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かぐや奪還作戦、そして彩葉の8000年インストールから数か月後。季節はすっかり冬へと変わろうとしていた。
「ウィ!ラィ!エッヴァグリ!フォエバーハピネスメイカッドリム! ウィ!ラィ!エッヴァグリ!フォエバーハピネスメイカッドリム!」
結局二学期は半分以上休んじまったな……。
「フォーエバー↑ エーンデバー↑ エーヴァグリーン↑ エーヴァグリーン↑↑」
二学期も後半に差し掛かり本格的に盲学校への転校を考えなくてはいけなくなったころ父さんと母さんが俺に義眼を持ってきてくれた。義眼というよりは残った右目の視力を補正してくれる眼鏡に近いものだが。それでも日常生活には十分なものであり、俺は転校せずにまた彩葉たちと同じ学校に通えることとなったのだ。
『見た目とかにも拘ったより高性能な義眼はちょっと待ってて』って言われたけど正直これがあれば十分な気がするんだよな……。
『……なんだと思う?』
『いや~、ヤッチョも分からないかも~。九郎の歌う歌ってどれも独特で聞いたことないし……』
ともかく俺は再び彩葉、芦花、真実、瑛斗たちと同じ学校で運動会、文化祭を楽しむことができた。両方とも広美やカヨコ、リンが来てくれて一緒に回った。そういや彩葉と芦花も合流してみんなで文化祭を回った時クラスメイトにすごい目で見られたがあれは何だったんだろう?
「フォーエバー↑ エーンデバー↑ エーヴァ―――……っし洗い物も終了ー。……どうしたんだ二人とも?」
俺が洗い物を終えてリビングのほうに振り替えるとテーブルの上に置かれた二つのタブレットからヤチヨとかぐやの二人が俺のほうをじっと見ていた。
『なんか……九郎の歌って変わってるよね』
かぐやが頬を書きながらそう言ってくる。……え、また俺なんか無意識に歌ってた?
「……嫌だったか?」
『ううん、そんなことない! ただ、本当に独特だったから……』
『とっても綺麗な歌声だったよー、ヤッチョが保証しちゃう! ねぇねぇ九郎。また歌動画だそうよ!』
えぇー、なんかかぐやのリアクション的に本当に変なの歌ってたか? ……なんだ? なに無意識に歌ってた俺? ファットマンの歌とかか? にしても歌動画か……。
「Day After Dayがあるし十分だろ」
『あれもいい曲だけど! せっかく普段聞いたことない曲、歌ってるんだから動画にしたほうが私はいいと思うなー! そ・れ・に! かぐやと二人でデュエットしたんだしヤッチョともデュエットしてほしいなー?』
ヤチヨが『歌いたい、歌いたいー』と駄々をこねる。……ツクヨミ管理人の姿か、これが? まぁかぐやの時のようにわがまま言えるようになってきているのはいい傾向だとしても……。
「あれはかぐやが俺に一撃当てた時の褒美だったわけだし……」
『――てたもん』
「ん?」
『ヤッチョだって攻撃当てたし、なんなら昔からずっとダメージ与えてたし、少し前まで九郎に私勝ってたじゃーん!!』
「あー……」
確かにそう言われたらそうだよな……。俺がAMS入手するまでずっとヤチヨが勝ってたもんな……。
「わかったわかった、一曲だけな。かぐやの時と同じように俺が自分一人の一曲、ヤチヨとのデュエット一曲な」
『ええええー! ヤチヨずるーい! 九郎! かぐやとも歌おう!』
「かぐや、お前今卒業中だろうが」
『かぐやは一撃入れただけで一曲だったじゃん! ヤッチョは九郎のこと倒したんだよ、三曲くらい動画あげよー?』
「無茶を言うな! そもそも俺はあくまでKASSENプレイヤーなんだ、アイドル売りはまだしていない! ……まぁ、必要になるかもしれないけどさぁ」
ネストのみんなにはまだ内緒だが、最近俺はブラックオニキスの帝たちに相談してプロゲーマーになるにはどうしたらいいのか、どういうことに注意しなければいけないか、などを聞いている。この体じゃ普通に就職するなんて無理だし、俺にできることと言ったらKASSENしかないからな。……ちなみに俺が相談したらブラックオニキスの三人は快く相談に乗ってくれたが俺の話をそのまま事務所に話したらしくもしかしたら俺はブラックオニキスの後輩になるかもしれない……。
『え? いま……』
『まだって言ったよね、九郎!? どういうこと!? なんか予定があるの!?』
俺のつぶやきが聞こえていたのか二人が激しく追及してくる。
「……内緒」
俺は片目を瞑り人差し指を口に当てて前傾姿勢になり乃依伝授のポーズをとってみる。少しだけニヤッと笑うのがコツだったか……?
