連邦の野望   作:rahotu

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始動

ゴップ大将の朝は早い。

 

毎朝六時に起床しシャワーを浴び、モーニングコーヒーにキリマンジャロ直産のコーヒー豆を炒った物を使い朝の優雅なひと時を過ごす。

 

ジャブローに設けられた高級将官専用の官舎のテラスから降り注ぐ朝日を浴びながらゴップ大将は複数のニュースペイパーに目を通していく。

 

コーヒーを飲み終え、あらかたニュースに目を通し終えるとゴップ大将はクリーニングしたての制服に着替え胸にはピカピカに磨かれた勲章と階級章、更に頭には軍帽を被り、ワックスをかけ黒光りする高級革を使用した靴を履き官舎を出て行く。

 

九時きっかりにジャブロー本部執務室に入ったゴップ大将はまず机の上に乗せられた最新情報と各国の動き、更に軍部内の広報と連邦議会での議題やその内容などに目を通し、それが終わる頃になると扉をノックして隣の部屋から秘書が今日中に決済する必要のある書類を持ってくる。

 

ゴップ大将は机に広がる書類の山を午前十時から十三時までに全て目を通し、サインをし必要ならば関係部署に問い合わせて調整を行い、更に間違いがあれば訂正をしてから書類を送りなおすなど細かな作業もそつなくこなした。

 

そして、十三時きっかりに秘書が決済の済んだ書類をもって行き、ゴップ大将は遅めの昼食を執務室に運ばせ三十分ほどの休憩が済むと、又午後の決済待ちの書類へと取り掛かった。

 

「ふむ、しかしこう毎日毎日書類が増えるとなると少し手が足りんな。何人か引き抜くか」

 

ゴップ大将は減る事はなくても増え続ける書類の山を見ながら手を休めることはなくそう呟き、頭の中で事務処理能力の高い者を何人かリストアップしていた。

 

彼の超人的な決済能力と事務処理能力をもってしても、未曾有の大戦を円滑に進めるために必要な書類の数は天文学的な数までに膨れ上がっていた。

 

それでも書類を溜めずに、その日のうちにきっちりと決裁し今まで組織運営が滞ることが無かったのは一重にゴップ大将の奮闘のおかげといえよう...ただ。

 

「早くしないとこのままでは六時に帰れなくなってしまうな、残業は能率と財政に悪いし。そうだ!大将権限を使って明日からでも働かせられるよう人員を引き抜いてこよう、まあ断りはしないだろうしな。ははは」

 

ゴップ大将は名案だといわんばかりに手をたたいて喜び、そのまま書類の決済作業へと戻っていった。

 

ゴップ大将は官僚の鏡であり残業は決して許さなかった。その為彼の元で働く部下達は日々殺人的量の書類に追われることとなるのだ。

 

ゴップ大将の権力の乱用によって引き抜かれていった者達により栄養ドリンクと育毛剤の需要が増えているのは公然の秘密であった。

 

午後三時を過ぎる頃になると、ゴップ大将は粗方書類の決裁を済ませそれを秘書に渡すと、執務室を出てジャブロー内にある会議室へと赴いていった。

 

 

 

 

-ジャブロー第三会議室-

 

ゴップ大将は南米地下深くに建設されたジャブローの長い廊下を歩き会議室の扉を通り過ぎてその隣に設けられた小部屋に入っていった。

 

部屋の中に入り、既に椅子に座って待っていた相手に敬礼をし相手も答礼をするとゴップ大将は相手と向かい合うようにして椅子に座った。

 

「お久しぶりですな、統合参謀本部議長閣下。態々ジャブローまで足を運んでいただきあり「ああ世事はいい。それよりも分かっているな?」...はい」

 

ゴップ大将の言葉を遮る用にして参謀本部議長は話を進めた。

 

「いま隣の部屋には連邦議会主要議員が集まっている。何かしら粗相があれば我々の首が飛ぶだけの力を持っている。」

 

