「この際、ふじゅ~に糸目はつけない。なんとしても9月10までに"アレ"を完成させろ」
『簡単に言ってくれるがなぁ……。いくら金があっても技術的な問題が山積みなんだ! 六枚の回転刃だけでもえげつないデータ量喰うのに、モーションが複雑すぎんだよ!』
「それをどうにかするのがお前たち【火薬庫】だろう?」
自室で覚悟を決めた俺はツクヨミにログインして、クリエイター集団【火薬庫】に連絡を取っていた。
クリエイター集団【火薬庫】俺がフロムの武器再現を依頼したクリエイターたちの中でも選りすぐりの腕利きを集め俺が出資して立ち上げさせたグループだ。シンプルで実用性のあるものから全く効率的ではないロマンの塊までどんな武器も作れるエキスパートたち。俺の武器はだいたい火薬庫製だ。
出資こそしているが特に運営に関しては口出ししておらず、俺が依頼した時に優先して作ってもらえればそれでいい、という契約をしている。
『つまらないものは、それだけでよい武器ではあり得ない』をモットーとして日々活動している。最近は物づくり系ライバーグループとしてもそれなりに人気が出ているそうだ。いや、お前らいつの間にデビューしてたんだよ。
『いっそ、刃を3つにして各部の排気口の数も少なくしてデータ量を減らすのはどうだ? それなら間に合うはずだ』
「ダメだ。刃は6つ。それにデザインに変更はない」
『おいおい、マジかよ。この排気口とかなくても全く問題ないだろう?』
「
『バーカ』
俺の言葉に火薬庫のリーダー的存在安東礼の罵倒が飛んでくる。だがその声はどこか喜色が感じられた。
『あぁ、そうだな。なくてもいい、けどそれを削っちまったら
「そう言うことだ。俺の伝手で二人、優秀なクリエイターをそっちに送る」
『四人だ』
「……分かった四人送る。いけるな?」
『ウワッハッハッ、勿論だ。俺の太腕がなるってもんさ! だが本気でやるのか? お前が作れと言えば俺は作ろう。だがな"コイツ"のデータ量は半端じゃねぇ。こんなものを間近で描写、処理し続けたら……』
言いよどむとは安東礼らしくない。
「なにが言いたい? はっきり言え」
『スマコンが異常発熱して……お前の眼が焼けるぞ』
……あぁ、そのことか。
「それが何か問題?」
目が焼ければ今までのように『KASSEN』は出来なくなる。いや、もしかしたら一生出来ないかも……。
ははは、おめでとう彩葉。いつかお前は俺に『KASSEN』以外の楽しい事、『KASSEN』以上に大事な物を教えると言っていたが本当に成し遂げるとは。
それに最後の『KASSEN』相手がかぐや姫の迎えに来た月の奴等とは……良いラスボスじゃないか。
『はぁ!? いや、お前、俺の言葉ちゃんと理解してるか!?』
「その力は元々代償があるものだ。そこまで再現できるとは流石の腕だな安東礼」
素晴らしい再現度だ。腕を切り飛ばせないのは残念だがしっかりと代わりの代償が用意されてるとは。
『……何がお前をそこまでさせた?』
何が、か……。立ち止まり考える。
「全部だ。この世界の全部が、こうさせたんだ」
