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『昨日午後十時頃から東京都立川市全域にて、原因不明の通信障害が発生しました。市全域の通信機器やテレビモニタ、公共施設のサイネージ広告などの広範囲で同時多発的に発生した模様です。警視庁によりますと、特定団体や企業のPRである可能性は低く―――』
「……なにも分からんか」
若干イラつきを抑えきれずテーブルの上にあったリモコンのボタンを叩くように押してテレビの画面を消す。
……指が痛い。
あの謎の襲撃を受けたコラボライブの翌朝。カヨコも広美も出かけた後、俺は一人ソファに座りながらスマコンやテレビを使い昨日の出来事について調べていた。分かったことはいくつかある。
最初にステージに現れていた灯篭ども。あいつらはツクヨミの外、リアルにもいたらしい。立川市周辺でスマコンのAR機能を付けていた人たちが電車の中やエスカレーターを使っている灯篭どもを見た、という投稿がSNS上でいくつかあった。
次にステージ上に現れた灯篭ども。あれはライブ会場周辺にいたツクヨミユーザーのアバターを乗っ取るような形で出現したらしい。アバターを乗っ取られた人たちは数十分スマコンが使えなくなったそうだが現在はなにも問題ないそうだ。
次、奴らの正体。まったくの不明。彩葉から昨日聞いた話だがヤチヨはやつらを『やんちゃっ子の悪戯』と言ったそうだ。ただ彩葉の直感らしいがヤチヨは嘘をついているように感じたらしい。
最後、2030/09/12について。これは検索したらすぐに分かった。これは……次に満月がやって来る日付だった。
これらに俺の考えや、俺だけが気が付いている事実を混ぜて整理し、まとめる。
「つまり、奴等は月からかぐやを連れ戻しにやって来た月人、とでもいうべき存在。今回の襲撃は予告か何かのつもりで本命は9月12日にやって来る。ヤチヨはその正体について知っているが彩葉達には嘘をついて何かを隠している。そしてヤチヨとはかぐやである」
……わ、分からん! 特に最後の『ヤチヨとはかぐやである』がノイズ過ぎる! どういうことだ? 同一存在だと思うんだが、二人の知識量というか、思考パターンというか物事へのとらえ方やスタンスが違いすぎる。
もし二人が別人ならヤチヨの方はかぐやより以前に地球にやって来た月人、ということで説明がつくのだが、同一人物なんだよな……。
「かぐやを主人格として考えると、かぐやが地球に訪れる準備のために切り離した人格の一部がヤチヨ? だとしたらヤチヨに対して嫉妬したり、指揮権限がなかったり、そもそもヤチヨのことを完全に他人として認識してるのが変だな……。
ヤチヨを主人格として考えると……本来月に帰るべきなのはヤチヨだけどそれを避けるデコイとしてかぐやを生み出した、みたいな感じか? だとするとかぐやがヤチヨのことを知らなかったのも分かるし、腕前が似てるのはヤチヨのデッドコピーだからってことか……?」
そうなるとヤチヨがかなり酷なことをしている訳だが……。
「そうは……思えないよな……」
或いはそう、思いたくないか。ふっ、こんなことを考えてるだなんて彩葉に知られたらもの凄く怒られそうだ。
……彩葉はもう夏季講習に出かけた後か。朝食の時も一見元気だったけど少し違和感があったし、かぐやの様子でも見に行くか。
俺はソファから立ち上がり普段彩葉とかぐやが生活している部屋へと向かう。
互いの部屋の合鍵を持っているため、部屋へスムーズには入れた。
「かぐや、おじゃます――――」
「あ、九朗! どうしたの?」
かぐやのいるリビングに入る。かぐやはキッチンで何やら大きな魚と格闘している。朝食の時に言っていた今日の料理配信用に下準備をしているのだろう。だか、今の俺はそれどころでは無かった。リビングに入った瞬間背筋にゾワリとした昨日も感じた悪寒が走ったのだ。この感覚……灯篭どもだ。どこだ? どこにいる!? かぐやの近く……いや、違う少し離れた位置……。
「……」
「く、九朗? どうしたの顔怖いよ?」
目の情報に囚われるな、もっと獣的な感覚に身を委ねて……。窓際1、ソファ1、階段脇1、計3体!
