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『ここだ』
俺と彩葉はFUSHIの案内に従いとあるマンションに着いたらしい。この一室からツクヨミにログインするとヤチヨが普段いるツクヨミの管理人室に入ることが出来るらしいのだが……。
「や、やっと……ついた……」
「キッ、つぅ……」
『その……悪かった』
か、かなりその道なりが苦しいものだった。電車に乗り、街角を曲がり、階段を上る。もし俺が以前の体だったら問題なくたどり着けただろうが今の俺は目が見えない、電車の乗り降りも、階段を上がるのにも彩葉の助けがなければいけなかった。
そしてその彩葉も大変だった。俺の専用AMSはそれなりに大きいヘルメットのようなモノ。FUSHIに案内された場所の先でツクヨミにログインする必要があるため、AMSをスーツケースに入れて持ち歩くことになったのだが……右手に俺の手、左手にスーツケースと彩葉に大分負担をかけてしまった。
向かう部屋が余り大きな部屋でないため大人数で一気に向かえないことと、
少し呼吸を落ち着けた後、俺たちは部屋の中に入っていく。部屋に入ると感じるのはじっとりとした熱、それから聞こえてくるのは電子機器が大量に稼働している音? あとはチョロチョロという水が流れる音……。
「水槽……あ、九朗はちょっと待って配線どかすから。FUSHIどこ動かして良いか教えて」
『わかった』
彩葉の声に従い立ち止まる。
『よし、ここからツクヨミに入れ』
俺と彩葉が座るスペースとAMSの設置も終えるとFUSHIにそう言われ、その言葉に従ってツクヨミへとログインする。……いつもより時間がかかっているか?
「ここが?」
「……」
『あぁ、ツクヨミの管理人室。普段ヤチヨはここで色々な作業をしているんだが……今日はまだ浮上して来てないか』
無数の灯籠が鈍く光る、木造の部屋。外を見ればツクヨミ全体を見渡せる高層階だった。まるで……引っ越した後かぐやと共に見たバルコニーからの景色の様だった。
『最近のヤチヨはツクヨミの管理に必要な作業だけを行って僕でも入るのに手間取る領域へと引きこもってしまうんだ。このままじゃヤチヨは他の月人と変わらない毎日、同じ事ばかりを繰り返す存在になってしまう。もうすぐその管理業務の為にこの部屋にヤチヨは浮上してくる。だからそこをひっ捕らえてヤチヨを助けてあげて欲しい。多分、これは君たち二人にしか出来ないことだ』
彩葉と顔を見合わせて頷きあう。
「分かった」
「任せろ」
FUSHIに言われた通り少し部屋で待っていると突然部屋の中央の床に黒い穴が開いた。そこからフラり、と浮遊してヤチヨは姿を現した。目は虚ろで、髪もセットされておらず解かれている、いつもの衣装もどこかヨれているような印象を受ける。それでいて
「ヤチヨ」
「―――ぇ? 彩葉? なんでここに? ッ、九朗!? あ―――ッッ!」
「逃すか!」
彩葉が声をかけるとヤチヨは彩葉の方を向いて驚いた表情をして、次に隣にいる俺を見て驚き、青ざめて再び黒い穴を開いてどこかに逃げようとする。早い、とても速い、今までの俺だったらきっとヤチヨを逃がしていただろう。ただ、今は違う。穴に飛び込んで逃げようとしたヤチヨに飛びついて穴から離れた位置に押し倒す。
「は、離して! や、ヤチヨは……、私は! 九朗に合わせる顔が!」
「気にすんな! 吹き飛んでるからそもそも顔を見る目がない! ほら!」
そう言って現実の方に合わせてキャラメイクし直して大きな傷がついて目の無くなった左目部分を見せる。
「え―――あ――うぷっ―――」
「何やってんのよ! この戦バカァァ!!」
「あっぶな!?」
急に彩葉が武器を出して切りかかって来たのを槍で弾いて防ぐ。
「いきなりどうした?」
「どうしたもこうしたもあるか! いきなりヤチヨを押し倒すわ、傷跡見せるわ! 相変わらず! ホント! 『KASSEN』以外のことはダメダメよね! 九朗って! つーか、防ぐな! もう、取り合えずそこどけ!」
凄いな。大声でそれもここまで早口で喋りながらも武器は的確に急所を狙ってきている。ちょっと戦いたくてウズウズしてきた……。と、取り合えず今はヤチヨのことを優先しなきゃだから、彩葉の言う通りにヤチヨの上から退いて場所を彩葉に譲る。