そこで通話を切る。SNSを確認すれば大見出しはかぐやのライバー引退と卒業ライブの速報が流れる。……そうか、彩葉とはちゃんと話せたか。コメントは見ればこれでもかと沸騰していた。驚き、悲しみの声が溢れ、何も知らないくせに『真相を話します』とのたまうアホに陰謀論者に考察勢まで現れインターネット上は阿鼻叫喚になっていた。
馬鹿どもが。覆してやる。ぶっ壊してやる。燃やしてやる。かぐやに引退なんてさせるものか、月になんて帰させるものか。
「大丈夫、俺がハッピーエンドまで連れて行ってやる」
────────────────────────
「く、く、九朗くん!」
「九朗さん!」
「カヨコ、広美。二人とも落ち着け」
必要な人材、素材、ふじゅ~を【火薬庫】へ送った後、俺はツクヨミからログアウトして先ほどから僅かに騒がしいリビングへと向かう。すると二人とも俺の姿を見た瞬間物凄い勢いでこちらに駆け寄ってくる。
「お、落ち着いてられませんよ! かぐやちゃん一体どうしたんですかぁ~~~……」
かぐやのことを初期から推していた広美はもうほぼほぼ涙目でこちらに縋って来る。
「落ち着いて……。えぇ、私は落ち着いていますよ。だからこうして隣の部屋に突撃せずに踏みとどまってるんですから……!」
なるほどカヨコの言い分も分かる。互いに合鍵も持っている都合上二人がかぐやと彩葉のいる部屋に突撃することは容易だ。それをせずにこの部屋のリビングであーでもない、こーでもないと喋っていただけなのは大分抑えていた方なのかもしれない。
「まぁ、あれだ。かぐやは元々家出少女なんだ。だから迎えが来てしまったって感じだよ」
「家出少女って……」
「確かに普通の少女だとは思っていませんでしたが……」
俺の言葉に二人が黙り込む。流石に家の話題はデリケートだと思って踏み込み切れないのだろう。実際は月だ、宇宙人だが絡んでくるもの凄く複雑怪奇な話なんだが……。
かぐやのことはもちろん大事だが丁度二人が揃っているし、俺はどうしても聞きたいことを二人に質問してみる。
「なぁ二人とも……」
「……?」
「どうかしましたか?」
「もし、俺が『KASSEN』を辞めるって言っても俺はみんなの傍にいても良いか?」
どうしても不安に思っていたこと。俺が『KASSEN』を出来なくなったとして、俺はみんなと一緒にいて良いのだろうか? 俺はかぐやのように人を夢中にさせられない。俺は彩葉のように天才じゃない。俺は芦花のように綺麗じゃない。俺はリンのように優しくない。俺はカヨコのように人を魅了出来ない。俺は広美のように人を盛り上げられない。ただ『KASSEN』が強いだけの人。
「お前らはみんな凄い人だけど、俺はただ『KASSEN』が強いだけだから。『KASSEN』止めたら俺の価値なんて―――」
「そんなことない!」
「もぺっ!?」
途中で広美に正面から抱きしめられる。む、胸で息が……。
「わ、渡り鴉さんまで引退宣言ですか!? それは一人のライバーとして実況者として寂しいですけど、それだけで九朗くんがそばにいちゃダメな訳ないじゃないですか!」
「あぁ、本当に九朗さんは『鳥籠』を渡り鴉さんを倒す為の集団だと思ってるんですね。……仕方がない人」
更にカヨコが隣にやってきて俺の手をとってじっとりと指を絡めて手を繋いでくる。というか『鳥籠』ってそういう集団だって聞いてたけど……違うのか?
