超闘争   作:四脚好き

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第31話

リビング

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 かぐや奪還作戦が本格的に動き始めて俺たちの日々は慌ただしくなり始めた。

 火薬庫の面々には俺が信頼できる一部幹部メンバーのみに仔細を説明して月への一撃を喰らわす巨大砲台の建設をかつてかぐや・いろPがブラックオニキスと戦った特設ステージに建設を始めた。

 両親と研究所の所員さんたちも一丸となってプログラムを撃ちだす武器を作っているし、少しでも火薬庫の砲台の火力を上げてツクヨミを安定させるためにコネを使ってスパコンを集めてくれている。

 そして彩葉、芦花の二人はいつも通り学校に通ってもらう。たしかにかぐやを助けることは大事だが今は大人たちに準備を任せるべき時だ。そもそもかぐやが戻って来た時学校生活も私生活もボロボロだったらかぐやも悲しむだろう。

 ……因みにこれを俺が言ったときその場にいた全員から『お前が言うな』的な言葉を貰った。確かに見た目は一番ボロっちくなったかもしれない。けど、精神的、『KASSEN』の腕前的には結構向上したと思っているんだが……。

 ヤチヨは自身が月に居たころに作成した引継ぎ用データを急いで復元している。なんでもこれを渡さないと月人たちはかぐやを開放してくれないそうだ。それはそうとなんかちょっと俺への当たりが強い気がしたのは気のせいだろうか。

 で、そんな中、今だ休学扱いの俺が何をしているかというと……。

 

「カヨコの様子が変……か」

「そうなんですよ! 九朗くんも感じているでしょう? 元々九朗くんの面倒を率先してみる方でしたけど最近はもう過保護ってレベルで仕事がない時はずっと一緒じゃないですか! あと、偶に夜中に跳び起きてるみたいで九朗くんの元に行こうとするんですけど、絶対に九朗くんの部屋の中には入らずに入り口付近でうろうろしてるんです。これは明らかに……」

「トラウマだな」

 

 半分俺の定位置みたいになったリビングのソファで広美の相談を受けていた。と言っても広美自身がどうしたという訳ではなく、問題があるのはカヨコの方なのだが。……にしてもカヨコなぁ。薄々分かっていたけどやっぱりそうだよな……。

 

「やっぱ目ん玉爆発した後の顔とか部屋ってヤバかった?」

「そ、それ聞きますか!? ……まぁ、自分もカヨコさんほどじゃないですけど夢に出て気分が悪くなる時があります」

「あぁ……そりゃ、酷いモノ見せたな」

 

 目玉が飛び散った光景とか普通一生見ない光景だろうしトラウマになっても仕方がない。

 

「……九朗くん」

「ん?」

 

 広美が真剣な声を出したかと思うと気配が近づいてきた。……これは右隣に移動してきた? あ、手を重ねられた。

 

「多分九朗くんのことだから勘違いしてそうだしこれだけは言って置きますね。カヨコさんの悲鳴を聞いて部屋に入った時部屋の中の血や肉片に驚かなかったと言えば嘘になります。でも私やカヨコさんのショックになっているのはそこじゃありません。九朗くんが死にかけた事、いくら声をかけても返事をしてくれず力なく横たわっている九朗くんの姿がショックなんです」

「広美……」

「大好きな人が自分の知らない間に無茶をして、知らない間に重症を負って、死にかける。もう、そんな経験させないで下さい……」

 

 俺の右手と広美の左手は重ねられたまま広美の右腕が俺の背中に回されて抱きしめられる。体中が広美の匂いと暖かな体温に包まれる。

 

「ありがとう、広美」

「いえ、お礼の言われるほどのことでは。カヨコさんともしっかり話してあげてくださいね」

「勿論。ただそれだけじゃない」

「え?」

「今のお礼はカヨコのことを知らせてくれたことだけに対するお礼じゃない」

 

 俺は握られている右手で広美の左手を掴み返して顔の前まで持ち上げる。

 

「怪我を負った時、救急隊が来るまで圧迫止血しようと懸命に応急処置してくれたこと、この目になってからの介助、広美と広美の手にずっと助けられてる。本当にありがとう、俺も広美のこと大好きだぞ」

 

 顔の前にあった広美の手に口付けをする。……ん? 場所ズレたな、これ多分指のどれかだな。 ―――ってうぉ!?

 

「な、な、なんだ!? どうした広美?」

 

 急に広美に押し倒されてソファの上に仰向けに倒れる。身体の上に広美が乗っかっているのかうまく体が動かせない。

 

「だ、大好きって言いながら左手の薬指にキスするなんて……もう、食べちゃっても良くない……?」

「広美? やっぱり嫌だったか? その……もうどんな表情してるか分からないから言ってくれないと分からないんだ。だから、その何か言ってくれ黙ったままなのは……ちょっと怖い」

「ッッ!!」

 

 気配が固まった?

