連邦の野望   作:rahotu

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戦争再開

月面都市グラナダ。

 

 

月でも一二を争うほどの豊富な資源採掘量を誇り、人口及び工業生産能力も月面随一の重要な都市である。

 

 

月の裏側に建設されたこの都市はそもそもフォン・ブラウンのマスドライバーでは射出できないL2のコロニー建造のために作られた基地の跡に建設された都市である。

 

 

その為、独立以前からジオンとの関係は深く、この都市にジオンの国策会社であるジオニック社と通称キシリア機関と呼ばれるキシリア・ザビ直属の諜報機関の支部がある事からその関係が伺える。

 

 

さらにグラナダとサイド3ジオン共和国とはその誕生の折りから共に歩んできた歴史を持つもの同士、ルナリアン、スペースノイドの垣根を越えた絆で結ばれていた。

 

 

その為、住民の多くは親ジオン派であり各コロニーと較べてもその比率は多かった。

 

 

キシリア機関もそこを利用し各コロニー以上に工作を行っていた。

 

 

 

連合、プラント両国は休戦期間中を利用し何とか自国の勢力強化に努め、中立国や各月面都市、果てはコロニーに至るまで様々な工作を行ったが、

 

 

片やコロニーに核を撃ち込む暴挙を犯し、片や自らこそ至高の種だといってはばからずナチュラルを旧人種と見下しNJを落した張本人。

 

 

子供でも信頼する事が出来ない両陣営、はっきり言って関わりを持ちたくないというのが本心であった。

 

 

が、彼らはそれを表面上はおくびにも出さず、両者の間で揺れ動く振り子の役を演じていた。

 

 

 

 

 

-L2 サイド3 ジオン共和国 ズムシティ-

 

 

ジオン共和国議会議長兼国防大臣であるギレン・ザビは一人執務室で書類に目を通していた。

 

 

忙しなく動くその目は、傍から見れば流し読みではと疑いたくなるが、しかし彼は驚くべき速さで文章を読み尚且つそれを全て理解した上で、判断を下しているのだ。

 

 

コーディネイターでさえ不可能なこの作業を、なんら遺伝操作を受けていないにも拘らず行える彼は正に天才であった。

 

 

事実非公式にだが彼のIQは240以上とも言われ、並みのコーディネイターでは歯が立たないほどの知能を有し、そのカリスマ性もあってか三十五歳の若さで共和国議会議長と国防大臣を一手に引き受けるその手腕は、確かなものがあった。

 

 

そして彼は今日も書類を読み終えるとそこにサインをし、決済箱の中に収めた。

 

 

コンコン、

 

 

ふと部屋の扉をノックする音が響きギレンは一言、

 

 

「入れ。」

 

 

部屋の扉を空けて「失礼します。」と頭を下げて入ってきたのは彼の秘書であった。

 

 

名をセシリア・アイリーン、

 

 

モスグリーンのスーツを女性特有の曲線が分かるようにピッチリと着込み、ブラウンの艶やかな長い髪を業務の邪魔にならないよう頭の上で団子を作って纏めていた。

 

 

そしてその理知的な瞳は、目鼻立ちが整った顔も相俟って、彼女の美しさを引き立たせていた。

 

 

無論ギレンは唯美人というだけで彼女を抜擢したのではない。確かに職場に美人がいることは士気も上がり作業効率がよくなるが彼女はそれだけではない。

 

 

決して裕福とはいえない家柄に生まれながら、彼女はその美貌と才覚を巧みに使いのし上がり、その傑出した才能を見抜いたギレンによって彼の第一秘書としての地位を確立したのだ。

 

 

また、彼女はそれだけで満足せず、その才覚と美貌を磨き上げ彼の公私にわたってのパートナーとして秘書以外にも裏の仕事さえこなすその様は正に女傑といって差し支えなかった。

 

 

「新しい報告書をお持ちしました。」

 

 

セシリアはそれをギレンに差出、それを無言で受け取ったギレンは早速その報告書に目を通し始めた。

 

 

常人では追いつけないほどのスピードで読み進めていたギレンがある一文に目が釘付けになった。

 

 

彼は報告書を机の上に置き、何時もの癖で両肘を机に当て組んだ手の甲の上で何事か思案していた。

 

 

「何か良い事でもあったのですか?」

 

 

普段の彼女ならギレンがこのような仕草を取った時は彼の思考の邪魔をしないように静かに退出するはずだったが今日は違った。

 

 

ふと、ギレンが顔を上げると、

 

 

「その...閣下のそのような嬉しそうな御顔を拝見したことはなくて...。」

 

 

そこでようやく気付いたギレンは自分の頬に手を立てた。確かに顔の筋肉が緩みきっているのを手を通して分かった。

 

 

もしここに鏡が合ったとしてもそこには普段の彼と代わりのない顔があっただろうが、しかし彼と深い付き合いであるセシリアにはギレンの微妙な表情の変化が手に取るように分かった。

 

 

ギレン自身でさえ触れなければ気付かない変化にセシリアが気付いたことにギレンは若干不機嫌になりながらもそれを表には出さず報告書にサインをしてそれを決済済みの書類が入った箱の中に放り投げた。

 

 

セシリアはギレンの普段は見せないような幼稚な態度を微笑ましく思いつつも、其れに気付いて更に不機嫌になっているだろうギレンの感情に気付き早々に話題を変えることにした。

 

 

「閣下、それと例の件の事ですが...。」

 

 

セシリアがそう聞くと雰囲気を察したギレンは何時もの通り冷徹な顔に戻り指示を出した。

 

 

「うむ、その事だがキシリアに一任してある。」

 

 

「宜しいので?それですとキシリア様が独自の軍を持ち、追々困ったことになるのでは。」

 

 

キシリア・ザビはギレンの妹でありザビ家の長女だがその中は傍目にも見て仲が良いとは言えなかった。むしろ両者が政敵として互いが互いを蹴落とそうと裏で暗躍しているのだ。

 

 

嘗て中世期以上前島国にの諺に「三本の矢」とあるがお世辞にも彼ら兄弟には当てはまらないものだった。

 

 