「九朗さんがどうしてそんな事を言い出したのかは分かりませんが私も広美さんも、芦花さんもリンちゃんも彩葉さんもかぐやさんも決して貴方の傍を離れません。それだけは絶対です」
そう、なのか……。
「ありがとう」
「……私たちもですが九朗さんも相当ショックを受けてるみたいですね。……今日、三人で寝ましょうか」
「うぇ!? カヨコさん!?」
カヨコの提案に広美が驚愕する。
「リビングに布団を敷けば川の字になって寝れるでしょう。それにこんな状態の九朗さんを一人にするとどうなるか分かりませんから」
「そ、それはそうですけど……」
「本当にただ寝るだけですよ。それに将来的にはもっと大人数で寝ることになるんです。覚悟を決めてください広美さん」
「ぅ、ぅぅ、わ、分かりました! ヤッてやりますよ!」
「ですから、普通に寝るだけですって」
なんていってるのか後半は分からなかったが、そっか。二人も、皆も一緒にいてくれるのか。なら、もう大丈夫。俺は全力で戦える。
その日は不安が解消したこともあり今まで以上にぐっすりと眠ることが出来た。
────────────────────────
「かぁ~~、かぐやちゃんが本当に月のプリンセスだったとは……分かるっ!」
「かぐやちゃんが本物のかぐや姫……」
「なんだか最近かぐやちゃんに驚かされてばかりですね」
「
新学期が始まり、再び学校へ登校するようになったその日の夜。彩葉から呼び出しのメールがあった。そして指定されたミーティングルームに入るとそこには彩葉をはじめ、真実、芦花、カカ、オタ公、リン、帝アキラ、乃依、雷、そしてヤチヨまでいた。一体何を始めるつもりなのだろうと考えていると彩葉はかぐやの秘密を説明し始めた。
七色に光る電柱から産まれた事、月から来た宇宙人であること、次の満月に迎えが来ること。その全てを説明した。俺は途中から聞く側から彩葉と共に説明する側に回り、ときおりスマコンで撮っていたかぐやの成長記録を証拠として出す。
「電柱から生まれた……わかるっ!」
「何が分かるんですか、帝さん……」
少し帝のテンションがおかしい気がする。リンも若干引き気味だ。さっきから『分かる』としか言ってなくないか? ……もしかしてアレか? 妹に相談されて内心テンション上がってるのか?
「ふふふ、実はね彩葉。私と真実はかぐやちゃんの秘密、もう知ってるんだ」
「知ってまーす♪」
「え!? いつから? というか誰から!?」
「あー、すまない。俺が話してた。あの……かぐやが始めて芦花と真実の前に現れたパンケーキ屋で。覚えてるか?」
俺がそう言うと彩葉は額に手を当てる。
「あの時か……」
「正直俺と彩葉だけでかぐやを御するのは無理だと思ったからな。手伝いをお願いしてたんだ」
「なるほど……。まぁ、実際助かったし、今は説教どころじゃないし別にいいや」
え、俺説教されるの? え、二人の秘密をバラしたんだから当然……。はぁ……そうか。
「ヤチヨ、かぐやを守る事って出来ないかな」
彩葉はヤチヨの方を見ながらそう問いかける。しかしヤチヨは申し訳なさそうな表情を浮かべる。
「調べてみたんだけど、結局どこからアクセスしてるかも分からなかったんだよねぇ。ごめん」
「じゃあ、ライブも中止して、かぐやちゃんが一生ここにログインしなければ?」
「無理だ。かぐやから聞いたが奴等、ツクヨミよりも手間がかかるだけで現実にもやってこれるらしい」
芦花のアイディアに俺はかぐやから聞いた答えを返す。
「だから俺たちが取るべき方法は一つ」
「相手がツクヨミに来るってなら、ツクヨミで追い払えば良い。そういうことだろ渡り鴉」
俺の言葉を途中から引き継いで帝が笑いながらそう言い放つ。やっぱり一流だ、勘も良い。
「彩葉もなんて顔してんだよ。その為に俺達黒鬼を呼んだんだろ? 任せとけって、宇宙人だろうがなんだろうが、ツクヨミに入ってきてくれるなら好都合だ。ここなら俺たちが一番強ぇし、叩き潰してやろうぜ。月に帰りたくなるまでな」
「かぐやの卒業ライブ中に余興として『KASSEN』をする俺達対月人達だ。そこでやつらを完膚なきまで潰す。帝の軍勢対月の迎え。本当の竹取合戦だ」
帝の言葉に皆の顔色が明るくなり、俺が作戦を伝える。
「私も戦う。どれだけ力になるか分からないけど、お願いします」
