超闘争   作:四脚好き

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というわけで次の番外編への布石回です。
時系列としてはかぐや奪還作戦後です。


狐、8000年を知る

リビング

────────────────────────

 

 

「ただいま~」

 

 かぐや奪還作戦を成功させた私たちは多少の違いはあれど凡そかぐやが月に帰る前の日常に戻っていった。

 

「お帰り」

『お帰り、彩葉!』

『お帰りなさい、彩葉』

 

 私が帰宅して扉を開けると一人と二台のタブレット端末から返事が返ってくる。九郎、かぐや、ヤチヨだ。かぐやとヤチヨは体がないため、九郎は未だ休学中であるため、私たちが学校に行っている間はこうして三人で過ごしている。

 

「三人とも今日は何してたの~? またKASSEN三昧? 楽しいのはわかるけどあんまりやりすぎないでよ?」

 

 荷物を一度テーブルの上に置き、飲み物を冷蔵庫から取り出しつつそう質問する。三人とも今は自由に動けるのがツクヨミ内だけであり、九郎がツクヨミにいればそれは必然的にKASSENの流れになるのだ。

 ヤチヨは自分の配信があるためそうでもないが、かぐやは肉体を失い、味も、匂いも、触感も感じなくなってしまった。それに自身は卒業ライブをしてしまいしばらくは配信もできないということで自然と九郎に付き合ってKASSEN漬けになってしまうのだ。

 仕方がないとはいえKASSENばかりしては私のかぐやに戦バカがうつってしまう。戦バカは私の九郎一人で十分だ。というか本音を言うならかぐやばっかり九郎と長い時間遊べて少し……ずるい。

 

「まぁ、確かにKASSENもしたがそればかりじゃないさ」

「へぇ?」

『あのね彩葉! 今日はね九郎と一緒にヤチヨが歩んだ8000年の歴史で印象に残っている出来事や人について教えてもらってたの!』

「え?」

『それで九郎が気になった人達……まぁ主に名のある武人なんだけどね。その人の動きをヤッチョがトレースしてあげて九郎やかぐやと戦っていた感じかな』

 

 ヤチヨ(かぐや)の歩んだ8000年……そっか、そうだった。色々なことがあって忘れてしまっていた。

 

「ねぇ、その話私にも聞かせてよ」

 

 明日は休日、ならちょうどいい。

 

「現在まで喋り終わったら私が聞きそびれた部分、もっかい私に話して」

『い、彩葉?』

「8000年あったこと全部話してよ」

 

 私はこの子(かぐや)の全部を聞かなくちゃ。

 

『良いよ、それじゃあ続きの大阪夏の陣から~』

「……」

 

 九郎は私の考えを読んでいるのか普段であれば絶対に喰いついていただろう武人の話題が出ても遮らずおとなしく話を聞いていた。そしてヤチヨは私たちに出会うまでの出来事を語り始める。途中帰ってきた芦花やカヨコさん、広美さんも交じってみんなでヤチヨの話を聞いていた。

 切りのいいところで夕飯にして、お風呂なども済ませて寝るまでの間再びみんなでヤチヨの話を聞く。そうしてヤチヨが『続きはまた明日~』と切り上げた後みんなは自室に戻っていき就寝した。

 

「……笑い話ばかりじゃないはずなのに」

 

 私は自室で布団に横になり天井を見上げながらそう呟く。ヤチヨの話す話はどれも楽しく聞いていたみんな笑顔でヤチヨも笑顔だった。けど、私だけはその顔に違うものを覚えていた。いや、もしかしたらカヨコさんや広美さんも気が付いていたかもしれない。気が付いたうえでああやって笑っていたのかもしれない。

 

「……確かめなきゃ」

 

 私はスマコンを手早く装着してツクヨミへとログインした。

 

 

ツクヨミ

────────────────────────

 

 ツクヨミにログインした私がやってきたのは普段ヤチヨが作業している管理人室。かぐや争奪戦のあと、ここに入れるようにヤチヨが鍵をくれた。

 

「ん? 彩葉か。ヤチヨなら少し前に眠っちまったぞ」

「知ってる……。今日はあなたに用があってきたの、FUSHI。」

 

 私を出迎えたのこの8000年間ヤチヨとともにいた彼女の相棒、FUSHI。

 

「なに? 僕に用?」

「今日ね、ヤチヨが九郎たちに8000年の間の出来事を話してたの。……とても楽しそうに笑って……楽しかったことばかり話してたの」

 