無論彼らの父デギン・ソド・ザビはこの状況を憂いており、後々ジオンに禍根を残すのではと一線を退いた我が身を煩わしく思う日々を過ごしていた。

 

 

そのギレンがキシリアがジオン共和国軍以外に兵を持つことは、決して容認できるものではないがしかし敢てその危険な橋をギレンは渡ろうとしていた。

 

 

「無論その事も考えの内だ。だがジオンに益がある内はキシリアの好きにさせる。」

 

 

「つまり今の所は敢て泳がすと。そしてもし万が一があったとしても閣下は既に手を打っていると...。」

 

 

ギレンはそこでフッと笑い、目でそれ以上のことを伝えつつ

 

 

「そうかもしれんな。」と一言呟き、

 

 

ギレンはそこで言葉を切ると椅子から立ち上がってセシリアに背を向け、執務室の机の後ろに飾ってある建国の父ジオン・ズム・ダイクンの肖像画を見上げた。

 

 

セシリアはその背に無言の退出を促す気配を感じ取り、決済済みの書類を纏めると一礼して部屋を出て行った。

 

 

・・・建国の父ダイクンは嘗て人類は宇宙に出ることによって広がった生活空間に適応するために自らを進化させるといった。果たして今の我々がそのニュータイプであるのか、亡きダイクンは今をどの様に思うのだろう。

 

 

ギレンは肖像画の瞳を覗き込むようにしてみたが、がダイクンは何も語らずただ微笑みかけるばかりであった。

 

 

 

 

 

休戦期間が切れる前から情勢は決まっていた。

 

 

連合、プラント双方なんら成果はなく、アイリーン・カナーバらの説得の甲斐なく地球の中立国は今まで通り現状維持、月面各都市は中立、サイド6も早々に中立を決め込むも内情は連邦とジオンとを秤にかけていた。

 

 

サイド2はジオン寄り、サイド4、建設中のサイド7は連邦の勢力圏内であり戦前から連邦支援を宣言していた。

 

 

地球の中立国は大国と超大国の戦いに巻き込まれないために自己保身に走り、月及びコロニー住民は横暴な連合と鼻持ちならないプラントを嫌い両者との同盟を拒み、そもそも各コロニーに至っては門前払いどころか交渉の席にさえ付けなかったのだ。

 

 

この結果はある意味当然とはいえ、はっきり言って連合、プラントは自分達以外孤立無援の状態だった。

 

 

そして、休戦期間が過ぎると更に月面都市グラナダがジオン共和国傘下に入り以後グラナダはジオン共和国軍の支配下に置かれた。

 

 

また電撃的に侵攻したジオン共和国軍により月の裏側にある地球連合軍の月面各基地は攻略されこれにより月面の裏側はジオン共和国が実効支配することとなる。

 

 

これにより連合軍は益々苦しい立場におかれ大規模な艦隊出撃は月面の地球側にのみ限られ以後戦争中期後半まで軍としての行動が出来なくなる。

 

 

プラントでも月面から採取されるレアメタルを求め軍の編成中であったが、すべて無駄になり地球上での資源確保に躍起になることとなる。

 

 

そして、休戦期間が切れると同時にアフリカ大陸中部、中央アジア、ベーリング海を巡り両軍が激突することとなる。

 

 

コズミックイラ70 五月六日

 

ビクトリアにあるマスドライバー基地「バビリス」を占領したザフトはまず同盟国であるアフリカ共同体から連合の勢力を排除するために北進し、スエズ運河の攻略を目指した。

 

そもそもスエズ運河はその帰属権をめぐり旧世紀から争いが絶えず、ここを巡り幾度となく戦争が行われた。

 

今日においては正式な所有者はアフリカ共同体だが、連合がもつ大量の国債と武力に屈し借金を全額返済し終えるまでスエズ運河一帯及び北アフリカ沿岸部の全域を連合が租借することを認めさせられていた。

 

この事からもわかるようにアフリカ共同体と連合の仲がいいはずもなく、国内では毎年の如く反連合のデモ行進が行われていた。逆にプラントは北アフリカから連合の勢力を完全に追い出す事が出来ればアフリカ共同体との同盟は強固になり、また重要拠点であるスエズ及びジブラルタルへの橋頭堡を確保する事が出来るのだ。

 

だからこそ連合はここを守りきる事が出来ればザフトをアフリカの大地に釘付けでき、国土を戦火に巻き込まずにすむのだ。

 

故に対する連合はユーラシア連邦がその自慢の陸軍の総力を挙げて防衛陣地を構築し、スエズ運河周辺は難攻不落の要塞と喧伝された。

 

しかし、連合は先のNJの被害から今だ脱してはおらず特に広大な国土の大半のエネルギーを核に頼っていたユーラシア連邦の惨状は凄まじく、路傍に死体が積み上げられ病院は電気が使えず患者が衰弱死していく。さらにインフラを破壊されたことにより各都市が分断され衛生状態が悪化、疫病が蔓延しそれが又病を呼ぶ悪循環を引き起こしていた。

 

各都市は治安が悪化し、中には軍を出動しての鎮圧も行われたが逆に市民感情に火をつけて市民と軍とで市街戦まで発展した。

 

連合もこれを何とかしようと奔走したが、しかし自国でさえ危険な状態であるのに他国を支援する余裕等なく、逆に支援を欲する状態であった。

 

このため、連合各国は再戦において内側に大きな爆弾を抱え込みながらの戦争継続を余儀なくされた。

 

連合は何とか国民感情を外に向けさせようと反コーディネイターを煽りそれが事実であるがゆえに市民の怒りの矛先はプラントへと向かい、何とか自国を維持しているのが現状であった。

 

だが、その裏でこの戦争を引き起こす一端となったブルーコスモスの影響力が確実に連合国内に深く根付くこととなる。

 

それがどのような結果を招くのか、今は誰も知らない。

 

 

 

停戦期間が終わると同時にプラントは前もって集結していた部隊をアフリカ共同体の軍と共に一路スエズ攻略を目指した。

 

ザフトは広大な砂漠地帯での先頭を有利に進めるためタンク形態への変形が出来るザウートを主力とした部隊を派遣しMSの力を過信するザフト攻略司令部はアフリカ共同体が提言する狭撃策を真正面からのスエズ攻略に乗り出した。

