超闘争   作:四脚好き

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第16話

特設スタジアム

────────────────────────

 

『おーっと、黒鬼はトライデント! トライデントです!』

 

 試合開始と同時にプレイヤー全員が一気に駆けだす。かぐやは彩葉と一緒にトップに、ヤチヨは一人でボトムに向かった。それに比べてブラックオニキスは全員分散して行動している。

 

「トライデントは一人で複数の敵と戦わなければいけないので多対一でもかならず勝てるという自身がなければ選択できない手段なんですよ」

「なるほどねぇ」

「となるとかぐやさんは帝に舐められている訳ですか」

「リンちゃん思ったより好戦的だねぇ……。こういう所は九朗くんの妹らしいや」

 

 カカの解説を受けながら試合を観戦する。膝の上でリンが『舐めている』と不満気な声を上げるが俺はそうは思わん。ブラックオニキスはプロゲーマーだ。一人ひとりの実力も申し分ない。

 対するかぐや・いろPチームは彩葉こそ実力はあるが着ぐるみで動きに制限が掛かっていて、かぐやも初心者でありながら俺に一撃叩き込んだがそれはあくまで初心者でありながら、という話だ。上級者であれば俺に一撃を入れることぐらいはできる。事実カカや帝がそうだ。ただそいつらが一撃を俺に入れた瞬間、俺はそいつらに五撃以上叩き込めるからカカや帝は俺に勝てないという話なんだが。

 ヤチヨに関しては分からん。あのお助けヤッチョは二つのチームの実力差があるときにそれを対等にするような強さで現れる。対ブラックオニキスだしそれなりに実力バフはあると思うんだけど……一体どこまで通用するやら。

 

 

「ほ、ホントですか! ありがとうございますまみまみさん!」

 

 帝のファンサービスを至近距離で喰らった真実は気絶して試合に参加不可能と言うことで観戦席にやってきていた。リンが膝の上に乗ったことで一つ席が空いていたから俺は真実を呼びそこに座らせていた。

 そういえば最初俺達の元にやってきた真実はカカとリンを見て『こいつマジか……』みたいな顔をしていたけどうあれはどういう意味だったんだろう。あとで聞いておこう。

 それはそうとしてリンは真実とも仲良くなれたようで良かった良かった。頭を撫でているとたまに声を押し殺してガクッと震える時があるが大丈夫なのだろうか。本人に聞いても大丈夫としか言わないし……。

 

『お前、彩葉だろ』

『チガウ。オレ、イロハ、チガウ』

 

 ステージでは彩葉とかぐやVS帝が繰り広げられていた。彩葉がメインとなって帝と切り結び、ヒット&アウェイでかぐやがどでかい一撃を狙って仕掛けている。しかしそこは帝、やっぱ強いなぁ。二人を上手くさばいている。

 にしても趣味が悪い。事前に正体知ってるのにあえて聞いてやがる。彩葉はなんでカタコトで答えたし。

 

『彩葉ー!』

『あ、おい!』

「かぐやさん……あの…ネットリテラシー……」

「うーむ……」

「あららー」

「かぐやちゃん……」

「やっちゃったねぇ」

 

 恐らく身バレを避けたいと言う彩葉の思いも虚しく思いっきりかぐやが本名を叫びながら突っ込んできた。そんなかぐやに驚いて彩葉は帝から目を離してしまいこん棒で一撃、二撃と攻撃を喰らってしまう。

 

『そのスキン当てやすくて助かるわ〜』

 

 それは分かる。あのスキンは当たり判定が大きいうえに彩葉の動きが鈍る。かぐやがライバーとして活動し始めてから切るようになった着ぐるみスキンだけど、正直に言って今すぐ脱いでほしい。あんな状態の彩葉と戦っても面白くないのでたまに『KASSEN』に付き合ってくれる時は毎回彩葉に『彩葉。今すぐ(着ぐるみ)脱いで』ってお願いしている。というかさ、毎回お願いしてるんだから『KASSEN』するときは事前に脱いできてくれていいだろ。

 

『そのままで後悔しない? 本気出そうぜ』

 

 そうだ! 煽れ帝! 俺と同じで一度顔出しちゃえばもうその着ぐるみを切る必要ない! 脱がせ! 

 俺の願いが通じたのか彩葉が着ぐるみを脱いだ!

