初めての『歌ってみた』
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「で、これがかぐやの歌って欲しい曲の普通の音源とかぐやのパートの歌が入ったやつ!」
「これを聞きながら歌って録音すれば良いんだよな……?」
「そうそう! そしたら音源とのmixは彩葉がやってくれるから!」
「彩葉、そんなことまで出来たのか……」
ヤチヨカップ優勝の次の日、昨日の興奮が冷めていないのかルンルン気分で朝早くからかぐやが俺の部屋にやって来た。そしてスマホにいくつかの音楽データを転送してくる。……曲名は『スカーレット・ドリームズ』か。試しに普通の音源の方を聞いてみる。
「人のままじゃ……か」
「ね、ね! 良い曲でしょ! 眠らぬ街ってのもツクヨミっぽいでしょ!」
成程、そういう理由もあるのか。もちろんいい曲だとは思う。だけどこれまでかぐやが歌ってきた曲に比べるとどうもこれは……。
「いささか、落ち着きすぎじゃないか?」
「……確かにそうかも。でもかぐやはこの曲を九朗と歌いたい。お願~い」
「別に断りはしないさ。ちょっと気になっただけだ」
両手でこちらを拝むようにしながらおねだりしてくるかぐやの頭を撫でて歌詞を見ながら音源を聞いてしっかりと自分が歌うべき場所を記憶する。
「かぐやね。彩葉と九朗のことが大好きなんた」
「……」
ん?
「初めてお話した時、頭をぶつけそうだった私を九朗が助けてくれたでしょ。あの時、月の光に照らされた九朗の顔がとっても綺麗でさ、すぐ二人のことが大好きになったんだ。それでいて九朗も私を真剣に求めてくれてた」
確かにかぐや以上の才覚なんていないしな。逃してなるものか、と真剣に求めたな。
「これからも二人と……みんなとずっと一緒にいたい、そう思って歌ったから。九朗もそう思って歌って欲しいな」
最初あった時はあんなに小さな赤ん坊だったのに、成長したな。今や俺以上に人間らしいんじゃないか? ……にしても大好きか、リンにも小さい頃よく言われたな。面倒を見てきた人間にとって最上級の誉め言葉だろう。
「かぐや……」
「ふえっ!? く、九朗?」
俺は聞いていた音源を止めて、かぐやと真正面から向き合う。昨日の帝追いかけっこの後に感謝などを伝えるためにやった投げキッスのファンサだが真実から『凶悪すぎる』と封印されたので代わりにかぐやの左手をしっかりと両手で包み込むように握って俺とかぐやのおでこをくっつける。
「え、あ、んッ……」
かぐやは慌てた後に決心したように目を瞑るが一体どうしたのだろうか? 別に頭突きしたりはしないぞ? ただ投げキッスの代わりに乃依から教わったファンサ、『いつもより低音を意識して耳元で囁いてあげる』を実行する。
「俺も、かぐやと一緒にいたい。だからちゃんと、かぐやを思って歌うよ」
「ほひょ!? ほほら、ほほ。ほほほ、
「おや? 顔が真っ赤に―――
「だ、ダメ! ストップ! ストップだから!」
バッとかぐやが俺から離れる。顔も赤いし、息も荒くして耳を抑えてるけど大丈夫か? ……なんかやり方間違ったかな?
「か、かぐや、部屋戻るね! 歌撮ったらMV用の写真撮影やるから早めに録音してね! それから九朗が彩葉に頼んでた音源ももうすぐできそうだって!」
「マジで! 分かった、なるはやで録音してそっちの音源も聞きに―――? 今、写真撮影って言わなかったか?」
「じゃあね!」
「あ、ちょ……」
俺の疑問に答えることなくかぐやは部屋を出て行ってしまった。うーん……対応をミスったかな? また今度、乃依にもう一回教わりに行くか?
「取り合えず、これを録音しちゃうか」
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「……仮想世界とはいえこの歳でスーツを着ることになるとは」
うん、実際に来ている訳じゃないから身体とかグリグリ動かせる。撮影場所となるダンスホールの中心で軽くヤーナムステップをするが全く問題ない。
「というか……こんな所あったんだな」
冷静に考えると『KASSEN』ばかりに夢中になっているから俺はあまりツクヨミ内の名所に詳しくないのかもしれない。大体マイホームとオーダーメイド通りしか行かないもんな。『KASSEN』は対戦受付して待ってれば良いし。かぐやが来てからだよなぁ。こうやって色々行くようになったのって。
「お待たせ、九朗!」
噂をすればなんとやらか。ダンスホールに赤いドレスに身を包んだかぐやがやって来る。普段の和装とは違い、セクシーな赤いドレスを身に纏っ―――いや、よくよく考えると普段のかぐやの格好も大分攻めてないか? 肩出し、脇出ししてるし、月イメージなのは分かるが腹部分にある三日月型の穴は何なんだ一体?