 

愚直に進軍していくザフト攻略部隊と共同体軍は早くも攻略作戦が頓挫することとなる。

 

唯真っ直ぐに突き進むザフトMS部隊を連合は戦前から構築していた野戦陣地を短い時間の中で更に強化し、ヘリ部隊と連携した戦術によって航空支援のないザフト・アフリカ連合軍を立体的十字砲火陣地にまんまとはまり込み次々とMSや車両が火を噴いていった。

 

MSは宇宙空間では確かに無敵だが、地上では重力によって自慢の機動力が鈍りその大きさが仇となり連合軍戦車部隊からは格好の的だった。が、MSの装甲は長距離では如何にリニアガンとはいえ撃破することは適わず、至近距離か装甲の薄い背後からしか撃破することは出来なかった。

 

唯一の航空兵力を持つアフリカ共同体も質量共に連合に劣り、事前の制空権争いでこの作戦に投入した航空兵力の三分の一を失う僅かな時間で失う結果となりザフトMS隊は航空支援がない状態での攻略作戦を余儀なくされた。

 

決してザフトが航空兵力を持っていないわけではないのだが、空戦用MSディンは航続距離の関係と新型の水中用MS部隊と共にジブラルタルを攻略中で全機で払っていた。

 

ザフトも状況を打開しようとザウート自慢の火力を敵防衛陣地に叩き込もうとするも、巧妙に隠蔽された陣地の割り出しは難しく、また余りにもザウート部隊が前に出すぎていたためにこれを脅威と思った連合によって火力を集中され次々に各坐しそこをヘリ部隊からのミサイル攻撃で撃破されていった。

 

結局ザフト・アフリカ連合軍は連合の強固な防衛陣地の前にさして前進する事が出来ず戦線は膠着。消耗戦の憂いにあった。

 

この事実を受けザフト司令部は作戦の変更を求められ、アフリカ共同体軍はそれ見たことかと呆れ返り、したり顔で自らが主張した挟撃作戦へと作戦を移行することになった。

 

 

 

 

ザフトが同時拠点攻略による二正面作戦という愚行を犯す中、連邦と連合も地上で衝突を繰り返していた。

 

しかし、ザフトが初戦から大きく仕掛けたのに対し連合軍と連邦軍の戦争は小規模な小競り合いに終始した。

 

その気になれば百個師団単位でのぶつかり合いを地球各地で起こせなくもないが、しかし互いに消耗を嫌いまたそれによって漁夫の利を狙うプラントを警戒し二次大戦初期さながらファニーウォーの焼き回しであった。

 

ジャブローの目と鼻の先であるパナマを巡る戦いも、連合はジャブローを占領できるほどの戦力がなくまた連邦も徒に戦火を広げまいと消極的な態度を取っていた。

 

宇宙空間でも似たり寄ったりで、互いに散発的な戦闘こそ起こるものの積極的な行動には出ることはなく互いに拠点に引き篭もって戦力の回復に努めていた。

 

それでも互いにプラントに対する嫌がらせとして航路に機雷を敷設したり海賊を装った襲撃をしたりその中でも連邦は大胆にも各宙域に展開する任部部隊をプラント航路周辺に送り込みプラント商船団と激闘を繰り広げていた。

 

 

この戦争で一番激しく戦争を行っていたのはプラントとジオン共和国であった。グラナダが出来た事によりL2宙域からL5近海へとソロモン要塞を移したジオンを最大の脅威と見たプラントは幾度となく要塞攻略に乗り出すもその都度ドズル・ザビ率いる宇宙艦隊に阻まれていた。

 

ジオン共和国艦隊は連邦と同盟を組むことにより背後の安全を保ち要塞防衛に対して全力を注ぐ事が出来た。

 

逆にプラントは宇宙、地上と戦線が広がり、宇宙だけに集中することは出来なかった。また人口が同じコロニー国家であるジオンと較べても少ないプラントはそもそもの戦場に出せる人数が少なく安全な後方を持たないプラントは絶えず艦隊を本国に貼り付けておかざるを得なかった。

 

そもそも、プラントとジオン共和国はその成り立ちから互いに潜在的敵対関係であった。ダイクンの掲げるニュータイプ思想とプラントのコーディネイター至上主義は相容れるものではなくダイクンなど生前は「コーディネイターは紛い物の人間だ。決してニュータイプにはなれず滅び行く種でありジョージグレンの考えは間違っていて人間の架け橋になるどころか害悪にしかならないのだ。」といって憚らなかった。

 

プラントも又、ニュータイプ思想を空想の産物としダイクンを影ながら夢想家と笑い自分達こそ、その進化した種だといって譲らなかった。

 

ダイクンと違って現実主義者のデギン・ソド・ザビらもプラントの技術力は信用していたがプラントそのものは信頼しておらず嘗て水面下で行われていた技術交流も状況の変化であっさりと取りやめたりと両国の関係を象徴していた。

 

ダイクン亡き後もそれは変ることは無く、逆に平和的独立を果たしたジオンはプラントと一応の交流を持つも互いに相手の腹を探り合うという状態が続いた。

 

両国ともその建国の根本の理念から対立していたので、近いうちに衝突は避けられないだろうと見られていた。

 

そして今現在通算で三回目のソロモン沖会戦が行われていた。

 

 

-ジオン共和国宇宙艦隊旗艦グワジン級戦艦グワラン-

 

船体を朱色に染め軍艦らしからぬ客船を思わせる優美な曲線美のフォルムを持つこの船は全長440mという地球圏最大の戦艦であり、見た目と反してその実力は侮れずマゼラン級以上の火力と地球と火星、木星間にあるアステロイドベルトまで無補給で航行可能な航続距離を持つこの戦艦は正に宇宙艦隊旗艦にふさわしい性能を有していた。

 

その艦橋に腕を組んで立つドズル・ザビは古の武士を思わせる風貌を持つこの男は、ザビ家一党のなかでも政治には関わらず専ら戦場で栄える事をこの上なく誇りに思っていた。

 

その恐ろしげな風貌とは裏腹に、部下には親しみを持たれ子煩悩な愛妻家としてジオン本国では知らぬものは無いほどの有名であった。

 