彩葉がみんなに頭を下げる。……あんなに他人に頼るのが苦手だった彩葉がここまで素直に頼って来るとは……。
「よし! じゃあ準備だな、乃依」
「えー、あれー? めんど~」
「リーダーは絶対」
「はーいはい」
方針が決まるとすぐに黒鬼たちは動き出す。乃依は口では面倒というが目は真剣なものだ。きっとばっちり準備とやらをしてきてくれるに違いない。そうしてブラックオニキスの三人はログアウトした。
「彩葉、来年もみんなで海に行こうね」
「温泉も行こー!」
芦花と真実の二人が微笑みながら彩葉を励ます様にハイタッチしてログアウトする。
「渡り鴉の一番弟子、黒羽カカ、全力で月人たちの相手を致しましょう。彩葉さん、またみんなで笑ってお話しできるよう、頑張りましょう」
「その……私はあんまり『KASSEN』強くないですし、当日かぐやちゃんのライブのMCを担当しちゃうので戦うことは出来ませんけど、全力で応援しますね!」
カカとオタ公が彩葉の手をとって笑いかけログアウトする。
「彩葉さん! 私も全力で戦います! かぐやさんもいてこその『鳥籠』ですから! 月人なんて吹っ飛ばして本命もさっさとみんなで堕としちゃいましょう!」
そう言ってリンもログアウトする。……本命って俺のことだろ。そう簡単に堕とせると思って―――……。いや、月人戦後なら、勝てるかもな……。
「みんな……ありがとう」
彩葉は全員の言葉をしっかりと受け止めて胸の前で手を強く握りしめていた。その目には強い意志が現れていた。
「彩葉、絶対勝とうな」
「うん!」
最後に俺が声をかけた後、彩葉はヤチヨに卒業ライブのプロデュースなどをお願いしてログアウトしていた。そうしてこのルームに残ったのは俺とヤチヨだけになる。
「渡り鴉はログアウトしないの? もしかして、この後また『KASSEN』するつもりかなぁ~?」
「BANしてくれるなよ」
「え?」
俺はおふざけ半分でこちらに近寄って来たヤチヨを抱きしめる。
「え、あ、く、くろ……渡り鴉? い、一体どうしたのかな~。ヤチヨはみんなのヤチヨなのでお触りは厳禁なのですよ―――」
「かぐや」
「―――ぅぇ?」
抵抗しようとする
「一体どうしてかぐやが二人いるのか、どうして分身してるのかとかは俺には分からない。けど、俺は全力でかぐやを守るから。全部終わったら色々教えてくれ。それでまたみんなでいろんなところに行こう。色んな遊びをしよう。色んな歌を歌おう。大丈夫、お前たちだけは絶対にハッピーエンドに連れて行くから」
「ぁ、なん……いつ、から」
一つ深呼吸をする。そして抱きしめた
「はへ? ぇ、九朗からキス……? 九朗から? あ、あわわわわわわわわわ?!?!!?」
「じゃ、またなかぐや。卒業ライブ頼んだぞ。色々とな」
「ま、待って! もう一回、今度は唇に―――」
そうして俺はログアウトした。さぁ、俺の最後の大舞台まであと少し……。
「どこまで飛べるのか……その終着点が見えてきたのかもな……」
・クリエイター集団【火薬庫】大体変態共の集まり。かぐや、彩葉が渡り鴉と共に初訪問した様子は番外編での描写予定。
・安東礼→アンドウレイ→アンドレイ。武器を任せるって言ったら個人的にやっぱりこの人。
・あったほうがカッコいいじゃん。 神の一言
・両目を包帯でグルグル巻きの九朗くん。『ははは、おめでとう彩葉』 この時のいろPの表情を想像してみましょう。……口角が上がってた人は白状しなさい。そっちにヤッチョが行くから。
・黒髪清楚着物美人と犬系おっぱい年上大学生に挟まれて何ともなく熟睡できる九朗くん……。
・8000年処女、バグる
番外編何みたい? 九朗くんの歌唱時反応は内定済み
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乃依と買い物
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帝とぶらりツクヨミ
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ブラックオニキスコラボライブ
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オタ公との初『SENGOKU』の話