超闘争   作:四脚好き

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第4話

彩葉の部屋

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 なるほど、電柱から産まれたという珍妙な生物である以上、その成長も普通ではないと。昨日の時点で明らかに大きくなっていたからな、その兆候はあった。しかしまさかこんなに一気に成長するとは……。

 

「お引き取り下さい」

 

 手早くベビー用品を段ボールに詰めたかと思うとそれを少女に差し出す彩葉。あぁ、まぁ成長したその子がそれを使うかは分からないが元々その子の為に買ったものだものな、与えてしまっても問題はない。……もう少し赤ん坊のままでいてくれたらなぁ……。まさか二日しか使わんとは思わなかった。

 

「どゆこと~?」

 

 彩葉の行動が理解できずに首を傾げる少女。歳は10前後だろうか。輝く星の様な瞳に腰まで伸びた艶やかな髪、白くきめ細かい肌に瑞々しく形の良い唇。彩葉とは違うベクトルの美人だな。

 

「ん?」

 

 しかし、なんだろうか。顔の造形というかこんな感じの顔立ちを俺はよく見ている気がする。んー、もやもやする。似ているんだが何かが決定的に違う。そしてその差の生でそもそも誰と似ているのかもピンっと来ない。

 ……まぁ、いいか。

 

「それはこっちの台詞……てか、なんですぐデカくなってんの? こわっ!」

「んー。今どきは何もかものスピードが速いんですわ」

「お前、言葉はどうやって覚えた?」

 

 昨日までいや、数時間前まで確実に赤ん坊だった。それがこんな流暢に……それも意味もしっかりと理解している。

 

「えっとね……これ見て覚えた!」

 

 少女が彩葉の机の上にあったタブレットをもってこちらに向ける。画面にあるのはニュースサイト、動画サイト、色々なタブが開かれたままだった。……これらを見て、聞いて言葉を短時間で身に付けたのか。凄い成長スピードだ。……もしかして、だが。コイツにスマコンを与え、『KASSEN』での戦い方を教えれば俺の技術を学習し、発展させるだろう。そうすれば最高の好敵手が出来上がるんじゃないか!? そう、それこそヤチヨみたいに! ……あ、解った。さっきの違和感の正体、コイツヤチヨに似てるんだ。しかも顔の造形だけじゃなくて学習スピードも含めて。かたや、電柱から産まれた謎存在、片や謎のAI。なにか色々ありそうな予感がしてきたな……。

 

 

 

 ま、どうでも良いか。戦って楽しければそれで良し。なにか不都合があったら全部倒せばいい。ロックオンできるならそれは敵ってことで良いからな。

 

「とにかく、得体の知れないものはお断り!」

「やだー!」

「ちょっと動いてよ」

「いーやーだー!」

 

 ん? おお。なんか俺が考え込んでいる間に綱引きが始まってる。自分の家から珍生物少女を追い出そうとする彩葉と対抗する少女。だがこんな狭い部屋で綱引き何て……あ。

 

「あぶねッ!」

 

 パッと二人の手が離れて彩葉が尻餅をついて少女が転がる。二人の丁度中間あたりにいた俺は急いで少女の後ろに回り込み頭を守ってやる。……っぶなぁ。窓の冊子に直撃コースじゃなかったか? この子がどれくらいの耐久力を持っているかは分からないが頭は一応守った方が良いだろう、頭は。

 

「大丈夫か?」

「う、うん。ありが―――ぐぅ~―――」

 

 響く少女の腹の音。そして少女は俺と彩葉を交互に見てこういった。

 

「たすけて~~?」

 

 涙目で首を傾げながら上目遣い。はっ、大したおねだりの仕方だ。ほら見ろ、芦花や真美から稀に『チョロ葉』なんて呼ばれることもある彩葉だ、悔しいが断れないといった顔色だ。

 

「俺もさっきまで配信して少し腹が減ってるんだ。レンチンで良ければウチの冷蔵庫からなんか持ってくる」

「お願い……」

 

 普段なら出してもらってばかりで悪い、とか言いそうな彩葉も流石に疲れたのか大人しい。

 

 

 