「はい、存じております。与野党の重鎮に各派閥の代表や大統領の信任の厚い者達が十名ほど来ていると耳にしています。」

 

ゴップ大将は神妙な顔つきで答えながらも内心その程度のことなど今更言われなくても分かっていると思いながらも表情には出さず、表向き殊勝な態度で議長と接していた。

 

「分かっていればそれでいい」

 

参謀本部議長はその答えに満足しながらも一言付け足した。

 

「そうそう、今回の件については大統領も高い関心を寄せられているからその点も留意するようにしてくれたまえ」

 

そう言うと参謀本部議長はデップリと膨れた腹をゆすりながら部屋を出て行った。

 

ゴップはその背中を見送りながらも内心毒づいていた。

 

-全くそのようなことで一々呼び出すなど時間の浪費以外の何者でもない。御蔭で書類の決裁が全て出来なかったではないか、あの男は誰が連邦軍を動かしているのかわかっているのか?-

 

-まああの男も今まで大統領に罷免されていない所を見るとそこそこ使えるが、しかし宮仕えというものはつくづく面倒なことだ-

 

ゴップ大将は頭の一部でそう思いながらも大部分では短い会談の中で分かったことを考えていた。

 

-恐らく議員たちは加盟国からの突き上げもあるのだろう、今まで連邦は後手に回っているし連邦軍に対して不満を持ってもいたし方あるまい。それに今の大統領はどちらかと言えば穏健派だ。-

 

-レビルのような戦争屋に仕切られるのが黙ってられないのだろうし、外交面での失敗を指導力で挽回したいとも考えているはずだ-

 

そこまで考えていると自ずと彼らの何を求めてここに来ているのか分かる。

 

ゴップはそこまで考えてから部屋を出て、時間きっかりに会議室へと入っていった。

 

 

「では時間も余りないことですので早速会議を始めさせていただきます」

 

集まった議員達が無言で肯定を示すとゴップは話を続けた。

 

「遅れましたが本日はレビル”大将”は軍務が忙しいため会議にはこれないとの事です。代わりに私の方でご説明させていただきます」

 

すると”大将”という単語に何人かの議員達が反応してなにやら難しい表情を作った。

 

統合参謀本部議長閣下はそれを見て汗をたらしながらゴップ大将に目でなにやら訴えかけていた。

 

ゴップはそれに気付かない様子をして話を進めた。

 

「レビル大将は敗戦の将ではありますが、彼の能力は今の連邦を支える上で必要不可欠と判断いたしました。更に彼は宇宙地上軍問わず将兵に支持されており今更責任を追及すれば、それだけで前線の士気を下げ戦争遂行に大きな支障をきたすでしょう」

 

ゴップはそこで言葉を切ると周りの反応をざっと見回した。

 

多くの議員は渋々ながら納得している様子であったが、しかし未だに納得していない議員達もおり、その様子にハラハラしながら汗を拭いている参謀本部議長の姿がイヤに目に付いた。

 

「話を続けます。軍の方針としては此方からは積極的に仕掛けず敵の侵攻を阻止するだけに留まっています。これは今だ持って前線に必要な物資が届いていないのと、NJの影響で支援を必要とする各国の為に必要物資やエネルギーが割かれている為であります」

 

「更に我が軍は、欧州、アフリカ、アジア、大西洋、太平洋、そしてここ南米と更に宇宙で多方面にわたり敵軍と対峙しているため思うように身動きが出来ないのと、全軍の掌握まで今少し時間が必要なのです」

 

連邦という組織は人類が長年の英知を結集して作り上げた人類史上は初の全人類を統治する組織であった。

 

しかし、宇宙世紀初期の戦乱により連邦はその意義を大きく揺らぐこととなる。

 

連邦は初期の混乱期と激動の時代を潜り抜け、そして現在遠く火星、木星までも手中に収める史上最大の組織にまで成りおおせたのだ。

 

が、連邦はあまりに巨大すぎた。

 