あれ? もしかして胸元の黒レースがセクシーさを醸し出してるだけで普段より露出少ない?
「どう? 綺麗?」
「あぁ、とっても似合っているよ。ああ、歌詞通り離したくない程に」
「うぇへへへ。じゃ、エスコートお願い!」
そう言ってかぐやが手を差し出してくる。その手を取って手の甲に軽く唇を落とす。
「はい。それではお相手を務めさせていただきます」
「――……ヤバ」
そうして一緒にダンスした時の写真やパフェを食べさせ合う写真、手を握り合って見つめる写真など色々撮影して編集。俺の初めての歌動2つの内、一つが公開された。
:エッッッッ!? :かぐや姫の"姫"の部分出してきたな。 :ベッドで仰向けになってるかぐやちゃんを見たとき……その……下品なんですが……ふふ、下品なので止めときますね。 :えらい :エロい :くそぅ、こいつらの普段騒がしかったり、可笑しかったりするのにツラが良い……。 :これかぐやちゃんが渡り鴉にリクエストしたんでしょ? :え……ヤバない? :渡り鴉、あいつホンマ…… :処す? 処す? :うわわわわぁぁぁ! 俺のかぐやちゃんが取られたぁ! :完全に顔が"女"ですねこれは…… :俺、ちょっと渡り鴉に勝負挑んでくる! :逝ってら |
公開が始まった動画のチャット爛を眺めつつ自室で寛ぐ。反応としては概ね好評だが、何故か俺が若干炎上している。まぁ、俺が他のライバーと絡むといつものことなので気にしないが。というか、俺を燃やす暇があるなら少しでもライバーとして活動してアイツらとコラボできるようになればいいのに。かぐやも芦花もカカも優しいから受けてくれそうな気がするんだけどなぁ……。
あ、芦花からメッセージ。
『九朗! どうが見たよ! 歌も上手いし、スーツも似合ってて最高だった! 九朗もアバターの顔出す様になったんだし今までの『KASSEN』用の装備だけじゃなくて自分のお洒落用のスキンとか買ってみるのはどう? なんなら私がコーディネートするよ!』
おおう、美容系インフルエンサーに全身コーデされるのはなかなか凄い事になりそうだな。でも……そっか、彩葉は『KASSEN』以外の楽しみを教えてくれるって言ってたし、かぐやの好きな事にも付き合うって約束したし戦闘用以外のスキンもアリなのかもしれない。
と、今度はカカだな。
『渡り鴉さん! やっぱり私が以前から言っていた通り才能あるじゃないですか! それにこんなに好評で需要だってあります! 今度はASMRやりましょう! 大丈夫です! 脚本とかは私が用意しますし、なんなら私の耳元で囁いてもらって変なところがないかチェックしますから!』
やっぱりやった方が良いのだろうか……。カカのチェックが入るなら何も問題はない……のか?
