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自宅のリビングで俺と酒寄紅葉さんはバチバチと剣呑な雰囲気を漂わせ向かい合っていた。少し離れた位置ではカヨコ、広美、芦花が集まって心配そうにこちらを見ていて、彩葉とヤチヨはどうしたものかと俺と酒寄紅葉さんの間で視線を彷徨わせ、かぐやは紅葉さんに向かって舌を出したりあっかんべーしたりと挑発を繰り返してる。
「……あなたとは一度色々話してみたかったんですよ。ただまぁ、立ち話もなんですからこちらにどうぞ。お茶でいいですか? それか……京都の方でしたよね、ブブ漬けでも出しましょうか?」
「ハッ、お茶でええで。ほんな、いきなりブブ漬けとは……ほんまに威勢のええ子やなぁ。彩葉もあんたぐらい気骨があったらええのになぁ」
俺の案内した席にスッと座りながら紅葉さんはそう口にする。
「彩葉も十分に気骨はあるでしょう?」
「……まぁ、前と比べたら、ずいぶん良ぅなった。けど、まだまだ甘ちゃんやなぁ」
ほぅ。この人から彩葉をほめる言葉が出るとは思わなかった。ラストにまだまだって言われてるけど事前に彩葉から聞いていた話的には褒め言葉なんて一斉出てこないものかと思っていたから。
あ、彩葉も予想外だったのか固まってる。
「ほんなら、お茶の準備もできたみたいやし、ゆっくり話そか」
ああー、このヒリつく感じ……まさにボス戦って感じ。俺はゆっくりと紅葉さんの対面の席に座る。
「そういえば、ずっと気になっとったんやけど、九郎くんあんたはなんなん? 彩葉の彼氏なんか?」
「ちょ、お母さん!?」
紅葉さんの言葉に彩葉が焦る。視界の端の方で芦花たちもなんかガタリと動いた感じがしたが……何かあったか?
「違いますよ」
「なんや、ちゃうんか」
「確かに彩葉は素敵な女性ですけど……」
「『『「「「!?」」」』』」
「けど?」
「俺みたいなバカで傷もちの男よりも真っ当で魅力的な人間が世の中にはたくさんいるし、そういうやつらのほうが彩葉を幸せにできると思いますから」
俺みたいにいつまで生きてられるかわからない不健康なやつよりましな男……女でもいい。世の中に沢山いるし。俺は彩葉が夢を叶えるまで一緒にいれたらそれでいい。
……ごめんちょっと嘘。本当は彼氏とか、夫、子供ができたとしてもたまにKASSENしてほしい。
「こぉんの……クソボケぇ……」
「ん?」
なんか小声で彩葉が呟いた? というか芦花たちもため息ついてるし……。
「なるほどなぁ。あんたらの関係は大体わかったわ」
紅葉さんは紅葉さんでなんか納得してるし……一体何なんだ?
「それで、九郎くんが言いたいことは何なん? 聞いてあげるさかい、好きなだけ言うてみ」
「……なら、遠慮なく。あなたが彩葉に強くなってほしいのはなんとなくわかる。両親に置き去りにされて、残された四人の弟妹の面倒見ながら京都大学法学部へ入り一発で司法試験に合格。……いや、前に聞いたときも思ったけど本当にすごいな……」
いや、本当にどうなってんだ。しかも弟、妹も全員大学に進学させてるし……全員が紅葉さんほどじゃないけど様々な分野で活躍してる……。なんだこの超人一族。
「ふふ、ありがとさん。でも、九郎くんが言いたいことはそないちゃうやろ?」
「あぁ、あんたは立派ですごいよ紅葉さん。けどあんたは大事なことを知らない」
「大事なこと?」
「親が子にどうやって物事を伝えるかだ。ま、仕方がない話さ。なにせあんたは親に何も教われなかったんだからな」
「……」
こちらを見定めるような目と微笑みが止まる。
「紅葉さん。あなたが彩葉を大切に思ってること、どう育ってほしいのか、何となくしかわからない。けど、あんたの考えは間違ってないと思う。彩葉はちょっと……チョロいところがある」
「おい」
彩葉の唇に人差し指を当てて口を塞ぐ。そして『少しだけ黙っていてほしい』という思いを込めて彩葉にウインクする。すると彩葉は小さく『くッ』と言いながら引き下がってくれた。
なるほど乃依が帝を黙らせるときに使ったと聞いたこの手段が通用するとはやはり兄妹だな。
「だから自分と同じように強くなってほしいと思うのは良いことだと思う。けどあんたはその伝え方、教え方を間違った。彩葉は彩葉だ、あんたの分身じゃない。『私にできたんだから娘にもできるはず』? ふざけんなよ、血が繋がっているだけで同じことできるならあんただって子を捨てて消えればいい。あんたの親がそうしたようにな」
「……ええなぁ、九郎くん。めっちゃ楽しいお話ができそうやなぁ」
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「ま、ええわ。彩葉にも言うたけど好きにやってみたらええよ」
「えぇ、そうさせて貰いますよ……」
つ、疲れたぁ……。この人やっぱ彩葉のお母さんだよ……。これだけ精神を削ったのは一週目のマレニア……あるいはラスジナ、ハードのカーパルス占拠、そしてミディール……いや、修道女フリーデか? まぁ兎も角、本物の弁護士相手にこれだけ舌戦したんだ。大金星でいいだろもう……。
「うぅ……頭痛い」
「ふふ、よう頑張ったなぁ。粗はところどころ目立っとったけど筋は通ってたし、ちゃんと勉強して弁護士目指してもええんちゃう?」
「お断りします。あなたみたくなりたくないので」
「ほんま、生意気やわぁ。まあ、紹介したい人おる言うてAI連れてくる意気地なしの娘よりはマシやな」
ほう?