そんな彼の元には、ダイクン派、ザビ派の垣根を越えて彼を慕うものが多く集いその豊富な人材は彼自身の能力は勿論その武人然とした風貌と精神は多くのものをひきつけて止まなかった。

 

彼はその風貌から攻勢一辺倒の猛将と思われているが、実際は指揮官としては機を見るに機敏でこれまで多くの会戦を行ってきたがその都度彼の指揮は的確を極め自軍の被害を最小限に抑えつつも敵に大きな被害を与えている事から彼が攻勢一辺倒だけの将ではないことは明らかであった。

 

その彼が、旗艦の艦橋にノーマルスーツを着けずに戦況をじっと見守っていた。

 

戦場全体を写すモニターには自軍が赤、プラントが青という形で表示され大まかな戦場の流れを刻一刻と映し出していた。

 

両軍共に攻撃の要はMSであり互いに艦艇からMSを繰り出し制宙権を巡りドックファイトを繰り広げていた。

 

緑色に塗装され片にシールドとスパイクアーマーをつけた一つ目のMS-06ザクⅡと灰色の此方も一つ目だが頭には鳥の鶏冠のようなアンテナと背中の大部分を覆う羽根のような大型スラスターをもつZGMF-1017ジン。

 

ジオンのザクとプラントのジン。宇宙世紀に登場したこの二機種はその後のMS開発に大きな影響を与えるがここでは両機の特徴を説明しよう。

 

ジオンのMSザクはコロニー用の作業機械モビルワーカーを軍事利用したもので、全体的にズングリとした姿だが、信頼性と汎用性に重きを置いた

 

その設計は新兵でも直ぐに使いこなせるし壊れ難いと現場から高い評価を得ていた。

 

対するプラントのMSジンはその設計は嘗てジョージグレンが外宇宙探索船で船外活動を行うために作られた作業用スーツを基に作られ、汎用性という点ではジオンのザクと同じだが、背中にある大きなスラスターが示すように此方はより機動力に重きを置いた設計となっていた。

 

ジオンのザクが誰でも使えるように設計されているが、基本プラントはコーディネイターの国である。よってコーディネイターの能力を生かすために機体はよりシャープにコーディネイターの反応を活かせるよう機動性を追求したがために、使いこなすまでに時間が懸かり新兵では扱い辛いという欠点があった。

 

だが、連合との戦争でその性能の高さは折り紙つきで機体になれてさえいれば、連合のMAを翻弄し一気に敵艦隊に接近できる潜在能力を持っていた。

 

つまり誰でも使えるザクか、コーディネイターにしか使う事が出来ないが機動力はMAを凌駕するジンということになる。

 

現在戦場ではMSが入り乱れ互いに有利なポジションを取ろうとスラスターのスジを宇宙空間に描き、死闘を行っていた。

 

ザフトはその組織が民兵を基本においているため連携よりも個々の実力を重視する傾向が強く、MS戦でも各々相手を決めての接近戦を挑もうとした。

 

対するジオンはMSの運用を部隊間で行い個人の勇よりも部隊の連携を重視し互いに支援しあいながらも相手を照準に収めようと小刻みな機動を繰り返していた。

 

ザフトは接近戦を挑もうとし、ジオンは接近させまいと互いに支援し隙をなくして距離を置いての砲撃戦を行おうとし、このため戦場は拮抗し両者決定打を欠いたまま時間だけが過ぎていった。

 

ドズルは動きを見せない様子を見て、ザフトMSが実戦に慣れてきたことを感じていた。

 

当初要塞を攻略しようとしたザフトMS隊は個々が突出しすぎたためジオンMSの連携の前に包囲分断され全滅の憂いにあっていた。

 

その後、度々ちょっかいをかけてくるザフトと小競り合いを繰り返しながらも再びザフトが前回以上の艦隊を組んでの力押しを挑んできたが、逆に側面から後方に回り込み要塞砲の射程に追い込みこれを撃退。

 

暫く鳴りを潜めていたが、再び攻めてきて今度は要塞を迂回するような機動を取ったために、艦隊を要塞から出撃させこうして艦隊戦を挑んでいるのだが、中々勝負が決まらない。

 

以前のように個々の実力の高いものが突撃することは変らない。しかし、それにあわせるように突っ込んだ穴を広げるようにしてMS隊が群がりそ

 

こから傷口を広げるようにして蹂躙するなど、今まで見たこともない戦法を行い一時今度は此方のMSが分断包囲の危険に晒されたのだ。

 

僅か二回の会戦と、数回の小競り合いで対MS戦の対策を出してくる辺りドズルはコーディネイターの能力の高さを改めて認識し、それによく対応して耐えている部下達を誇りに思った。

 

が、いい加減MS隊の推進剤が切れるのは時間の問題でありその前に勝負を決めたかった。

 

「このままでは悪戯に損害が増えるばかりだ。MS隊は敵をそのまま拘束し本艦隊は砲撃戦へと移る。各MS隊は射線上に出てこないよう注意しろ」

 

副官が命令を復唱し、それがレーザー通信を通して各艦隊に伝わり各艦距離を詰め艦隊戦へと突入した。

 

 

-ザフト艦隊ナスカ級カハマルカ-

 

その艦橋で今回の攻略戦を任された白服の男。カール・ケンプは戦術モニターに映るジオン艦隊の動きを見て顔をしかめていた。

 

MSの数は向こうが若干多いが、こちらが積極的に攻勢をかけていると”見せかけて”いる為に防衛に終始している。

 

だが、問題は艦隊の方だ。互いに防衛用に必要最低限しかMSを残していないために自然勝負はMS同士の決着よりも相手の艦隊を如何に削れるかという、大昔の艦隊同士の砲撃戦に戻ることとなる。

 

その場合、MS運用ばかりに特化したザフト艦艇は非常に不味いことになる。そもそもザフトはプラントの自衛の為に市民が自主的に志願して出来たことに表向きはなっている。

 

その為、戦艦のノウハウ等もなくそれだったらいっその事MSに特化すれば言いという極端な発想でザフト艦隊は整備されていったのだ。

 