『初の歌動画とっても素晴らしかったですよ渡り鴉さん! 今度、二曲目の方と合わせて製作秘話などインタビューさせてくださいね!』
こっちはオタ公か……。二曲目かぁ、そろそろ音源とか出来てるのかな? 次から次へとスマコン経由で届く友人たちからの感想のメッセージと『KASSEN』での対戦所望のメッセージ、毒にも薬にもならんアンチどものメッセージと色々仕分けていく。炎上すると対戦メッセージが増えるけどアンチのメッセージも増えるから仕訳が面倒なんだよなぁ……。
「九朗! 九朗!」
「どした?」
バタリ、と部屋の扉が開かれてかぐやが入って来る。最近多いな。
「動画見た!? かぐやたち超~かっこよくなってたよ!」
「今見てるよ。うん、撮影してくれたスタッフさんとmixしてくれた彩葉に感謝だな」
「うん! あ、そうだ! 彩葉がね、『音源出来たから聞いてみて欲しい』って!」
「本当か!?」
俺は思わずガタリ、と大きな音を立てて立ち上がる。
「行こう」
「うん、一緒に行こ!」
そしてかぐやに手を引かれてアパートの階段を上り彩葉の部屋へ向かった。そして僅かばかり急ぎ足で彩葉の部屋に入る。
「彩葉!」
「いらっしゃい、九朗。歌とっても良かったよ。お兄ちゃんたちと一緒でアイドル売りしても人気が出そう」
「ありがとう彩葉。けど俺はあくまで『KASSEN』プレイヤーだよ。で、その……音源が出来たって聞いたんだけど……」
「ふふ、本当にすきなんだね、この曲。九朗がなんだか新曲を待ちきれないかぐやみたいになってる」
「えぇー、かぐやだってもうちょっと落ち着いてるよー」
そ、そんなにそわそわしてたか? いや、でももう一度あの曲を記憶の再生ではなくしっかりと耳で聞こえることが出来るかもしれないんだ。
「そうなると思って準備してたよ。ほら、これで聞いて」
「ありがとう」
彩葉から普段かぐやが使っているヘッドホンを借りて耳に付ける。
「猫耳も良いじゃない……。じゃ再生するよ。鼻歌からの再現だから、私の想像で補ったところもあるの。違う所があったらすぐ教えて」
「分かった」
彩葉がパソコンの再生ボタンを押して音楽ファイルが動き出す。瞬間、耳に聞こえてきたのはずっと、ずっと聞きたかったイントロ。
目を閉じる。思い出されるのは永遠に続く闘争の世界。10年間俺達の居場所だった懐かしき戦場。
―――おはようございます。メインシステム パイロットデータの認証を開始します。―――
聞こえるはずの無い音を聞いた。
―――メインシステム 通常モードを起動しました。これより、作戦行動を再開―――
この世界に転生して幾年。もう、思い出せない前世の記憶もある。時間というのは残酷だ、大好きだったフロムゲーのことももう思い出せない箇所が出来てしまっている。小ロンド遺跡の封印の鍵を持ってるNPCの名前とか思い出せない……。そんな俺でも……。
―――あなたの帰還を歓迎します―――
この瞬間は確かに
「彩葉ッ!」
隣でこちらを伺っていた彩葉を抱きしめる。感情の昂るままにキツくキツく、抱きしめる。どうせ俺の方が力は弱いんだ。彩葉なら問題なく耐えられるだろう。
「え!? キャッ! え、え、え? く、九朗!? い、いいいい、一体どうし―――泣いてるの?」
「ありがとう。ありがとう、ありがとう。ずっと、ずっとこれが聞きたくて……。これが……嬉しくて……」
「泣くほどだなんて……ご期待に添えたようで何より。よしよし、私もヤチヨの歌聞いて泣いちゃう時あるし全然我慢しなくていいよ。ずっと聞きたかったんでしょ、このまま抱きしめて居てあげるから」
「良かったね九朗! かぐやも抱きしめてあげる!」
前に彩葉、背中にかぐやという形でサンドされ抱きしめられる。前世の曲でもう聞けないと思っていた曲を再現できる友人がいて、俺を一人にしないと言ってくれた才能の塊がいる。きっとそのうち前世の曲を聞きながら手に汗握る戦いが出来る。多分、今の俺はこの世界で一番幸せ者だと思う。
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『戦場』と呼ばれる『KASSEN』ステージ。そこを貸し切って俺は歌の収録に挑む。カメラも複数用意してあとで編集、動画として投稿する手筈だ。
「よろしくお願いしまーす」
アバターはいつもの装備、笠と武器は外しておく。マイクの前に立って周りの撮影スタッフに挨拶をする。深呼吸をして歌う準備をする。全ての準備が終わり、撮影が始まる。
俺が二曲目に選んだ歌。懐かしき戦場への思いを語る曲、『Day After Day』
「……」
:始まった。
:これオリ曲?
:聞いたことのない曲だ
:タイトルは『Day After Day』
「―――――――」
:!?
:!!!
:英語!?
:な、なんだって?
:日本語でおk
:でもなんかカッコいいぞ
「――――――――」
:来る日も来る日も私はそこにあり続ける?
:そこ=戦場やろなぁ
:すげぇ、すぐ和訳できる奴がいる。
:訳助かる。
:というか、渡り鴉側からは訳出てねぇんだ。
「――――――――」
:私は踏み出すことを恐れている。すまん、取り合えずの意訳だから全体通すと変わるかも。
:嘘こけ、なにも恐れてないだろ。
:なんか、良い表情で歌うなぁ。
:笑っているようで、悲しんでいるような気もする絶妙な塩梅
:なんかちょっと泣けてきた。
「――――――――」
:(戦場への?)道の途中に離れた場所に花を見つけた
ROKA:!!
