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「すげぇな……」
少し前に同じ言葉を吐いたような気がするが、それも仕方がない。あの俺とかぐやのコラボ配信から数日、『かぐや・いろP』チャンネルはヤチヨカップの暫定順位をぐいぐいと上げ続けていた。確かライバーになった頃は8000位だったのが今や20位以内だろ? はー、おっそろしい。
恐ろしいと言えばかぐやに蹴りを喰らわされて顔が配信に映った俺だが……登録者が激増していた。元々俺のファン数が40万人程度だったのが60万人になってた。アナリティクス見たら結構女性視聴者が増えてる。……恐ろしい。
因みにブラックオニキスの連中は元々のファン数が1500万人を超えてるのに今だヤチヨカップの暫定順位1位を独走している。……こわ。
「優勝、出来るかもな」
ブラックオニキスは確かに強いが世間の流行は確実にかぐやの方に向いて来ている。SNSにはかぐやの話題が連日トレンド上位に入り、グッズやコラボカフェなんてものもできているらしい。……ダークソウルのコラボカフェ、行きたかったなぁ。結局前世では行けずじまいで……今世は絶対に開かれないし……。前世……前世か……。いえ、かえりたい? いや、でも―――
「……う゛ぶっ…………」
…………。ん、だいじょうぶ。よし、そろそろ時間だしツクヨミに向かうか! さてと、スマコンは……。
「うん。大分、物が増えたな」
部屋を回し見てそう思う。元々『KASSEN』にしか興味の無かった俺の部屋には必要最低限のものしかなく、ほぼミニマリストみたいな部屋だったんだがここ最近は彩葉の部屋に入りきらなくなったかぐやの配信道具が詰め込まれている。あのトーテムポールとかなにに使うんだろうな。
まったく物の無かった部屋は乱雑と化し、時たま良く分からないものを踏んずけて痛い思いをすることもある。でもまぁそれを聞いて笑ってしまうかぐやと叱る彩葉を見ているとなんとなく楽しいと思う。
そんなことを考えつつスマコンを装着してツクヨミにログインする。目的地はツクヨミ内のカカの家だ。
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「さっすが人気ライバー。家にもふじゅ~かけてるなぁ……」
立派な門構えの和風邸宅の前に俺は立ち尽くしぼーっと邸宅を見上げていた。とても黒い瓦に所々黒い鳥の羽をもした飾りがついている。鴉の羽をもつ和服美少女妖怪が住む豪邸って感じ。……なんか、こう、伝われ。
「あ! いらっしゃいませ、渡り鴉さん!」
「カカ」
俺が邸宅を眺めているとカカが中から現れ、走り寄って来る。カラコロと厚底下駄が心地よい音を奏でるが転ばないか少し心配だ。
「来てたのなら連絡してください。ずっと待ってたんですよー?」
「ん、すまない。立派な家で少し見惚れてた。やっぱ人気ライバーは違うな」
「あら、でしたらホームの登録ここに移しますか? 私が毎日、『おかえりなさい』って言ってあげますよ?」
「いや、別に。今の長屋でも間に合ってるし」
「……そうですか」
んー? 若干不機嫌になったような気がするカカに案内されて黒羽邸の中へ進んでいく。今日ここへ来た目的はカカに歌動画のあれこれについて相談する為だ。
「ここが私のツクヨミ内での配信部屋ですね」
「おぉー」
なんか、サムネとかで見た事のある部屋だ。視聴者からの質問が手紙として届くメールボックスとか、ダミーヘッドマイクって言うんだっけ? 黒い頭のやつとか色々ある。
「リアルの方でマイクがあるのでツクヨミ内にマイクを置く必要はないんですけど雰囲気づくりの為に置いています」
あぁー、確かにそう言われればそうなのか。
「……でもあれだな。正直何をどうしていいのか全く分からん。それなりの値段のマイクとPCしかないぞ。あとはツクヨミ内の配信ツール使ってたし」
「……戦闘画面垂れ流しでしたからね」
その後俺はカカに機材や音源データ、信頼できるmixの依頼先など色々なことを教えてもらった。普段俺が教える側だったからちょっと新鮮な気分だ。
そして色々教えと貰った後俺たちは同じくカカの邸宅内にあるカラオケルームに来ていた。……確かにツクヨミないのカラオケスペースとか合ったけど、自宅にあるのすげぇな。
「さてと、次は何を歌うかですね。これは自由で良いと思います。歌いたいと思った曲を歌ってください。私としてはかぐやちゃんが配信で喋っていた『妙~高~』? が気になりますけど」
「……それは忘れろ」
歌いたくてもね、音源が無いんだよ。この世には。
「ふふふ、分かりました。聞かせて貰えるようになったら聞かせてくださいね」
「……あぁ」
「渡り鴉さんの事ですし余り流行の曲とかも知らないですよね?」
「勿論」
マジで今まで『KASSEN』一本でやって来たんだ。それ以外のことはあんまり知らない。
「だとしたら……流行とか関係なしで何か印象に残っている曲とかあります?」
「……メルト?」
「え?」
印象によく残っている曲と言われて思いついた曲の名前を言うとカカが何故か驚愕の表情で固まる。え、なんか変なこと言ったか?
