C.E. 70 2月11日 この日地球連合はプラントに対して宣戦を布告。月面のプトレマイオス基地から艦隊を出撃させた。
誰しもが思っただろう、戦力、国力に勝る連合の勝利を。しかし、そうは思わない者もいた。
その中の一つ、ジオン共和国は半ば確信していた、プラントのZAFTの勝利を。
L5宙域事変で世界中に知らしめたMSの力を。
ジオン共和国とプラントは極秘裏に水面下での技術交流が行われていた。無論その中にはMSの存在も含まれていた。
当初MSは宇宙空間における工作機として開発が行われていた。しかし、両者を取り巻く政治環境の悪化により軍事的なものへと変化していった。
様々な試作機が作られ互いに交流が盛んにはなったがそれも長くは続かなかった。連邦の態度軟化とジオン・ズム・ダイクン首相とシーゲル・クライン議長との関係悪化により交流はその回数を減らしていった。
そして、ニュータイプ理論を掲げるジオンと自分達を新人類とするコーディネイターとの思想対立にまで発展し、交流は断絶してしまった。
しかし、両者の手元には交流によって生まれた莫大なデータと数々の試作機が残った。
プラントではこれ等を基に純プラント製のMS、ZGMF-1017ジンを完成、ジオン側もMS-05ザクを発表、後にMS-06ザクⅡへと発展しジオン側の主力MSとして定着することになる。
ジオン共和国はMSの運用の違いからプラント側は苦戦するも連合を退けるだろうと思っていた。
しかし事実はこれと大きく異なった。
C.E. 70 2月14日
奇しくもセントバレンタインデーの日に両者は相見えることになった。この日、どちらが勝利の贈り物を手にするのか誰にも分からなかった。
少なくとも自分達が与えるのは相手の「死」以外には何物も無かったが...。
艦隊が陣形を組み互いに打ち崩さんと砲火を交える、その中を一つ目の巨人達が相手に取り付かんと迫ってくる。
運の悪いものは砲火に絡め取られ宇宙空間に命の花火を散らす。MSとMAが互いにぶつかりもつれ合いながら死のダンスを踊る。
そして、それに勝利したモノ達が今度は敵艦に死を振りまく。
一つ目の巨人達に取り付かれた船は次々と落されていき、宇宙空間に一際巨大な命の閃光を上げる。
まるで御伽噺に出てくる巨人と神々の戦いのような光景。
ティタノマキア、創造神によって弾圧されていた神々が奮い立ち古き神を倒しこの地上に新しい神として君臨する物語。
コーディネイター達は思った、自分達こそが新人類で人類の進化の最前線だと、そしてナチュラル、旧人類に取って代わりこの生態系の頂点に君臨するのだと。
そう思った。しかし、その慢心が取り返しのつかない事態を引き起こすことになる。
連合があまりの被害の多さに撤退の準備を開始した、しかしそれを見逃すほどZAFTはお人よしではない。この機に一気に殲滅せんと艦隊に迫っていった。その報を聞くまでは。
戦場外、ユニウス市の方角に宇宙空母一隻を含む有力な部隊を発見しコロニーに向けて部隊を展開したと。
彼らは急いで引き返した、コロニーを自分達の家を守るために。
アプリウス市の防衛についていたMSや後方の防衛部隊が全力を挙げて敵の迎撃に向かった、その甲斐あってか敵MAは比較的短時間で殲滅できた。
「間に合った」と誰しもがそう思った。そのコロニーを目指す一機のMAを見るまでは。
そのMAは出撃した他のMAに紛れコロニーへと一路目指した。極秘裏に作られたミラージュコロイドを身に纏い、誰にも気付かれぬままコロニーへとまんまと近づくことができたのだ。
彼は自機に一発だけ搭載されているミサイルのトリガーを引いた。本来なら一発のミサイル攻撃ではコロニーは完全に破壊できない筈だった。そう、唯のミサイルなら。
ミサイルは真っ直ぐに愚直に定められた目標に向かって飛んでいった。そして目標に当たるとその義務を果たした。
突然コロニーの方で巨大な火の玉が上がった、そしてその炎は余すところ無くコロニーを包みそしてコロニーは崩壊していった。
