超闘争   作:四脚好き

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 はい、まさかの中編になりました。今回は九朗君100%です。そして前回も言いましたがこの『忠犬と鴉』は本編開始の数年前。九朗くんが中学生だった頃です。大分九朗くんが精神的に参ってて態度も口も最悪です。お気を付けください。


忠犬と鴉 中編

ツクヨミ

────────────────────────

 

「おい! 逃げんな!! 戦え! クソっ、切断しやがった。……雑魚が! 死にくされ!」

 

 あともう一歩の所まで追い詰めたはずの相手の姿が急に掻き消え、その理由が分かってしまったと同時に頭に血が上って思わず罵倒を口にする。

 

 

:あー

:切断されたね。

:逃げられた

:お口わるわる!

:そりゃ、お口も悪ろぅなりますわ

:最近多くなってきたね

:いや、こいつと戦っても一方的だし気持ちはわかるけどさぁ……

:今日何人目だっけ?

:4人目

 

 俺、烏丸九朗こと『渡り鴉』はツクヨミでKASSENの対戦配信をしているライバーの一人なのだが最近、配信中によく困ったことが起きるようになってきていた。それは負けそうになるとネット通信を遮断したり、スマコンを外して試合を強制的に中断させて結果を有耶無耶にするプレイヤーたち。所謂、切断厨と呼ばれる人間が増えてきたことだ。

 最初はこんな奴等いなかった。というのも俺もライバーとしてデビューしたての頃は俺自身がKASSENに不慣れだったり、初心者狩りの影響だったりで勝ったり負けたりしていたからなのだろうか。完全な形ではない物の、最近は装備も揃ってきて、俺自身がこの闘争に慣れてきたのもあり負けなしだ。

 それからだろうか、そもそも俺に挑戦してくる奴等が減って来たし、今まで俺が挑戦する側だった人気ライバーグループにも対戦を避けられるようになった。おまけに対戦できたとしてもこうやって切断される。

 つまらない、つまらない! やっと見つけた俺の楽園なのに! 唯一前世のようなことが出来ていた俺にとっての楽園が! また無くなるのか? 俺の大好きな場所が、大好きな物が……?

 

「……誰でも良いお前たちの中に俺と戦ってくれる奴は? もしくはどこかでKASSENの参加型配信してるライバーはいないか?」

 

 俺はコメント欄に目を向けて半分懇願のように声をかける。

 

:無理だな

:申し訳ない

:誰が好き好んで蹂躙されにいくかよ。

:結果が分かりきってる

:無理

:見てる分には良いけど自分じゃ戦いたくないなぁ……

:KASSENの配信中のライバーは数名いたけど殆どSENGOKUだったよ。渡り鴉ルール分かる?

 

「……戦う前から諦めるとは、情けない。別にレート制じゃないんだから、何回負けても何回死んでも構わないだろうに。剣で勝てないなら槍で、槍で勝てないなら斧で、斧で勝てないなら……と何回でも武器や戦法を変えて挑戦すれば良いだろうが。俺はいくらでも相手してやるぞ?」

 

 だから俺と戦ってくれ、試合に負けて心まで折れたのなら何も言わないが、まだお前たちは戦ってもないだろう!? 

 

「なんなら、俺が武器を与えよう。俺に勝てたのならそのまま持って行っても良い! あとは……そうだな、俺も武器を変えて短剣にしておいてやろう。リーチの差の有利もくれてやろう。さぁどうだ! 誰か俺を負かせるヤツはいないか! どうした! 誰も来ないのか!?」

 

:ほら、誰か行ってやれよ。

:言い出しっぺの法則というものがあってだね

:普通の人は何回も負けたら嫌になのよ。

:いや、リーチの差ってあんたの前じゃあってないようなもんだろ。

:というかその短剣でパリィしてくるじゃん、素手で戦えよ。

:↑素手でも渡り鴉はパリィ出来るぞ

:戦うことしか考えてない、悲しきモンスター……

:なんだこいつ、頭KASSENか?