「り、理由聞いても良いですか?」
「たまに友達とカラオケ行くんだけど友達の内の一人が必ず歌うから」
「へぇー……因みに女の子ですか?」
「お、正解。よく分かったな」
毎回芦花が歌うんだよね。しかも歌ってる最中の芦花とめっちゃ目が合うから印象深いんだよね。
「……」
「カカ?」
なんか考え込み始めたんだけど? でもアレか、メルトって歌詞的には女の子の歌っぽいから流石に好きな曲歌ってもいいとは言ってたけど俺が歌うにはきついし悩んでるのか。しかしそうだな……メルト以外かぁ……。『ファンサ』? いや、これも芦花が歌ってたしなぁ……。
「渡り鴉さん! これから時間ありますか!?」
「うおっ!? あ、あるけど……」
「それは良かったです! 声の出し方とかも色々あるので練習していきましょう! 大丈夫です、私も歌って見本見せるので!」
「お、おう……」
「それじゃあ、渡り鴉さんの
なんかすごい張り切り出したぞ? いや、でも人気ライバー『黒羽カカ』のゲリラライブを一人で鑑賞できるって凄い贅沢では?
「それじゃあ最初は『I beg you』!」
「おおー」
そうして歌いだしたカカ。声が良く伸びるなー……。やっぱ普段からこういう配信してる人は凄いな……。演出なんだろうけど翼で自分の体だったり、口元を隠して艶めかしい雰囲気を作り出すのとか『魅せ方』が違う気がする。
「……次は『ヴァンパイア』」
「いえーい」
……え、掛け声ってこんな感じで良いのかな? さっきの曲と違って随分とハイテンポな曲だ。なんかギャルっぽい感じが普段のカカと違ってギャップがある。
それから『からくりピエロ』に『ナンカイレンアイ』『ワールドイズマイン』と色々な曲を歌って貰えた。
いやー、今まで触れてこなかった分、貴重な体験をした。どうしようかな、単純に一枚絵に歌声乗っければ良いと思ってたけどカカのアレを見た後だと、踊ったり歌っているところを動画にとって合間合間に歌詞に合わせたポーズとかした方が良いんじゃないかと思ってくる。
実際カカは『ワールドイズマイン』の"右手がお留守なのなんとかして"という歌詞の所で俺の左側に座って来てアピールしてきたからな。なんとかしてほしいのかと思って右手を握りしめたら翼バッサバッサ揺らしたし、音程飛んだから余計なことしたかもしれないけど。
「さて……マジでどうするか」
ツクヨミから自室に戻った俺は一体どんな歌を歌うべきなのかネットの広大な海を彷徨っていた。かぐやが本気で頑張って勝ち取ったご褒美なんだ、こっちも生半可な物は出せない。
ん? スマホに着信……噂をすればって奴かな。かぐやだ。
「おう、かぐや。どうし―――」
「く、九朗! どうしよう! 彩葉が体アチアチで倒れちゃった!」
なっ!?
「すぐに行く! いまどこだ!?」
「駅前の不動産屋さんの近く!」
ふ、不動産? なんでそんなとこに? ってまぁ、それはどうでも良い!
