連邦の野望   作:rahotu

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集結

ブリュッセル郊外上空、ヘリで脱出したユーラシア連邦大統領は、揺れる機内の中屈強な兵士達に護衛されていた。

 

「一体これはどう言う事だ⁉︎私はユーラシア連邦の大統領だぞ、誰の指図でこの様な目に私を合わせるのか‼︎」

 

彼がそう自分を取り囲む兵士達に言うの無理はない。

 

彼らはいきなり大統領府に来るなり無理やり大統領をヘリに乗せ、大統領が制止する声も聞かずにヘリで連れ去ったのだ。

 

ユーラシア連邦の崩壊を防ぐべく最後まで踏み止まる覚悟であった大統領にとって、それは許し難い行為に思えたのだ。

 

しかし、屈強な兵士達は鉄面皮を浮かべ誰一人として答える事なく、大統領もその様子に流石に諦めたのか、黙って俯いた。

 

「久しいな大統領閣下、お互い創建そうでなにより」

 

「⁉︎その声、ウラジミールか」

 

ヘリの通信機から声が聞こえ、いつの間にか差し出されたヘッドホンを頭につけられた大統はマイクに向かって「ウラジミール」と呼んだ。

 

ウラジミールはユーラシア連邦第二の首都と言えるモスクワ・ロシア東欧地域の首相であり、大統領に次ぐ大きな権限を有していた。

 

「ウラジミール!君か、こんな真似をしたのは⁉︎」

 

「何をそう起こっているのですか、大統領閣下?私は貴方の命を救ったのですぞ」

 

「何を言う!我々は首都を失ったのだぞ」

 

大統領がヘッドホンのマイクに向かってそう叫ぶ。

 

ブリュッセルは唯の首都などではなく、欧州と東欧そしてシベリアを含めた間ユーラシア地域の中心地であり、民族的宗教的文化的経済的そして何よりも歴史的に多くの問題を抱えるユーラシア統合の象徴として君臨していた。

 

そこを敵に奪われると言う事は、即ち国家統合の証を喪うに等しかったのだ。

 

「ブリュッセルの件は残念でしたな。しかし、これで漸く貴方の役目も終わる」

 

「?何を言っているウラジミール」

 

突然訳のわからない事を言い出すウラジミールに、大統領は頭の中が混乱する。

 

「最早、我らは西欧の従属国家では無いという事ですよ。大統領、いえ元大統領」

 

ガチャリ、と音がすると左右に座る屈強な兵士達が大統領の両脇をうでで絡め取って身動き出来ないよう固め、目の前の一人が銃を突きつける。

 

「一体、何を…‼︎」

 

「最早ユーラシア連邦を貴方方西欧諸国に任せる事は出来ない。貴方にはその礎となって貰います」

 

「待て!ウラジ…」

 

ガンッ、と銃口が爆ぜる音がしたかと思うと、大統領の額に穴が開き赤い血が顔を伝わり床に垂れる。

 

その様子を、誰もが無感動に眺めていた。

 

最早生き絶え力無く項垂れる大統領、いや大統領だった亡骸を兵士達は乱暴に席から降ろすと予め用意していた死体袋に詰めていく。

 

その作業を黙々と終わらせると、ヘリは兵士達とそして一つの遺体を運んで飛んでいくのであった。

 

 

 

 

 

 

『ユーラシア連邦首都ブリュッセル陥落‼︎』

 

その報は瞬く間に全地球圏を席巻した。

 

人々は連合軍を構成する主要国の一つであるユーラシア連邦の首都が陥落した事に驚くと共に、気が早い者は戦争の終結を予感した。

 

近代国家にとって首都の喪失は=国家の死生を制される事と同義であり、事実西欧各国は首都の陥落に動揺し、一部では地球連邦に寝返ろうとする動きも出てその混乱に益々拍車がかかる。

 

地球連邦政府はユーラシア連邦の降伏も近いと考えたが、その一方で前線のレビル将軍達は全く逆の事を考えていた。

 