全人類のうち凡そ七割以上の人口を占め、宇宙地上と広大な領土を持ちそれだけでも管理運用するのに莫大な労力を必要とした。

 

そして、連邦の盾であり剣である連邦軍は連邦を支えるために肥大化せざる終えなかった。

 

巨大な組織を支えざる為に肥大化せざる終えなかった連邦は正に巨人であった。

 

一つ一つの動作は遅くともその力は凄まじく、事実連邦が今日まで存続できたのは一重に人類を始めて統合した組織という名と全国家を敵に回してもそれでもなお圧倒する連邦の力に誰も逆らえなかったというのが本音であった。

 

しかし、巨大な質量を動かすには莫大なエネルギーが必要であり連邦は次第に硬直化し結成当初の柔軟さと活力を失っていったのだ。

 

その結果が今の愚鈍な連邦と腐敗の象徴である連邦議会を育てる温床となったのだ。

 

いざ有事というさいにも、連邦は硬直化した組織を動かすだけでも長い時間を要したのだ。

 

その弊害が今現在連邦を守る軍に現れているというのは皮肉としかいいようがなかった。

 

「ゴップ君、一体どれ位の期間が必要なのだね?」

 

部屋の中央に陣取っていた議員グループの一人が尋ねた。

 

「現在ジャブロー及び各生産拠点をフル稼働し前線に必要物資を供給しています。更に先の会戦で失われた宇宙艦隊の再建と全軍の増強、それに人員の育成や予備役の再訓練などで遅くとも今年度後半から来年度にかけて反攻の準備が整うでしょう」

 

前々から戦争準備を行っていた連合やプラントとは違い、連邦は大統領が穏健派ということもあり軍備の増強をしてこなかった。

 

これを連邦の怠慢というのは酷であろう。当初は連邦は事態に積極的に介入はせず静観の構えを見せ機を見て仲裁にはいるはずであった。

 

しかし、世界の流れは連邦を巻き込み終に地球上で再び人類同士の争いが行われることと成る。

 

連邦はなんら準備の出来ていない中での戦争を余儀なくされたのだ。

 

「それでは遅すぎる。大統領閣下は早期の講和を望んでおられるし、いたずらに戦乱を長引かせるような事があってはならないと大統領は心配されている。」

 

大統領に近い与党グループらがゴップの答えに不満を漏らした。

 

「無論、軍部としては大統領の意向を最大限反映させていただく所存であります。しかし、準備不足ないま此方から打って出ればいたずらに戦力を消耗しひいては構成国の安全に支障を来たすでしょうな」

 

ゴップの答えに発言した議員らは渋々ながら矛を収め、もう一度ゴップは会議室を見渡し話を続けた。

 

「ですが、今後の状況しだいでは上手くすれば今年度中に講和ないし戦争終結が出来るかやも知れません」

 

ゴップの意味ありな発言に何人かの議員等が食いついてきた。

 

「軍部では何かしらの秘策があるということか?」

 

ゴップは満面の笑みで答えながら話を続けた。

 

「これは本来レビル大将が極秘裏に進めていることですが私が替わりに説明します。それとここにお集まりの皆様には今からご覧になることは他言無用に願います」

 

ゴップはそういうと部屋の隅に控えていた士官らが手に持つ書類を議員らに手渡していた。

 

書類の表紙には厳重な封がしてあり、そこに書かれている『特第一級機密事項』と『V作戦』という単語がここに書かれていることの重要さを物語っていた。

 

ゴップは書類が全員に行渡るのを見計らい、手元の端末を操作し背後の巨大なモニターに人型の設計図が映し出された。

 

そして映像が切り替わり、撮影された戦場の光景とそこで縦横無尽にうごめく人型兵器、MSの図が次々と映し出されていった。

 

「ご存知の方も多いと思われますが、プラントが連合との国力差を覆す要因となったMSジンについてはここでは多くは語りません。しかし、それが上げる戦果と更に連邦の同盟国であるジオン共和国が保有するMSザクの性能は従来兵器を圧倒し戦場を覆しました」