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 うおっ! また抱き着いてきた。というかがっつり上に重なって横になって来た。

 

「怒ってる訳でも嫌だったわけじゃないんです、ただちょっと……気の迷いというか……抜け駆けわんわんおしようとしただけというか……」

「?」

 

 抜け駆けわんわんお? なんか分からないが語感からそんなに痛かったり悪い事ではないような気がするけど……?

 

「広美がしたいならしても良いよ?」

「ン゛ン゛ッ゛!」

 

 え、どうした?

 

「落ち着きなさい、太田広美……。九朗くんは絶対に理解してないわ。そんな状態で手を出す訳には……。そう、さっきのは本当にただの気の迷いなんだから! ええ、そうでしょう、あの九朗くんよ? さっきの『大好き』だって私が、私達が欲しい意味の大好きじゃなくてもっと純粋な意味合いに違いないわ。だからここは我慢よ。そう我慢。……たとえ、押し倒した時に髪が乱れて、ダボダボの部屋着がズレてへそ出し、肩だしになってても偶々そういう風になっちゃって私を誘惑しようだなんて意図はないんだから。なんでたまたまでそんな形になるのよ!? もう戦いの才だけじゃなくて誘い受けの才とかそう言うの持ってるんじゃないかしら。あー、もうしかも首を傾げながら少し小さい声で『シテも良いよ』って! あー、あ゛あ゛ー! もう! 彩葉ちゃんと芦花ちゃんはよくこんな同級生がいる学校生活送って色々我慢出来たわね! というか九朗くんって2年生よね……もしかして私たちが知らないだけで学校の同級生、先輩後輩もかなりの数堕としてるんじゃないかしら? それも下手したら男女関係なく……。え、これで16歳? 20代、30代の色気不味いことになるんじゃない? ヴ、う゛う゛う゛う゛……落ち着けぇ……私は忠犬……忠犬なんだ……、極上の餌があっても勝手に食らいつかないんだ……ちゃんとみんな揃って合図を貰ってから食べるんだ……」

「ひろみー?」

 

 なんかメッチャ小声でぶつぶつ言ってる。

 

「九朗くん!」

「は、はい!」

「他の人には絶対『シテいい』なんて言っちゃダメですからね!」

「抜け駆けわんわんおをか?」

「その言葉も覚えなくていいし、他の人に言っちゃダメですからね!」

「わ、分かった」

 

 広美の勢いに負けて結局いう事を聞くことになった。

 

「取り合えず、家事は終わってますし一緒にお昼寝をしましょう! いまはそれで我慢します!」

「我慢……? まぁ、広美がそれならそれで良いが」

 

 俺の上から降りた広美はパタパタと階段を上っていったと思ったらすぐに戻って来た。

 

「枕とタオルケットもって来ました! はい、九朗くん、こっちで一緒に寝ましょうー」

「ん」

 

 そうして俺は広美に誘導されリビングの日が当たるカーペットの上で広美と並んで横になる。横になるとふわりとタオルケットを体にかけられる。

 ……広美は俺の方に体を向けて横向きに寝ているのか、ポンポンと一定のリズムで体を軽く叩いてくる。暖かな日差しと広美の手が心地よくて俺は直ぐに意識を手放した。

 

 

玄関

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 昼寝が終わった後俺はカヨコのトラウマをどうにかする為色々と準備をして玄関で待っていた。カヨコと一対一で話す為広美には申し訳ないが彩葉のほうの家で待機してもらっている。さて、そろそろカヨコが返ってくるはずだが……。

 

「ふぅ、九朗さん、広美さん。ただいま戻りまし―――え?」

 

 あ、カヨコが戻って来た。多分俺の姿が視界に入ったな。

 

「え、あ……く、九朗さん! なんで、倒れて、血、血が……! 広美さん!? 広美さん、どこに!? い、いや、嫌…! 九朗さん、九朗さん!」

 

 トマトソースを使って左目部分や襟元を真っ赤に染めて玄関で倒れて意識がないふりをする俺。俺が傷ついたことがトラウマだというなら……。

 

 同じ光景を再現した上で今度は俺がしっかり目覚めて目覚めない俺というトラウマを上書きしてやれば良いんだよ!