そしてレビル将軍の意図する事は、直ぐさまジャブローの参謀本部へと伝えられたのである。

 

地球連邦軍総司令部ジャブローの巨大会議室にて、総参謀長ゴップ元帥の他幾人かの政府要人が集まり軍からの説明を聞いていた。

 

「ゴップ元帥、私の耳が確かなら今貴方はユーラシア連邦が降伏しないと言った。しかも、最悪我々が負けかねないとも」

 

「はい、内容としてはそうなりますな」

 

議員達は顔を見合わせて、互いに「ありえない」と呟いた。

 

「ゴップ元帥、我々は軍事の専門家では無いが素人目に見ても既に勝負はついたのでは無いかな?」

 

「そうです、ユーラシア連邦は首都を失い軍も後退を続ける一方で、我が方の軍にはさしたる被害もない」

 

「完全に勝ち戦ですな。これ以上何が不安なのですかな」

 

議員達は目を釣り上げてゴップ元帥を見やるが、一方でゴップ元帥もいつもの昼行灯な態度を崩さない中議員達の言葉に反論した。

 

「はい、確かに貴方方議員のお考えは一般的には正しい。しかし、幾つか見落としている点もありますな」

 

「見落としている点」と言われ、自分達が一体何を見落としているのか分からない議員達。

 

彼等とて嘗ては全人類を統治した地球連邦政府の議員、軍事に素人とは言えその情報収集能力は一廉のものである。

 

その自分達が見落としているものとは一体何か?

 

「ゴップ元帥、不勉強な我々に一つご教授願えませんかな?」

 

そう言って相手に教えを請うフリをしつつ、内心どんな言い訳をするのかと待ち構える議員達。

 

「まず一つ目ですが、確かに我が軍は敵の首都を陥落させましたが既に政府要人の多くは脱出した後であり、言わばもぬけの殻の箱を手に入れたようなもの」

 

「次に二つ目ですが、これは戦力と兵站の問題なのですが欧州に上陸した軍団は現在各地に散らばり、その地域の確保を行っておりますがこれは敵から見れば戦力の分散に見え、我が軍としても広がった戦線を維持する上で大きな負担となっております」

 

「三つ目に、敵の抵抗の意思がまだ崩れていない事です。ユーラシア連邦はその主力がバルカン半島にあり、欧州に我が軍が上陸した事で戦力の移動と輸送を行うかに見えましたが、彼等は逆に戦線を縮小し欧州から撤退する動きを見せています。これはつまり敵はその主力を全く無傷のまま残した事になり、逆に我が方は上陸と首都攻略で少なからず消耗しております」

 

「四つ目に、これは先程入った情報なのですが、敵は占領地の別なく欧州全土に対しエネルギー封鎖を行いました。占領地では既に多くの物資の欠乏が出ています、これは即ち自国民を盾に取る戦法であり、このまま行けば我が軍は戦わずして崩壊する事となります」

 

ゴップ元帥の話す内容に議員達は驚き、特に1番の衝撃を与えたのは自国民を盾に取る戦法をユーラシアがとった事だ。

 

全人類の統治者を自認する地球連邦にとって、例え敵国の市民であろうともそれを保護する義務がある。

 

つまり、見捨てると言う選択肢は最初からなく、今のまま広大な戦線を抱えしかも敵が後退する一方で占領地が加速度的に増えるとなると、その負担は天文学的数値となる。

 

「何とかならないのかね?ゴップ元帥」

 

漸く自体を把握した議員達はそうゴップ元帥に詰め寄る。

 

「そこは、矢張り現場のレビル将軍次第ですかな」

 

とあっさりとそう言い切るゴップ元帥に、議員達は不満そうな顔をした。

 

「レビル将軍か、しかし本当に彼で大丈夫だろうか」

 

「将軍は優秀だが、その何というか…」

 

