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朝飯も終わり、広美は少し赤い顔をしながら大学へ、カヨコは職場に、かぐやと彩葉は自室に戻りヤチヨとのコラボライブに向けて練習中。この家に残っているのは俺とリンだけになった。
「今日はお兄配信お休みだよね」
「そうだな」
そう、今日は以前芦花と約束した買い物の日。朝ごはんも済ませて集合時間までは余裕もある。少しゆっくりして―――。いや、リンもいるし少しお願いしてみるか?
「買い物に行く。リン、大丈夫なら俺の格好を少し見繕って欲しい」
俺が持っている服の数は余り多くない。が俺自身が適当に選ぶよりもリンが組み合わせを考えてくれた方が見栄えは良くなるはず。美人な芦花の隣に立つんだ、身なりは整えないとな。
「か、買い物……。分かったすぐに選んであげる!」
リンは直ぐに俺の服が入ったタンスを開けに行った。……その間に寝ぐせなりなんなりどうにかしておくか。
「で、これがそうと。……うん、動きやすい」
「まあ、お兄のことだからお洒落というよりそっちを重視すると思ったよ。でも動きやすくてしっかりお洒落だから安心して!」
リンが用意した服に着替え鏡の前でくるりと回って感触を確かめる。水色のロングインナーに黒のワイドパンツ、そこに黒のドルマンスリーブシャツ。うん黒くてゆったりしているからとか、そんな理由でポチッとした気がする。こういう着こなしが正解なのか……。
「ありがとう、リン」
「うん、良かった。それじゃあ私も着替えてくるからちょっと待ってて」
リンも着替える? 部屋着から外出用に?
「リンもどこか出かけるのか?」
「え? 買い物に行くんじゃないの?」
「ん? それは行くが……ついてくるのか?」
「え?」
……なんか俺とリンの間ですれ違いが起きてそうだな。唖然とした表情をしていたリンが顎に手を当ててなにか考え始める。
「お兄、因みに何を買いに行くの?」
「……わからん」
芦花の買い物に付き合う約束で行先とかも彼女が決めているから俺はもどこ行くか分からないんだよね。
「分からない……つまり誰かの買い物について行くってこと?」
「……」
そういえば真実には彩葉やかぐやといった友人共には芦花との買い物のことを話すなと言われていたが……。ま、
「芦花の買い物に付き合うんだ。以前から約束していてな」
「成程……芦花さんと……あぁ、そりゃ服に気を付けるよね……別の女との買い物デートの為に必死に服を見繕ったのか私は……」
「……?」
なんかよく分からないが急に下向いてブツブツ言い出したぞ?
「大丈夫か?」
「うん、まぁ……大丈夫かな? ちょっと勝手に期待して、真実を知って、死にたくなるほど後悔してるだけ」
「あー……」
俺もあったなーそう言う時。
「死にたいとかあんまり簡単に言うなよ? 命は大切にな」
「私生活が殆ど死んでるお兄には言われたくない」
ははっ、それもそうか。にしてもちょっと不機嫌か?芦花と買い物に行ってどうしてリンが不機嫌になるんだ? んー、一体何故……。
あ、もしかしてだが……。
「お前も一緒に行きたかったのか?」
「え……」
お、当たりっぽい。
「だとしたら悪かったな。今日は芦花と二人という約束なんだ。また別の日でもいいか?」
「別の日なら一緒にいいの?」
「ああ、だから今日は留守番……いや、折角東京まで来てるんだ、一緒には無理だがどこか出かけても良い。好きな用に過ごしていてくれ」
「うん、うん! 分かった!」
お、元気になった。やっぱリンもお洒落やメイクに興味津々な女の子って訳だ。芦花って言ったら有名美容系インフルエンサーだからな。女子中学生からしたら憧れの的だろう。一緒にショッピングでもしたら色々お洒落について教えてくれるに違いない。今日は無理だがしっかりと芦花の予定を聞いておいてやるか。
「じゃ、そろそろ行ってくる」