誰しもが唖然とした。この日人類史上初のコロニーに対して核攻撃が行われた。そう、「最後の核」以後の人類の禁忌が再び目覚めたのだ。
後に「血のバレンタイン」と呼ばれるこの惨劇はこの戦争を大きく左右することになる。
銃口から放たれる曳光弾の軌跡が戦場を彩る。
「マーガス!マーガス!そっちの方に行ったぞ!!」
「二時の方から新たな敵機。チッ、一体奴らこの戦場にどれだけの戦力を集めてるんだ!」
「無駄口叩いてる暇があったら目の前の敵を落せ。 クソッ、エイドリーがヤラれた。」
戦場は混迷としていた、プラントと連合はL1の「世界樹」を巡り互いに凌ぎを削っていた。
「そうだ、第三艦隊はMA隊とそのまま敵を足止めしろ!第二艦隊は中央の第一艦隊と共に敵を半包囲そのまま殲滅しろ」艦橋で司令官が怒鳴る。その間にも戦場では幾多の命が散っていった。
C.E70 二月二十二日
「世界樹」には連合艦隊の内第一~第三艦隊までが集結しまた世界中に駐留していた国連艦隊も合わさりMAは艦隊及び「世界樹」駐留戦力も合わせ800機が待ち構えていた。
対するザフトはユニウスセブンの敵討ちとローラシア級三十八隻、改装空母六隻、武装商船十隻、補給艦八隻を伴い総MS300機以上もの戦力が一路「世界樹」を目指し進んでいった。
「血のバレンタイン」の後「黒衣の独立宣言」を全世界に放送し徹底抗戦の構えを見せると同時にプラント政府はまず駐留大使館を通じて非連合国に対し中立もしくはプラントとの通商協定締結を目指し各国と連絡を取り『クライン議長による積極的中立勧告』を宣言。
これを受け非連合国であるスカンジナビア王国、オーブ首長国連邦、赤道連合は中立を表明、北アフリカ共同体、そして最大の非連合勢力である地球連邦はこの勧告を受諾した。
また各コロニーでも今回の連合のコロニーに対する核攻撃という暴挙に対して批判が高まりコロニー世論ではプラントに対して同情的な意見が多数占めた。
コロニー最大勢力であるジオン共和国は直ぐにプラント支持を表明、軍事同盟締結とまでは行かないが物資援助を確約した。
この動きに焦ったのが連合である、特に連合の盟主である大西洋連邦は自分達の足元である南米に拠点を置く地球圏最大勢力である地球連邦がプラントに対する支援を行うとの情報を得てこれに抗議する一部連合の部隊が暴発し南米パナマのマスドライバーを占拠するという暴挙に出た。
この南米事変と呼ばれる事件は非連合国や中立国からの非難を呼び大西洋連邦に浸透するブルーコスモスの影も囁かれたが連合内でも波紋を呼び特にユーラシア、東アジアは今回の行動に難色を示した。
当事者である連邦も早速部隊を派遣しパナマ運河に向かい合うように両軍が睨み合い、一触即発の事態となった。
が、これを好機と見たプラントは月への橋頭堡確保のため「世界樹」に向け侵攻しL1宙域にて両軍が激突した。
これに慌てたのが何を隠そう連邦自身である。L1には連邦のコロニーサイド5があり未だ市民の避難が完了していなかったからだ。今更攻撃を中止させることなど出来ずプラント、連合軍両者に対してコロニーに対する攻撃を留意するよう求めるのが精一杯であった。
さらに連邦は万が一の事態に備えて付近を航行中のパトロール艦隊及び各任務部隊と軌道衛星艦隊、月艦隊を派遣し救助活動を行うよう命令、またコロニー駐留艦隊は既に厳戒体制下にありサイド5前に展開し両軍を牽制していた。
-コロニー駐留艦隊旗艦エンリケ-
「艦長、ザフトと連合の動きはどうだ?」白髪が混じった髭を蓄えた初老にさしかかる男が聞いた。
「はっ両軍共に後一時間ほどで展開を終え戦闘を始めるものと思われます。」男の問いに答えて四十代を過ぎたノーマルスーツ越しでも分かる肥満体系の男マゼラン級エンリケ艦長フォブフート大佐が答えた。
「そうか、では本国からはなんと?」
「先程と変らず駐留艦隊は援軍が到着するまでコロニーの安全確保を最優先とし市民の避難活動を終えるまで現宙域に留まれとのことです。」