「彼を押したのはいいが、今ひとつどう言った人物なのか掴みきれんのだ」

 

議員達はそう曖昧に言うが、つまりはレビル将軍は地球連邦の議員達と余り上手くいってはいないのだ。

 

幼年学校から軍大学卒業までずっと“主席”で通してきたレビル将軍と、方や議員二世三世に政治屋ではソリが会うはずがない。

 

だからこそ、俗物を自称するゴップ元帥の出る幕があると言うもの。

 

「確かにご懸念の通り、レビル将軍はああ言った方ですからな。何を考えているのか、我々でも分かりません」

 

「しかし、レビル将軍がやる気となれば、自然ユーラシア連邦も考えを改めるかもしれませんな」

 

ゴップ元帥は議員達を宥めながらも、巧みに話題を転換しレビル将軍が動けばユーラシア連邦が和平に応じるのではと匂わせる。

 

「つまり、将軍はあくまでも示威行為のつもりで動くと?」

 

「そうかもしれませんし、そうでないかも知れません。しかし、将軍は黙って手を拱いている様な人物では無いですからな」

 

兎に角議員達にとってユーラシア連邦との和平が有るか無いかな、その確認が取れただけでも十分であった。

 

「分かりました、ゴップ元帥。兎に角政府としては早期の和平実現に向けて動いている事を重々承知して下さい」

 

「私も、努努忘れぬ様務めて参ります」

 

こうしてゴップ元帥と政府議員との会談は終わったが、現地では会議の間にも更なる動きがあった。

 

 

 

 

 

「全軍に通達、占領地を放棄し全戦力をワルシャワに集結せよ。繰り返すワルシャワに終結せよ」

 

レビル将軍が乗る旗艦ビックトレー級バターン号から、欧州に展開する全連邦軍に向けて放たれた通信の内容に、多くの連邦軍将兵は驚きを持って受け取った。

 

一般的に力とは分散するよりも一個に集約した方がより強い力を発揮し、軍事的にも戦力の集中は理に適っている。

 

しかし、その距離に方法と場所が問題であった。

 

現在欧州に展開する五つの軍団はそれぞれの任務にそって欧州に展開しており、全軍が終結するまで大きな時間がかかってしまう。

 

次に連邦軍はあくまでも解放軍としての立場があり、略奪や暴行犯罪行為を固く禁じ占領地の治安維持や戦災からの復興を行っていた。

 

しかもユーラシア連邦からのエネルギーの供給が絶たれたいま、連邦軍が支えねば占領地どころか全欧州が飢える事となる。

 

最後に集結地点と定められたワルシャワはいまだ敵の勢力下にあり、そこに到達するまでどれだけの妨害が予想されるのか、計り知れなかった。

 

当然旗艦バターン号には問い合わせの通信が殺到するも、レビル将軍はその全てを無視した挙句、更にブリテン島本島からの補給物資を荷揚げする場所をカレーからダンツィヒに変更し、以後全ての補給と増援をそこに送る様指示を出した。

 

流石にここまでされては欧州に展開する軍団も従わざるを得ず、連邦軍はトラックや輸送機の長蛇の列を作りながらワルシャワへと急ぐ。

 

見捨てられた占領地の住民の一部から暴動や反発が起きるも、予々順調に戦力移動は行われた。

 

これは連邦軍が制海権、制空権、制宙権の三つを握っていた事が大きく影響を与えた。

 

制海権を抑えたことで補給が途絶える事が無く、制海権は空路の安全といち早く敵の動きを探る事が出来、制宙権は遥か神の視点から地上を見下ろす事で敵の大まかな動きを明らかにした。

 

それでも尚、ワルシャワに全軍が集結したのは10月の末ごろに差し掛かった頃であった。

 

既に先遣隊により野戦軍作戦司令部が置かれ、集結した五つの軍団は再編され戦力の補給と休養を済ませた後レビル将軍の次なる指示を待つ事となる。

 

そして11月、運命の日が訪れる…。

 

 

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