 

「うっしゃあああ! 『いろP(彩葉)が脱いだーー!』」

 

 俺は思わずグッと拳を握り込むながら大声を出す。ここでまさかまさかのオタ公とセリフ被り。それと同時に観客たちも今まで謎だったいろPのアバターが姿を現したことで大盛り上がりする。

 

「渡り鴉さん……?」

「お兄……」

「く、九朗?」

「九朗くん言い方……」

 

 なんか周りから少し白い目で見られるが関係ない。

 

「あの状態で本気になった彩葉の素早さは素晴らしいぞ! まるで閃光……あんな着ぐるみを着ていた時の万倍戦っていて楽しい!」

 

 彩葉の武器が放つ緑の光だけが残光として夜のツクヨミの中を跳び回るあの景色はまさに幻想的。本当にあの時の彩葉は綺麗だった。思わずこちらに切りかかって来た彩葉に『綺麗だよ、彩葉』なんて言ってしまったしな。 いやー、あの一撃が決まっていれば俺も刀を抜こうかと思ったんだけど肝心なところで彩葉が外したんだよな……惜しい……。もう一回戦いたいなー。

 

「……貴方は本当にブレませんね」

「もぅ、九朗ったら」

「お兄が、こ、興奮してッ!? 抱きしめ、抱きッ! お゛ッ」

「『頭KASSEN』がよぉ……九朗くーん、女の子相手に『脱いだー!』って歓声上げるのはやめようねー」

「え?」

「女の子によっては傷ついちゃうから」

 

 ……そうなのか。ま、着ぐるみとは言え服の話題だ。女の子は昔から服には五月蝿いものな。それに彼氏持ちで男女の仲や違いについては俺たちの中で誰よりも詳しい真実の言葉だ。きっと正しいんだろう。

 

「わかった」

 

『おーーっっと衝撃の告白だー!! 帝といろPは兄妹だったーー!?』

 

 お? 俺が真実の忠告について考えている間に展開は進んでいたようでオタ公の驚愕の声が響く。それに遅れて会場内にもどよめきが広がっていく。あ、いつの間にか明かしたんだ。

 

「うっそ、彩葉が!?」

「帝様の妹!?」

「あらあら、これはびっくりですね」

「お兄は大して驚かないんだね」

 

 芦花、真実、カカが驚愕を浮かべる中、リンは俺の顔を見上げていた。……なんか息荒いけど本当に平気か?

 

「まあ、彩葉とも帝とも付き合い長いしなんとなく二人とも似ているところあったから。逆に納得した感じだ」

「なるほど」

 

 嘘。事前に帝から名乗られたから知ってる。強い相手と戦えればそれで良かった俺が相手の家族関係なんか大して気にしてないよ! そんな色々なことが起こりながら試合は進んでいった。

一試合目はブラックオニキスが実力を見せつけ快勝。続く二試合目でかぐや達はマップの上下を活かした奇襲戦法を仕掛け勝利。観客席で俺達も大盛り上がりした。

 最後の三試合目はまさに激闘。ヤチヨが乃依、雷兄弟を道連れにし、帝をかぐやと彩葉がコンビネーションで打ち取った。

 ただラストが惜しかった。天守閣を落とす瞬間《雷の地雷トラップに気が付いて避けた》までは良かったが大きく回避し過ぎたせいで天守閣から離れてしまった。その隙に復帰してすぐウルトを発動し超加速で接近していた帝に天守閣を取られ敗北してしまった。

 

『勝者、ブラックオニキスーーーッッッ!』

 

「あー、かぐやちゃん惜しかったねー」

「けど、良い試合でしたね」

「はい。とても見ごたえのある試合でした。お兄もそう思うよね?」

「取り合えず、かぐやには攻撃範囲を見切って回避できるように仕込むか……」

「あれ? 帝様が勝っちゃったけど、結婚ってどうするの?」

 

「「「「「あ」」」」」

 

 まぁ、流石に冗談だろ? え、だよね? 

 

「いと大儀~~☆」

 

 ステージ上ではヤチヨが空高く浮かんでおり、その姿を数多くのスポットライトが照らしている。

 

「とーっても楽しいKASSENでした。そして、たった今! ヤチヨカップの投票を締め切ったよー。FUSHI集計お願い!」

「はーい。一、二、サン、スー、ファイブ、セイス、ズィーベン、ヨドゥル――――……集計完了!