「ごめんね、ヤチヨ。九朗ちょっとマシになったけどまだまだ頭KASSENだから……大丈夫?」
「……うん」
えぇ……。
「そっか。なら、少しお話しよう? ヤチヨはかぐや、なんだよね?」
「……」
ヤチヨはゆっくり立ち上がり部屋の中央に立つ。さっきみたいに黒い穴に逃げ込むつもりじゃないみたいだけど一応警戒しとくか。
「――今は昔。月に帰ってバリバリ社畜をしてた、えらえらかぐや姫のところに歌が届きました。それはかぐや姫のために作られたかぐや姫だけの歌」
静かにヤチヨは語り出した。
「かぐや姫は大喜び。それでもっかい地球に行こ〜ってお仕事爆速ですっかり片付けて引き継ぎも完了。ただ、地球の時間では大遅刻。でも安心! 月の超テクノロジーは時間も超えられます。時を超えて、地球に向かうかぐや姫。でも、もう少しのところで、でっか~い石に当たっちゃったの」
……
「やっとの思いで辿り着いたのは……ざっと8000年も前の地球でした。壊れた船の僅かな力で、同行していた『犬DOGE』だけが身体を得ました。かぐやはウミウシを通してだけ、世界と交流を持てました。
時は経ち、人々は見えないものを形にして多くの人と繋がる力を手に入れた。……それは月の世界と少し似ていて、かぐやは初めて、魂だけの自分が世界と関われる可能性を知りました。そして、仮想世界『ツクヨミ』の歌姫として、再び彩葉と九朗に出会うことが出来たのです」
「私達と……」
そうか……8000年。だからかぐやはあんなに強くなっていたのか……。
「っってぇー、これじゃあ手放しでめでたしめでたしとはならないか〜っ!! やっぱ♪」
そう言って
「かぐや」
「……っ」
俺はゆっくりと
「お帰り、
「―――! た、ただいま……。うん、ただいま! くろう……いろはぁ! あ、ああ、ふぐっ、ぐずっ、ううう、うわぁぁぁ!」
「
労り、頭を撫でてやれば
「ごめ……ごめん、ごめんなさい! ごめんなさい! 私が、私のせいで九朗の眼がぁ! 私、消えたくなくて、またこうやって二人と一緒にいたくて、それで! ごめんなさい! ごめんなさい!」
あぁ、やっぱりあの時の謎に体が動かなくなったのは
「え? 待って? ヤチヨが九朗の眼を? ……どういうこと? 月人のせいじゃなかったの?」
いやー、月人のせいではあるんだけど、そもそもハッキングの原因となった一撃を喰らったのが……。うーん、説明が面倒だな……。
「そこも私が説明するね。元々私はこの世界が輪廻を巡るものだと思ってたの。少し前まで彩葉達と一緒に現実にいたかぐやは月に帰り、そして8000年を経て私になる。そういう輪廻の輪があるって思ってた。だからあの卒業ライブの時、あのまま九朗が月人を全滅させたらかぐやは月に帰らない。
「!」
彩葉の眼が驚愕で見開かれる。
「そして行動不能になった九朗に放たれた月人の一撃、その中に九朗のスマコンをオーバーロードさせて爆発させるハッキングプログラムが仕込まれてたの。だから……九朗の…目は、わた、私の……せい、なの……私が、私が……!」
「あー、あー、もうほら、大丈夫だって。元々俺は両方失明するつもりだったんだし、それに比べて片眼失うだけで済んで、右眼は視力若干だけど残ってるんだしほら―――」
えっと……ラッキーっていうと彩葉に怒られるし……んー、あ!
「ヤチヨのお陰だよ!」
「……うぅぅぅ」
「あれ?」
「なにヤチヨ泣かせてんだ、クソボケェ!」
あ、あれぇー? ヤチヨはまた泣き出したし……彩葉にはまた怒られたんだけどぉ?
「ごめん、ごめんね……っ。二人とも、ハッピーエンドに連れて行くって約束したのに……」
俺と彩葉に挟まれて泣いている
「彩葉の歌を聞いて戻って来たのに。九朗を一人にしないって約束したのに……。私、沢山失敗しちゃった……。私はもう、おばあちゃんで……キラキラのかぐやじゃなくなっちゃっ―――」
「そんなことない! どれだけ歳をとろうが! どれだけ姿が変わろうが! ずっとずっと大好きなかぐやなんだからッ!」
「……ぅあ……いろ、は。いろはぁ!」
また
「
二人が落ち着いて互いの顔を見合わせて笑みを浮かべるようになった頃、話しかける。
「うん。どうやらこの世界は完全な繰り返しの輪じゃなくて少しづつズレていく周回みたいなものらしいんだ」
「ほう」
「そもそもこの世界の九朗は私がかぐやだった頃の九朗と比べて明らかに強いの」
ほーん?