 ……私は知らなくちゃいけない。

 

「ねぇ、FUSHI。ヤチヨが隠していること、あるよね?」

「……」

 

 私の言葉にFUSHIはすぐには答えず長い長い沈黙が流れる。

 

「ヤチヨが話さなかったのなら、それは……」

「見せて。違う輪廻だとか、おばあちゃんになっちゃった、とかもう言わせない。私がかぐや(ヤチヨ)とちゃんと向き合うために。だから私は全部見なくちゃ」

「……人の身体で耐えられるかわからない」

「問答無用、だからお願い、犬DOGE」

 

 私はあえてそこで彼? 彼女をFUSHIではなくかつての名前で呼ぶ。

 

「……仕方がないやつ」

「ありがとう」

「行くぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 FUSHIの目が赤く光りあたりの景色を分解し始める。そして私の身体は落下を始め―――――

 

『おーおー、お前のことでお母さんはお疲れだってのになんと無邪気な』

『誰がお母さんだ!』

 

 私の意識はかぐやのそれと同化して懐かしいアパートの景色が映し出される。

 

 

『ほら、高い高ーい』

 

 たのしい! もっとしてほしい!

 

『ミルクの時間だぞ。ゆっくり飲めよー』

 

 おいしー

 

『あぶねッ!』

『大丈夫か?』

 

 綺麗な顔……カッコいいかも……。

 

 

『どうしようもないじゃん。暴れたって歌ったって、決まってることが変わるわけがないし、受け入れて覚悟するしか、ない』

 

 彩葉も綺麗……え、地球の人ってみんな綺麗すぎじゃない? え、えへへへ、すぐ好きになっちゃいそうー!

 

『なんなのよ……旨いじゃないのよ……なんなのよ、あんた……久しぶりの美味しいご飯で喜びが身体に満ちていくじゃないのよ……』

『とっても旨いよ。かぐやは料理が上手なんだな』

 

 二人ともおいしいって言ってくれた! 笑ってくれた! ふふーん、やったぁ~!

 

 

『ヤぁぁぁぁーーチぃぃぃぃーーヨぉぉぉぉーーー!』

 

 絶対、ぜぇぇぇぇっったい! かぐや優勝する! それで彩葉も烏丸も! ヤチヨと一緒にライブしてみんなハッピーにするんだ!

 

 

 

『どれだけ探しても、跡形もなくて。途中で無くなったとかじゃないんだ。最初っから存在してなくて。もう毎日が辛くて、苦しくて……ッ! 俺はずっと一人で!』

 

 ……泣いてる。九郎が泣いてる。ねぇ九郎、お願い泣かないで。どうすれば九郎は笑ってくれるの?

 

『かぐや、絶対強くなるね! それでいっぱい一杯遊ぼ! 九朗のことかぐやが満足させてあげる! 絶対独りぼっちにしない! 言ったでしょ、かぐやがみんなハッピーエンドに連れて行くって! その代わり、かぐやの好きなこともいっぱい一緒にしてね!』

 

 かぐや、絶対九郎のこと一人ぼっちになんかさせないから!

 

 

『彩葉が危なくなったらかぐやが助ける!』

『かぐやがミスっても私は置いてく』

『なんで!?』

『あははっ』

 

 彩葉と二人ステージを駆け抜けながら笑いあう。楽しい、とってもかぐや楽しい! もっとわがまま言っちゃおうかな? 遊んじゃおうかな? 彩葉はいいよ、って言ってくれるかな?

 

 

 

『勝利おめでとうございます! 観客席のみなさんに一言お願いします!』

『観客に……ぁ! お、応援ありがとう! チュッ』

 

 え、あ、わ、わぁ……! 

 

『ぷふー! 彩葉見たみた? 九朗、ウインク全然できてなかったー! メッチャプルプルしてたー、あっはは。かわいーー』

 

 い、今のかぐやの顔大丈夫かな? すごくにやけて変な顔になってないかな? だらしない表情浮かべてないかな? 九郎、それはだめ……もう、可愛すぎるよぉ……。え、うぇへへ、今すぐギュってして独り占めしたいなぁ……。

 

 

 

『はい。それではお相手を務めさせていただきます』

『――……ヤバ』

 

 ほんと、本当ッ! 九郎はなんなの? かぐやをどうしたいの? あんなにかわいいと思わせておいて次はバチバチにカッコいいのずるくない? しかも無意識に使い分けてきて……! 

