超闘争   作:四脚好き

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・烏丸の両親はスマコン関連のデバイスの開発に関わっている。最近研究しているのは脳波を読み取りより仮想空間内での非常に高速かつ精密な動作を可能とし、仮想空間内のアバターとより"リンク"する新型デバイス。


第11話

自室

────────────────────────

 

 海へみんなで遊びに行ってから数日。かぐや・いろPチャンネルはコラボを積極的にして新規ファンの獲得を目指す方向にシフトしたらしい。人気インフルエンサーのROKA、まみまみとコラボしたりしたおかげでかぐやの注目度はうなぎのぼりだ。

 そろそろ俺とも遊んでもらおうかな。注目度も申し分ないし、芦花にそれとなく『KASSEN』へ興味を持ってもらうように誘導してほしいとも伝えた。

 

「烏丸! 今度こそコラボしよ!」

「ちょ、かぐや! いきなり過ぎ! ごめん、九朗」

 

 夕方頃、バン! と大きな音を立ててアパートの扉が乱暴に開かれる。そしてドタバタとしながらかぐやが寄って来て、その後ろから彩葉が申し訳なさそうに部屋に入って来る。あぁ、そう言えばかぐやが赤ん坊のころ育てるのに連携とれた方が良いだろってことで部屋の合鍵渡してたな。

 遠慮なしにぐいぐいと距離を近づけてくるかぐやを落ち着かせ、ローテーブルの席につかせる。

 

「んー……。あぁ、いいぞ」

「え、ホント!? やったー! 烏丸ありがとー!」

 

 彩葉とかぐやの前に飲み物を置きながら返事をする。するとかぐやは眼をキラキラとさせながらこちらによって来てじゃれてくる。 せ、折角座らせた意味がねぇ……。

 

「いいの? なんか最初の方は断ってなかった?」

「あぁ、それか。単純にまずは一人で行けるとこまで行かせてみたかったんだよ」

 

 彩葉が不思議そうに聞いてきた質問をじゃれついてくるかぐやの頭を撫で抑えながら答える。

 元々かぐやとはそろそろコラボしたいと丁度考えていたところにこれだ。運命的なものさえ感じる。もうすぐ、もう少しで……。ふふふ、ダメだな、大願成就の前に気が昂っている。

 

「それに、今のかぐやは人気者だからな。こうなってからコラボする方が都合が良い」

「都合が良い? それって……あー、そういうこと」

「理解できたか」

「ほんっと戦バカ」

「ありがとう」

「褒めてない!」

 

  流石優等生、酒寄彩葉。すぐに俺の狙いに気が付いたのか頭を押さえてため息交じりにバカと呼んでくる。

 

「かぐやにスマコンを渡したのもこれが狙いだった?」

「んー、それだけだと半分しか点数は上げられないな」

 

 鋭い目つきで俺を見てくる彩葉。……驚いた。いや、彩葉が口ではなんだかんだ言いながらもかぐやを気に入ってることは分かっていた。けどそれがこんな、かぐやを利用しようとすること、利用していたことに対して不快感を醸し出すほどとは……相当入れ込んでるな。

 けど良い傾向かもしれない。大切な物が出来ればそれを守ろうと人は変わるからな。彩葉の自分の身を顧みない努力の仕方も変わっていくだろう。

 

「烏丸はかぐやに何かして欲しいことがあってスマコンくれたの?」

 

 そんなことを考えていると後ろから俺の肩にグリグリと頭をこすりつけていたかぐやが動作を辞めて俺の顔を覗き込む。

 

「こっちにおいで」

「うん」

 

 俺は自分の横を軽く叩いてかぐやを自分の右横に座らせる。そしてその頭を撫でながら優しく横にして膝枕の形に持って行く。男の硬い膝で悪いが我慢はしてもらおう。これからかぐやには沢山楽しませて貰うんだ、かつて芦花や乃依に話したように事前に伝えておくのが筋だろう。

 

「まず最初に俺はかぐやが赤ん坊から女の子の姿になったとき、その学習能力の高さに目を付けたのが始まり。……予想はついてるけど一応確認。かぐや、俺とのコラボって何するつもりか聞いていい?」

「えっと……ツクヨミの『KASSEN』っていうゲーム! 芦花と真実の二人と配信してたんだけどかぐやが『あのゲームやりたーい』って言ったら芦花が烏丸のこと教えてくれたの! 烏丸、『最強のプレイヤー』なんでしょ!」

「あぁ、確かにそう呼ばれている」

「だから烏丸に『KASSEN』のこと教えて欲しいの! 最強のプレイヤーに教わったらさ、滅茶苦茶強くなれるかかもしれないじゃん!」

 

 うん、やはり『KASSEN』絡みのコラボ依頼だった。うんうん、それでいい。

 芦花もしっかりお願いを聞いてくれたみたいで良かった。確かお礼にショッピングに付き合うんだったか。『意見が欲しい』って言ったけど……俺は服だ、アクセサリーだは分からないからなぁ。俺よりも彩葉たちと一緒にいた方が良い気がするし、あとで話してみるか?