ローラシア級を始めとする各艦は元をたどれば民間の輸送船で、有事の際に武装して仮装艦として運用する事がMS登場以前から決められていた。

 

そしてMSがザフトの主力となる際輸送船のペイロードを使い、本格的なMS運用艦として現在に至っているのだ。

 

同じ頃に開発されたジオンのムサイ級巡洋艦が四機(無理をすれば六機だが)しか積めないのに対し、ローラシア級は六機、大型商船を改装したバルティガ級護衛空母は八機とその差は大きい。

 

バルティガ級は武装こそCIWS4基と非常に頼りなく、元が商船であるため装甲も申し訳程度にしかないが、改装されMS空母として生まれ変わったこの船はプラントの商船団の護衛やMSの数を減らして空いたスペースに食料を積み込みんでプラントまで輸送したり逆にプラントからの補給物資を地球軌道まで届けるなど八面六臂の活躍をしていた。

 

また元となった船が連合、プラント各勢力問わず使用されており補充が容易なのも大きな利点で地球コロニー間を無補給で航行できる航続性能も魅力であった。

 

その中で彼の乗るナスカ級はザフトが今までの運用経験を生かして満を持して完成させたのがこの船である。

 

航続距離はバルティガ級並み、速度は連合のドレイク級宇宙護衛艦以上、MSを最大六機まで収容でき中央に設けられたリニアカタパルトによって艦前方方向に迅速なMSの展開能力を有し更に火力も充実していて長射程のビーム砲とレールガン、多数のミサイルに船体収納式のCIWSでMSの支援から自艦の防衛まで何でもこなせる万能艦であった。

 

しかし悲しいかな。ザフト艦全てにいえる事なのだが致命的に装甲が薄いのである。

 

幾ら機動力に優れようと、多くのMSを搭載できようと、足が速かろう長かろうが、一度砲撃戦という耐久力勝負になればザフト艦隊に勝ち目はなかった。

 

そして、目の前のジオン艦隊は最小サイズのムサイ級軽巡洋艦でさえローラシア級を上回る火力を有し更に、この艦隊を率いる男はジオン共和国宇宙艦隊司令長官ドズル・ザビその人であり無論彼の乗艦であるグワジン級戦艦も(遠巻きに見てもわかるその巨体を)この戦場に姿を見せていた。

 

彼は自分達が勝てないとそれを知るが故に如何してこうなったのかと、場違いにも今までの道のりを思い出していた。

 

コーディネイターだからといって奢る事無く鍛えられた肉体に精悍な顔立ちをした彼はザフトの中でも割と古参に入る分類で、その設立以前からMSに乗り来るべき独立の日に向け己の技量を磨いていた。

 

しかし、いざ開戦してみると彼は複数の艦が集まって作られる戦隊を任され自分の経験を買ってくれたのだろう白服に任命されたことはありがたいがそのおかげで彼はめっきりMSに載る回数が減ってしまった。

 

一応自艦の格納庫には自分用にチューンされた新鋭機シグーが置いてあるが、配備されてから数えるほどしか手を触れてはいないため新品同然であった。

 

何度か任務をこなし、プラントに久しぶりに帰還すると早々に国防委員会から直々に呼び出しがあり宇宙要塞ソロモンの攻略を命じられた。

 

そもそも彼は今回の作戦には前々から反対だったし何度も意見書を書いた。が、命令に変更はなく彼は渋々部隊の編成に当たったがその戦力が前回作戦時よりも少ないことで上層部に直談判を行い頑なにこれ以上の戦力は出せないという上層部を見限ると彼は各方面やプラントに帰港している各部隊の間を駆けずり回ってようやく前回と同様の部隊を数だけそろえる事が出来た。

 

その間にも与えられた作戦期限が過ぎていくのだが、彼は諦めず各部隊との統制と調整、補給の手はずを整え艦隊の訓練スケジュールを組み日夜送り届けられる山のような書類に目を通してサインをし間違っているところを訂正して書き直させたりと「72時間働けますか!!」を素で行っていたりする。

 

艦隊がプラントを出撃する頃には、彼の精悍な顔は疲労と不眠で痩せこけ目の下には隈が浮かびまわりに心配されながらも艦隊の指揮官として彼は作戦開始日まで出来る限りの事をやった。

 

この戦力を掻き集めるためにかなりの無茶をやり、その強引な方法に各部隊長や艦長が不満を抱いていた。

 

中には、出撃するまで自分達の作戦内容さえ知らないものもいたのだ。

 

そういったものたちを納得させるためにも彼は無理を押し通して、自らの責任を果たし作戦の成功率を少しでもいいから上げるために奔走した。

 

が、終に疲労の限界に達し彼は各艦の無理解な部隊長たちと対MS戦の新戦術のミーティングを行っている最中に倒れ、そのまま医務室まで運ばれて以後二日間意識不明の重態だった。

 

彼は目を覚ますと軍医の言葉も聞かずに直ぐに遅れた業務を取り戻す作業に入った。その超人的な姿に作戦に参加したザフト兵全員が感動し心を一つにして以後彼の指示は今まで以上にスムーズに通っていった。

 

だが、だからこそ彼の心は晴れなかった。皆の心が一つになり訓練にも熱心に取り組んでくれて彼の仕事も前ほど忙しくなくなると、一人でいる時など彼は皆に対して申し訳ない気持ちで一杯になった。

 

今現在ザフトは宇宙に多くの敵を抱えている、更に地球にまで侵攻したことによりかなり無茶をしている。

 

その為、薄くなった哨戒ラインを掻い潜って連邦、連合の通商破壊部隊が船団を遅いプラントの食糧事情を圧迫していた。

 

そんな中、地球で作戦を開始している中宇宙でも大規模な攻略戦を行うなど無謀でしかなかった。

 

何でも、プラント上層部は連邦は腰抜けだからジオンさえ何とかすれば直ぐにでも停戦するだろうと踏んでいるらしい。

 

確かに、あんな状況になってもまだ和平を行おうなどという平和ボケした態度には彼も若干拍子抜けであったが、だからといって連邦が軟弱かというとそうでもない。

 