 

 

『『クレイドル』ッ!?』

『正解だよ、九朗。芦花は実家住みだけどよく遊びに来ると思うから』

 

 みんなで一緒に九郎を堕としてハッピーエンドに到達するための秘密グループ、クレイドル! ふふーん、覚悟してよね九郎! 腹をくくった女の子は強いんだから!

 

 

『30かぁ……そこまでは生きてられるか。40は分からんけど』

『ねぇ、九郎。この発言どういうこと?』

『え、あ、いや……ほら、俺の私生活って人として終わってる方だろ? だからそこまで生きてられるかわからないじゃん?』

 

 彩葉の前に正座させたらた九郎がしどろもどろしながらそう答える。

 

『そう思うならちゃんと私生活正しましょうよ!』

『かぐやも、健康的なメニュー考えるから!』

 

 広美の言う通り! とりあえずかぐやもできる協力をしなきゃ、絶対死なせないから!

 

『九朗くんはまだ若いですし適切な食事に適切な運動、そして適切な睡眠を心がければまだまだ間に合いますよ!』

『まて、翆。お前は不眠改善のために始めたはずのトレーニングで逆に睡眠削ってるだろ。お前にそれは言われたくない』

『そうねぇ……翆ちゃんも九朗ちゃんもこの際ちゃんと生活を見直すべきよぉ……。二人とも私たちを置いていくようなことがあったら丸めちゃうからぁ~』

『おいマリ、お前何を丸めるつもりだ。おい、そのこぶしを下ろせ、洒落になら―――』

 

 

 

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 あぁ……これ、月の……。はしゃぎすぎちゃったかなぁ……。

 

『かぐや!?』

『それ以上、俺の女に手ぇ出すな。殺すぞ』

 

 彩葉? 九郎? 二人とも何を言ってるんだろう? なにも……聞こえない……。

 

 

 

 

『かぐや、九朗に贈り物がしたいの。本当は彩葉と九朗にこのブレスレット上げたいんだけど、これ一個しかないから……これ以外になるけど……。九朗、何が欲しい? 私……何でもあげられるよ?』

 

 は、恥ずかしいけど……九郎が初めての相手なら全然不満はないし、なによりかぐやがしたい! 彩葉も芦花もカヨコも広美も翆もマリもいない今しかチャンスがない! ごめんね、みんな。かぐや、一足先に九郎に頂かれちゃうから……。

 

『暗月の大剣……?』

 

 なんだこの頭KASSEN。

 

 

 

 

『九朗も負けちゃった。これでお終いだね。はるばる地球へようこそ』

 

 ありがとう九郎、あんなに頑張ってくれて。ありがとう彩葉、こんなにたくさんの思い出をくれて。とっても、とっても楽しかったよ。

 

『彩葉、大好きッ』

 

 さようなら。

 

 

 

 どんどん景色が流れていく。月に帰って彩葉の歌が聞こえて……滅茶苦茶頑張って仕事を終わらせて、引継ぎして、地球に向かって……。地球に向かって、どうしたんだっけ……?

 あぁ、そうだ。地球までもうすぐってところで、隕石にぶつかって……。

 

―――『もと光る竹』応答して―――

 

 あぁ、あとちょっとだったのにかぐやドジっちゃったんだ……。

 

『ヤチヨ……どっかにいるんでしょ? 出てきて助けて……』

 

 返事はない。それから多くの時間を一人で過ごした。それでも時が流れるのは想像していたよりも早くて次第に世界は人であふれだした。そこでどうにか犬DOGEに『もと光る竹』の力でウミウシの形の肉体を与えて、その体を通して外界とのつながりを作った。

 いろんな人と出会った。いろんな夢を見た。いろんな別れをした。

 

 

『いましは縁起よしとぞ』

 

『逢い見ての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり』

 

『なんだこのウミウシ。だいたいこの信長が女なわけがなかろう』

 

『槍をふるう前に、心を整えよ。槍は力より心で振れ』

 

『関東勢百万と候え、男一人もなし』

 

『会いたい者がいるのだろう?』

 

『楷書が行書へと進む。やがて草書へと。ならば、剣における草書とは?』

 

『ムカつくからさ、つらくても笑うんだよ』

 

『梅の花一輪咲いても梅は梅』

 

『君の活躍する時代を俺も見てみたかった』

 