 

モニターの背後ではプラントのジンやジオンのザクがMAを追い回し、戦艦を沈める姿が映し出されていった。

 

「この今までにない全く新しい兵器は、今後連邦軍が戦争を継続する為に大きな障害となるでしょう」

 

議員達は全員その意見に賛成し、無言で頷きながら続きを促した。

 

「連邦も戦前からジオン共和国経由でこの兵器の存在を認知していましたが、しかし当時の軍首脳部はこの兵器の有用性を見抜けず結局開発されたのは」

 

そこでモニターが切り替わり二種類の機体が映し出された。

 

「お手元の資料にあるとおり、RX-75ガンタンクとRX-77ガンキャノン両二機種でありました」

 

「この機体はお世辞にもMSとは言えず、火力はあるものの従来兵器を凌駕するものではなく結果としてMSモドキといわざる終えないものになりました」

 

モニターにはガンタンク、ガンキャノンの詳しいスペックと、情報部が入手したジン及びザクとのスペックの比較とが映し出された。

 

「当時の情勢ではMSの有効性が見抜けなかったのは致し方ありませんが、しかし当時の軍部首脳の怠慢の結果であるとは言わざる終えませんでした」

 

その言葉に少し気分を害した統合参謀本部議長はワザとらしく咳をして話を打ち切らせた。

 

「つまり我々連邦は何らかの形でMSに対抗する手段が必要だといいたいのだな」

 

議員の一人が助け舟を出すのと同時に話の内容を先取りした。

 

「はい、話が早くて助かります。現在我が軍ではMSの技術取得のためジオンのザクをライセンス生産したザニーをルナツーに配備し現在MSパイロットの育成に専念させています」

 

背後にモニターにはRPf-06と表示されたザニーが映りその演習風景が流れていった。

 

そこで議員の一人が自身の疑問をいった。

 

「それでは連邦は今後ジオンのザクを使ってMSに対抗するという事なのか?」

 

確かに手元の資料にあるようにザクの性能は現状でも満足できるものであり、また機動性、汎用性、共に連邦のMSを勝っていた。

 

「いいえ、あくまでこれらは技術習得のためであり一部実戦部隊にまわし実戦でのMSの有効性を試すテストベットでもあります」

 

「ではこれとは別の物があるというのだね」

 

「ええ、では本題に入りましょう。お手元の資料の六ページ目をご覧下さい」

 

そういって暫く会議室の中に紙をめくる音が響いたが、そこで目にしたものに誰しもが釘付けになった。

 

「ご覧になりましたかな。これが現在連邦軍が総力を挙げて開発をしている新兵器です」

 

そこにはRX-78ガンダムと銘打たれた今までにないMSの姿が載っていた。

 

 

 

RX-78 コードネーム GUNDAM

 

モニターに映し出されるそのMSは今までにない姿をしていた。

 

人間の顔を思い浮かべる顔に二本の角を思わせるアンテナ。

 

トリコロールカラーに塗装された機体は、ジオンのザクやザフトのジンと比べると全体的にシャープに纏められており、しかし芯の弱さは感じず逆に今までにはない可能性と力に満ち溢れているように見て取れた。

 

「RX-78 ガンダム テム・レイ博士が主導となって現在開発が進んでいる機体です。」

 

「この機体の特徴はMS初のメガ粒子砲を装備しビームライフル、ビームサーベル、ハイパーバズーカ、後付武装にショルダーキャノンなどその威力は既存のMSを一撃で撃破できるほど強力なものです」

 

会議室に集まっていた議員達にどよめきが走った。

 

現在のMSの主装備は実弾が主流である。これはMS用の兵器が歩兵の携帯兵器をスケールアップした物を使っているからであり、携帯用ビーム兵器は各陣営が心血注いで開発に取り組んでいるものであった。

 

