超闘争   作:四脚好き

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第18話

自室

────────────────────────

 

 かぐやと彩葉がヤチヨカップに優勝してから数日。俺はかぐやと約束していた二本の歌動画をアップした。一つ目はかぐやのリクエスト、『スカーレット・ドリームズ』。まさかのかぐやとのデュエットだった。

 ……ツクヨミ内でMVの写真もとったけどスーツなんて初めて来たよ。しかもそっからダンスだろ? めっちゃ疲れた。反応としてはいつもは元気ハツラツとしたかぐやのしっとりとした歌声に胸打たれたファンが多かった。あと何故か俺が炎上した。……なぜ?

 二曲目は俺の歌いたい曲。……『Day After Day』。個人的にフロムの作品群の中でも一、二を争う名曲。この曲を歌うなら最初か最後しかないと思った。それなら次に歌を歌う機会なんて来るかも分からないし、歌ってしまおうと熱唱させてもらった。元々この世界に音源はないんだけれども、なんと彩葉が俺の鼻歌からまさかの完全再現してくれました。あのイントロが聞こえてきた瞬間涙が出てきて思わず彩葉を抱きしめたよね。反応も好意的なものが多く、あえて歌詞を英語だけにしたため、歌詞の考察がネット上で散見したり、俺の配信の戦闘場面の切り抜きと合わせてカッコいいMADを作ってくれた人もいた。

 いい……凄く良い。この数日間俺はリンとの戦闘で満たされ、『Day After Day』の歌詞考察で盛り上がるとか言う懐かしさ、その両方を感じて凄く気分が良い。

 そんな気分よく過ごしていた俺の元に彩葉がやって来て、ある話を切り出した。

 

「引っ越し?」

「そう。私も配信で顔出したし、色々かぐやの配信道具とかで部屋も一杯だからね。前々から考えてはいたんだけど思い切って引っ越すことにした。保証人も見つかったし……あとは単純にかぐやも喜ぶと思うから」

 

 ほー。確かにかぐやはどんどん物を増やすしな。実際彩葉の部屋だけじゃ足りなくなって俺の部屋にまで浸食している。

 

「それで場所はここ」

 

 そう言って彩葉がテーブルの上に不動産屋のチラシを乗っける。えーっと、駅から徒歩5分、家賃35万、管理費月2万の3LDKか。……いや、すっげぇ見覚えあるんだけど。

 

「あぁー。うん、ここね。良いところではあるよ」

「……住んでたの?」

「いや、内見だけ」

 

 今生の両親が最初俺に買い与えようとしていたマンションだこれ。こ、こんな形で再会するとは。結局一人暮らしにこんな大層な部屋要らんだろってなったんだよね。なにせ当時の俺は多分今生で一番精神的にヤバかった時期。『KASSEN』さえできればあとはどうでも良かった。とくに趣味とかもないし、取り合えず地域の最安値の物件を選んでこのアパートに住むことにした。

 

「ここ部屋が三つあるんだよね。1階に一つと、2階に二つ。上二つは私とかぐやの部屋で、九朗は階段が危ないから1階の部屋を使って欲しいんだ。……あ、でもここって出入口近いな。夜中とか勝手に出かけても気が付かないのはマズいか……。いっそのことリビングに布団敷いて三人で寝る? それで部屋はそれぞれ配信部屋、物置、作業部屋みたいにしちゃって――――」

「おう、ちょっと待て」

 

 なんだ? ヤチヨカップ優勝で推しとライブできるからって浮かれすぎて頭のネジ吹き飛んだかこの優等生? 階段が危ない? 確かに彩葉や真実より体力ないけど芦花とはいい勝負できるんだから、そこまで虚弱じゃねぇよ。というか……。

 

「なんで俺も一緒に引っ越すみたいに話進めてるの?」

「え……来ないの?」

「はいぃ?」

 

 この優等生は本当にどうしちゃったのかなぁ? 