「それはそれは、一番近い艦隊でもここから十一時間はかかる、それに付近のパトロール艦や任務部隊が来ても焼け石に水だろう。まったく貧乏くじを引かされたものだ。」
「司令...。」そう艦長が諌める様に言った。軍隊において上官が弱気であると言うことはそれだけで部下にやる気を失わせたり不安を持たせ作戦の成功率に大きく左右する。それが唯の一兵士だったら周りがフォローすればいい、しかし今この男の目の前にいる初老の少し疲れた顔をした男はこの艦隊の司令なのだ。艦橋のスタッフだけでなく全駐留艦隊将兵が彼を見ているのだ。その男が作戦開始前に弱気なことを言うなどあってはならないのだ。
「いや、すまんな。指揮官である私が弱音を吐くなど、まあジャブローの政治家に期待することにしよう。」そういってサイド5駐留艦隊司令ディッケンバー中将はノーマルスーツの襟元を正しながら今回の会戦に嫌なものを感じ不快な汗を背中に垂らしていた。
しかし幸か不幸か今回の会戦に先立ちザフトはNJ(ニュートロンジャマー)を試験的に散布しそれによりL1一帯の通信状態が悪化、連合及び連邦はコロニーとの連絡が途絶え戦況が全く伝わらない状況になってしまった。
そしてプラント政府から攻撃は「世界樹」のみに限定すると言う命令が伝わる前に散布してしまったためにザフトは勝手に戦線を拡大してしまった。
会戦から数時間が経過し精強を誇った連合艦隊はその数を著しく減らしまたザフトも試験的に運用したNJ(ニュートロンジャマー)の影響で部隊間との通信が取れず結局個々の戦場に終始し双方の戦力が拮抗することになり徒に放火を交えた結果「世界樹」以下各コロニーに重大な損害を与えてしまうことになる。
サイド5も例外ではなく直接攻撃こそされないもののNJの影響で地球との連絡が取れずまた索敵や部隊間の連絡にも支障を来たし満足な防衛ラインを築けずにいた、そして撃破された戦艦やMSの破片が猛烈な速度でコロニーに降り注ぐ。
本来なら結成以来宇宙をその職場とした連邦宇宙軍は万全の状態ならばこれしきのデブリを迎撃することは容易かった。しかし、今部隊間の連携もネットワークも間々ならない今デブリは迎撃される事も無くその脅威をコロニーにぶつけようとした。
連邦も目視での射撃やレーザー回線を通じて一応の事態の収拾を達成したがしかしデブリ全てを迎撃することは適わず、いくつもの破片がコロニーや艦隊に降り注ぎコロニーや船を傷つけていった。
しかしこれはまだ序章にしか過ぎなかった。
会戦から八時間が経過し、連合は終にL1の「世界樹」の放棄を決定、追撃を避けるため「世界樹」コロニーを爆破崩壊させ巨大なデブリを発生させた。
ザフトは自艦隊に降り注ぐデブリをMSやビーム砲をもって迎撃し破片の影響圏内から退避していった。
しかし連邦は悲惨であった。既に幾つものデブリの破片を受け艦隊はその迎撃能力を五十パーセントにまで減らしていた。そんな彼らに「世界樹」が崩壊したことにより巨大なデブリが戦場全体に広がり彼らに襲い掛かった。パトロール艦隊や任務部隊が必死の救助活動を行うも全コロニー市民の避難まで後二時間以上かかった。
彼らはザフトや連合と違い背後に守るべきコロニー市民がいた。そしてそのためにはその身すらも盾としてデブリにぶつけていった。
「全艦砲火を集中してデブリを砕け。小型のデブリはいい、コロニーに被害を与えそうな大型のものだけを狙え。」
「損傷艦を下がらせろ!!手の空いてる者は艦の応急処置に向かえ。」
既に旗艦はボロボロであった。如何に宇宙戦艦といえども度重なるデブリとの接触により装甲は捲れ上がり砲身は曲がり、対空砲火やミサイルはその数を減らしていった。
だがまだこの船はいい、装甲の薄いパトロール艦やサラミス級宇宙巡洋艦はデブリの衝突に耐え切れずあるものは融合炉に直撃を受け自身が新たなデブリとなる始末だった。
既にザフト側はNGの散布を止めていたが残留粒子の影響がまだ残り未だに地球との中心が取れない状況にあった。