そもそもビーム兵器の携帯化は大きな問題をはらんでいた。まず戦艦用に開発されたビーム砲をそのままスケールダウンして使うのには無理がある。

 

これはMS程度のジェネレーターでは現在のビーム兵器を運用出来ず、またそもそもそのビーム砲を小型化する技術に研究者たちが頭を悩ませ続けていたのだ。

 

各種技術に定評があるプラントでさえ、今だもってビーム兵器の開発は成功しておらず、ジオンもまた開発が難航しているのが如何にビーム兵器の小型化が困難だったかを知らしめていた。

 

そんな中、今までMS開発の後塵を拝していた連邦が初のMS用ビーム兵器を実用化させたその事実が、集まった議員達が改めて連邦の力を再認識させられたのだ。

 

「説明を続けます。」

 

会議室の彼方此方でヒソヒソと隣同士で囁く中、ゴップ大将はまるでこの程度のものたいした物ではないと言わんばかりに話を続けた。

 

「この機体は装備する兵器だけではなく、ジンの重突撃銃を跳ね返す装甲、戦艦の主砲にさえ耐える強靭なシールド、新開発のフィールドモーター駆動により従来機以上の機動性と運動性を実現するに至りました」

 

「更に上記の兵装以外にも各種支援兵器及び運用母艦を建造中であり完成のあかつきには歴史に残るものとなるでしょう」

 

だが、ゴップ自身も一兵器に過度な期待を寄せては居ないながらも説明を続けるうちに興奮を抑えきれず最後に思わず言葉を付け足すなど彼をよく知るものが見ればこのときのゴップの姿に驚いただろう。

 

が、この場にいる者達は彼よりもモニターに映し出される世紀のMSに目が釘付けになっており彼の様子に気づいたものは居なかった。

 

 

興奮冷めやらぬ会議室の中で説明が終わりモニターの画面が消えると同時に各議員からの質問の嵐が起こった。

 

ゴップはそれを一人ひとり丁寧に対応し、予め予想されていた質問の範疇を超えるものでは無かったにしろスラスラと言葉を紡ぎ議員達の質問に答えていった。

 

そんな中一人の議員が手を上げて発言した。

 

「確かにこのMSは素晴しい。完成すれば正に連邦の象徴となるだろう。しかし、実際にこのカタログスペック通りに性能を発揮するか甚だ疑問だと云わざる終えない。何故ならこの報告書には現在機体は70%までは完成しているが肝心のビーム兵器と駆動関連に手間取っていると書いてある。本当に実現できるのかねこの機体は?」

 

その議員の発言により会議室は先程の熱狂が何処えやら、水をうったように静まり返った。

 

しかし、この質問さえもゴップの予想の範疇であるとは神ならざるこの場にいる者達には分かるはずもなかった。

 

「確かに今だ技術的に困難な部分があると云わざる終えません。また縦しんば完成しても実戦での性能が未知数である以上過度な期待で足元をすくわれるかもしれません。」

 

そこまで言い切るとゴップはこの日何度目になるのか会議室を見渡した。

 

そして、

 

「しかし我々連邦の力を見くびっては困ります。必ずやガンダムは完成し連邦を勝利に導くはずですの皆様方にはいま少しのお時間をいただきたく存じます」

 

そこでゴップは言葉を切り、改めて言葉を紡ぎだした。

 

「必ずや、必ずや我々はガンダムを完成させ連邦を勝利に導いてごらんに入れましょう。そのあかつきには、連邦は名実共に人類の頂点に擁くことになるのです」

 

ゴップの熱のこもった答えに触発されるかのように議員達も体の奥底から滲み出す熱によって会議室の温度が若干上がっていった。

 

彼らはいま改めて自分たちが所属する組織連邦の意義とと人類の未来を切り開く力とを各々思い浮かべるだろう。

 

この日この時こそ、後に伝説となるガンダム誕生の礎となる記念すべき日であった。

 

 

 

 

 

 

-ソロモン宙域-

 