 そうして自分の部屋から持ってきたレンチン弁当の幾つかをレンジに突っ込んで数分。ちゃぶ台の上にオムライス、パスタ、ゆでエビが並ぶ。オムライスは少女に、パスタは彩葉に、ゆでエビは俺だ。実際には食用のザリガニだけど、まぁ美味ければそれでよいのだが。

 

「喰い方わかるか?」

「?」

 

 分からんよな、そりゃ。スプーンの使い方を教えてやればやはり学習能力が高いのかすぐに使いこなして見せた。

 

「あと食べる前に言わなきゃいけないことがある」

「なに?」

「『いただきます』だ」

「そうだ。ほらみんなで食べる時は全員で言うもんだ」

「……九朗、手馴れてない?」

 

 俺が少女に色々教えていると彩葉がジト目でこちらを見ながらそう言ってくる。

 

「実家だと妹居たし」

「そうなんだ……」

 

 そう、この世界だと俺には妹がいた。元の世界だと弟だったから不思議な感じだった。小さいときはよく懐いてくれてたと思うが、中学生ぐらいのときかな? 一緒にツクヨミに出かけたんだが『KASSEN』が弱くてなぁ。つまらなかったから次第に相手しなくなったなぁ。

 

「ねぇ! 早く食べたい!」

「先に食べるか」

「そうだね」

「ほらねこうやって手を合わせて……――」

「「「いただきます」」」

 

 どうやら少女が待ちきれない様子だったので俺の妹の話は置いておいて、食事にしてしまう事に。いただきますをすると待ちきれないと言わんばかりに黙々とスプーンでオムライスを口に運んでいく。

 

「――っ!」

 

 お、どうやらお気に召したようだ。目を見開き瞳に星が散っている。

 

「凄い!なにこれ?!」

「オムライス、だな」

「オムライス! 大好き!」

 

 そこからはバクバクと勢いよくオムライスを口に歩込んでいく少女。……今度は行儀について教えないとダメか……。

 

「あなた、どこから来たの?」

「んっ」

 

 彩葉の質問に少女は手を止めて窓から見える満月を指した。ほほぅ……月から、月からやって来たのか。これはこれは……。なるほど、とどのつまり上位者か。その学習能力の高さも、電柱から産まれたということも、その体の急激な成長も頷けるというものだ。ツクヨミの存在から近未来ファンタジーの世界かと思っていたがなるほどコズミック・ホラーの世界だったと。ふふ、ふふふふふ。あぁッ! 啓蒙が高まる音ォぉォ!

 あとでビルの壁面とか確認してみるか。なにか張り付いてるかもしれないし。

 

「で? 宇宙人は何しに来たの? 侵略?」

「うーん、なんかあんまりよく覚えてないんだけど~。とにかく、毎日超つまんなくって~。楽しいところに逃げた~いって、思った気がする」

「あぁ解るぞ、その気持ち。俺だって本当は毎日楽しい事(KASSEN)していたい」

「逃げんな、宇宙人。同意するな、地球人」

 

 少女の言葉に同意していたら彩葉から突っ込みを貰ってしまった。まぁ彩葉の家庭事情的にはそうなるか。

 

「あとさ、ちなみになんだけどこれに心当たりは?」

 

 そういって彩葉が見せてきたタブレットには竹取物語の絵本が表示されていた。あー、まぁ確かに関係はありそうっちゃ、ありそうか? この辺りに竹藪何てないし、電柱になったってことか。

 

「なにこれ?」

「竹取物語。月からやって来た姫が竹の中から出てきて、翁が拾って育てて、結婚迫られたりとか色々あって……まぁ、ごちゃごちゃありますって感じの話」

「けっこん?」

 

 うむ、説明が雑。ただまぁそれ以上にどう説明しろって言われても説明できないし……。実際に読ませた方が早いんじゃなかろうか。

 

「あぁ、そっか、つまり彩葉がこのお爺さんってこと?」

「ぶふっ」

「80年後の未来でも見えちゃってるのかな~、違うよ~? あと九朗、笑うな」

「悪い悪い」

 