 

 何語だ。最後の方。ズィーベン、ズィーベンって。

 

「それでは、ヤッチョとコラボる人を発表ー!」

 

 日が落ちて夜になったステージの上空に大きなスクリーンが映し出される。さて、一体どうなる事やら。

 

「ヤチヨカップの優勝者は〜~?」

「お願い、お願いお願い!」

「私はどちらが勝っても余り関係ないんですけど、お兄はやっぱりかぐや・いろPさんたちが優勝してくれた方が嬉しい?」

「んー……どちらかと言うとそうだな」

「あー、私は10位でしたか……」

「わ、私、どっち応援したら……!?」

 

 芦花が彩葉達の優勝を願い、カカが自身の順位が確定した瞬間少しだけ肩をすくめる。真実は帝、かぐやどっちが勝っても良い思いが出来るって思うしかないんじゃないか? そして俺とリンはそもそもそれほどライブに興味がないので中立。……彩葉の曲を聞きたい欲があるので俺は少しだけかぐや・いろPよりだが。

 二本の棒グラフが勢いよくのびていく。

 

第2位『ブラックオニキス』。新規獲得ファン数。102万1310人

 

 お? 一本の棒グラフが止まり、ブラックオニキスの名前が表示される。ということは……。

 

第1位『かぐや・いろP』。新規獲得ファン数。102万1420人

 

 あっっっぶな!? ギリギリが過ぎるだろう! 俺がグラフの数字を正確に理解した瞬間会場が今日一番の歓声に包まれる。

 

「勝った! やったよ九朗! 彩葉が、かぐやちゃんが!」

「おめでとうございます」

「ああ、帝様……。でもかぐやちゃん、おめでとうーーー!」

「お兄」

「ん?」

「凄く嬉しそうな表情してるね」

 

 ……そうか、そうなんだろうな。ライブに興味はないってさっきは言ったけど、うん。ステージ上で帝、雷と話してるかぐやと彩葉を眺める。おい、乃依はどこにいった?

 

「二人の歌は……まだ『KASSEN』ほどじゃないけどその次くらいには楽しい」

「「「「……」」」」

「なんだよ4人とも」

 

 俺が思ったことを口にすると4人がジッと俺を見てくる。

 

「わ、渡り鴉さん、頭打ったりしましたか?」

「く、九朗、体調悪かったりする? 膝貸そうか?」

「ROKAさん、不要です。お兄には私が胸貸すので」

「『頭KASSEN』にまともな感性が……?」

「全員、ボコボコにすんぞ」

 

 俺、そんなに変なこと言ったかなぁ……? 一大イベントが終わり観客がまばらになって来たスタジアムの中で俺はそう呟いた。

 

「ボコボコ……。そうだ、お兄」

「ん?」

「私と『KASSEN』してよ。実は前回のあと、ブラックオニ―――「帝から聞いたよ。あの帝が手強かったと言っていた。俺も、お前にそのことを聞きたくて今回誘ったんだ」

「じゃあ!」

「あぁ、やるぞ」

 

 前回のヤチヨライブの後に戦った時から日は経ったとはいえリンが一気に帝相手に善戦できるようになったのは不可解だ。帝の反応やヤチヨがなにもしていないということはチートではない。一体何があった?

 

「それじゃあ、すぐに設定を――「必要ないだろ。ステージなら目の前にある」――え、お兄?」

 

 それを確かめる為にもリンと戦わなければいけない。

 

「あのー渡り鴉さん? 目の前ってここのステージのこと言ってます? このステージは特設のものですし運営に許可を取らないと使えませんよ?」

 

 カカが若干焦ったような声を出しながら聞いてくる。しかしそんなことか。それならすぐに解決できる。リンを膝上からどかして立ち上がる。

 

「運営ならちょうどかぐや達の前にいるだろ?」

「え? あ、確かにヤチヨがいるけど……。九朗、なんで武器を出したの? なんで槍を投げるフォームで構えてるの?」

 

 芦花が頬を引きつらせながら質問してくる。……角度はこんなもんか。

 

「お、お兄?」

「え、九朗くんマジ?」

 

 リンと真実も戸惑いの声を上げている。威力は……いや、遠慮なんかいらんか。

 

「大……マジだ!」

 

 しかしもう、止められない。俺は構えた十文字槍を思いっきりヤチヨに向かってぶん投げる。ゴウッ、と大きな音を立てて槍は真っすぐにヤチヨに向かい飛んでいき直撃―――いや、アレは防いだな。ステージ上は轟音と共に土煙が上がりかぐや、いろP、ヤチヨの姿が見えなくなる。何事かとスタジアムから去ろうとしていた観客やモニター席の二人の視線がこちらに集まって来る。