「いってらっしゃい!」
すっかり機嫌も直ってるな、ヨシ。 俺は家から出て芦花との待ち合わせ場所に向かうのだった。
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「……少し早く着いたな。……ん?」
俺は今日買い物する予定のショッピングモールの集合場所に来ていた。待ち合わせ時間まで少し余裕があったがそこには既に芦花の姿があった。
あれ? 時間は……あってるな。まだ少し早いが……いつから芦花はあそこに居たんだ? 歩くスピードを速めて芦花の元に向かう。
「おはよう、芦花。時間まで随分余裕があるが?」
「! おはよう九朗。そう言う九朗もちょっと早くない?」
「少しでも芦花と一緒にいたいから、自然と早めに家を出ちゃったみたい」
「ッッ! そ、そうなんだ……。そう思ってくれてるんだ……」
一瞬驚いた後に笑顔になって笑う芦花。よしよし、笑ってくれてるってことはやっぱりカヨコから送られてきた『ASMR配信用練習台本』の台詞ってやっぱ需要あるんだな……。以前雷と話したとき、雷も乃依にセリフ台本作ってもらってるって言ってたし、台本って凄いんだな……。
「それじゃあ、少し早いけど買い物デート、始めちゃおうか」
「で、デート!?」
「ん? 違ったの?」
「い、いゃ、その……違くないよ……」
うんうん。順調、順調。で、確かこの後は……。あ、そうだった! 俺は芦花に向かって手を差し伸べる。
「芦花」
「ど、どうしたの九朗?」
「離れ離れになると危ないから手、繋ごう?」
「そ、そ、そうだね」
恐る恐る俺の手に触れてきた芦花の手をこちらからしっかりと握る。そして俺たちは夏休みで人の多い、ショッピングモールの中を歩き出す。
「……っぅ」
「九朗、大丈夫?」
「ん、あ、あぁ。大丈夫」
こ、混んでる! そりゃ、夏休みだし、さっきも人多いなぁー、とは思ってたけどここまで多いのか!? う、ちょっと気持ち悪い……。ひ、人酔いが……。普段の買い物は通販だし、ツクヨミの混雑って仮想だから圧迫感を感じないから、ギャップが……。でも、芦花はなんだか楽しそうだし、約束したし、今更『やっぱ無理』なんてしたくない。大切な友人が笑ってるんだ、頑張れよ、俺……。
「それで? 何を買いに行くんだ?」
「最近このモールの中に気になるショップがいくつかできたから、それを見たいの。それで男の子目線も欲しいから九朗の意見を聞かせて欲しいなーって」
それは……やっぱり俺でない方が良いのでは? 確かに俺はツクヨミ内ではそれなりに衣装を持っているがあれらは全て再現品。俺自身がデザインしたものじゃない。センスが良いのはフロムのデザイナーさんたちだ。それに俺は女の服やらアクセサリーには分からんし、真実と付き合っている瑛斗の方が見る目はありそうなもんだが……。
『センスがどうこうじゃなくて、しっかり九朗が良いと思ったものを芦花に言ってあげること、良い?!』
真実の言葉が頭をよぎる。
「まぁ、俺の意見なんかで良ければ……」
「うん。九朗の意見が良いんだ!」
そうしてついたレディース服の店る芦花は先ほどから真剣な目で服を選んでいる。……正直芦花は美人だしどれ来ても似合う気がする。
「ねぇ、九朗。これどっちが良いと思う?」
「ん? ……んー」
そう言って芦花が見せてきたのはなんか……ガーリー? とか言われてた系統の白いブラウスと膝丈の桃色スカートとシンプルで清楚で大人っぽい水色のワンピース。どっちも似合うと思うけどなぁ……。確かこういう時の台詞は―――。
……いや、違う気がする。なんか、こう……台詞で返しちゃダメ、だよな? ちゃんと自分の言葉で……。いや、でも俺の言葉で芦花は笑ってくれるのか? さっきも笑ってたしファンも喜んでくれるし台本の台詞の方が良いんじゃないか? でも、でも……俺が良いと思った方を俺の言葉で伝えるべき……なんだよな、真実?