そしてようやくL1にたどり着いた艦隊が見たものは既に宇宙の塵と化した世界樹の残骸と壊滅して既にデブリと見分けがつかなくなった駐留艦隊の残骸、そしてL1中に広がる救難信号の光だった。
C.E70 三月八日
「世界樹」攻防戦の結果、L1は世界樹崩壊によりデブリベルトと化しプラント側の戦略を大きく狂わせることになる。
当初プラントではL1を確保することによって月への橋頭堡とそして地球からの食糧輸送の中継地として運用するつもりであった。
しかし、世界樹コロニー崩壊によりL1宙域は航行不可能になり、地球からの食糧輸送も困難になっていた。
さらに折角確保した橋頭堡も、補給の困難さと大規模戦力の展開が困難な状態で、結局なんら成果の無い結果に終わったのだ。
これに焦ったプラント評議会はすぐさま食糧確保のため地球侵攻を決定、アフリカ共同体からの支援があるとの情報も得て、ビクトリア湖にあるマスドライバー「バビリス」攻略を目指した。
連合、及び連邦はザフトの動きを直ぐに察知したが、前者は戦力的な理由で、後者は政治的な理由で手を打てずにいた。
地球連合宇宙艦隊はプラント、及び世界樹攻防戦で戦力をすり減らし、連邦も世界樹崩壊によりサイド5が甚大な被害を受け救助活動に艦隊を派遣して身動きが出来なかった。
だが、ビクトリア湖にはユーラシア連邦を主力とした部隊が防衛任務に就き、また地中海にも艦隊を派遣し、アフリカ共同体に圧力を掛けていた。
この為、当初連合の軍関係者達は地上支援の得られないザフトは、如何にMSが優れていようともマルタ島宜しく、戦力を消耗するだけに終わると見ていた。
しかし、この予想は大きく裏切られることになる。
-地球軌道上 地球降下部隊旗艦ムラコフ-
壮年の艦長がじっと、目の前のモニターを睨みながら、顎に手を当てて何やら考え込んでいた。
「連合の動きはどうだ。」
「はい、偵察部隊と衛星からの情報によりますと艦隊はプトレマイオス基地に潜っていて出てこないようです。」オペレーターが情報を整理統合しながら答えた。
「地球連邦は。」
「此方も軌道衛星艦隊は現在厳戒態勢下にあり軌道衛星に留まっています。その他の艦隊は各コロニーでも同じ様に厳戒態勢を取っていますが、艦隊が出撃する様子はありません。」
オペレーターはそう答えると、また自らの業務に戻った。
「艦長は心配性だな。」そう言って艦長席の隣に座る白服の男が笑いながら言った。
「連合は我らの力を恐れて穴倉から出てこれず、連邦もなんら動きを見せない。一体何が心配なんだ?」
「艦長としてクルーを守る為に職務に励んでいるだけであります。私としてはこんな状況で笑ってなんか出来ませんがね。」
そう言われると白服の男は肩を上げ、ヤレヤレといった風に首を振った。
そうしてふと艦橋のモニターから目を離し、艦橋の外に見える無数の艦隊の煌きに目を奪われていた。
地球軌道上に展開したザフト艦隊はローラシア級二十八隻、武装商船十隻、仮装空母八隻の艦隊。
降下部隊はローラシア級四隻、大型輸送艦二隻、輸送艦十隻になり、総勢六十二隻もの艦隊が軌道上に展開していた。
無論これだけの戦力を派遣したのには訳がある。
プラント政府は最初地球侵攻の拠点として、地球連邦からオーストラリアにあるカーペンタリア湾一帯を、租借する手筈になっていた。
しかし、先の世界樹攻防戦でサイド5は多大な被害を受け、地球連邦はプラント、地球連合に対して不信感を募らせていた。
その結果、租借の話は有耶無耶になりザフトとしては何としても「バビリス」を落し、地上拠点を確保するしかなかった。
その為、本来カーペンタリアに降下するための資材も使い、これだけの戦力を整えることが出来たのだ。
三月八日 六時 降下作戦は開始された。
HLVユニットだけで六十以上、総MS数二百機を越える部隊が大気圏の摩擦熱に揺られながら、地上へと降下していった。
迎え撃つ地球連合軍は戦車五百両、戦闘車両千台以上、航空機六百機にもなる大部隊が展開していた。
本来ならこれ等部隊が有機的に連動し、無防備なHLVのその半数以上が撃ち落される筈だった。