 

『ヤチヨカップが終わったと思ったらいきなりの轟音! 渡り鴉の謎の暴挙だぁ! 相変わらずやる事ヤバすぎでしょwww』

『な、なななな、何やってるんですか貴方はァッ!? オマケに誰ですかその水色の子は!? また新しい子ですか!?』

『お、オタ公ちゃん、落ち着いてwww』

 

 モニター席の乙事とオタ公の声で中継のカメラまでこちらに寄って来る。ん、目立ち過ぎたか? いやカメラが寄って来たの丁度良いな。俺の声も拾ってくれるしヤチヨに俺の言いたいことも届くだろう。

 

「ヤチヨー、今から『KASSEN』したいからそのステージ貸してくんね?」

「んもー、相変わらず乱暴だねー、渡り鴉は」

「しっかり防いだ癖によく言うよ」

 

 土煙が晴れると武器の番傘でしっかりと槍を受け流したヤチヨが涼しい顔で立っていた。

 

「で? 許可は? あぁ、長時間使うつもりはない。一試合だけだ」

「相手は隣の見慣れない子かな?」

「あぁ、俺の妹」

 

 バンとリンの背中を叩く。そして中継映像にがっつり映るリン。観客たちからおおー、と声が上がる。

 

『おおっーと! 帝に続いて渡り鴉の妹発言! 今日は兄妹発覚と、兄妹対決の連続だー!』

 

 オタ公が声を上げると落ち着いていたはずの観客のボルテージは再び上がりはじめ、同接も再び増え始める。

 

「ちょっと、いきなりなんてことするの!?」

「もぅー、九朗ったら酷い! かぐやびっくりしたんだからね」

 

 いつの間にか観客席に移動していた彩葉とかぐやが声をかけてきた。

 

「ん。悪かったな。ちゃんとヤチヨだけを狙ったんだが」

「だーかーらー! ヤチヨを狙うなって言ってんの! もっと普通に話しかけろ!」

 

 あ、彩葉は自分が狙われたことよりもそっちか。

 

「へぇーリンちゃんって言うの! 私、かぐや! よろしくね!」

「よ、よろしくお願いします。かぐやさん」

 

 リンはかぐやに絡まれてる。

 

「また、祭りを始めるのか?」

「なぁに、俺たちが帰った後に面白い事しようしてるの♡」

「おいおい、渡り鴉よぉ。危ねぇなぁ。俺の妹を傷物にするつもりかよ」

 

 お? いつの間にかブラックオニキスの連中まで揃ってきていた。というか、あれだな。こう見ると中継の画面無茶苦茶豪華じゃね?

 

 カカにブラックオニキスにかぐや・いろP、ROKAにまみまみ。うーむ、タダの戦バカの俺と一般人のリンの場違い感が凄い。

 

「おやおや、もう抑えられないくらい大きな騒動になっちゃったね。仕方ない、良いよ渡り鴉。許可してあげる。帝VSいろPり兄妹対決の次はエキシビションマッチ、渡り鴉VSリンちゃん。よき『KASSEN』を~」

 

 ……リンの名前は伝えていないはずだがログでも見られたかな? まぁいい。許可は取れた。

 

「リン、行くぞ」

「うん。お兄、全力で行くよ」

「あぁ、かかってこい」

 

 謎の実力向上の正体を探るため、家族として一歩を踏み出す為、しっかり戦わないとな。多くの観客とかぐや達にブラックオニキス。色々な人たちに見られながら俺とリンの対決が始まろうとしていた。

 リンが自身の首輪にそっと触れる。

 

「AMS――ready――」




・実は上級者になれば九朗くんに一撃入れることは可能。ただその一撃で九朗くんに勝てるかと言うとまったくの別問題である。

・九朗くんと対戦する時は何故か毎回着ぐるみを着てくる彩葉。

・月をバックに緑の剣筋と目だけを光らせた彩葉のアバターが飛び掛かって来る様は夜の渓流でのジンオウガやナルガクルガに通じる美しさがある。

・実はヤチヨは地雷トラップを避けたかぐやを見て驚愕していた。

・当作品の真実はツッコミの姉貴となりました。

因みにこの作品内だと誰好き?

  • 彩葉
  • かぐや
  • ヤチヨ
  • 芦花
  • 真実
  • 九朗(渡り鴉)
  • カカ
  • オタ公
  • リン(妹ちゃん)
  • 乃依
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