あのレビルとか言う将軍が言うようにオレ達にはこれ以上無茶をする余裕もないし、連合だって本当はNJの影響でボロボロのところを無理しているんだ。その中で連邦だけが何事もなかったかのように平然と戦い続けている姿を見ると、ザフトとの地力の差を見せ付けられたような気分になった。

 

連邦はまだまだ余裕があるんだ。万が一ジオンをプラントが下したとしても連邦まで屈するとは限らない。いや、最悪そのまま戦争が継続されて結局プラントが根負けするに決まってる。

 

それに精強で知られるジオンがそう簡単に負けるはずが無い。戦前から連邦との合同演習や観艦式などでその実力は知られているが、実際彼らはプラントと同じ様にMSを開発し更にプラントでさえ知らない秘密兵器を使って連合艦隊を殲滅しているのだ。

 

決してナチュラルの国だからといって楽に勝てる相手ではないして、侮ってもいけないのだ。

 

だから今プラントがやらなければいけないことは、早々にオペレーションウロボロスを完成させ、その成果を持って連合を交渉の席につけさせるとこだ。

 

断じてこれ以上の戦線を拡大せずに、力を温存して地球での作戦に掛けるしかないほど俺達は追い詰められていると上層部は理解していないらしい。

 

それなのにこんな無謀な作戦につぎ込まれて、いらぬ犠牲を出すなど言語道断であった。

 

...やめよう。いまさら言っても不毛だ。少なくとも俺が今すべきことは目の前の作戦を如何に成功させるかだ。

 

 

周りが慌しく敵艦隊の突入を知らせる声と、オペレーターが各艦艦長が支持を求めているとの声で、彼は「ハッ」として意識を再び戦場へと戻した。

 

皆不安そうに彼の顔を見ていた。彼はそこで気付いた。無謀だと思っているのは自分だけではないと、彼らもまた自分と同じ様に不安なのだと。

 

だが彼は指揮官だ。指揮官の同様はすぐさま艦隊に伝わり作戦の成功率を著しく下げるのだ。

 

自分は何のためにこの場に居るのか。今時分が出来ることは少しでも多くの味方を生きてプラントに再び戻れるようにすることなのだ。そのためには自分が迷っていてはダメなのだ。

 

彼はそれを思い出し、心の中で活を入れると矢継ぎ早に艦隊へと指示を出していった

 

 

 

-ソロモン沖宙域-

 

ドズル・ザビ大将揮下の艦隊は紡錘陣形を取り敵艦隊中央を突破せんと突撃をかけた。

 

艦隊の規模はほぼ同等であるが、しかし艦隊の砲数火力共にこちらが圧倒している。

 

ドズルは自らが推し進めたMSよりも旧世紀の砲撃戦が勝敗を決するであろう戦場を見て内心複雑な思いを抱いたが、それを表には出さず自らも前に出るべく指示を出していた。

 

 

戦場をかける赤に塗装されたザクに乗るパイロットは、ふとその目を今正に砲火を交えんとする艦隊に向けた。

 

「ふっ、ドズル閣下は艦隊戦をお望みのようだな。ならばそのお零れに私も与るとしよう。」

 

コックピットの中でノーマルスーツも着けず不適に笑う仮面の男。

 

シャア・アズナブル

 

初陣で連合の戦艦五隻とMAを三十機以上を一人で落し、その功績により一気に少佐まで上り詰めた男。

 

常にその顔を仮面で隠し、彼の素顔は親友のガルマでさえ知らない謎の男。

 

だが、その招待はジオン共和国の祖にして宇宙世紀に新たな光明を示した男、ジオン・ズム・ダイクンが遺児キャスバル・レム・ダイクンその人であった。

 

彼は身分を隠し、これまでジオン共和国軍に身をおきながら現在のジオンを内側から見ていた。また、父が掲げたニュータイプ思想とその父の本当に姿を知るためにも敢てザビ家と接近し父のことを知ろうとしたのだ。

 

そんな彼は今ではジオン共和国の押しも押されぬエースとして戦場を駆け僅か二ヶ月も経たないうちにドズル閣下直々に与えられた戦艦「ファメル」と多くの部下を率いる立場にいるのだ。

 

「ドレン聴こえるか、私はこれからドズル閣下支援の為に一度戦列を離れる。後のことを任せるぞ。」

 

高濃度のミノフスキー粒子下でも通信が出来るよう強化されたブレードアンテナは、NJしか散布されていないこ現状で艦隊から遠く離れていてもなんら支障はなかった。

 

これは、予てよりジオン共和国はミノフスキー粒子下での戦闘を主目的とし開発されたザクはプラントのジンよりも電子装備が充実していた為に起こった事だ。

 

また、シャアの乗るザクⅡS型と呼ばれるこの機体は量産機より出力が三十パーセントアップしており各種通信索敵能力もアップしているため指揮官機として運用されていた。

 

更にシャアが乗る機体は外見の塗装だけではなく、内装面でも彼の合わせたチューニングが施されており既存のザクを上回る性能を持ち赤い彗星の謂れである通常の三倍の速度をシャアの技量もありスペック以上の戦果を示していた。

 

「分かりました。ですがシャア少佐一人だけで大丈夫なのですか?」

 

通信モニターに映ったドレンが上官の指示を苦笑と共に受け取りながら彼を試すような口調で言った。

 

「無論だ。此れしきの事が出来てからこそ部下も付いて来るというものだ。」

 

相変わらずの上官の答えにドレンは又苦笑を浮かべつつも内心彼のことを心強く思っていた。

 

シャアはその戦果から独断専行を好むパイロットかと思われているがそうではない。戦術に明るく上層部との折衝や戦場の機を見るに長け独自の情報網を持つこの男を最初は快く思わないものは多かった。

 

しかし、戦場で示した彼個人の抜きん出た実力と指揮の的確さ。更に仮面の男というミステリアスな雰囲気とそこから醸し出される高貴な者特有の身に纏う空気と生来のカリスマ性とが彼の軍人として一人の人間として大きな魅力を伴っていた。

 

僅か一二度の戦闘で彼に心酔する者も多く、ドレン自身もそんな身替りの早い部下達に呆れながらも彼自身も強くシャアに引かれていることを感じていたため自分も同類かと思わずにいられなかった。