「下がれかぐや!」
「え?」
リビング脇の小棚に置かれた共用の文房具入れからカッターナイフを取り出し気配のある場所を切りつける。手ごたえがまるでない。リアルの俺が弱すぎるのが問題なのか、それともツクヨミでなければ干渉できないのか。
「九朗……見えてるの?」
俺の行動にかぐやがそう驚きの表情を浮かべて聞いてきた。……『見えてるの?』か。
「いや、見えてはない。ただ奴らがいる、そう俺の感覚が言ってたからな。その言い分じゃ正解だったみたいだな」
「……ほんと、九朗は戦う事になると凄いね。かぐやもびっくりしちゃう」
「俺の感覚は鋭いからな」
こちとら何年『KASSEN』最強の称号を欲しいままにしていると思ってる。……気配が消えた。仕留められなかったみたいだが、立ち去らせることには成功したらしい。
「……それは嘘、九朗は鈍感だもん」
「はぁ?」
鈍感? 俺が……?
「その顔、ほんとに分かってないんだね。はあぁ~、みんなも大変だな~」
「……」
かぐやが何をもって大変だなと言っているのかは分からなかったが、今言った"みんな"の言い方は……かぐや自身を含めていない言い方だった。どうしてもその言い方が気に入らずスッとかぐやに近づく。
「……かぐやは大変になってくれないのか?」
「うぇ!? そ、その聞き方はズルい。……そんな寂しそうな表情しないでよ……。うぅーーーーん……もう! 大変だよ! かぐやも九朗のせいでとっても大変なんだからね! ……ほんとに、大変、なんだから……」
ぐぇ。
近づいたまでは良かったが思いっきりかぐやに抱きしめられる。思ったより力が強い。しかし、そうか……初めて会った時はあんな小さな赤ん坊がここまで大きくなったのか。……うん、これが感慨深いというヤツか。
「ねぇ、九朗」
「ん?」
抱き着いて俺の胸に顔を埋めていたかぐやが顔を上に向けて、下を見ていた俺と目線が会う。リビングで抱き合いながらおでこをくっつける。
「かぐやが帰っちゃったら寂しい?」
「―――――」
それは―――。聞きたくなかった。聞くべきだとは分かっていてもどうしても怖くて俺から言い出せなかった質問。それがかぐやの方から投げかけられた。
まただ、また俺は失敗した。彩葉が熱を出したときと同じ、俺は今の関係が壊れるのが怖くて一歩を踏み出せずかぐやに彩葉の事を任せた。そして今、俺は再び恐れてかぐやの方から口火を切らせてしまった。
「やっぱりアレは迎えなのか……?」
「……うん」
おまけに"寂しい"と一言話すこともできず、かぐやの質問に質問で返す形になってしまった。ああ、もぅ本当に俺は……。
「次の満月の夜、お迎えが来るの」
「ここにか?」
「ううん、多分ツクヨミに来る。仮想の世界って月ととっても近いから」
「逃げられない、のか? ツクヨミにログインしないとか」
かぐやを抱きしめる手に力が入る。
「うん。ツクヨミにログインしなくても彼らはやって来る。ツクヨミに比べて大変ってだけでリアルに干渉できない訳じゃないしね」
「そぅ、か……。それ彩葉には……?」
「まだ伝えてない。でも近いうちに伝えないとね……」
寂しそうなかぐやの表情が今まで見てきたかぐやの元気な顔と違いすぎて俺は見て居られなくなり俯いてしまう。
「それでね、九朗」
項垂れる俺を慰めるようにかぐやは下から俺の顔に手を添えて自分と目を合わせる。
「かぐや、九朗に贈り物がしたいの。本当は彩葉と九朗にこのブレスレット上げたいんだけど、これ一個しかないから……これ以外になるけど……。九朗、何が欲しい?」
スルスルと俺の顔と背中にあったかぐやの手が上に移動して俺の首裏で交差するような形になる。
「私……何でもあげられるよ?」
かぐやはこちらを見上げながら目を細め、少しだけ口角を上げたミステリアス……或いは小悪魔のような表情をしながらそう囁く。
「贈り物……」
かぐやからの贈り物……。『月』の『姫』からの贈り物と言えば……。
「暗月の大剣……?」
「え?」
あ。
「いや、ゴメン。ちょっと無意識で出た。待て、少し考える……」
欲しいモノ、欲しいモノ……。
「因みに、その暗月? の剣ってなんなの?」
かぐやが不思議そうに質問してくる。……なんかちょっと不貞腐れてないか?