 まぁそれは後で考えるとして、純粋に真っすぐ憧れの目線を向けてくるかぐや。ほんとに可愛い奴。今まで俺がどんな狙いでかぐやと過ごしていたかもしれないで、ただ一緒にゲームできることを喜んでる。

 

「九朗、もしかしてだけど……かぐやを自分と同じ強さに?」

 

 彩葉は気が付いたみたいだな。

 

「やっぱ、彩葉は頭が良いな。……その通り、俺はかぐやに『最高の敵』になって欲しいんだ。かぐやの学習能力ならきっと出来る。俺の技術を受け継いで発展させて、俺と同レベル、若しくは俺以上に強くなる。

 そして俺とたっくさん戦って欲しいんだ……。同格、格上、これらを倒してこそだろ? 

 これが俺がかぐやにスマコンを与えた理由だ」

「呆れた。もう戦バカどころじゃなくて戦狂いじゃない。あんたそれ以外楽しめないの?」

 

 彩葉の言葉が突き刺さる。んんんー、参った。全然否定できない。強いて言えば彩葉とかぐやの曲は結構楽しんできいてるけど……。

 

「烏丸は」

「ん?」

「烏丸はどうしてかぐやにそこまで強くなって欲しいの?」

「それは……」

 

 強くなる方法、強い理由を聞かれることは稀にある。けど、その質問をされたことは初めてかもしれない。カカに『お前には早く強くなって欲しい』って言った時は『がんばります』とか『期待に応えちゃいますよー』なんて言ってただけで聞かれなかったしな。別に悪いこっちゃないけど。

 

「さっき言った通りだ。同格や格上を倒して―――」

「なんか隠してるでしょ。それも嘘じゃないけど、烏丸はまだ言ってないことがある。かぐや分かるよ。だから言ってくれないと……なんかヤダ」

 

 かぐやがいつになく真剣な表情で俺を見上げていた。……あぁ、参ったな、彩葉のことを言えないかもしれない。俺もこのひと月ちょっとでかぐやに大分惹かれているらしい。白を切ることも、有耶無耶にもできる、嘘をつくこともできる。けどどうしてかこの子にはそんなことをしたくなかった。さっきからどうしても気に入らない恩人の顔がダブって見えるせいだろうか。

 

「寂しい、から」

「は?」

 

 半ば無意識にポツリと口に出してしまった。決して口に出すべきでなかった言葉が。ほら、彩葉も困惑してるじゃん。あぁ、ダメだ。かぐやの眼を見ていると止まらなくなる。急いで顔を逸らそうとする。

 

「ダメ、逸らさないで」

「うぐッ」

 

 逸らそうとした顔をかぐやに掴まれて強制的に目を合わせさせられる。

 

「今、烏丸すっごく辛そうな表情してる。だから教えて。私、烏丸の全部知りたい」

「まともな話じゃない」

「問答無用。キリキリ吐いちゃいなさい」

 

 いつの間にか対面に座っていたはずの彩葉が左隣に来ていてジッと俺を見ていた。

 

「九朗が私を助けてくれたみたいに私も九朗を助けたい。だから、話して」

 

 逃げ道は塞がれていた。

 

「……うまく伝えられないんだけど、この世界には全部ないんだ。俺の大切な物、好きだったもの全部が……」

 

 はは、これもかぐやパワーか? 今まで心の奥底に沈ませていたものが一気に浮上してきて口からあふれ出る。止まらない、止まれない。

 

「どれだけ探しても、跡形もなくて。途中で無くなったとかじゃないんだ。最初っから存在してなくて。もう毎日が辛くて、苦しくて……ッ! 俺はずっと一人で!」

■■(九朗)……」

 

 家もなくて、お父さんも、お母さんも、弟も、俺の名前もなくて。みんな違う、全部違う! 俺の家はあんな裕福じゃない! お父さんとお母さんはあんな人じゃない! 弟は妹じゃない! 俺の名前は九朗じゃない! 