しかし、降下に先立ち、秘密裏に降下した特殊部隊が、アフリカ共同体の支援を受け、降下にあわせてNJを起動させた。
地球連合地上部隊は突然部隊間との通信が妨害され、その隙に次々とザフト降下部隊が地上に降り立った。
-マスドライバー バビリス -
「一体どうなっている!!」
管制室で司令官が怒鳴る。
「分りません、突然全通信索敵システムに障害が発生し全部隊との通信が途絶、レーダーも先程から反応しません。」
「敵のハッキングやジャミングの可能性は、復旧はどれ位かかる。」
「駄目です。全システムに障害が発生していて復旧は困難です。恐らくこのジャミングを発生させている基を叩かない限り復旧は難しいと思われます。」
「くぅ~、このままでは防衛どころか戦う事すら間々ならん。電波でもレーザー通信でもいい、部隊との連絡を取れ!!」
「司令、外を!!」
管制塔の窓の外を指差して参謀の一人が叫んだ。
何事かと司令官は参謀の傍まで向かい徐に差し出された双眼鏡を手て取って指差された空を見た。
最大倍率で覗き込んだ先には、大気圏突破の熱の尾を引いた幾つもの流星が流れてきた。
「デブリか、いや、違う。」彼はすぐさま振り返って命令した。
「敵の降下部隊だ。直に航空部隊を全機出撃させろ!全地上部隊に通達対空戦闘用意、索敵が困難なため射撃は目視で行え尚お本部との通信が困難な為以後の迎撃作戦は現場の指揮官に一任する。」
そう言うや否や管制塔は俄に忙しくなった。
彼方此方で怒号が響き渡り、オペレーターが悲鳴をあげ、参謀が忙しなく動き回った。
そんな中司令は一人憮然として椅子に座り、今後の方策を考えていた。
ザフト降下部隊は敵の混乱を他所に次々に展開し、部隊と合流して一路バビリスを目指した。
中には敵の目の前に降下してしまい、あえなく連合に撃破されてしまったものもいた。
しかし、これ等の部隊は全て陽動で本命はバビリスに直接降下した部隊であった。
降下部隊には精鋭が選ばれ、司令部の混乱をより更に助長させた。
バビリス周辺に降り立った部隊は、直ぐさま分かれて重要拠点確保に動き出した。
これはスピード勝負だった。前線に降り立った部隊が敵の戦線を突破し合流するまでの間、彼らは重要施設を全て押さえ、尚且つ敵の敵のど真ん中、限られた戦力で守らねばならなかった。
-第一防衛ライン-
「ハーリス、ハーリス、前に出すぎだ!一旦後ろに下がって体勢を立て直せ。」
「クソッ、右腕をやられた。奴ら通信が出来ないくせに連携しやがる。」
「雑魚には構うな、一旦後退して部隊を立て直す。ジョーブル隊が援護してくれる、退けぇ!」
味方に援護されながらザフトご自慢のMS隊は一度体勢を立て直すために退いていく。
それを塹壕の中から望遠鏡で監視していた連合軍兵は隣で双眼鏡を覗き込む上官に指示を求める。
「敵が後退していきます、追撃しますか?」
「いや、通信が回復していない今の状況で打って出れば逆にこっちがやられる。このままこの場所を守りきるぞ。」
「伝令、伝令。」
するとそこに移動用塹壕を体を屈めながら伝令兵が走ってきた。
「如何した。」
「第六十六中隊が突破されました、急ぎ部隊を後退させ戦線を立て直せとのことです。」
「了解した、陣地を放棄する。他の部隊にも伝えろ、奴等が気付く前にこの場を離れる。」
暫くして再度敵防衛ラインに攻撃を仕掛けたザフト攻略部隊であったが、殆ど抵抗なく陣地を制圧出来てしまった。
「一体奴ら如何したんだ、急にいなくなりやがって?」
「今連絡があった。他の戦線が突破されたから奴らも後退したらしい。オレ達も急ぐぞ、このままじゃ他の部隊に置いて行かれる。」
-バビリス 管制室-
「第二防衛ライン突破されました!!」
「各所で部隊が敵に分断されつつあります。それに航空支援もバイマール空軍基地が敵に占拠され思うように動けません。」
「第三機甲師団、第三機甲師団、応答せよ。ダメです、第三機甲師団応答しません。」
「此方中央管制塔南側通路、現在敵コマンド部隊と交戦中、救援を求む。」
「施設内をMSが暴れまわっています。航空支援を。」