 

彼は殊勝にも敬礼しながら「了解しました。」とだけ言いシャアもまたそんな部下の態度を気にする様子もなく通信を切り戦場へと向かっていった。

 

「デニム、スレンダー、ジーンに通信をつなげ。シャア少佐の代わりに私が以後の指揮を取ると。あとジーンは今回が初陣だ、デニムにはカバーしてやれと伝えろ。」

 

ドレンは上官と同じ様にノーマルスーツを着けずに艦橋に立って腕を組み、自らに与えられた役目をこなしていった。

 

その傍らにも、オペレーターに近くの友軍にシャア少佐が前に出ることをそれとなく伝えるよう指示を出し上官のサポートも忘れない。

 

艦橋が慌しくなる中ドレンはシャアが居るであろう宙域に目を向け人知れず上官の無事を祈るのだった。

 

 

シャアが戦場を駆けていく中MS同士の戦場から離れた宙域でジオン共和国軍艦隊とザフト艦隊とが真っ向からの砲撃戦を演じていた。

 

ザフト艦隊はアンチビーム爆雷を戦場に散布しながらもジオン艦隊の火線に捕らわれない様必死の艦隊運動を行い今のところ戦局は五分といった所だった。

 

しかし、ドズル・ザビは早くもそれに対応しミサイルでの攻撃と護衛のMSさえも振り分けて距離を詰めての接近戦を行おうと喰らいついていった。

 

逃げるザフトに追いすがるジオン。この姿は両国の艦隊運用の差を如実に表すと共に、ザフト司令官のカール・ケンプが如何に優秀な指揮官であるのかを証明していた。

 

カハマルカの艦橋で艦隊に次々と指示を出す司令官を見ながら、何時自艦が敵に落されないかとその恐怖を必死に堪えながらもザフト艦隊は粘り強く敵の攻撃に耐えていた。

 

ジオン共和国MS隊に攻撃を仕掛けているザフトMS隊も、内心艦隊の援護に行きたい気持ちを抑えながらもこれに乗じて一気に攻めかかろうとするジオンを抑えるために突撃を繰り返していた。

 

しかし、そんな彼らをあざ笑うが如く戦場に一筋の彗星が流れた。

 

赤く塗装されたその機体は次々と味方の部隊を突破して行き味方艦隊に迫ろうとしていた。

 

それを止めようと三機ものジンが複数方向から迫り敵に銃撃を浴びせかけた。

 

ジンの装備する76mm重突撃銃はジオンのザクが標準装備する通称ザクマシンガンよりは威力は低いが、ザクマシンガンよりも小型な機銃は取り回しがよくまた戦車の装甲さえも貫く高初速は近距離ではザクの装甲さえも貫いた。

 

赤い機体を取り囲むよう前と左右に展開したジンはほぼ同時に引き金を引き、その銃口から紡ぎだされる砲弾により赤い機体は逃れられない火線に引き裂かれる筈であった。

 

しかし、彼らはその光景に目を疑うことになる。

 

コーディネイターでさえ反応できない速さで、一瞬にして敵が射線から消えたのだ。

 

彼らは起こった出来事に対しパニックに陥りそうになるのを抑えながら、索敵範囲を最大にし敵が何処に言ったのかを探した。

 

だが、どうしても隙というものは出来てしまうものだ。優れた反射能力を持つコーディネイターといえども所詮は人間。それ故あり得ない出来事に対して彼らの優れた頭脳をもってしても処理できず、それが逆に通常の兵士以上に隙を見せることになってしまったのだ。

 

戦場で隙を見せる、それがどれほどの事か彼らは身をもって直ぐに知る事となる。

 

センサーが敵を探し終える前に無慈悲な一撃が一機のジンに当たり、一瞬にして火球となって消えたのだ。

 

彼らはそれで漸く敵の位置を悟り、落された味方の敵討ちだと謂わんばかりにありったけの火力をたたきつけた。

 

一瞬にして消えたザクは、驚くべき反応とスピードでジンの上に回りこみそこから三機の内一機を狙撃したのだ。

 

そして、此方に気づいたジンに対し赤いザクを駆るパイロットは人知れずその頬を歪めた。

 

確かに反応は悪くない。だが、今回はその反応のよさが逆に仇となったのだ。

 

一瞬の出来事に反応しそれに捉われるばかりに、敵を見失い更に焦った末動きを止めるという戦場で最も犯してはならない愚を行ったジンのパイロット達を誰も攻めることは出来ないだろう。

 

何故ならば今回は相手が悪すぎたのだから。

 

ザクのパイロットはまるで此方の動きが全て分かっているかのように全ての攻撃を紙一重で避け、擦れ違いざまの一撃でもう一機のジンを宇宙の塵へと変えた。

 

会敵から僅か三分で起こったこの出来事は容易にジンのパイロットの精神を折り、ジンのパイロットは通信機に味方の援護を叫びながら背後に直撃した砲弾によりこの世から姿を消した。

 

一瞬で三機ものジンを落した赤いMS。一人のパイロットが呟いた。

 

「赤い彗星が来た...。」と

 

その声は瞬く間に戦場に伝わり、ザフトは恐怖で顔を青く染め逆にジオンはその名に士気を挙げ各所で反撃へと移った。

 

ザフトは必死の抵抗を行い、残された僅かなバッテリーの中で味方を立て直そうと奮闘するも、一度広がってしまった恐怖は容易には抜けずカメラを横切るザクの姿に一々怯える様であった。

 

戦場を駆ける一筋の閃光。その登場と彼の放つプレッシャーは味方には勇気を敵には威圧感を与え戦場のMSの動きを支配する。

 

人はそれをこういう。エースと...。

 

 

赤い彗星の登場により予想より早く戦線が崩れてしまったのを見ながらカール・ケンプは如何することもできない現状にただ耐えることしかできなかった。

 

本来彼の作戦では、現有戦力では要塞を攻略することは出来ずまた要塞砲の援護を受けられるジオンとまともに戦うのは馬鹿としかいえなかった。

 

それを避ける為、わざと要塞を迂回しジオン本国を突くような機動を取れば闘将といわれるドズル・ザビは出てこなざるを得ない。

 