「ま、まず前提として芦花にはどっちも似合うと思う。でも俺にとって芦花って可愛いというより、綺麗な人って感じなんだ。あ、芦花が可愛くない訳じゃないから」
「うん」
「だから俺はそっちのワンピース来ている芦花の方が好き……かな」
「そっか! じゃあワンピースの方買ってくるね」
せ、正解したのか? いや、そもそも正解なんてあるのか? ともかく芦花は笑顔でワンピースを買いにレジへと向かって行った。
「ん?」
芦花がレジに向かっている間、店の外で待っているとふと隣のテナントの商品が眼に止まる。傍に寄ってみると色々なアクセサリーが置かれていた。ピアス、ブレスレット、指輪に簪まであるのか……品揃え抜群だな。
音符の付いたネックレス、彩葉だな。三日月の髪飾り、かぐやかな。リップスティック型のアクセが付いたピアス、芦花だろ。赤い簪、カヨコに似合うだろう。首輪のようなデザインのチョーカー、広美。小さな鈴の付いたイヤリング、リンだろう。
「……ふっ」
なんとなく眺めていただけなのに無意識の内に誰がどれに似合うのか想像してしまった。いつも『KASSEN』中心に物事を考えていた俺がこんなことを想像するなんてな。
「……」
芦花はまだレジにいるな。
「すいません、いくつかプレゼント用に欲しいんですけど」
俺はアクセサリーショップの店員さんに声をかける。俺の言葉に店員さんはにっこり笑って対応してくれた。そして商品を受け取った後、芦花も丁度店の外にやってきていたので合流した。
「ごめん、待たせちゃった?」
「いや、そんなことは無い、それで次はどこに行く?」
「うーんと……こっちかな!」
そうして俺達は再び移動をして何軒かの店で同じように芦花に問われて俺は自分の好みを答えていった。
「いやー、沢山回ったね。九朗、付き合ってくれてありがと」
「あぁ、前から約束してたしな、気にする必要なんかない」
芦花の家の前。流石に買い物袋をそれなりに抱えた芦花を一人で家まで帰せるわけにはいかずいくつかの袋を持って芦花を家まで送り届けた。正直量が量なのできつかったがそこは意地でどうにか持ちこたえた。そして芦花の家に付き玄関に荷物を置いてそのまま少し話し込んでいる。
途中芦花の両親や弟くんが顔を出して挨拶もした。
……にしても芦花の弟くんには嫌われてしまったのだろうか? 会ったのは初めてだから出来るだけ笑顔を意識して手を振ってあげたが物凄く驚いた顔をしたあとリビングの方に走って行ってしまった。まぁ、小学生高学年くらいだろうし姉が連れてきた男子なんて気まずくてしょうがないか。
芦花の両親は家に上がっていけばと言ったが無理だ。多分ここで椅子に座ったら疲れからマジで動けなくなって芦花の家にお泊りすることになる。そのことを伝えれば芦花の両親が『布団は芦花の部屋に敷いておこうか?』といって芦花が顔を真っ赤にして両親をリビングの方に押し込んでしまった。
「確かにリアルの身体は弱いが流石に一人じゃ寝れないとかそういうレベルじゃないぞ」
そこまで行ったら、幼児か老人だろうに。
「いや、パパとママが言ったのはそう言うじゃな―――はぁ。ま、九朗だししょうがないか」
「ん?」
え、急に馬鹿にされたか今?
「なんでもないよ」
「そうか? ならそろそろ俺は帰る。だがその前に……芦花」
「どうしたの九朗?」
「これを」
そう言って俺は買っておいた芦花に送るようのアクセサリーを取り出して渡す。
「これ……」
「芦花に似合うっていうか、芦花っぽいと一目見て思って買ったんだ。受け取ってくれると嬉しい」
「……」
あ、あれ? なんか芦花が固まった? やっぱり美容系インフルエンサーにアクセサリー送るのは俺のセンスだとダメだったか?
「九朗……これ付けてくれる?」
「え? お、俺が?」
芦花は手早く今つけているピアスを外して俺に買ったピアスをつけるようにお願いしてくる。
「や、やり方とか……」
「大丈夫、私が教えるから。ほら、鏡の方きて」
玄関にある姿見の前に芦花がタチ、俺がその後ろに立つ。
「ほら。右耳のここ。穴開いてるでしょ、これがピアスホール。ここにポスト……分かりやすく言うとピンを通すの。少しだけ耳たぶを下に引っ張りながらつけるとやりやすいから。お願い、九朗」
「お、おぅ……」
分かりやすいように髪を左側に纏めてくれる芦花。俺に対して右耳から首筋を大きく見せている芦花。
「?」
ふわりと感じる良い匂いを感じて、視線が芦花の首筋に行ってしまう。今までも水着の時などで芦花の首筋とか見た事あったはずで、その時は何にもなかったはずなのにどうしてだろう? なんか、ぞわぞわと変な感じがする……。ダメださっさと終わらせよう。なにか変な気分になって来る。
けれど芦花に怪我はさせないようにゆっくりと彼女の耳たぶを触り少し引っ張る。
「んッ」
「痛くはないか?」