「馬鹿者、マスドライバーに当たったら如何する。現有戦力で何とかしろ。」
状況は悪化し、刻一刻と陥落の声が近づいていた。
そんな中司令官は唯黙って椅子に座っていた、そして一言呟いた。
「司令部を放棄する、全軍に撤退命令を。」
そう呟くや否や、管制室は水をうったように静まり返った。
「司令、今何と?」参謀の一人が恐る恐る、代表して聞いた。
オペレーターさえも黙って司令官の様子を伺っていた。
「聞こえなかったのか?司令部を放棄する、全軍撤退だ!!」
司令官は怒鳴りながら肘掛を拳で叩いた。
「司令部から人員を引き上げた後ここをマスドライバーごと爆破する。その後各部隊の判断で戦線を離脱、再集結ポイントは...。」
言われるや否や司令部は先までの慌しさとはまた違った喧騒に包まれた。
早くしなければここの自爆に巻き込まれる。そんな彼らの焦りが撤退の準備を急がせた。
しかし、古今兵法で撤退戦ほど難しいものは無い。そしてこの戦場でもそれは例外ではなく様々な困難に見舞われた。
「司令、ここを爆破するのは良いとして、実際問題爆薬が足りません、いえ万一の事態を想定して相当数確保していたのですが、それもこの混乱の中で上手く機能するかどうか...。ここは爆破をより徹底すべきでは。」
「分かった、確かまだ戦略飛行団が残っていたな。あれにここを爆撃させろ。」
ここで言う戦略飛行団とは、各地にある地球連邦の重要都市への爆撃(アフリカではダカール等)を目論見、整備された戦略爆撃部隊である。
彼はビクトリア防衛だけでなく、キリマンジャロ基地への抑えとして、彼に指揮権が与えられていたのだ。
一度命令が下されれば、戦略爆撃機の群は、定められた目標に向かいその都市が灰燼に帰すまで執拗に爆撃を行うだろう。
例えそれが味方の都市であってもだ。
参謀は事の重大さに少し顔が蒼くなりながらも、命令を遂行するため撤退作業に戻っていった。
-前線-
ザフトはマスドライバーまで後四十キロの地点まで迫っていた。
「隊長、何だか妙じゃありませんか。」
「そうだな、さっきから敵が散発的に攻撃を仕掛けて前のように組織だった抵抗をしてこない。」
事実彼らはここに来るまで激しい抵抗にあったのだが、しかしそれがピタリと止まっていた。
しかもここだけではなく、全戦線において似たような現象が起きていた。
「何か罠があるんじゃないですか?」
そういってモノアイのカメラを動かすが、戦場は先程までとは打って変って、静まり返っていた。
「ここまで奥に来てしまうと、本部との通信も出来ないしな。」
「如何します?」
「ここまで来て引き返すことも出来ん。各機警戒を厳に慎重に進め。」
「「了解!!」」
彼らは疑念を抱きつつも、確実に前進していった。
-ザフト攻略部隊司令部-
「敵の抵抗が無くなりつつあります。」
オペレーターが各部隊から挙げられてくる情報を後ろに立つ、口ひげが目立ち目を細めている男に言った。
「敵の司令部を落したのか?」
男はマーク・トゥエインは口ひげを指先で撫でながら聞いた。
「いえ、降下部隊からは重要施設は粗方抑えましたが、司令部近辺は抵抗が激しく未だ制圧出来たとの報告はありません。」
「では、如何したんだ?まさか魔法を使って連合が消えた訳ではあるまい。」
「しかし、こうもNJが強いと索敵にも支障が出て、一々中継地点を立てなければ部隊間の通信も間々なりません。」
「そうか分かった、出来る限り情報を集めろ。全部隊にはそのまま前進を続けろと言え。」
「宜しいのですか。」
作戦スタッフの一人が聞いた。つまりこれは罠ではないのかと、或いは何らかの作戦の一部ではと、そう考えているのだ。
「いや、この状況で罠も何も無かろう。そうだったらもっと早く手を打つ筈だ。いまさら戦況の巻き返しなど出来ないだろう。それよりも私だったら全軍をマスドライバーに集結させ篭城を決め込むか。」
「若しくは自軍を巻き込んでの自爆、ですか。」
スタッフが言葉を引き継ぐ。
「まあ、そうなる前に早く落せればいいんだがな。」