黒羽カカ:!!
かぐや:!!
:有名ライバーわらわらで草
:花ってそういう意味かは分からんだろ!www
:これもう花畑だろ。
「―――――――」
いろP:帰るべき場所ね……
:いろPもよう見とる
:あれ? 渡り鴉って結構精神ヤバい?
:↑いつも『KASSEN』ばかりやってる奴がヤバくない訳ないだろ
:いやねなんかそっち方面じゃないというか……
:英語出来るヤツと出来ない奴で反応別れそうやな……。
「―――――――」
:!?
:!!
:泣いてるやんけ!
:でも歌唱にブレがないぞ!
:涙prpr
:涙を流しながら笑ってる
:なんていうか……すごく色っぽいです。
:大丈夫?
:なんか顔出ししてからだいぶ印象変わったよなぁ……
:やだ、かっこいい……
「―――――――」
:二番だ
:相変わらず英語ばっかりでなに言ってるか分かんねぇけどカッコいいのはわかる。
:それだけ理解してれば十分だろう
:声、綺麗だよなぁ。
:顔出す前にはそんなこと考えなかったのに不思議なもんだ
「――――――」
:でぇーいあふたーでーぇーい!
:サビ前のギターがマジで良い。
:俺も『KASSEN』始めようかな
:↑ようこそ、こちら側へ
:↑そんな君には渡り鴉が製作に関わっている『ガラシャの拳』という武器が初心者にはお勧めだ。
:象牙の手鎌も良いぞ
「――――――」
:盛り上がって来たな
:この曲は良い……『KASSEN』プレイヤーにはこの歌が必要だ
:多分、これ流してたらどんな試合も名試合になる気がする。
:ラスサビくるな……
:なんか渡り鴉服に手かけてない?
:なんだ、なんだ?
:お?
「――――――」
:渡り鴉が脱いだーーー!
忠犬オタ公:脱いだー!?
:上裸、上裸です!
:ヤクザ脱ぎじゃん!
黒羽カカ:いけません! そんな!渡り鴉さん!
かぐや:脱いだー!
まみまみ:また何やってんのコイツ……
「――――――」
いろP:アバターだと多少筋肉あるんだ。
:むむっ!?
:いろPさんもっと詳しく
:"アバターだと"? というか何故知っている?
:また鴉が燃えるわ
:せっかくのサビなのにコメントが気になりすぎる
:ROKAがコメントしなくなったな……
「――――――」
:そして日々、戦いは続いていく、的な訳なんだろうがお前のせいでコメント欄が戦場だよ!
:終わっちまったじゃねぇか!
:888888888
:いい曲だった。
:すげぇ綺麗な歌声だったし、興奮する曲だった!
リン:最高だったよ、お兄!
:8888
:渡り鴉のファンになります!
:俺も『KASSEN』始めます!
:あれだな、渡り鴉の"あの言葉"を意識させるいい曲だった。
:身体が闘争を求めてきたな
:やっぱそうだよな。
:感動した。こんな曲作れるならこれだけと言わずに色々歌って欲しい。
マイクから手を離して空を見上げる。何処までも続く仮想の青空が広がっていた。
「俺はどこまで飛べるのかね……」
なんて歌い終わったテンションに任せて変な事を口走ってしまった。後に判明したがこの呟きまで動画内に納められていて、物憂げな表情が受けたらしく多くのファンを獲得することになった。
まず、初めにご説明。
「――――――」の部分ですが元々は歌詞がそのまま入ってたんですけど楽曲コードが見つけられずこんな形になりました。楽曲コード分かり次第歌詞掲載バージョンに変更ですかね? 無いわけないと思うんですけどねぇ……。
・かぐやから九朗くんに向けられている感情は彩葉と同じレベル
・リンとかぐやは似た苦労をすることに
・帝の真似して九朗くんに色々仕込む乃依
・アバターかぐやの格好ってよく見るとヤバくない?
・『超』担当さんの才能は盛って良いって聞いた。
・九朗はネコ。
・名前を忘れられるイングウァードさん
・女の子二人にサンドされていること自体が幸せだと気づけない愚か者。
・芦花さんは九朗が上裸になった瞬間、処理落ちした。
・リンちゃんは最後まで"興奮して"音楽を聴いていたから最後にしかコメントをしていない。
番外編何みたい? 九朗くんの歌唱時反応は内定済み
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乃依と買い物
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帝とぶらりツクヨミ
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ブラックオニキスコラボライブ
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オタ公との初『SENGOKU』の話