「あー、暗月の大剣ってのは……まぁ、あれだ俺が使う『月光』あるだろ? アレが柔らかな緑の月の光なのに対して暗月は暗く冷たい青色の光を宿した色違いバージョン、みたいなものだ……多分」
そもそもこの世界に月光剣は俺の作ったあの一本しかないしこの説明でもこの世界なら問題はないはず。
「その俺の好きな物語の中で『月』の魔術を扱う『姫』様が自分の伴侶に送るっていう伝説の武器なんだ。まぁ、月と姫と贈り物って単語で思わず思い浮かんじゃってさ……」
「伴侶に送る……」
俺の説明にかぐやは目を丸くしていた。いや、そうだよな、いくら親しいとはいえいきなり伴侶に送る剣とか言ったら意味わかんないよな……。そういうのはちゃんと好きな男に送るべきだし……。
「その……月光ってどうやって作ったの?」
「え?」
「九朗はそれが欲しいんでしょ? だからかぐやが送ってあげる」
なんか分からんがかぐやが異常にやる気を出してきた? というか機嫌も直ったか? ……けどなぁ。
「止めておけ、月光の色を変えればいい話だがそもそも月光の作成難易度がバカ高い。今からじゃとても次の満月に間に合わない」
「えぇーーー! それじゃあ、九朗に何も送れないじゃん! やーだーー! 九朗に贈り物するのーー!
ああ、この我儘っぷり、かぐやだ。いつもの様な元気なかぐやが見れて少し安心する。
「なぁ、かぐや。俺に贈り物したい、ってなら最高の物があるのに忘れたのか?」
「……もしかして?」
俺はポッケの中からスマコンケースとコントローラーを取り出す。
「『KASSEN』だ」
「変わらないなぁ、九朗は」
そう言いながらも俺の首から手を離し、自身のコントローラーをテレビ脇の棚から取り出すかぐや。
「準備良いじゃないか」
「んー、ちょっとね。九朗のことだからこうなるんだろうなーとは思ってた。だって――――
「「身体は闘争を求める。だよね(からな)」」
そうして俺たちはかぐやの料理配信の時間まで二人で『KASSEN』で遊びまくった。残された時間は少ない。互いに出し惜しみが無いように、俺の全てを教えるように、教わった全てを出し切るように……。
楽しかった、とても楽しい闘争だった。
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かぐやとの夢のような時間が終わり俺は自室に戻っていた。少し甘ったるい匂いがするのは数日前までこの部屋で寝泊まりしていたリンのせいだろう。
一人の自室で考えふける。
「俺はどうしたい?」
かぐやが帰った後、俺に何が残る? ただこれからもずっと『KASSEN』をし続けるのか? かぐやという極上の獲物を知った後に? 満たされることが永遠にない戦いを続ける? ……なりたい職業も、叶えたい夢も全部捨てて『KASSEN』に全てを捧げた後の俺が『KASSEN』でも満たされないとしたら、何が残る?
「いっそ終活でも始めようかな」
でも、そしたらこの家はどうなる? カカとオタ公は? 芦花は? かぐやが帰った後、隣で一人になる彩葉は? 嫌だ、あいつらに迷惑かけたくない。
「俺は……俺は皆と一緒にいたい」
みんなで食べる食事が好きだ。みんなでツクヨミに行くのが好きだ。皆でその日あった下らない出来事を言い合って笑い合うのが好きだ。
いつも中心にはかぐやがいた。かぐやがやってきてすべてが始まり、かぐやの力が人を惹きつけた。かぐやがいればみんな笑顔になる。そう、かぐやが居るからみんなここに居る。
ならばやることは決まった。迎えが来るなら追い返せばいい。アイツらは血が出るんだ……血が出るなら殺せるはずだ。
「……全部、全部、殺せばいい。全部燃やせばいい。何もかもを焼き尽くしてやる……真っ黒に……」
・リモコンのボタンに負ける九朗くん
・九朗くんスマコンなしに感覚だけで月人を察知
・彩葉より先にかぐやの帰還を確実な形で知ってしまう九朗くん
・「私……何でもあげられるよ?」かぐや、色々"覚悟"して言い放った渾身の一言。
・この時のかぐやの格好、うなじ見せポニーテール、へそ出し胸元ゆるTシャツ、ドロストショートパンツです。おまけに二人っきりです。
・かぐや『暗月』に関する知識を得る
・九朗から見れば『いつも中心にはかぐやがいた』
・黒い鳥、飛翔
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