 

「……チッ! ここまでやって挑戦者が一人もいないとはな……。もういい、今日はここまでだ。下らん、KASSENプレイヤーを名乗るなよ貴様ら」

 

 そう言って俺は配信を終了してスマコンを外した。そうして視界に入るのはいつまでも気が休まりきらない自室。

 

「……シャワーでも浴びて寝るか」

 

 熱いお湯を浴びてこのやり様の無い気持ちが消えれば良いのだが。俺は自室の扉を開けて一階のふろ場へ向かう。

 

「あ、お兄……」

「……何の用だ」

 

 俺が風呂場へ向かおうと廊下を歩いていると丁度妹が階段を上ってきて俺と目が合う。俺を見るなり、目を見開く妹。

 

「何も用がないならどけ。邪魔だ」

 

 階段、というか通路で立ち止まるな。せめて端に寄れ、端に。

 

「あ、うん。……ね、ねぇお兄! また私にKASSEN教え――「断る」――ッ! つ、次はもっとうまく戦えるように頑張るから!」

「お前には無理だ。気概だけは評価してやるが絶望的にセンスがない。教えても時間の無駄だ」

 

 ほんと、口だけは立派だよ。どうしてお前にはああまでKASSENの才能が無いんだ。この世界の俺と同じ両親から生まれたんだ、それだけに期待も大きかった。だが蓋を開ければ悲惨の一言に過ぎた。こいつ相手に一時間教えるぐらいなら他の60人に一分ずつ教えた方が実りがあるレベルだ。

 

「け、けど!」

「けども何もない!」

「ッッ!?」

 

 引き下がらずに俺の手を取って懇願してくる妹の手を振り払う。

 

「俺はッ! ―――――」

 

 俺はお前なんて知らない! 俺の家族には弟しかいなかった! お父さんもお母さんもあんな人じゃなかった! 俺の世界はこんなものじゃなかった! お前なんて、お前なんて! 俺の家族なんかじゃ―――! 

 

「―――俺は、今……機嫌が悪い。お前の相手をする気にはどうしても慣れない。だから、どけ」

 

 叫びたかった。心の奥底からこの苦しみと違和感を全部吐き出したかった。けどそれは出来なかった。悲しいけれど前世はどうやっても戻ってこない。今の父さんと母さんが、そして目の前の妹が俺の家族なんだ。おかしいのは俺だけなんだ……。俺だけが間違ってるんだ……。だから我慢しないと、認めないとダメなんだ。

 

「ご、ごめん、お兄」

「……」

「今度また機嫌がいい時に話してくれたらいいから……じゃあね!」

 

 妹はそう言って自分の部屋の中に引っ込む。

 

「……そんな日は、来ない」

 

 その扉に向かって俺はそう呟いてシャワーに向かった。

 

 

 

「どうしたら良いんだろうな……」

 

 熱いシャワーの水を浴びながら鏡に映った自分に話しかける。もう近頃は何をやっても気分が沈む。ただでさえこの世界は辛いのに、唯一の逃げ場だった仮想空間ですら自分の居場所がなくなってきているような気がする。

 

「なんで、どうして俺がこんな……。こういう転生とかってもっと、こう……人生ドン詰まってる奴とか、世の中に不満持ってる奴とか、死にそうなやつ……とか……がすべき……―――死にたい、死んでしまいたい……。戻れるのか? 死ねば俺は自分の部屋で起きれるのか? またお父さん、お母さんに会える? フロムのゲームが出来る? し、死ななきゃ、死ななきゃダメだ。帰りたい、帰るんだ!」

 

 そうだ! 俺は死ぬべきなんだ! そうしたらきっと俺はいつも通りの部屋で目覚めるんだ! それで俺は帰るんだ! あの懐かしの戦場へ、あの懐かしの戦争へ!

 

「なら、早く死のう。それが良い、それでこの変な夢も覚め――痛っ……」

 

 バスルームにあった髭剃りを手に取り、分解して中の刃を首に何度も突き刺そうとしたとき焦りすぎて手を少し切ってしまった。指先が切れて僅かに痛みが走り、血がうっすらにじみ出てくる。

 痛い。夢なのに痛い。どうして? なんで夢なのにこんなに痛いんだ? これじゃまるでこれが現実みたい――――。

 

「おげっ……! ゴキュ――ォえ゛ッ!」

 

 たまらず嘔吐する。びちゃびちゃと吐しゃ物が浴室の床に零れていく。手にした刃を置いて壁に寄りかかりへたり込む。吐しゃ物で体が汚れるがもう構わない。どうせ浴室だ、あとで水で流せばそれで良いだろもう。