『ふぁッ!? く、九郎そんな仕草どこでッ!? ぬあああっっ!! かぐやに体があったら絶対わからせ『はーい、ヤッチョガード。……教えたのは乃依ちゃんだなぁ~。ふふふ、九郎が私の知らない間にいろんな色に染められて……ぐふっ……』
「お前ら何を言って――――ん?」
かぐやとヤチヨが騒いでいるのをあきれた目で見ているとふとスマホにメールが届く。送り主は……彩葉だ。今日は進路相談で彩葉や芦花の帰りが遅くなるはずだ。だから先に帰った俺がこうして家事を先に片づけているわけなんだが。俺は彩葉から送られてきたメールを開いて文面を確認する。
「うげっ」
『九郎?』
『珍しい声だねぇ』
「二人とも、落ち着いて聞け」
俺はそこまで言って二人のいるタブレットに向けてメール画面を見せる。
「酒寄紅葉さん……彩葉のお母さんがこれからここに来る」
ら、ラスボス戦が終わった後の裏ボス戦かな……。
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「さてと……これで色々大丈夫だと思うけど……」
酒寄紅葉さんが来ると判明してから大急ぎでできる限りの掃除はしたけどこんな感じでいいのだろうか?
『できる限りのことはしたし大丈夫だと思う』
『うぇー、彩葉のお母さんって彩葉に無茶苦茶した酷い人じゃん、そんなにきれいにする必要ないよ!』
ヤチヨは俺の言葉を肯定してくれるがかぐやのほうは嫌悪感マックス、帰れムードをすでに醸し出している。
「まぁ、俺もあの人が彩葉にした仕打ちに言いたいことはある……。それはそれとして来客を迎える最低限のことをしたってだけだよ」
酒寄彩葉の母、酒寄紅葉。俺はかつて一度だけ彼女に会ったことがある。あれは一年生の時の三者面談のときだった。親元から独立したいと思っている彩葉だがこの日だけは親を呼ばざるを得ない。それで学校にやってきた酒寄紅葉さんと出会ったわけだが……確かめっちゃ見られたんだよなぁ。教室へ向かう廊下でのすれ違いざま、立ち止まりはしなかったけど彩葉の後ろを歩きながら視線は俺のほうをジーっと見ていた。
やっぱ弁護士だしいろんな人を見ているだろうし、俺の中身が戦バカのろくでもないやつって見抜かれてたのかな?
「―――来た」
そんなことを考えているうちに彩葉の気配と似てはいるが別の気配を感じる。
「へえ……なんや、ずいぶんええところに住んでるやんか。こんなとこに住んどったら、人間、可笑しゅうなるで?」
「それは私もそう思てるわ」
聞きなれない声と聞きなれた声の聴きなれない方言での喋り方。
「お帰り、彩葉」
『おかえりなさい、彩葉』
『いろはー! おかえりー!』
「ただいま、三人とも」
リビングにやってきた彩葉に俺たちが声をかければ彩葉はニコリと笑って返事をしてくる。そのやり取りのあと俺は視線を横にずらし、彩葉の隣にいる人物に目を向ける。
黒いジャケットとパンツスーツを身にまとい鋭い目つきが凛々しさを醸し出している、まさにバリキャリという言葉が似合う女性。酒寄家の頂点、酒寄紅葉がそこにいた。
「はじめまして、酒寄紅葉さん。こうして挨拶するのは初めてですね。彩葉のクラスメイトで同居人、烏丸九朗です」
「確かに、こうして挨拶するんは初めてやな。彩葉の母、酒寄紅葉です。礼儀正しゅうてええ子やね。……その敵意むき出しの視線がなかったら、もっと良かったんやけどなぁ」
へぇ……気が付くんだ……。ならもういいか。
「あぁ、それはすいません。なにせ俺、あなたのことが嫌いですから」
「九郎!?」
『九郎、いきなりブッコミ過ぎ!』
『べぇーーーだ!』
彩葉とヤチヨが驚いてかぐやが舌を出している。
「へえ……ほんまに素直で可愛い子やなぁ……気に入ったわ」
すでにリビングにはピリピリとした空気が漂い始めていた。
「ど、どうしましょう芦花ちゃん、カヨコさん! 彩葉ちゃんのお母さんが来るってことで急いで帰ってきたら家の空気がすごいんですけど!?」
「こ、この中入っていくのはちょっと勇気がいりますね……。一度隣の部屋のほうに避難しておきま―――芦花さん?」
「怒ってる九郎……カッコいい……」
「そこにおるあんたらも入ってきぃや」
「「「え!?」」」
ウィ!ラィ!エッヴァグリ!フォエバーハピネスメイカッドリム! ウィ!ラィ!エッヴァグリ!フォエバーハピネスメイカッドリム!
ウィ!ラィ!エッヴァグリ!フォエバーハピネスメイカッドリム! ウィ!ラィ!エッヴァグリ!フォエバーハピネスメイカッドリム!
好きだったクラスメイトが二学期に入って休学になり復学してきたと思ったら片目を失って視力もほとんど失っていたという現実を叩きつけられるモブ女子同級生の気持ちを考えよ。
そしてそんなクラスメイトがクラスの才色兼備優等生(彩葉)と人気インフルエンサー美少女(芦花)、胸とタッパのでかい女子大生(広美)、黒髪ロングの艶っぽい和服美人(カヨコ)、チョーカー付きロリ爆乳(リン)を引き連れて文化祭を回っているのを見た同級生男子の気持ちを考えよ。
乃依Pは力をためている……
いろP「プロデュースされたのか、私以外のやつに」
三者面談時の紅葉さん
(なんや、めっちゃ可愛い子おるなぁ……)