「大丈夫……。そのままゆっくりお願い」
ゆっくりと棒部分を置くまで差し込み、反対側からキャッチをつける。つ、付いた? ついたよな、これで。
「ありがと」
そう言って芦花はこちらに向き直り寄せていた髪を手櫛で直してこちらに向き直る。
「どう?」
「あぁ、やっぱりよく似合ってる。とても―――」
こちらに振り返った芦花の耳に俺が送ったピアスがキラリと輝く。そしてそれに負けないぐらい眩しい笑顔を浮かべる芦花。その笑顔と先ほどの首筋の光景が何故か脳内に強く残り、心臓の鼓動が早くなる。そっと芦花の頬に手を添える。
「あ、あれ九朗?」
困惑しながら俺の手を拒絶しない芦花。身体が熱い、甘い匂いがする、思考に靄が掛かる。頬に添えていたはずの手は無意識の内に移動して親指で彼女の唇をなぞっていた。
そしてその柔らかい唇に吸い寄せられて―――鏡に映った自分の姿が目に入る。
「綺れ―――ッ!?」
ッッ!? まて、待て待て待て!? 背筋が一気に怖りつく。そして自分が芦花に何をしようとしているのかを理解して一気に彼女から離れる。
「九朗? って! 大丈夫!? 顔、凄く青いよ!?」
「……あ、あぁ」
なんで、なんてものが……。今まで一回も……無かったのに……。
「やっぱり無理させちゃってた?」
「いや、それは違う。本当に違う、芦花のせいなんかじゃない」
先ほどまでの笑顔から一転泣きそうな表情の芦花を慰めながら再び鏡の中を見る。
そこには
「ただまぁ、いつもより動いたのは確かだし、今日は帰って休むよ。渡したいものも渡せたしね」
「……本当に大丈夫? 彩葉とか呼ぶ?」
「おいおい、それこそ止めてくれ。彩葉たちはあと数日でヤチヨとのコラボライブだ。練習の邪魔はしたくない。芦花もライブ楽しみだろ?」
「それはそうだけど……」
心配そうな芦花に無理矢理笑顔を見せて安心させる。
「だろ? 心配するな。ちゃんと帰れるさ、家に着いたら連絡するよ。な?」
「うん……気を付けて帰ってね。本当に」
「ああ、じゃ、また」
「……またね」
俺はそういって芦花の家を後にする。大丈夫、大丈夫なんだ俺は。
帰ったら『KASSEN』しまくろう。配信ではないがそれなりに人も集まると思うし『KASSEN』しまくればこの薄気味悪い感覚も消える。ライブが終わったらかぐやにも相手してもらうのも良いかもしれない。そうすれば気分も晴れる!
彩葉、かぐやとヤチヨとのコラボライブはあと数日に迫っていた。
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『30かぁ……そこまで生きてられるかなぁ?』
「はぁ~、またそんな事言って。そんなんだから九朗はまた彩葉やみんなに怒られることになるんだよ……」
私はある配信の一部分をくり返し再生してその言葉を聞く。……変わらない、何度聞いても同じ言葉。どれだけ聞いても
どこで間違えた。どこが違う、何が違う、これから先にどう影響が出る?
「嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だよ! 九朗が……九朗が死んじゃうなんて嫌だ! 私ね強くなったんだよ! 今度は絶対九朗を一人にしない! 渡したいものだってあるの! だから……だから……ッ!」
渡したいと思いながらも踏ん切りがつかずずっと仕舞ったままの一振りの刀を握りしめる。
『30かぁ……そこまでは生きてられるか。40は分からんけど』
私が記憶している言葉が脳裏をよぎる。その言葉を聞いた後のみんなの怒り様と詰められて困惑する表情の九朗が鮮明に思い出される。今でも私の足元を照らしてくれる思い出の一つだ。全員の顔一つ一つをしっかりと思い出せる。そう全員……の……。まって、あの時のヤチヨの顔は……。
「なにかを悲しんでた……?」
怒るでもなく、ただ悲しんでいた。そう、丁度
……嘘、だよね? ある恐ろしい憶測が頭をよぎってしまった。
「反比例……してる……?」
・芦花芦花☆デートフィーバー
・デートに行く服装を他の女子に選ばせるとかいう最悪ムーヴの九朗くん。
・デート中に他の女へのプレゼントを買う九朗くん。
・芦花の弟はこの後渡り鴉や乃依の大ファンになった。
・同棲生活を得て人間らしくなってきた九朗くん、芦花の色香に困惑。
・んじゃ捨ててきたものと向き合いましょうねー。
因みに何がとは言いませんが基本的に(分かり易くカヨコはカカに広美はオタ公表記)
彩×九 かぐ×九 九×芦 カカ×九 オタ×九 リン×九(リバ有)
と芦花さんはレア属性持ちなので持ち味を活かしてほしいですね。
番外編何みたい? 九朗くんの歌唱時反応は内定済み
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オタ公との初『SENGOKU』の話