 

 我ながら完璧な作戦。カヨコは倒れている俺の傍に寄ってきて上半身を抱え上げて揺すって来る。

 

「く、くろうさん、嫌です……。くろうさん、くろうさん……起きて。起きてください……今日の晩御飯くろうさんの好物なんですよ? 目を開けて……お願いです……」

「あ、そうなの? やったー、楽しみ」

 

 マジ? カヨコの料理もかぐやとリンと並ぶくらい美味しいからホントに楽しみなんだけど!

 

「え? く、九朗さん?」

「どしたん?」

「け、怪我は?」

「あ、これ? トマトソース。広美からカヨコがトラウマで困ってるって相談されたからどうにかしようと思って。怖い記憶もこうやって繰り返したり、面白い記憶で上書きしていけば怖くなくなるでしょ?」

「……ば、ば……」

「ば?」

 

 どうしたんだろう? なんか心なしかカヨコの手も震えているような……。

 

「ばかァァァアア!」

「ゴッハァっ!?」

 

 お、思いっきりカヨコにビンタされたぁ……。

 

「もう、二度と! 二度とこんな真似しないで下さいね! 良いですか!」

「よ、よかれと思ったんだけど……」

「何も良くないです! 本当に心臓が止まるかと思いましたよ! もう晩御飯は彩葉さんに協力してもらって九朗さんだけ彩葉さんのパンケーキにしますから!」

「なぁッ!?」

 

 え、きょ、今日俺の好物って言ってたじゃん! みんなが目の前で食べてる間俺だけ水と粉のパンケーキ食べるの!?

 

「そ、そんな……酷い」

「酷いのは九朗さんです! もう! もぅ……本当に……良かった……」

 

 カヨコの声が次第に弱くなりポロポロと俺の顔に水滴が落ちてくる。……泣いてる?

 

「本当に、なんども、何人も女性を泣かせて……悪い人なんですから……」

 

 あ、ホントに泣いてる。

 

「……ゴメン。俺、みんなに笑っていて欲しいんだ。勿論、カヨコにも。だから色々考えたんだけど……また失敗しちゃったみたい。ごめんな、カヨコ」

「ほんとは嫌なんです。九朗さんが月に行くの。私は輪廻とか周回とかいまいち理解しきれてません。けどヤチヨさんがかぐやさんなら、良いじゃないですか。8000年かかっちゃいましたけど彼女は帰って来たじゃないですか。なのにどうしてまた死んじゃうかもしれない道を行くんですか……」

「それは……!」

 

 ずっと、ずっとカヨコはそう思ってたのか。この段階に来て初めて聞いた彼女の本音。多分、広美から相談を受けてこうして行動していなければ気が付けなかった小さな罅。今は小さな罅だけどいつか大きな亀裂になっていた可能性のあるもの。あぁ、本当にありがとう広美。お礼になるかは分からないけど広美には我慢してほしくないし後で抜け駆けわんわんおっていうのは他のみんなに聞いて叶えられるなら叶えてあげよう。

 

「それはゴメン。けど約束したんだ、ハッピーエンドに連れて行くって。8000年の孤独を味わったぐやがいるならその孤独以上に楽しい思い出を一緒に作ってやるし、まだその孤独を味あわずに済むかぐやがいるなら助けてやる。俺がそう決めたんだ。だからこれは譲れない」

「……」

「けど俺、分かったんだ。今まではかぐやが居ればみんな笑顔になってくれると思ってた。でもそれは違うんだ。俺もいないとなんだよな。かぐやが居て、俺も無事じゃないとみんな泣いちゃうんだよな。今のカヨコみたいに」

「!」

 

 カヨコの顔があるであろう方向に手を伸ばす。……あ、ここほっぺだ。なら……うん。カヨコの涙を拭ってやって俺は宣言する。

 

「俺は死なない、絶対に帰って来る。だから信じて待っていてくれないか?」

「……やっぱり九朗さんはズルいです」

「んぇ?」

「好いてる殿方にそう言われては待つしかないじゃないですか……。えぇ、この黒崎カヨコ。貴方の無事を祈り待っています」

「ありがとう」

 

 カヨコも笑ってくれたし、ひとまずこれで良いだろう。一件落着! ……あ、そうだ。

 

「なぁカヨコ」

「何ですか九朗さん?」

「鳥籠なんだけどさ、名前変えない?」

「え?」

 

 俺はずっと考えていたことを口に出す。

 

「鳥籠だとなんか窮屈な感じがしてさ。……俺がここに帰ってこれるように、みんなと楽しく過ごす場所という意味でもさ、(ネスト)って名前はどう?」

「ネスト……帰るべき場所……とても良いと思います。じゃあ、私の方からみんなに連絡しときますね」

「うん、お願い」

「それはそうと晩御飯はパンケーキですから」

「なんで!?」

 