『私には、ここなの』

 

『極上のワインは時間が経つほど深まる。悪いことばかりじゃないさ』

 

 

 つらいことも悲しいこともあった。それでも、私はもう一度彩葉に、九郎に会いたい! そしてついに世界はワールドワイドウェブを作り出した。さらに技術が発展して『もと光る竹』を直接ネットに繋げることがことができればこの体の制約を超えてみんなに、多くの人と話せるかもしれない。

 彩葉、九郎、私ね。やりたいことができたんだ。いつか大きな仮想の世界を作りたいの。そこではみんなが好きなことをして、殺しあうこともなく、誰も孤独にならなず、いつでも返事をもらえる場所。名前は―――。

 ハッとした。8000年で薄くなっていた記憶が一気に復活してくる。……馬鹿だなぁ、どうして今まで気が付かなかったんだろう。私がヤチヨになるんだ。この世界はきっと何度も、これを繰り返してたんだ。

 

 準備は整った。私は最後の友人の助けを借りてツクヨミのプロトタイプを作り上げた私はローンチと同時に単独ライブを敢行する。8000年ぶりに歌う歌はとても楽しかった。それから私は何度もライブを開いた。少なかったファンたちもどんどん増えていき、ツクヨミも正式版がリリースされた。私はゲームモードとしてKASSENを正式版からリリースした。こうすれば彼はきっとやってくるから。

 それから昼の間はツクヨミの管理業務と新しくツクヨミに来た人たちの確認をして、夜は配信にライブの日々を過ごした。疲れることも飽きることもない。今日、あの子たちが来るかも。そう思うと毎日がドキドキとヒリヒリだった。

 そしてその日はやってくる。

 

「設定はこれで良いはずだが……」

 

 私の記憶よりも背が小さくてずっと鋭い目をしている九郎。まだこの時は眼鏡もかけていなかったんだ……。いつもなら私の分身が対応するけどずっとずっと待ちに待ったこの瞬間だ。私自身がいかないと!

 

「―――太陽が沈んで、夜がやってきます」

「――かぐや――「ぇ……」――姫か?」

 

 私が姿を現すと九郎はこちらを見てそう呟いた。え? く、九郎は私がわかるの? いまの私を見てかぐやって呼んでくれるの? 私、九郎にとってのかぐやでいいの?

 

 ッスーーーーー。好きぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ。んあああああ! かわいい! 小っちゃい九郎可愛いよ! 始めての仮想空間で最初あたりをきょろきょろしていた瞬間とか、いと、かわゆし! 

 可愛すぎて初めて(初ログインボーナス)もまだなのにふじゅ~たくさん出ちゃうところだったよ! というか、短パン! 短パン履いてる! 

 かぐやだったころには絶対に見れない服装だよ! ああぁぁぁ、体が小っちゃいから膝小僧も小さい! あぁ~ぺろぺろしたい。今ならないはずの味も感じられる気がする! というか膝小僧だけじゃなくて全身ぺろぺろしたいよォ! ギュっとしたい、匂い嗅ぎたい! 非力な腕で抵抗されたいっっ! 

 でへ、でへへへ、ね、ねぇ九朗く~ん。ちょ、ちょっとヤチヨお姉ちゃんと一緒に管理人室行かな~い? うんうん全然怖くないよ~。ただちょっとヤチヨの一存でログアウトできなくなるぞってだけで……。

 おっほ、ヤッチョのことNPCだと思ってるからキャラメイクで遠慮なく脱いでから服装選ぶじゃん。ああー、全然筋肉ついてない綺麗なお腹~。エッチすぎる、これはツクヨミの風紀を守るためにもヤッチョが厳しく取り締まりしないと……。はーい、一名様取調室にごあんなーい。婦警ヤッチョが身体検査しちゃうぞーーー! あぁいとかわゆしかな九郎。

 

 

――――――彩葉、彩葉! 彩葉!―――

 

 どこからかうるさい声が聞こえる。なぁんだ今の声は? これからヤッチョはこの無自覚ドスケベな『私の九郎』を密室に連れ込んでわからせるという大事な使命が……。あれ、この声はヤチヨの……。それで私は……。九郎九郎九郎九郎九郎九郎九郎

 

 

「彩葉!」

「……ヤチヨ」

 

 目が覚める。そうだった私は確かFUSHIに頼んでヤチヨの記憶を……。というか最後のほうなんかすごい記憶を見ちゃったんだけど。いや、それ以上に何か所か突っ込み入れなきゃいけないことが……。