 涙も流れてきてしまった。あーもうダサいことこの上ない。なのに全然止まらない。

 

「だから自分で生み出そうとした! ないなら作ればいい! けど……俺には出来なかった。どうしても作れなかったんだ! 焦れば焦るほどドンドン大切な物が思い出せなくなって! でもどうすることもできない自分自身に絶望した……」

 

 子供の頃夢みたヒーローはいなかった。夢に見る程興奮した物語は描かれなかった。夢中になったゲームは生まれなかった。全部全部、再現しようとした。けど、どうしてもあの時感じた迫力が、わくわくが、興奮が生まれなかった。どれもこれも形を真似ただけの偽物だった。

 

「そんなときに知ったのがツクヨミだった。『ツクヨミではみんなが表現者!』とヤチヨも言っている通り、多くのクリエイターが集っている場所だ。俺だけでは作り出せなかったものがあるなら協力してもらえば良い。そうしていくつかの思い出は再現できた。『KASSEN』にもすぐに夢中になったよ。俺の大好きな物に似ている部分もあったし、何より思い出が目の前で動いているのがとても嬉しかった」

 

 あのテレビの中にあった武器が、装備が。仮想空間とはいえすぐ目の前にあって手に取って、実際に自分の腕で振るうことが出来る。しかもモーションに縛られず、自分の思うままに振るうことが出来た。爆発金槌でアルトリウスの動きをして連続爆発させて遊んだことも、連星剣で雷返しをして星と雷をバラまいたことも、04-MARVEでOP再現もできた。楽しかった。

 

「『KASSEN』をしている間は本当に楽しくて、その間だけ世界がとてもカラフルだったんだ。だからどんどんのめり込んでいった。僅かな思い出の中に引き篭ってそれ以外のことを捨て置いてきちゃったんだ」

 

 今生の家族も優しい人たちだった。どうにか馴染もうとしたがどうしても『家族面をしてくる他人』という思いが拭え切れなかった。そして安らげる場所(ツクヨミ)を見つけてからは無理して馴染もうとする必要がなくなり一人暮らしがしたいと適当な理由を言って家を出た。

 

戦って(楽しくて)戦って(楽しくて)戦って(楽しくて)俺は最強になった(嬉しかった)。最強になったとき何があったと思う?」

「め、名誉とか?」

「いっぱいのふじゅ~?」

 

 俺の質問に二人が答えてくれる。

 

「寂しさだった。誰もが驚愕して、誰もが畏怖した。みんなが俺との闘いを避けるようになった。Black onyXのスポンサーたちがブランド力の低下を恐れて帝アキラたちに俺と戦うのを控えるように言い出した」

「!」

「今まで俺と対戦してくれていた奴等は『どうせ勝てないから』といって離れていった。だから撒き餌を用意したり、対戦を募集するようになった。けど挑戦してきた奴がまた挑戦して来てくれることは殆ど無かった。それならとカカを育ててみたが、俺を倒せるような強さでは無かったし、人気も出て俺とばかり遊んではいられなくなった」

 

 もう、どん詰まりだった。俺に勝てるのがヤチヨだけになった頃、俺は半ば人生を放棄していた。元々長かった配信時間は更に伸びて、食事も睡眠も削った。そうして無茶をしていればヤチヨが止めに来てくれるからだ。何故かは分からないがヤチヨは本当に俺によく突っかかってきてくれた。アレがなかったら、俺はもうこの世に居なかったかもしれない。ほんと、勝てないのだけが不満な気に入らない恩人だ。

 

「そんな時、かぐやが現れた。嬉しかったよ、『こいつなら俺と同じ所に来てくれるかも』って期待したんだよ。最低なんだよ、俺は。勝手に期待して、勝手に失望して、みんな傷つけて、それでも争うのを辞められなかった。……バカなんだよ。バカで良かったんだ、どうしようもない戦バカでいたかったんだよ……。バカでいる間は、辛く――ない、から」

 

 ああ、本当に参った。最高の獲物だったはずなのに。こんな絆されるはずじゃなかったのに……。どうしてこの子はこんなに人を惹きつけてしまうんだろう。内緒にしていたかったこと、隠してたこと全部話しちゃった。

 嫌われるかな? ははは、久々に『怖い』って感じてるよ。

 

「九朗……ずっと寂しかったんだね」

 

 かぐや……今、名前。いや、今は良い。

 

「かぐや、絶対強くなるね! それでいっぱい一杯遊ぼ! 九朗のことかぐやが満足させてあげる! 絶対独りぼっちにしない! 言ったでしょ、かぐやがみんなハッピーエンドに連れて行くって! その代わり、かぐやの好きなこともいっぱい一緒にしてね!」

 

 かぐやはそう言って輝く笑顔を浮かべて見せた。俺が顔を逸らせないように掴んでいた手はいつの間にか優しく包み込むような持ち方に代わっていて優しく頬を撫でてくれる。そっか、独りぼっちにしてくれないのか……。

 

「ありがとう、ありがとう……」

 

 その手に自分の手を重ねる。かぐやの言葉に感動していると右頬を撫でているかぐやの手をどかして彩葉が俺の右頬に手を添えて自分のいる左に顔を向けさせてきた。

 

「その、今まで何回も助けて貰ってたのに、私は九朗がこんなに悩んでるなんて知らなくて……ごめん」

 

 それはッ!