「かぐやもヤチヨもそんな物ではなくてちゃんとした『人』ですよ」
なんだ二回戦始める気か?
「九郎君もおかしなこと言うてはるなぁ。ふたりともタブレットの中におる子やろ?そりゃ人間やなくて機械っちゅうんやで」
……やってやろうじゃねぇか!
「悪いがそいつは笑えない。二人とも俺の『大事な人』達だ」
『『!?』』
「それを今から証明してやる……FUSHI! 紅葉さんにも彩葉にやったみたいに8000年インストールしてやれ!」
うっすらとだがこうなる予感がしていた俺はヤチヨに頼んで待機させてもらっていたFUSHIに声をかける。
『ちょ、く、九郎!? あれは耐えられた彩葉が特殊なだけで普通の人間にやっていいものじゃ―――』
「遠慮の必要なし! 紅葉さんの持論の『自分にできたことは娘にもできる』ならその逆、『娘にできたことは自分にもできる』が成立するだろ!」
『そんな無理やり―――』
ヤチヨが慌てて止めようとしてくるが問答無用!
「FUSHI!」
『いっくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉーー!』
『FUSHI!?』
「なぁ!? いきなり、頭が……!?」
待機していたFUSHIが紅葉さんの脳に干渉して8000年のインストールを開始した。うし、こうすればかぐやとヤチヨの二人のことも認めてくれるだろうし、数時間は目を覚まさないから休憩できるな。
「よし、今のうちに休憩しようみんな」
「いや、ヨシじゃないでしょ! お母さんに何してんの!?」
彩葉が立ち上がって突っ込みを入れてくる。
「でもほら、彩葉のお母さんなら大丈夫だろ」
「いや、私も大丈夫だとは思うけど……」
「それにこうでもしない限りこの人ずっとかぐやとヤチヨのこと認めなさそうだったし。あと、彩葉の親なんだから少なからずかぐや達の事情を知っとくべきでしょ、月のこととか」
「うーん……それはそうなんだけど……」
俺の言葉に彩葉も返答に困ったように詰まる。
「ほら、とりあえず数時間は起きないんだし、彩葉たちは荷物置いてきちゃいなよ。帰ってきてからずっとそのままでしょ?」
そもそも部屋の隅で待機している芦花たちがいつまでもあのままで俺たちの言い合いに巻き込まれてるのが不憫だ。
「そうだね、一旦荷物片づけてまて「―――うぅ……ほんなら、そうやなぁ……」
「なっ!?」
『嘘ォ!?』
紅葉さんが頭を押さえながらだけど意識が復活したらしい。
「FUSHI?」
『僕はちゃんと8000年分の記憶を流し込んだぞ!』
FUSHIに確認するがしっかり記憶を流し込んだらしい……。まじかよ、この超人……。
「ええで、まず二人とも『人間』ってことは認めてあげるわ」
自己認識もしっかりしてる……。なんなん、この家系……。
「にしても……あんさん達もこんな男相手じゃ、ずいぶん苦労しはるなぁ。ほんまに九朗くんは悪い男やなぁ」
「いきなりなんすか……?」
なんで急に彩葉たちに同情的な視線を向けて……?
「相変わらず生意気な男の子やね、ほんまに」
「
俺が困惑している間にいつの間にか紅葉さんは俺の頬に手を伸ばしていてかつての彩葉、帝の様に捏ねくりまわしていた。えぇぃ! 本当に酒寄の家系は俺の頬をこねななきゃいけない決まりでもあるのか!?
「ふふふ、かわええなぁ。それじゃ、満足したし帰るわ」
「は?」
なんだこいつ、自由人か? ……あぁいや、そういえば彩葉の母親でもあるけど帝の母親でもあるのか。それは自由人だわ。
その後芦花や広美、カヨコとも一言二言話して玄関に向かう紅葉さん。気に喰わない人ではあるが彩葉の母親で客人でもあるので玄関まで言って見送る。
「烏丸九朗さん、うちの娘……彩葉のこと、よろしくお願いします」
「うぇ? あ、いや、はい。彩葉がしっかり夢を叶えられるように支えていくつもりです」
別れ際、いきなりかしこまって頭下げてきた。び、びっくりしたぁ……。この人、こんな風にもなれるんだ……。
「……まぁ、今はそれでもええか。ほな、また会えるんを楽しみにしとるで」
「勘弁してください」
俺としてはもう会いたくないです。はい。俺の返事に紅葉さんは笑いながら俺の頭を撫でまわした後帰っていったのだった。
それから、約半年に一回ぐらいのペースで紅葉さんはうちに遊びに来るようになった。そのたびに俺の頬や頭捏ねてくるんだが孫みたいに思ってるんじゃないだろうな?
……毎回俺の好きなお菓子持ってくるからうまく断れないんだよなぁ……。
反抗してこない娘やのらりくらりかわす息子と違いガッツリ正面から反抗してきた男の子(女顔でたれ目で小柄可愛い)とのやり取りにご満悦な紅葉さん。
尚、ネストの面々は時折飛んでくる九郎からの言葉に一喜一憂していた模様。
紅葉さん語録のせいで彩葉のKASSENの動きが鈍ることがあったので紅葉さんに対しての好感度は低く口が悪い時代の九郎くんがチラチラ出てしまう。
乃依くんは帝の弱点を九朗に教えて、九郎は乃依に彩葉の弱点を教える。そして互いに教わったことを相手に試して『やっぱ兄妹なんだなぁ』と楽しんでいる。乃依は帝にわからせられるし、九郎は余罪がたまって7年後に大清算をすることになる。
超人の母も超人だった。