 

「馬鹿、壊れちゃうよ……」

「かぐや……」

 

 涙をこぼしているヤチヨを抱きしめる。まずは伝えなくちゃ。九郎九郎九郎九郎九郎九郎九郎

 

「ごめんね、ずっと気が付いてあげられなくて。ずっと待ってくれてたのに、ずっと探してくれてたのに」

「……彩葉」

「でも、やっと追いついた」

「うん」

「今度こそちゃんと一緒にいよう! 現実でパンケーキも食べて海にもまた行って温泉にも行って行きたいとこ、遊びたいこと全部やろう! そのために私、頑張るから!」

 

 私はヤチヨと向き合ってそう宣言する。九郎九郎九郎九郎九郎九郎九郎

 

「うん。うん! ヤッチョも協力するからさ、今度こそ行こう―――

「「ハッピーエンドへ!」」

 

 二人の言葉が重なりなんだか可笑しくって、嬉しくってヤチヨと向き合い笑いあう。九郎九郎九郎九郎九郎九郎九郎

 あぁ、それはそれとして―――

 

「抜け駆け、しようとしたんだ?」

「え、あ! そ、そこの記憶も見ちゃったんだ……。あ、あれはもう会えないと思ってたからどうしても思い出が欲しかったというか……なんというかで、ですね……」

 

 というか、私もただでさえ九郎のことが好きだったのに8000年分の好きがなだれ込んできたせいで色々まずいかも……。

 

「……九郎のとこ行かなきゃ」

「い、彩葉?」

 

リビング

────────────────────────

 

 

「な、なぁヤチヨ……」

『ん、んん~? どうしたのかな九郎~?』

「彩葉……どうしたんだ?」

 

 俺が指さす先には右側から俺の胴体にぐるっと手を回して抱き着く彩葉の姿があった。休日の早い時間、彩葉が部屋にいきなりやってきたと思ったら無言でずっと抱き着いてきて全く離れない。あまりに珍しい出来事に彩葉とヤチヨ以外のネストの面々も何事かと黙りこくって彩葉のほうに集中している。

 

「い、彩葉……?」

「動かないで、刺激しないで、なにも聞かないで。ただずっと今日はこうさせて」

 

 え、えぇ……。本人に何か聞こうとしてもこんな調子でなにも喋らないし……。というか刺激しないでってそんな爆発物でもあるまいし。……なんか俺に引っ付いてるときのリンと似た感じがして少し落ち着かないんだよなぁ……。

 

「こーんにーちーはーー! お兄! 休日だから来ちゃった……よ?」

 

 ……噂をすればなんとやらだったか。リンが合鍵を使って家に上がってきた。声が聞こえてきた方向に顔を向けて声をかける。

 

「いらっしゃいリン。だが、悪いななぜかは知らないが今日は彩葉がこんな感じであんまり相手できない」

「……これは」

 

 あぁ、リンも彩葉の姿が目に入ったらしい。困惑の声を上げている。そりゃ驚くよな? 目が見えないから肌触りからの推測だけどあの優等生な彩葉が朝からずっとパジャマで俺に抱き着いてんだぜ? わけわからないよな。

 

「これは『リンちゃん状態』……?」

「あ?」

 

 突然リンがわけのわからないことを言い出した。なんだその状態異常。というかお前自分でその名前つけたのか?

 

「あ、えっと……単純に言うと私と同じような状態になってるだけ。多分ちょっとすれば落ち着くと思うから……。あの、えっと彩葉さん、大丈夫ですか? どれくらいかかります?」

「今日一日はこのまま」

 

 リンがそっと尋ねると彩葉が俺の胸に顔を埋めたままリンの質問に答える。……さすが自分の名前を付けただけはあってこの状態に詳しいみたいだな。

 俺は納得したがネストの面々は納得していないのかリンを連れて部屋の隅に行ったらしい。ん? かぐやとヤチヨの気配が遠くなった。

 

「ちょ、ちょっとリンちゃん! 彩葉のあの状態のこと分かるの!?」

『彩葉変な病気になったわけじゃないんだよね!』

「は、はい! 芦花さん、かぐやさん安心してください。お兄にも言った通り私と同じ状態……。平たく言えばお兄に対して滅茶苦茶発情してるだけですから!」

 

 

 んー、彩葉がリンと同じ状態かぁ……。つまりあれか? 彩葉は刺激するなって言ってるけど思いっきり抱き返せばリンみたいにビクビク! ってするってことか? あれするときとしないときとだとリンの抱き着き時間がだいぶ違うし。やるか?