そう言いながらも彼の目は先程までと違い、地図上のマスドライバーに険しい目線を送っていた。
この時、ザフト全軍は余りにも戦力を広く展開しすぎたために、部隊間の隙間が広まり、そこを縫うようにして連合の部隊は次々と撤退していった。
無論、幾つかの部隊は悟られぬよう抵抗を繰り返したが、いざとなったら撤退してもよいと現場からの命令を受けていたため、危なくなったら後退していって、結果ザフト軍を奥地へと引きずり込んでいくことになった。
最後まで抵抗すると見られた司令部は、あっさりと陥落。コマンド部隊が突入したが、司令部は既に無人の空だった。
ザフトは直ぐに工兵部隊に派遣し、爆薬の撤去作業に移った。
無論全部隊には引き続きマスドライバー周辺の残敵掃討と、警戒強化を言い渡し、ザフトは重苦しい緊張感のなか、任務に当たった。
コマンド部隊は司令部で情報の吸出し作業を行っていた。
しかし、殆どの情報は破棄され、残っていたものの中には目ぼしい物は無かった。ならばブラックボックスはと探したが、既に待ち去られたか或いは破壊されたりしてなんら成果を上げる事が出来なかった。
工兵部隊もまた、困難にぶつかっていた。
MSの支援の下、工兵が慎重に爆薬の撤去作業を行っていた。目立つ場所に場所にあったものは殆ど処理が完了したが、問題なのは重要な施設に設置されたものだ。
時限式か遠隔操作か分からない状況の中、工兵は時間と戦いながら、困難な場所に設置された爆薬の無力化に励んだ。
しかし、そんな彼らの作業をあざ笑うが如く、基地に電力を供給していた施設の一部で爆発が起こった。
それに連動するかのように基地やマスドライバーの彼方此方で爆発が連鎖し、一部解体作業に入っていた部隊を巻き込んで基地の彼方此方で煙が上がった。
その為作業は一時中断され、負傷者の救助と手当てに向かうことにより、未だ撤去されていない爆弾はまだあると予測させた。
「上手くいったようだな。」
防衛部隊の司令官が丘の上でマスドライバーの各所で轟音と火の手が上がるのを見てしたり顔をした。
「司令そろそろ時間です。」
ジープに乗っていた副官がそう告げると、指揮官はジープに飛び乗り彼らはビクトリアを後にした。
-ビクトリア上空一万二千メートル-
「コマンダーよりB1(バビリス)到達まで30分、各機爆撃進路を取れ。以後B1作戦完了まで無線封鎖とする。」
アフリカの空を扁平状の三角形を思わせる黒塗りの機体が音も立てずに飛んでいた。
上から見るとVの字にも見えなくも無いその機体は、この世のありとあらゆる破壊兵器を搭載可能で、一度命令が下れば世界中の各都市に八時間以内に到達し、半日もあれば世界を灰に出来る恐るべき兵器であった。
完璧なステルス性と縮音性、飛行速度、航続距離、限界高度、全てにおいて完璧なこの爆撃機が、マスドライバーに迫っていた。
破滅の翼が、音も立てずにザフトへと迫ろうとしていた。
それは最初、小さな点だった。しかし、段々と近づいて来て点が大きくなるにつれそれらが無数に地上へと降り注ぐ爆弾だと分かった。
基地中の彼方此方で火災が発生し、阿鼻叫喚の地獄のようだった。
基地はまるで月面の用にクレーターだらけになり、マスドライバーもその巨体を爆撃の轟音が響き渡るにつれ、大きく揺らしていった。
MSは見えない敵に向かって銃を撃ち、逆に近くに落ちてきた爆弾の直撃を受けて、この地上から姿を消した。
ザフトマスドライバー攻略司令部では、通信から送られてくる悲鳴と怒号とが響き渡り、混乱の真っ只中にあった。
やっと事態が収集出来た時には、既に爆撃機は遠くに飛び去り、基地は完全に破壊され、マスドライバーもまた甚大な被害を蒙った。
展開していた部隊はその多くが撃破、よくて大破判定を受け、奇跡的に生き残った者達にも、爆撃の恐怖で精神に異常を来たした者が大勢出た。
ザフトは念願のマスドライバーこそ手に入れたものの、部隊は甚大な損害を蒙り、またマスドライバーも崩壊はしなかったものの、復旧には半年以上かかる見通しだった。