そして、予め選定しておいた戦場に引きずり込みそこでの決戦を行わざる得ないようにしたのだ。

 

まずセオリー道理に戦場にNJを発生させ順次MS隊を発進、手練を先頭に部隊を牽引させ敵MSを抑える。

 

敵の気勢を制するために真っ先に攻撃をかけることでイニシアチブを握り膠着状態を演出し、我慢できなくなったジオン艦隊をいなしながら敵MSの稼動限界まで時間を稼ぎそこを狙って部隊を引き上げるつもりであった。

 

その為、戦闘に参加させるMSには予備のバッテリーを持たせ活動時間を延長し、更に予め戦域外にジャンク屋を雇うことにより艦隊が敗走しても本国に戻れる手筈を整えていた。

 

だが、現状は彼の予想を上回り最悪の事態の更に上を行っていた。

 

「赤い彗星」

 

たった一つの名と一瞬の出来事により戦場を支配し、味方を崩壊へと追い込んだ元凶。

 

今まで戦場に出てこなかったのが不思議でならないが、しかし現にこうして現れた彼の活躍により戦局は一気にジオンへと傾いていった。

 

味方が崩れていく中、艦隊も撃沈された船こそないものの船体に重大なダメージを負い戦闘が不可能なもの、機関に支障をきたし回避運動できない艦を後方に下げその穴を埋めるべく数少ないナスカ級が割り当てられ戦場を何とか持ちこたえさせていた。

 

が、距離を詰めたジオン艦隊からの砲撃はアンチビーム爆雷によって作られた防壁を突破し艦隊に着実にダメージを与えていっていた。

 

無論此方もやられっぱなしでは無いが、直衛機は全て敵MSの迎撃に裂かれそこを狙うようにしてジオンのガトルやジッコといった戦闘艇が抱えるミサイルを次々と艦隊に向け放っていた。

 

これ等の兵器はプラントでは二線級以下の扱いを受けており、MS至上主義の一種の弊害ともいえた。

 

ジオンでもこれ等の兵器はMSに較べその重要度は低いが、限られた人的資源を有効活用しまたMSの操縦適正の無い者達でも扱える兵器としてジオンでは貴重な戦力であった。

 

この考えの違いが後々プラントに大きく圧し掛かることとなる。

 

突撃を繰り返す宇宙戦闘艇を火線を集中させることにより何とか撃退しようとするが、それに気を取られていると正面からジオン艦隊の砲撃をもろに受け一撃で大破判定される艦も出た。

 

足が落ちた船に群がるように突撃艇が攻撃を行い、味方を救おうと艦を密集させればそれを穿つ様にメガ粒子ビームの束が叩きつけられる。

 

それでもまだ持っているザフト艦隊のしぶとさは賞賛に値するだろう。

 

が、このままでは遅かれ早かれザフトは壊滅の憂いにあうだろう。

 

カール・ケンプは潮時かと見て最後の策を行うことにした。

 

そもそも彼が戦場に指定したの二度の攻略戦で出来たジャンクの山であった。

 

無論艦隊が身動きできないほどではないが、それでも回収するのは骨が折れる。

 

このお宝の山を狙って度々ジャンク屋ギルドが足を伸ばすが、大抵はジャンクを回収する前にジオンのパトロール部隊に見つかり慌てて逃げ出す者や、折角見つけたジャンクを見逃す代わりに二束三文で買い叩かれて損をする者など散々な目に合っていた。

 

だが、それらを上手く掻い潜った者にはお宝の分け前に与る権利が与えれる。

 

この戦場は貴重のMS同士の戦闘記録が詰まったMSや船の残骸がありそれだけでデータだけでも各国が喉から手が出るほど欲しいものなのだ。

 

更に実機を回収したとあらば、その価値は一気に釣り上がり一夜で巨万の富を稼ぎ出すことも不可能ではなかった。

 

故にこの宙域は毎日各地からジャンク屋が集まりジオンと互いに鎬を削っているのだ。

 

そのジャンクの中に潜み秘匿回線で指示を受けた者達が戦場を目指し動き出したのだ。

 

 

それを最初に発見したのは誰であろう。戦場のはずれで何か光ったと思うと突然ジオン艦隊に向けビームの閃光が走った。

 

突然の奇襲に一瞬ジオン艦隊は揺らぐが生憎とこの艦隊を指揮しているのはドズル・ザビその人であり突然の事態に対しても彼は冷静に対処し的確な指示を飛ばしていた。

 

そして、下手人を最大望遠カメラで捉えた時流石の彼も面を食らった。

 

そこに映し出されていたのは雑多な艦種で構成された艦隊であった。

 

連合、ザフト、中立国の戦闘艦や中には何処から手に入れたのか連邦のサラミスやジオンのパプワの姿もあった。

 

この何の統一性のない艦隊が突如としてジオン艦隊に攻撃を加え、戦域の端からミサイルやビームを放ってきたのだ。

 

恐らくコーディネイターの傭兵であろうか、ジンの姿もありその戦力は無視できないものがあった。

 

ドズル・ザビは揮下の艦隊の一部を差し向け襲撃してきた艦隊に対応させたが内心は彼の心は怒り狂っていた。

 

恐らくあの艦隊の大部分は近頃跋扈し始めたジャンク屋ギルドが関わっているだろう事は艦種の雑多さと見るからに継接ぎな船体を見れば分かる。更に小癪な事にギルドのマークを消し傭兵さえも雇い彼の艦隊に襲い掛かるなど持っての他であった。

 

もしこの場に自由が利く戦力があればすぐさま殲滅するであろうが、しかし主力のMS隊はザフトMSにかかりっきりとなっており戦場を突破するには今少しの時間がいったのだ。

 

更に直衛を攻撃に振り向けてしまったため彼らを守るものは自艦に装備された砲以外には無かったのだ。

 

カール・ケンプはこの機を逃すはずも無く損傷艦を守りながらも徐々にだが後退をはじめ、各部隊に予め決められた逃走ルートを指示し終えると彼は後の指揮を艦長に任せ自身はMSデッキへと足を運んだ。

 

 

 

 

 

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