 

「だってツクヨミ内ならともかくリアルの九朗ってか弱いじゃん。九朗も顔出しちゃってるんだしセキュリティがしっかりしてるマンションの方が良いよ。それに放っておくと食事も睡眠も削って『KASSEN』ばかりしてるしヤチヨだけじゃなくてリアル側で止められる人がいた方が良いと思うんだよね」

「いやいや、だからって……」

「九朗は私たちと離れ離れになって寂しくない?」

「うっ……」

 

 それを言われると……ちょっと寂しい、かも? 

 

「かぐやも寂しがると思うし」

「くっ……」

「かぐやのご飯だって食べられなくなるよ」

「むぅ……」

 

 しまった。最近かぐやがよく食事に誘ってくれるようになって三人で食べていたから胃袋がすっかり掴まれてる……。

 

「で、でも、帝も流石に異性と同居なんて認めないでしょ?」

「……ちょっと待ってて」

 

 俺が帝の名前を出すと彩葉は一度部屋を出て行った。そして戻って来た時には手にタブレットを持って、画面の先の誰かと話しながら、かぐやを引き連れて戻って来た。

 

「九朗! 彩葉から聞いたけど九朗、一緒に引っ越ししてくれないの!? どーぉーしーてー!? 一緒に行こうよー! ハッピーエンド行くって言ったじゃん!」

「いや、だって流石にねぇ?」

 

 かぐやが座っている俺の隣にずいっと座ってきて質問してくる。流石に恋人でも家族でもない男女が同棲なんてダメでしょ、常識的に。あのカップルの真実だって瑛斗とは一緒に住んでないし。

 そんなことを考えてると彩葉が隣にやってきてタブレットをテーブルに置く。

 

『でも流石に同じ部屋はなぁ……』

 

 画面の先に居たのは見知らぬ男性。でも声は物凄く聞き覚えがある。……これリアルの帝か?

 

「お兄ちゃんは知れへんからそないなこと言えるの! ほら見て、リアルの九朗ってこんなに弱いの!」

 

 あ、やっぱりこれ帝なんだ。現実だとこんな―――って

 

「なにゅをすりゅりゅりゅりゅ―――」

 

 彩葉が俺の両頬に手を添えたかと思えばいきなり俺の頬をこねくりまわし始めた。彩葉の手を外そうとするが全然敵わない。

 

『うわ、かわええ。「あさひー?」……じゃなくて、んー……なら、隣の部屋も借りたらええじゃん』

なぅでほーひゃる(なんでそうなる)

『あと彩葉、もう手を離してやれ』

 

 あ、やっと離れた。かぐやは……転げ回って爆笑してる。コイツ……ッ。というか今、乃依の声聞こえたか?

 

『よっ、九朗。以前話はしたけどこうやってリアルの顔見せするのは初めてだな』

「朝日……さん、どうも」

『んだよ、敬語は要らねぇって言ったじゃん』

「いや、こう……リアルの顔見るとなんか、やっぱしないとかなあって……」

『いらん、いらん。あぁ、なんなら「お義兄ちゃん」とか呼んでも良いぜ』

 

 ……?

 

「お兄ちゃん?」

『「「……」」』

 

 え、呼んでみたら全員固まったんだけど? なんかやっぱり不味かった? 

 

『うん、これ危ないわ。九朗も引っ越せ、家賃が心配だっていうなら俺が出すから』

「えぇ……」

 

 なんでそうなったの……? というか、家賃はうちの両親が出すだろうし……。なにせ、元々ここを買い与えようとしたぐらいだからな! 

 

「俺も家族に相談するから時間をくれ……」

 

 どうにかその場はこの言葉で納得して引き下がって貰ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「ということがあったんだが……。どう思う?」

『んー……ちょっと待ってお兄。私もちょっと考える』

 

 その日の夜、俺はリンにビデオ通話をしていた。話題はもちろん日中にあった引っ越し関連のものだ。

 

『あ、出てきた。……良いんじゃない? 元々住む予定だった所に行くだけだし、お父さんお母さんも今のアパートだと不安だった見たいだし、これで安心できるんじゃない?』

 

 正気か? 