 いや、確かに拾ったのは彩葉だが、まさか翁にされるとは……。笑うだろうこんなの。

 

「それでお話はどうなるの?」

「お迎えが来て、翁たちが引き渡すまいと戦うも空しく、姫は羽衣を着せられて、地球のことを忘れる。で、帰る」

「おー」

「……」

「で、続きは?」

「ない。終わり。めでたしめでたし」

「え、月に帰って終わり? なにそれ、なにがめでたいの? 超バッドエンド! かぐや姫絶対不幸じゃん! しかもなんかいい話風になってるのが余計許せないよ!」 

 

 おうおう、そんなジタバタすんな。下は俺の部屋だから別に良いけど隣に迷惑だろうが。というか、ここまで感情移入して竹取物語を聞く奴なんて初めてみたぞ。しかしそうか……月からの迎え、上位者の群れ……。

 

発狂

 

「これは、こういう話なの」

「バッドエンド、やぁーだぁー!ハッピーなのがいーいー」

 

 ま、まあ、そもそも物語の結末何て誰がどこから見るかで変わるもんだ。姫や翁にとってはバッドエンドかもしれないけど月の人々から見たら姫を取り返せてハッピーな訳だし。まだまだ思考の次元が低すぎる。もっと瞳が必要なのだ。

 

「バッドエンド、や~~だ~~♪ ハッピーなのが、い~~い~~♪」

「歌にするのか」

 

 そこまでバッドエンドが嫌か。しっかし声も綺麗だしリズムもなんか良いな。

 

「どうしようもないじゃん。暴れたって歌ったって、決まってることが変わるわけがないし、受け入れて覚悟するしか、ない」

「……」

 

 こっちはこっちで頑固だ。ほら見ろ、あまりの迫力に少女が黙ってしまった。

 

「よし、決めた! 自分でハッピーエンドにする! そんでハッピーエンドまで彩葉と―――」

「烏丸だ」

「―――烏丸も連れてく! 一緒に!」

 

 そう少女は立ち上がって宣言する。うぉっ……純粋すぎて眩しい。

 

「ハッピーエンドいらない。フツーのエンドで結構です」

 

 冷めてるなぁ彩葉。

 

「うそうそうそ! なわけないでしょ? 烏丸は?」

 

 そう言いながら俺の方を向く少女。だだなぁ……俺はさっき言った通りバッドエンドでも誰かにとってはハッピーエンドだったりとかそう言うフロム脳働かせるのが好きなのであってエンディング事態は割とどうでも良いんだよなぁ。ただ好みを一つ言うなら、ジナイーダルートのように、人類種の天敵ルートのように、狂い火エンドのように、幼年期のはじまりエンドのように、困難が多い方が好き。

 

「どんな結末でもその人の積み重ねの結晶だ。だから俺はどんなエンディングでも好きだよ」

「な、なななな」

 

 固まる少女を横目に彩葉が限界なのか船を漕いでいる。取り合えずあれだ。明日から学校だが赤ん坊を部屋に放置するという事態が無くなったことを喜んでおこう。うつらうつらしている彩葉を抱えて布団に寝かせてやり、少女にも今日は寝るように頼み込み、部屋を後にした。鍵を拝借して閉めた後ドアについてるレターボックスから室内に入れておいてやる。あとでメールすれば彩葉なら直ぐに気が付くだろう。

 

「さて、新品のスマコンは……」

 

 通販だと明日の朝までに間に合わないな。夜中にスマコン売ってる店なんて……。

 

「あったわ」

 

 少し遠いが最高のエモノの為だ、頑張るか。

 




九朗、月の少女の学習能力に目をつける。あ、因みに九朗くん、ツクヨミ内にまるで君の技術を8000年間練習して進化させてきたような動きをする奴がいるんだ……。

九朗の妹。 優しくて大好きだった兄。ある日一緒にゲームをしたらボロ負けしてしまい、それ以降兄が冷めた目で見てきて構ってくれなくなった。妹ちゃんの心情を述べよ。(配点15点)

九朗 取り合えず『KASSEN』しようぜ。……お前とやるのは初めてだ、退屈させてくれるなよ。
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