「ひとまずかぐやは彩葉を近くの日陰に運んで水――じゃないな! 自販機かなんかでスポーツドリンク買って飲ませるんだ! 一気に飲ませようとすると危ないからなチビチビ飲ませとけ!」
「分かった!」
部屋着のままだが着替える暇はない。財布と通話を繋げたままのスマホを手に俺は部屋を飛び出して駅前に急いだ。
「いろっ、げほっ。……は、無事? ぅぇッ! ごほっ、ゲハッ! ……キッツ」
「九朗! く、九朗もなんか死にそうだよ!?」
「おれ……は、いい。彩葉?」
え、駅前までの全力疾走は……! インドア派には! キツイ!! 彩葉が寝かされている日陰のベンチの脇にほぼほぼ倒れこむように座る。
「ごめん、少し触る」
そう言って俺は彩葉の首元に手を当てる。反応はあるけど意識があるか微妙なラインだな。にしても熱い。
「かぐや、スポーツドリンクは?」
「飲ませたよ! また買ってくる?」
「頼む。俺はタクシー呼ぶからそれで一緒に帰るんだ。ドリンクは適宜飲ませて置け。家に戻ったらまずエアコンつけて部屋が冷える間まではシャワーで汗を落としてやってくれ。そのあとパジャマ着せて休ませよう。任せて良いか?」
正直、男の俺じゃシャワーとか着替えさせてあげられないし、ここはかぐやに頼むしかない。
「おっけー、任せて! 九朗は?」
「す、少し休んでからスーパーで体に良さそうなもん買って帰る」
「分かった!」
そう言ってかぐやは再び自販機に向かって走り出した。さて俺はタクシーを捕まえないと……。
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あの後すぐにタクシーは捕まり彩葉とかぐやはそれに乗って帰った。俺はその後スーパーによってゼリーやヨーグルト、お粥の材料など取り合えず病気の時に食べると良さそうな物を買って彩葉の部屋にお邪魔していた。
部屋にお邪魔するとシャワーや着替えは終わっていたようで彩葉は布団に寝かされていた。まるで何かの儀式のように布団の周りがぬいぐるみで囲まれていたのは目を逸らそう。
かぐやが俺の買ってきた食材で料理を始めたのでそちらを任せて彩葉の様子を見ていた。
「違う! バイト!」
「起きて一言目がそれか……」
俺も戦バカだが彩葉も相当バカだな。だか、目覚めてくれて何よりだ。
「彩葉、しんどい?」
「平気、すぐ行くから」
彩葉の声に気が付いたかぐやが台所から布団の傍に近寄って来た。彩葉はかぐやの言葉に強がって起き上がろうとするが体に力が入っていない。
「行かせるわけないだろ」
そんな状態仕事とかさせられるわけがない。それに……
「バイトは休む連絡入れといたから。彩葉、もう休んで……」
「……九朗?」
「言って置くが俺はしてないし、提案もしていない。かぐやが彩葉のことを思っていつの間にかしていたことだ。……汲み取ってやれよ」
俺はそもそも彩葉のバイトのシフトとか分からんからな!
「あと、いっぱいふかふか置いといたから、いっぱいふかふかしてね」
「……ありがと」
……セラピー効果狙いだったのか? そのぬいぐるみ。かぐやの言葉を受けて彩葉は近くにあったぬいぐるみの一つを取り、抱きしめる。
「あっ、あと病院! 病院行こっ、一緒に!」
「取り合えずこの時間でもやってる所は見つけた。タクシーも捕まえる。少し辛いだろうが我慢してくれ」
市販の解熱剤は飲ませたが一度病院でしっかりと検査を受けるべきだと思う。彩葉は普段から色々と無茶しすぎて体のどこかにボロが来てないか心配だし。
「病院? ……病院はお金かかるからやだ」
「そんなもんかぐやにまかしとき!」
「やっぱり、無理だよ……。全部ギリギリで予定組んでるから……何日も休んだら、もう追いつけないよ……そしたら奨学金もでないかも……」
……これは相当、参ってるな。無理やり病院に連れて行くのもできるがそれは今後の彩葉との関係に罅を入れることになる。どうする? どうしたらいい?
俺は俺を助けてくれた彩葉を救いたい。けど同時に彩葉に嫌われたくない、嫌われたくないと思うようになってしまった。
「なんで彩葉はそんなに一人で頑張らないといけないの?」
俺がまごまごとしている間にかぐやが一歩踏み込んだ。そこからはあっという間だった。かぐやは持ち前の遠慮の無さでぐいぐいと彩葉の心の中に入っていって彩葉の身の上話を引き出して見せた。
そして結果的にひとまず自宅療養、ただし少しでも体調悪化すれば病院に連れて行く。という条件を彩葉に認めさせてしまった。その間俺は結局何もできなかった。俺だけだったら絶対に彩葉を説得できなかった。本当にかぐやには感謝しかない。
いつまでも異性がいれば休めないだろうということで俺は彩葉の部屋を出る。そのとき彩葉がズボンを掴んでなにか言いたげだったが、部屋から出たかった俺はそっとその手を外した。
「以前なら『KASSEN』さえできればそいつに好かれようが嫌われようが気にせずに病院に連れて行くって決断できたのに」
部屋から出た俺はアパートの廊下部分ですっかり日の落ち始めた街並みを眺めながらそう独り言を口にする。何もできなかった俺があの部屋にあのままいずっといると自己嫌悪でどうにかなりそうだった。自己嫌悪……自己嫌悪ねぇ……。
「俺、弱くなったなぁ……」
・稀に九朗くんはトリップ(暗喩)しますが、いざというときは何故かツクヨミ運営からのお知らせ、など通知が来るのでその通知音位で九朗は目覚めて居ました。
・芦花バージョンのメルト下さい。
・黒羽カカの翼のRGB値は九朗くんの羽飾りと同じ数値に揃えられている。
・真人間初心者九朗くん、自身の嫌われたくないという感情を弱くなったと表現。