烏丸研究所

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「ダメです所長! 想定されるデータ処理量が多過ぎます! このままだとツクヨミのサーバーもダウンしちゃいます。あの火薬庫とかいう連中にもう少し威力を落とせないか言ってくれませんか!」

 

 研究室にそう言いながら一人の所員が駆け込んでくる。

 

「それは無しだ! 月の防壁がどれほど強固か分からないんだ、威力は高ければ高い方が良いに決まってる。接続するサーバーを増やしまくってツクヨミを安定させるんだ! ツクヨミが落ちたら折角かぐやちゃんを救えても息子たちが返ってこれなくなる! あの子たちの為に帰る場所を何としても守るんだ!」

 

 月文明をスタンさせるプログラムの再シミュレーションをしていたパソコンから手を離し、そう言い返す。九朗は静かな子だった。生れたときから余り泣きもせず『子育ては大変だというがこんなものか』と私達夫婦に思わせるほど落ち着いた子だった。

 けれどそれと同時に九朗は何かに絶望していた。幼子とはとても思えない黒く濁った眼で世の中を見ていたのを思い出す。なにか欲しいものがあるのか、なにか嫌なことがあるのか。私達夫婦はあらゆる手を尽くし九朗の絶望を取り除こうとした。しかし駄目だった。

 そんな私たちにとってツクヨミは救いだった。あの九朗がツクヨミのCMを初めて見たとき目を酷く輝かせていたのを覚えている。そして私達に『スマコン』が欲しいと初めてのおねだりもしてきた。

 なぁ、九朗。お前はあの時私たちがどれだけ嬉しかったか知ってるか? 何にも興味を示さず暗い目で回りを傍観していたお前が初めて、目を輝かせて我儘を言ってくれた。しかも欲しいと言っているのは私達が開発に携わっているもの。あぁ、とても嬉しかった。

 お前はどんどんツクヨミに夢中になっていったな。その熱中ぶりは少し心配なことも会ったがツクヨミで遊んでいるときのお前はとても楽しそうで……止められなかった。そんなお前がツクヨミを通して色々な人と出会い、関わり、あんなに大勢の女の子に慕われてるなんてびっくりしたぞ! 

 そしてお前は今、好きな女の子の為に命を張ろうとしている。目が爆発するなんて恐ろしい体験をしたはずなのに、目の前で好きな女の子を助けられなかったなんて悲しくてしょうがない体験をしたはずなのに、未知の文明を持つ、未知の宇宙人たちに命をかけて挑もうとしている。親としては止めてくれと言いたいけど、一人の男としては尊敬するし、最高にカッコいいぜ。

 だからな、お前と私達を救ってくれたツクヨミを、お前が帰って来るべき場所はしっかりとお父さんが守ってやるからな!

 

「誰でも良い、どこでも良い! どこかサーバー群を貸してくれそうな所とコネがあるやつはいないか!?」

 

 私は研究室内に響く大声を上げる。誰でも良い、どんな会社でも良い。息子たちを助ける為に力を貸してくれ……!

 

「あ、あの!」

「あるのか!?」

 

 一人の年若い研究員が手を上げる。

 

「た、確か大学の同期が就職した企業が開発用のサーバー群を自社で抱えてたはずです。まだできて2、3年ですけど……」

「直ぐにその同期に連絡を入れてくれ! あ、あと会社の名前は!? 私からも連絡して頭を下げてくる!」

「え、えっと名前は……フロムソフトウェア―――」

 




・自分を精神的に成長したとか思ってる九朗くん。根っこの部分は生きる決意を固めて変わったけど、表層は大して変わってねぇよ。
・オタ公、いつも彼女は理性が試されているような気がする。
・こいつも抜け駆けしようとしてる……。
・九朗くん式トラウマ解決法。このあとネストメンバーに怒られました。
・彩葉パンケーキを焼くけど罰則扱いに納得のいかない彩葉さんがその日のキッチンで見られた。
・鳥籠→ネストへ。
・フロム、正しくは『フロム・ソフトウェア』だけどハーメルンの規約、『実在の企業を全面に押し出す、またはその企業を貶めたり攻撃する意図のある作品の投稿や書き込み』に触れるか微妙だったので『フロムソフトウェア』と実在の企業とは違う名前にしました! だから許して! 許されなかった場合、いくつかの場所を〇に代えて修正することになるかも……。

番外編何みたい? 九朗くんの歌唱時反応は内定済み

  • 乃依と買い物
  • 帝とぶらりツクヨミ
  • ブラックオニキスコラボライブ
  • オタ公との初『SENGOKU』の話
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