「私の記憶だと、九朗は孤高なのは変わりないけど今よりも多くの人を戦いがいのある人として認識してたし、AMSを装備したリンちゃんに勝てなかった。それに卒業ライブの時も月人の戦力は二割程度残っていたはず」
「いや、それでも二割までは削ってるんかい」
彩葉が突っ込みを入れる。
「けど今の九朗は、私が知っている時よりも孤高を極めていて、リンちゃんに勝利して、月人の戦力を残り3人まで減らした。この差はなんだろうって考えてたの。原因は私と九朗だった」
「俺?」
「……九朗、今度は何したの?」
ジトっとした目で彩葉がこちらを見てくるがまったく理解が及ばん。
「たとえ話をするね。ある周回の九朗が5の強さだとするね。それをかぐやに教えるの。するとかぐやは5の強さになって月に帰り、そして地球に戻って来る。そこでかぐやは8000年修行して10の強さを持ったヤチヨになるの。そしてその周回の九朗はそんなヤチヨと戦って8の強さになる。そしてその周回のかぐやがやってきて、九朗がかぐやに『KASSEN』を教える。するとかぐやは8の力になって月に帰る―――。これをずっと私と九朗は続けてきたんだよ。月人が恐怖を覚える強さになるまでずっとずっと……」
「なるほど……」
つまりソウルライクの周回で敵が強くなるシステムってことか! あー、理解できた。
……え、俺敵側なん? ……いや、かぐやの前に立ちはだかる序盤の強敵ポジ……なのか? 俺はマルギットだった? 今の体だと丁度杖も持ってるし……。中に呪剣でも仕込んでおくか?
「しかし、そうか……。なぁ
「なんだいなんだい?」
「その周回、終わらせられないか? 元々の世界から既に大きくズレてるんだろ? ならかぐやを月から取り戻してもヤチヨは消えないと思うんだ。お前も、月にいるかぐやも、俺にとってはどっちも大事なかぐやなんだ。だから二人とも、ハッピーエンドに連れて行きたい。だから月に行く手段があるなら協力してくれ―――」
「ダメだよ」
瞬間、心の底から冷える様な冷たい声が部屋に響く。
「や、ヤチヨ?」
あまりの声色に彩葉も驚いている。こちらを見ているヤチヨの顔はどこまでも真剣でそして黒く濁り切った目をしていた。
「確かに私も今はかぐやを連れ戻してもヤチヨは消えないと思う。けどね、それは駄目。いくつか条件があるけど月に行くことは可能だよ。ここ『ツクヨミ』と月の世界はとっても近いから。アバターの体を使って月の世界まで行ける。けど、月に行けば月人たちは本気で抵抗してくる。そして、向こうでアバターのHPがゼロになったら九朗達は二度と地球に戻ってこれない。死んじゃうんだよ」
「嘘っ……!?」
「今の俺が負けると?」
「負ける、負けないじゃないの。私はもう、九朗が傷つく姿を見たくない。私が傷つけてしまったからこそ、これ以上危険な目に合わないように私が守るの。九朗が傷つくのが、いなくなるのが怖いの。ここに居よう? 好きなだけ『KASSEN』してあげるし、ふじゅ~も好きなだけ上げる。それにヤチヨが九朗の為に家でライブもしてあげるから。だから、ね?」
そういってヤチヨが艶めかしくしな垂れかかって来る。……8000年の間にこういう所作を学ぶ機会でもあったのだろうか? 彩葉は……あ、
「どうしても意見を変える気はない、と」
「うん」
「なら……意見を認めさせるまで」
「……どうやって?」
「無論、力で!」
俺は槍を取り出して一気にヤチヨに向かって突き出す。それをヤチヨはメンダコから出した番傘で弾く。ヤチヨは思いっきり飛び退いて当たりの景色は一瞬で木造の一室からツクヨミのチュートリアルで訪れる場所に変わった。少し離れた位置に彩葉がいる。
「本当……相変わらずなんだね、九朗は」
「ここでお前に勝って実力を証明し、月に行くために協力してもらう」
「……それヤッチョが勝ったたらなにかある?」
「俺を好きにしろ。お前の監視できる部屋に閉じ込めるなり、意識を電子化して飼い殺すなりな」
「九朗!?」
俺の言葉に彩葉が大声を出す。それを俺は手で制する。
「大丈夫、絶対負けないから」
「……っ、信じてるからね!」
「あぁ」
彩葉はそう言ってその場にドかりと座り込む。そして目の前のヤチヨは俺の言葉を聞いて何故か頬に手を当てて顔を赤くしている。
「うん、良い。すごく良いよ、九朗。うへ、うへへへ。その条件なら勝負してあげる。本当に、好きなようにするからね」
「言っとけ、勝つのは俺だ」
槍を右手で引き絞り、左手を穂先に添える。
「その恐怖で固まっちまって
・超人彩葉、大活躍
・FUSHI、『人間にとって視覚がどれほど大切なのかを失念していた』とのこと。
・笑顔の張り付いたヤチヨの顔。
・焦ってそれどころではなかったが後々九朗に押し倒されたことを思いだしてモジモジする8000歳
・至近距離で傷跡を再び見せられるヤッチョ。
・ラッキー発言は怒られるからやめただけでラッキーだとは今だ想ってる九朗くん。再びやらかす。
・そしてこの世界の周回の真実。割と初期から感想欄で勘の良いガキ(誉め言葉)が多かった。
・監禁系、デロデロ甘やかし貢ぎ癖ヤッチョ。
・意訳しまくったMechanized Memories。でも許して……。
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