時系列は本編開始の数年前。九朗くんが中学生だった頃です。なのではっきり言って置きます。九朗くんの口が大分悪いです! ヤチヨセラピーも受けてないので態度も言葉もトゲトゲしているころの九朗くんです! ま、前編は出番ないので一応の警告ですが。
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私、太田広美こと忠犬オタ公は悩んでいた。
「むー……良い感じに面白いライバーはいないかなぁーっと」
私は自身のホーム兼撮影スタジオとなっているツクヨミ内の建物の一室で最近デビューしたツクヨミライバーたちの配信を複窓で視聴し、手元ではクリエイター市場の商品をソートで比較的新規クリエイターたちのものに絞りスクロールしてビビッと来そうな商品を探す。
「はぁー、みんな素晴らしいっ! けど……」
私はツクヨミを愛している。この空間が好きで、愛してる。だから少しでも多くの人にこのツクヨミの素晴らしさを、この空間にいる人々の素晴らしさを伝えたくて私は自身が人気者になるのではなくて人気者が生まれる切っ掛けを作ったり人気者たちがもっと人気になれるようにイベントのMCや実況者、そして様々なライバーの情報を発信するという道を選んだ。
『ツクヨミではみんなが表現者』私にとっては人気の有無なんて関係ない。全てのライバーが素晴らしく、愛しいと思っている。ただ、このツクヨミという空間を盛り上げる為にもスターというものは必要だ。いま見ているライバーたちだって大切な人たちだ。
「でも……うーん……なんか、こう違うんだよなぁ……」
この子たちも人気者になる素質はある。けど今一パンチというか独自性が薄い。こう、ブラックオニキスやヤチヨの様に継続的な人気がでるタイプではない気がする。
「お困りだねぇ、オタ公」
「うわっ!? って、や、ヤチヨ!」
「ははは、驚かせちゃった? ごめんねー」
うんうんと唸っている私の目の前にふわりと人影が跳んでくる。このツクヨミで空に浮くことが出来るのはただ一人だけだというのに私は普通に人影に驚いて倒れかける。
目の前に飛んできた人影の正体、それはこの仮想空間ツクヨミの運営にして人気ナンバーワンライバー『月見ヤチヨ』だった。
「それで? オタ公がそんなに唸ってるなんてどうしたのさ? ほらほらヤッチョに説明してみ?」
「んー、この子たちなんだけどね……」
「おや、最近デビューした子たちだね。さっすがオタ公、手が早いねぇ……」
「ちょ、その良い方は語弊がありすぎる!」
ヤチヨとあーだこーだ言いながら次のニュースの話題にするライバーが決まらないことを説明する。
……今思えば、ヤチヨも不思議な人だ。先ほどの通り私は自分が人気者になるのではなく、人気者たちの情報を発信する側に回ろうとした。しかし情報を発信する側にもある程度の人気というものは求められた。いくら情報を発信したところで人気がなければ誰もその情報を手に取ってはくれない。ただの一人のファンの言葉として流されてしまうのだ。
そうして伸び悩んでいた私の所に急にヤチヨがやってきて、『公式のニュース番組のMCをやらないか』と依頼してきた。当時の私はまだまだ無名に等しく、情報発信系のライバーならもっと人気の人もいた。なのにどうして私に依頼をしてきたのかと聞いた時ヤチヨはこういった。
『んー、貴女の配信が一番真摯にライバーたちに向き合ってたから! 決して裏切らない"忠犬"みたいだったよ! ……それに私はやっぱり貴女の作ったニュースが見たいから』
ヤチヨが私の配信を見てくれていた。私を公式に、運営側の人間にしていいと思ってくれた。この沢山のライバー溢れるツクヨミの中で私を! 感激で打ち震えた。その日から私は『忠犬』になったのだ。そうしてヤチヨの後押しを受けて少しずつ、けれど着実にフォロワーを増やし、イベントのMCを務め今、私はここに居る。
「あ」
「アラート音?」
ヤチヨと話している最中、ヤチヨの方からアラート音が聞こえる。するとヤチヨは手元に素早くウィンドウを開いて何か操作している。
「……あぁ……ついに始まっちゃった。寂しいんだね、九朗は」
ヤチヨがなんて言ったのかは聞き取れなかった。けど、ウィンドウを見つめるヤチヨの眼は悲しそうな、それでいて懐かしいものを見る様な、とても優しい目をしていた。
「どうかしたの?」
今までのヤチヨとは明らかに違う、初めて見る表情。ヤチヨにそんな表情を浮かべさせるものは一体何なのか? 私はどうしても気になってしまいヤチヨにそう尋ねる。するとヤチヨは私の方を見た後少し悩んだ素振りを見せて、ゆっくりと口を開いた。
「んーっとね。実は最近ヤッチョが注目してる困った子が居てね、このアラートはそのチョーット困った子が無茶しだしたときに鳴るようになってるの」
「困った子……?」
私はヤチヨのその言葉に首を傾げて考え込む。ヤチヨはツクヨミをツクヨミにいるユーザーたちを私以上に愛している。そんな彼女が『困った子』なんて表現するということは……。
「チーターや不正アクセス者……?」
もしそうであればツクヨミを愛する者の一人として断固として許せない!