 

『……リンちゃんってブレないよねぇ。ヤッチョ、そういうところは尊敬するよ。うん、そういうところだけ』

「その状態に自分の名前つけるのは中々なメンタルしてますよね……」

「そ、それはともかく、彩葉さんが『リンちゃん状態』ということはつまり……」

「無茶苦茶お兄に発情してますね」

 

 ビクビクした直後は息荒いけどそのあと落ち着いて離れていくから早く終わるんだよな。さすがに今日一日中は辛いし、なによりこのままだとKASSENもし辛い。よしやろう。

 

『むぅー、彩葉があんなになるなんてヤチヨ、なにしたの?』

『いや、これはヤチヨがというより彩葉自身がやらかした結果といいますかぁ~』

「なにはともあれ彩葉さんはああやって一日くっついておけば収まるって言っていたのでお兄から刺激しない限りは……」

 

「彩葉?」

「?」

「ぎゅーー」

「な、馬鹿ッ、ッッ~~~~~~!!」

 

 おぉー、リンより体が大きいせいかよく震える。いて、いてて。リンは震えるとき足がピンっと伸びるんだけど彩葉は足バタバタするタイプなんだ。蹴られていたい。

 

「な、なにやってんのお兄!?」

 

 なぜかリンが怒りながら近づいてくる。

 

「え? あぁいや。お前も腹の下の方思いっきり抱きしめてあげると早く離れるじゃん。だからおんなじことを……彩葉?」

 

 話している最中、彩葉に横抱きにして持ち上げられる。

 

「私、刺激するなっていったよね……? こぉんの悪童2号が……。いいよ、そっちがその気なら存分ヤってやるわよ!」

『彩葉!?』

『ちょ、落ち着いて不同意yOtogibanashiはまずいって!』

「うるさい! 今のはどう見ても私は無罪だ! 抜け駆けしようとしてた悪童に言われる筋合いないわ!」

『うっ』

『え? な、なんで彩葉がそのこと!?』

「かぐやちゃん?」

「抜け駆けって……どういうこと?」

 

 彩葉の発言に芦花とリンの気配が変わる。……しかし抜け駆けってなんのことだ? あっ。

 

「彩葉は抜け駆けわんわんお? とかいうのしようとしたってことか?」

「ちょ!? 九郎くん!?」

「抜け駆け『わんわんお』? 広美さん、説明してもらってもいいですか?」

 

 おや? 広美とカヨコの気配も変わったな?

 

「かぐやさん、ヤチヨの二人を追及するのは後にして、芦花さん! 彩葉さんを止めましょう! カヨコさん! 広美さんのほうはお願いします!」

「うん、頑張ろうリンちゃん!」

「えぇ、任されました……おや? 広美さん。どこに行こうというのですか? ふ、ふふふ、ふふふふふ」

 

 なんか一気に部屋が騒がしくなり始めたなぁ……。

 

『ど、どうしようヤチヨ。収集つかなくなってきちゃったよ!?』

「収集つけたいなら突っ込みの真実でも呼べばいいんじゃない?」

『すっごい他人事に言ってるけど原因は九郎だからね!』

 

 かぐやの言葉に返答したらなぜかヤチヨから激しく突っ込みを入れられたのだった。うーん、いい案だと思ったんだけどなぁ……。

 

 




・8000年インストールした彩葉さん。自分の思い+8000年分の九郎への感情が合わさりすごいことに。
・前周回の九郎くん。大筋は一緒だけど細部が違う。
・クレイドル。前周回の『鳥籠』の名称。実は若干メンバーが違う。一応超かぐや姫のキャラの中から選んであります。セリフはオリジナルだけど設定資料集を持ってる人は名前と発言からどのキャラかわかるかも。
・コラボライブ時の聞こえなかった発言。これもズレてる。本来ヤチヨが言われたのはこっち。
・ヤチヨが8000年の間にあった人たち。元ネタがわかれば私と同じ趣味です。
・初ログイン時のヤチヨ。涼しい顔してこんな感じでした。
・リンちゃん状態……。
・リンは足ピン、彩葉は足バタ。
・このあと真実の姉貴が全員に拳骨落として事態を収拾しました。
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