 

「一応聞いておくがその賛成意見はどっちだ? 同じ部屋に引っ越すことか? 隣の部屋に住むってことか?」

『……お兄は彩葉さんと住みたいの?』

「いや、そう言う訳じゃないが。……その反応的に後者だな。というかそんなにこのアパート不安か? 俺はそれなりに気に入っているんだけど?」

 

 元々『KASSEN』に集中するのに余計な物は要らん、と選んだこの部屋だが一年とちょっと住んでいるし、住めば都ということでそれなりに気に入ってたんだけど……。

 

『うーん……だって狭くない? それにボロイし、そのあたりタマに急激に治安悪くなる時があるみたいだし、セキュリティ終わってるでしょ』

「……」

 

 しまった、そう言えばリンは生まれたときからあの両親のもとで生活してるから価値観が両親よりだったッ! 高校生の一人暮らしのアパートなんてこんなもんで良いんだよ! と、口に出そうになるのをグッと堪える。

 

『それに芦花さんにカカさん、オタ公さんも心配してたよ?』

「おい、まて。なんで俺の住居情報を漏らしている。というかカカや芦花は観客席にいたから分かるがオタ公とも連絡取り合うようになったのか?」

 

 初耳だが?

 

『うん。帝追いかけっこのあとに仲良くなったの。それでみんなと《色々》話してグループもあるんだよ。ほら、この"鳥籠"っていうグループ』

 

 そう言ってリンはスマホの画面を見せてくる。チャット画面は隠されて見えないが確かに『鳥籠』というグループがある。メンバーは彩葉、かぐや、芦花、カカ、オタ公、そしてリン。

 

「何故に鳥籠?」

『あ、えっとね。これはお兄が強すぎるからみんなで協力しましょー、ってグループ』

 

 ほう?

 

「別に一体六でも構わないが、俺を倒すって言うならあの場にいたブラックオニキスにも声をかければ良かっただろうに。不思議なグループだな」

『いいの、これで。この面子でお兄を倒したいんだから』

 

 そうなのか……? まぁ、べつに挑戦はいつでも受け付けるから色々準備が出来たら声をかけて欲しいものだ。

 

『……あ』

「ん?」

 

 リンが唐突に何か閃いたように目を見開く。

 

『お兄、ゴメン! 私、お父さんお母さんに相談することできたから切るね! 引っ越しのことも私から伝えておくから安心して!』

「そうか? なら任せる」

 

 リンとはどうにかこうして話せるようになったけど両親はまだ少し話辛いところがある。だからそっちで話してくれるならとても助かるので任せることにする。

 

『それじゃあ、お休みお兄!』

「お休み」

 

 そう言って通話を切って布団に入り込む。夏休みももうすぐ終盤。明日は両親からの連絡を待ちつつガッツリ『KASSEN』やりまくるか! 

 

 

 

翌朝

────────────────────────

 

「お兄! 起きて!」

「んぐッ!? ―――ぅえ? は? リン?」

 

 大きな声で目が覚めると目の前にはリンがいた。え? 知らん間にツクヨミにログインしてた? いや、周りの景色はアパートの一室だし……。え、リアル? ……リアルだここ。よく見たらリンも中学生らしい私服でアバターが身に付けている水色の和服じゃない。

 

「なんで、リンがここに?」

 

 問題はどうしてこんな朝早くにリアルの俺の部屋にリンがいるかだ……。うぅ、寝起き辛い……。

 

「なんでって引っ越しよ!」

「引っ越しぃ?」

「そう! 彩葉さんの新しい部屋の隣に引っ越すの! それで私も夏休みの間、一緒に住むから! さ、すぐに引っ越しの準備をしよ! お兄! 私も服とか下着とか色々手伝うから! 色々!」

 

 ……えぇ?

 

 

 




・九朗くんが歌ったのはかぐやとのデュエット、『スカーレット・ドリームズ』と『Day After Day』でしたー。
・ナチュラル所有物扱いの彩葉さん。
・なぜか常識を語る九朗くん。
・男女仲の基準は真実カップルの九朗くん。
・なぜか帝の部屋から聞こえる乃依の声。
・対九朗グループ『鳥籠』
・リア突リンちゃん

因みにこの作品内だと誰好き?

  • 彩葉
  • かぐや
  • ヤチヨ
  • 芦花
  • 真実
  • 九朗(渡り鴉)
  • カカ
  • オタ公
  • リン(妹ちゃん)
  • 乃依
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