 

「……分かってる、分かってるんだよ。これが現実だったことぐらい……ッ!」

 

 俺の言葉はシャワーの水音にかき消されて消えていった。

 

 

 

「これは?」

 

 色々と掃除も済ませてシャワーから自室に戻った俺はスマコンと連携させていたスマホにメッセージが来ていることに気が付いた。スマホを開いてツクヨミのアカウントに届いているメッセージを確認する。

 

「『忠犬オタ公』……? 取材?」

 

 そこには見慣れぬ名前と取材という名のコラボ依頼が届いていた。俺は一度メッセージを閉じて『忠犬オタ公』という名前を動画サイトで検索する。

 

「へぇ、個人での情報発信もしていて、ツクヨミ公式番組の司会も務める……」

 

 試しに一つの動画を開いてみる。

 

『みんなのために、わんわんお! 忠犬オタ公です! 今日も元気に職務果たしちゃいまーす!』

「……デッか」

 

 具体的に何がとは言わないがツクヨミでここまで大きいのは妹を除けば初めて見た。その後いくつかのアーカイブを視聴した。……見た目は兎も角、発信している情報は中立性がしっかりとあって他の奴等とは違いちゃんと自分の足で調べてから発信している。さすが公式番組を預かる人間だ。それに加えて話が上手い、正に盛り上げ上手。

 

「なら、こいつに頼んでみるか……?」

 

 間違いなくツクヨミ一真っ当な情報通である彼女に頼むのが良いのかもしれない。

 

「SENGOKU……か」

 

 先ほどの配信でちらりと見かけたコメント、『:KASSENの配信中のライバーは数名いたけど殆どSENGOKUだったよ。渡り鴉ルール分かる?』

 KASSENの内のモードの一つであるSENGOKU。ツクヨミにログインし始めたばかりの頃に一応ルールは確認したが今一理解できずにプレイするのを辞めてそれ以来触れていなかった。たしか複数人対複数人で陣取り合戦をする……みたいなルールだったはず。そもそもKASSENで人気のあるモードと言えば俺のやっているSETSUNAではなくこちらのSENGOKUだ。その分プレイ人口や大会もこちらの方が多い。

 俺としてはあまり趣味でないが、こうしてSETSUNAが切断や挑戦者0の状況では好き嫌いは言っていられない。

 

「取り合えず返信してみるか……」

 

 忠犬オタ公とやらは出演料とやらでいくらかのふじゅ~を渡そうとしているらしいがそれに対し断りを入れて変わりにSENGOKUとやらについて詳しく教えて欲しいと文を打ち込み返信する。

 自分で言うのもあれだが、名を上げてきたKASSENプレイヤーが初めてSENGOKUに挑戦する。というのは話題にもなるし、一緒にプレイすれば近くで俺の戦いの画が取れる。取材なんてしたことのない素人意見だが、そんなに悪くないと思うんだが。

 

「……返信はや」

 

 そうして忠犬オタ公の取材は単なるインタビューから渡り鴉初のSENGOKU配信と同時に珍しいオタ公のKASSEN配信となったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……誰も挑んでこないなら、口実を与えてやればいい。忠犬オタ公……ヤチヨに続いての公式の顔ともいえる存在でありあのアバターの見た目。過去のアーカイブのコメントを見ても彼女自身のファンがいるのは確実。そんな彼女の配信に出て、普段彼女がしないゲーム配信を一緒にする男……。ふ、ふふふ、一体どれだけのファンが俺に不満をぶつけてくれるようになるかな……。良い撒き餌になってくれよ……オタ公」

 

 

 

 

 




・トゲトゲ九朗くん
・頭KASSENはこの時生まれた。
・九朗くんは超無理限界ギリなのでした。
・まだ極まった戦バカ一歩手前みたいな状態なのでオタ公の胸に若干反応しちゃう九朗くん。実は出会ったばかりの頃に攻勢を仕掛ければすぐに九朗くんを攻略可能だったオタ公。ただこの時はオタ公側からの好感度がないから仕方がない。オタ公側から行為を向ける頃には頭KASSEN、戦バカが完成してしまっていた。
・実は初代撒き餌だったオタ公。






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