青くなったり白くなったりと点滅し、やっとの事で声を上げる事に成功した。
「た、退避〜⁉︎全速退避〜‼︎」
口から泡を吹く勢いでコレマッタ少佐がそうまくしたてると、ホバートラックが直ぐさま緊急発進をしコレマッタはもんどりをうってホバートラックの床を転がり、強かに後頭部を打ち付ける。
「大隊長殿!ご無事ですか?」
と部下に助け起こされたコレマッタ少佐は、今度はワナワナと震え始める。
「あ、アイツらは…」
「は、なんでしょう」
「アイツらは何をしとるんかあああアァァァァ⁉︎」
部下が驚いて目を白黒させている間にも、立ち上がったコレマッタ少佐は地団駄を踏んで怒りを撒き散らす。
「ヤンデルめ!目をかけてやっているのにこの仕打ちか⁉︎今度会ったらただじゃおかないぞー‼︎」
そう言っている間にも、戦闘は続くがしかしこの時既に別働隊がブリュッセル市街に突入している事を、まだコレマッタ達は知らない。
彼等は程の良い囮役としてしか、見られていなかったのだ。
ヤンデル中尉率いる戦車隊は、落伍者を出しつつも敵MSの背後に回る事に成功していた。
「スラー、何両残っている?」
「4両落伍して残りは本車を含め7両です」
敵MSの数はここから見て5機、連邦軍の戦車におけふ対MS攻撃には一機に対しすくなくとも2両以上の火力を集中し、複数方向から攻撃する事を定めている。
現在いる戦車7両とMS5機とでは、その火力集中ドクトリンが生かせない。
しかしヤンデル中尉はここまで来たからには攻撃を諦める様な男ではなかった。
「隊を2両ずつ4つに分けるぞ、まず一番近いところから3機、背後を晒しているヤツから仕留めるんだ」
「戦車長、それでは1両余ります。残りの1両はどうするんですか?」
ノイマン・スラーはなんとなく嫌な予感をさせながら、ヤンデル中尉にそう尋ねた。
すると、ヤンデルは満面の笑みを浮かべてこう言った。
「喜べ、余りの1両は我々だ」
その時ヤンデルが浮かべた凄惨な笑みを、スラーは一生忘れる事はなかった。
それはまるで、
(まるで死神が笑ったようじゃないか⁉︎)
そう後になってスラーは思うのであった。
ヤンデルの指示に従い配置についた61式戦車5式は、敵の背後から攻撃を開始する。
「全車照準、目標敵MS、用意、撃てっ‼︎」
6両の戦車の155㎜連装砲から合計12発もの砲弾が3機のジン目掛け撃ち込まれる。
突然の背後からの奇襲に、反応が遅れたジンが背後にモロに直撃を喰らい、ある者はスラスターに直撃し推進剤に引火して大爆発を起こして火達磨となり。
また、ある者はコクピットを真後ろから撃ち抜かれ、中のパイロットはグチャグチャに潰されて生き絶え。
最後の一機など動力炉を撃ち抜かれて動かなくなり、中にパイロットを閉じ込めたまま大地に倒れ伏した。
3機のジンが突然倒された事は、直ぐさま正面のコレマッタ少佐達にも見えた。
「やっと来たか!今だ敵を挟み討ちにしてやれ」
コレマッタ少佐の指示の元、今まで塹壕に隠れていた61式戦車が突撃を敢行する。
今までの鬱憤を晴らすが如く、猛然と土煙を上げて前進する61式戦車5式からの行進間射撃が行われる。
味方が背後から奇襲された事で、慌てて後ろを振り向いたジンがその餌食となり、増加装甲を施されていない背後に幾つもの砲弾が直撃して大爆発を起こす。
推進剤と持っていた弾薬に引火し大爆発を起こした事で、衝撃波と共に土煙が大量に巻き上がる。
爆発によって巻き上がった土砂は、戦車兵の視界を奪いさり残る一機の位置を見失わせる。
「て、敵は何処だ⁉︎何処にいる」
流石の連邦軍戦車隊も、視界を封じられては手も足も出ず、急いで戦車のハッチを開けて周囲を探索しようとするも、その時土煙の向こう側に巨大な人形の影が浮かぶ。
「て、敵正面!撃て撃てーっ‼︎」
慌てて攻撃指示が飛ぶも、目標をロック出来ない砲弾はてんでんバラバラの方向に飛び、逆に至近距離まで近いたジンは戦車を踏み潰そうと足を上げた時…!
「馬鹿め、ここからは丸見えだ!目標マヌケなジン、撃て!」
1両だけ潜伏していたヤンデル車からの攻撃により、まず振り上げた足と左腕が吹き飛ばされる。
61式戦車5式は連装砲を装備しており、交互に射撃することで弾幕を形成したり、一斉射する事で絶大な火力を発揮する。
しかしヤンデルはその巧みな技量により、連装砲の砲口を其々別の目標に向け、ジンの関節部を同時に撃ち抜く神業を見せた。
「次弾装填、撃て」
高度に自動化省力化された61式戦車には装填手はおらず、すべて自動装填で高速給弾され直ぐに攻撃が可能となる。
ジンの側面からの攻撃は、今度は頭部とスラスターを撃ち抜き、頭部のバイザーごとモノアイは破壊されスラスターも半分吹き飛ばされる。
「スラー移動だ!」
「了解です」
戦車長ヤンデルの指示に従い、スラーは戦車のフットペダルを踏み込み電気式=モーターが唸りを上げキャタピラを高速回転させる。
ヤンデルとスラー、僅か2名だけで動く61式戦車は正に陸の王者に相応しく獲物を追い詰める虎が如くジンに接近していく。
足と腕を失い、視界を奪われ飛ぶ事も出来なくなったジンはそのまま大地に尻もちをつく形で倒れる。
しかし腐ってもMS、右手にはまだライフルを持ちその脅威は依然として失われていなかった。
パイロットはハッチを開け、直接敵を見つけようと身を乗り出した時、そこには既に照準を合わせたヤンデルが乗る61式戦車がいた。
「くたばりやがれ、豚め」
戦車から155㎜連装砲が、同期軸の機関銃が車体ハッチ上に装備され重機関砲が、一斉にその牙を剥く。
パイロットの生身は直ぐさま血煙となって消え、コクピットの内部に撃ち込まれた砲弾が暴れまわり、機銃が火花を散らして内部の機構をめちゃくちゃにする。
主人亡きMSに容赦なく向けられる鉄の暴力に、ついにジンは大地へと倒れ伏す。
完全に沈黙したジンに、それと向かい合うように佇むヤンデルの61式戦車。
煙が晴れた時、それは恰も旧世紀の絵画の一場面の様な巨人を倒した中世の騎兵の姿を思い起こさせる。
しかし、スラーは全く違う思いを抱いていた。
ヤンデルに乗り移って、戦場で鎌を振るう美しい女の姿をした死神。
ヤンデルこそ正に戦場の死神であり、そして敵味方に死を運ぶ軍馬であると。
この後、別働隊がブリュッセル首都大統領府を陥落させた事が届き、全軍に戦闘中止命令が出された。
ユーラシア連邦首都を巡る地球連邦軍との戦闘は、地球連邦の勝利に終わった。
しかし、これはまだ後に続く更なる大きな戦いの序章にしか過ぎなかったのだ。