ジオン艦隊とザフト艦隊との会戦はザフト艦隊が撤退したことにより終結した。

 

結果的に目標を達成できなかったザフトとソロモンを守り通す事が出来たジオン。

 

結果を見ればザフトの三度目の敗北でジオンの三度目の勝利であるがしかし戦場から帰還する将兵の顔には喜びの表情は無かった。

 

逆に何処と無く釈然としないような或いは今回の結果に憤りを感じる者も居るだろう。しかし勝利には変わりないことは確かだった。

 

ジオン艦隊がザフト艦隊の中央突破を図ろうとした時に戦場の端から突如として所属不明の混成艦隊が出現。ジオン艦隊へと攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

混成艦隊は、傭兵を雇ったのかMSを保有しジオン艦隊を攻撃し、あわやルウムの再現かという危機的状況に瀕したが、主戦場を突破したシャア少佐率いるMS隊が間に入り何とか艦隊の損失という危機は去ったのであった。

 

が、その隙にザフト艦隊は撤退、一部追撃に入る部隊も居たが敵旗艦から出撃したMSと直衛機によって防がれ成果を上げる事が適わなかった。

 

混成艦隊もザフト艦隊が後退すると同時に戦場を離れ結果として敵に痛打を与える事無く戦闘は終了したのだ。

 

もし、あの時邪魔が入らなければ今回もまたジオンの圧倒的勝利は確実であった筈だ。

 

艦隊を分断されたザフトは戦場を突破したシャア少佐以下MS隊によって蹂躙され、帰るところを失ったザフトMSは戦わずして無力化することも出来たはずだ。

 

だが過去のことを振り返っても仕方が無い。現実はジオンとザフトの引き分けで終わった。

 

ドズル・ザビ大将は旗艦艦橋で明らかに不機嫌な様子で腕を組みザフト艦隊が撤退して行った宙域を睨み続けていた。

 

彼が発するオーラに余人は近寄りがたったが彼らは軍人である。報告の義務を怠ったとして処罰されるよりかはまだましであった。

 

「ど、ドズル・ザビ閣下...。今回の会戦により我が方の被害と戦果ですが...」

 

「貴様」

 

「は、はい」

 

突如として報告に来た兵の言葉をさえぎるようにしてドズルが唸る様に言った。

 

「今回の会戦は我々の勝利か否か」

 

「そ、それは...」

 

それは今誰しもが触れたくは無い話題に一つであった。それは艦橋にいるクルーたちばかりか参加した将兵全員に共通する思いでもあった。

 

 

「ザフトは、プラントの連中は日に日に手強くなっていく。今回はこの程度で済んだが次はどうなるか分からん」

 

ドズルは顔を向けず真っ直ぐにザフト艦隊が撤退して行った宙域を見据えて誰にも聞こえぬよう呟くように言った。

 

 

 

 

-プラント アプリウスコロニー-

 

評議会議員達が一同に介し今回の攻略戦の結果の報告を聞いていた。

 

戦場から帰還して纏められたレポートを読み上げる声が響く中、評議会のメンバー達は苦虫を噛み潰したような顔になっていた。

 

三度に渡るソロモン要塞攻略の失敗。さらに今回の攻略戦で被害こそ少ないものの現場の指揮官が勝手に評議会の承認も得ずにジャンク屋ギルドを動かしたことで現在プラント大使館には各国からの非難の声が集まっていた。

 

そもそも今回の作戦は二度に渡る攻略戦によって堕ちたザフト宇宙軍の名誉を回復する為に評議会を通さずにザフト内部で内内に決められたことであった。

 

そして艦隊が出撃した後でザフト司令部は評議会に今回の作戦を持ち込み事後承諾という形で今回の作戦は決行されたのだ。

 

この話が持ち込まれた時に見せたクライン議長の苦々しい顔と、それ以上怒りを露にしたパトリック・ザラがこの作戦がザフト上層部による独断だということを象徴していた。

 