 

「違うんだ。彩葉は悪くない。俺がずっと隠してたんだからしょうがない」

「でも、九朗は私が隠してたくまにも、疲れにも気が付いてくれたじゃん」

「うっ」

 

 それは、まぁ『KASSEN』の都合上相手を観察する癖があるから……。

 

「私、まだ諦めてないから」

「……?」

「ヤチヨライブの楽しさを教えること。『KASSEN』での楽しみはかぐやに任せるとして、世の中には楽しい事、面白い事沢山あるんだから。九朗が『KASSEN』以外の楽しみを見つけられるように、捨ててきちゃったものを拾えるように協力する」

 

 まっすぐ彩葉の眼がこちらを見てくる。あぁ、本当に綺麗な顔。参ったな……もう降参だ。

 

「それじゃあ、お願い……する」

「任せて」

「そんじゃ、九朗が寂しくないように今日はみんなここでご飯食べよ! かぐや、彩葉の部屋で準備してくるから! 二人ともちょっと待っててー」

 

 そういってかぐやは起き上がってバン! と再びアパートのドアを開けて出ていった。……建付け大丈夫かな? 

 そうして部屋の中は俺の頬に手を添えた彩葉と二人きりになる。

 

「……っ! ご、ごめん!」

 

 一度かぐやの方に向いていた視線が再びぶつかると彩葉は顔を赤くして手を離してしまった。あ、いや……あれ? なんかなんだこれ……なんか、暑い気がする。 エアコンは入ってるのに……。

 

「う……えと、い、彩葉?」

「な、なに?」

 

 さっきまであれだけ見つめ合っても平気だったのに今は全然視線が合わない。と、取り合えず今はこの空気をどうにかする為にも……。

 

「か、『KASSEN』する?」

「は?」

 

 あ、真顔になった。

 

「……なんでこのタイミングで『KASSEN』なのよ」

「なんでって……」

 

 孤独ではあるけど『KASSEN』が好きなのは本当のことだし……ねぇ?

 

「彩葉と一緒だと、楽しいから……ダメ?」

「クッ……。い、一戦だけだからね! この戦バカァ!」

 

 痛ってェ!? お、思いっきり肩パンしてきた!? ててて……彩葉はそっぽ向いてしまった。……その間にスマホを取り出して連絡先一覧を開く。目に入る『妹』の文字。俺が独りぼっちにさせてしまった、今生の家族。

 

「……っ」

 

 俺だけ独りぼっちじゃなくなるのは……ズルい、よな? ……んー……ごめん、やっぱ電話はまだ無理かも。メール、うん。メールから始めよう、そうしよう。とりあえずかぐやのご飯を食べてから考えよう。

 

 

 

 

「てな、感じなんだけどくる?」

 

 かぐやのご飯を食べ終わりまた部屋で一人になった後、彩葉とかぐやの二人に芦花との買い物のことを伝え忘れて居た事を思い出した。二人にはあとで部屋にいって伝えれば良いかと思って先に真実にスマホで連絡を入れた。

 

『その話をしたの私が最初だよね? まだ彩葉にもかぐやにも芦花にも話してないよね』

「え、うん」

 

 なんか不味かったか?

 

『九朗くん。買い物には君一人で、芦花と二人きりで行きなさい。いや、行け。そもそも芦花にはこんな提案をしたことすら伝えないこと! センスがどうこうじゃなくて、しっかり九朗が良いと思ったものを芦花に言ってあげること、良い?!』

「……んー、でも―――」

『良いから、黙って一人で行け! でないとぶん殴るよ!』

 

 お?

 

「『KASSEN』か? なら受けてた―――」

『現実でだよ。九朗くん、私ね。グルメインフルエンサーなんだよ。それで人より食べる量も多いからその分、しっかり体絞ってるんだよ? 私の言いたいこと、分かる?』

「はい」

 

 俺が知り合うおんながさあ!! 全員オレより力強いんだけどォ!!

 




・九朗くん、彼なりに苦しんでるけどそれはそれとして『KASSEN』好きなのは事実。そして今までの所業も事実。最後には報いを受けて貰います。

・真実の姉貴、芦花の二人きりの買い物の防衛成功。グルメインフルエンサーでありながら彼氏持ち、しっかりと体型維持のため運動している設定にしときました。故に現実であれば九朗くんよりも強い。



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