「え!? あ、違う違う! 全然そういう悪い子じゃないの!」
「あ、そうなんだ……」
どうやら違うらしい。私の呟きにヤチヨが勢いよく首を振って弁明する。
「えっと……ほら、この『渡り鴉』ってユーザーなんだけど」
「KASSENの配信……。強い……」
ヤチヨが見せてきたウィンドウの画面には今配信をしているであろう一人のライバーの姿が映し出されていた。手には
だが見た目よりも注目するのはその強さ。顔を隠したライバーが相手しているのはかつてKASSENの大会でベスト4にもなったことのある上位ライバーだ。そんな彼の攻撃を謎のライバーは一撃も喰らうことなく捌いていく。時には避けて、時には穂先で弾く。忍耐強く相手の猛攻を誘い、耐えて、相手に疲労が見え始めたときにその一瞬の隙をついて致命の突きを二、三発入れて謎のライバーは勝利を収める。
「確かに強いですけどチートとか使っている訳でもないのにどうして困った子なんです?」
「ここ見て、ここ」
ヤチヨはそう言って『配信開始から11時間経過』という画面右下の表示を指さ―――え?
「じゅ、じゅういちじかん!?」
思わず大声が出てしまう。もしかして『困った子』の意味って……。
「渡り鴉なんだけど……長いんだよね、配信が」
「い、いや、こんな長時間の連続使用、スマコンの方から健康被害を抑えるためのアラートが鳴るんじゃ!?」
「渡り鴉はね、切ってるんだよ。スマコンのアラート。お陰でスマコンは熱を蓄えちゃって最近渡り鴉は思いっきり視力が下がり始めたみたいなんだよね」
「う、嘘……」
視力低下なんてまだいい方、あまりにも続け過ぎれば最悪失明するかもしれない。確かにスマコンは画期的な発明だった。しかし唯一の欠点として長時間使用すると熱を持ち始めるという欠点があった。だからこそ殆どのライバーの配信は2~3時間が平均で長くても4~5時間だ。ただ追っかける身としても長すぎる配信は追うのに苦労するので助かっている部分もあるんだけどね。
そんな中、11時間……。それもスマコンのアラートを消しての所業……。
「確かに困った子かも……」
「でしょー? せっかくツクヨミに来てくれた神々の一人なのに、怪我とかしてその身に何かあったら……。ヨヨヨ~! ヤッチョは悲しくて泣いてしまうのです~!」
「……」
そういってヤチヨは自身の眼を袖で隠してな泣くそぶりを見せる。……本当に小さくだけど震えてる?
「という訳でヤチヨは渡り鴉を止めに行くね! 相談の途中だったのにごめんねオタ公! 渡り鴉を止めた後また戻って来るから!」
「え!? や、ヤチヨが行くの!?」
「うん! では、さらばーい!」
警告文や分身のヤチヨでも良いのにまさかヤチヨ本人が行くの!? ヤチヨは勢いよく空に向かって上昇してあっという間に見えなくなった。……あんなに早く飛ぶヤチヨ初めてみた。
「確か……『渡り鴉』だったよね……」
私はヤチヨの言っていたユーザーネームを元に配信サイトに検索をかけて先ほどまで見ていた配信を開く。
「わっ!? ホントにヤチヨが出てきた」
画面内では次の対戦相手を募集していた渡り鴉の元にヤチヨが現れて『自分が戦うから負けたらすぐに配信を辞めてしっかり休むこと』と言って渡り鴉に対戦を持ちかけていた。配信を見ていた幾人かの視聴者はまさかのヤチヨの登場に大混乱。
「ヤチヨが態々直接赴くほどのライバー……」
次の取材先はもう決まっていた。
・KASSENの魅力に惹かれ、純粋に戦いを求め始めた九朗くん。
・今だ十文字槍も月光も持っていないため、武器は銀騎士の槍に打刀だった。
・これがヤチヨ初の渡り鴉の配信への干渉。