そして、今回もまた負けたのだ。

 

これにより今回の作戦を指導したザフト上層部は更迭され改めてザフトの抜本的改革の必要性を痛感したのであった。

 

「やってくれたな、これで残ったザフト宇宙艦隊の三割が失われた事になる。如何責任を取るつもりなんだ。」

 

クライン派議員の突き上げに対しパトリックは、

 

「そもそもこの件は私の知らないことで行われたことでありまた作戦自体を承認したのはここにいる評議会メンバーであることは誰も否定はしないでしょう。にも関わらず、その責任を押し付けようなどとまるで自分には非がないと思っているのか!!」

 

パトリックの怒声が部屋に響き渡り、それと同時に沈痛な空気が辺りに満ち始めた。

 

「だがパトリック、今回の件もそうだが最近のザフトは徒に戦火を広げすぎている。ここで何かしらの処罰が無いことには彼らは益々付け上がるだろう、そうなってからでは遅いのだ。」

 

クラインの議長の諭すようなそれで居て鋭い目線で暗に何かしらの責任を取るよう目で刺す様に訴えた。

 

「勝てばいいのです、勝てば。幸い此方の被害は少なく戦力を回復すればまだ我々は十分に戦える。それにジオンも連戦で消耗し暫くは要塞に引き篭るだろう、その隙に今以上の防衛体制を整える容易と時間もある。」

 

パトリックの意味ありな発言に何人かの議員が食いついた。

 

「国防委員長は何か腹案をお持ちなのか?」

 

パトリックは手元の端末を操作し円卓上の議事堂中央モニターに彼の計画を映し出した。

 

「現在主戦場は地球に移り宇宙は小康状態と言えよう。連合はジオンにグラナダを占領されて以来身動きがとれず戦力の移動も間々なるまい。連邦もコロニー移送に艦隊戦力の大半をつぎ込んでいる今、我々の邪魔をするものは何も無い。そこでお集まりの諸君に提案したい、開戦以来戦力低下が著しい新星の攻略を。」

 

資源用小惑星新星。

 

東アジア共和国が独自のコロニー開発の為に地球圏まで持って来た小惑星のことである。

 

長らく東アジアの管理下に置かれたが連邦が採掘する安価な鉱物資源に押され、連合に加盟してからは専ら軍事拠点として使用されていた。

 

現在でも拠点化工事と平行して採掘が行われており少なくない資源が連合に送られていた。

 

この拠点を手に入れられれば防衛だけでなく宇宙での資源産出と言う面でもプラントにメリットがあった。

 

が、問題もあった。

 

「君の言いたい事は分かる。しかしこれは些か無謀ではないのか?縦しんば攻略が成功しても、余りにも新星とプラントとの距離は遠い。態々そこまで危険を冒す必要があるのか」

 

プラントと新星までの距離は凡そ二十日間、がその間にはL1のデブリ地帯と連合のプトレマイオス基地、そして一番の脅威であるジオン共和国の独立戦隊と連邦の任務部隊が大きな障害として立ちはだかっていた。

 

「それについては今からご説明します。連合、ジオンは現在の状況からこの際無視していいでしょう。まず新星に展開する連合軍を排除しその上で新星事態を曳航しプラント防空宙域まで運びそこで改めて拠点化を行います。問題の連邦の任務部隊ですがこれはMSをもっていない軍など我ら優れた種であるコーディネイターにかかれば物の数ではありません」

 

つまりパトリックは遠いならばもってくればいい。そして新たな防壁として改装する案も出ているところを見るとこの作戦に大きな期待をかけている事が見て取れた。

 

と、同時に彼がここまで拘る所を見るからに最近のザフトの暴走に彼自身の影響力の低下を懸念して事も含まれているだろう。

 

そうして、パトリック発案の新星攻略は議論を重ね結果としてザフトに対する指導力を示すというパトリックの声にクライン議長が折れる形でこの作戦は承認された。

 

 

 

 

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