「―――であるからして、これをΣを用いて表すと―――」
かぐやを取り戻し、ヤチヨの8000年の記憶を見て、何故か……な、ぜ、か、!九朗がお母さんに気に入られてから数週間。私、酒寄彩葉はいつもの日常というものを再び手に入れて過ごしていた。まぁ、いつものと言うには、帰る場所に食生活など、私生活の面は大きく変わったけど。
私は教室で数学の授業を受けつつ、ふと自分の右後ろ、教室の廊下側一番後ろの席に目を向ける。本来その席に座っているはずの九朗の姿はどこにもなかった。
────────────────────────
「で、九朗くんは今日は義眼の調整でお休みってこと?」
「うん。なんか映像処理にツクヨミの一部機能を使ってより高画質にする実験も兼ねてるんだけどね。細かいことはヤチヨとかぐやの月の技術の話だから全然理解できない」
「そんなこと言って~。彩葉もヤチヨちゃんの記憶覗いたんだしちょっとは理解できるんじゃない?」
お昼休み、私と芦花と真実はいつもの空き教室で弁当を広げていた。本当は九朗も一緒が良かったんだけど義眼の改良やメンテナンスは今の九朗の安全のためには欠かせないもの、我慢我慢。
「わかるって言ってもほんとさわりだけだよ。ま、メンテナンス中はツクヨミに接続してるしヤチヨもかぐやもいるから大した問題は起きないでしょ」
「そうだねー。あの二人が九朗に危険なことさせるとは思ええないもん。しっかり安全確認してから実験するでしょ。だからなんのトラブルも起きないとおも―――」
芦花の言葉を遮って真実のスマホの通知音が鳴る。
「ん? あ、瑛斗からだ♪」
おー、流石瑛斗君。真実の声が少し高くなって機嫌が一気によくなってるのがわかる。ふふ、幸せそうだなー。私たちもいつか九朗とこんな風に……。
「あっ」
「……考えてることおんなじだと思う」
そんなことを思いながらネストのメンバーである芦花のほうを向いたら芦花とばっちり目が合う。きっと芦花も今の幸せそうな真実を見て私とおんなじこと考えたんだろうなー。そう思って机の下で芦花と手を繋ぎ微笑みあう。
「え、んー……なんか幸せそうに笑いあってるときにごめんね二人とも」
「ううん、大丈夫」
「もしかして用事できたとか?」
いつの間にか真実が少し険しい顔をしてこちらを見ていた。なにかあったのだろうか?
「多分だけど……トラブル、起きてると思うな。九朗くんかヤチヨのどっちかに」
「へ?」
「え?」
「瑛斗が送ってきたツクヨミ掲示板のスレッドだけど……ほら」
そういって真実ず見せてきたスマホの画面を芦花と二人で覗き見る。
【なにか】ライブでもないのに街中にミニヤチヨが溢れてるんだけど【探してる?】
そこには現在のツクヨミの様子を撮影した動画が添付されていた。再生を押すと普段ならライブでしか現れないミニヤチヨ達がツクヨミの街中を飛び回っている姿が撮影されている。うわ、なんだこの幸せ過ぎる空間……。学校じゃなかったら私もツクヨミにログインしてぇ~。
ってそうじゃなかった。ミニヤチヨたちは売店の裏、路地の裏など様々なところに顔を突っ込んで確認して回っている。確かに何かを探してるみたいだけど……。なんだ?
「んー、かぐや達からは―――」
「ネストのグループには何も来てないね」
私が自分のスマホで通知を確認しようとすると既に芦花が確認してくれていた。と、なるとヤチヨ単独でツクヨミの運営のために何かしているか、私にバレたくない何かをしていて態と連絡を入れてないかなんだが……。
「帰ったらヤチヨちゃん達に色々聞かないとね」
「うん。ホント、まったくね」
トラブルなんて起きないって思った矢先にこれだよ……もう。
────────────────────────
「ヤチヨー! 九朗の身体のほうはまだ眠ってるみたい」
「そっかー、一先ず安心だね。となると……あとは逃げちゃった精神の方をどうにかしないとか~」
「そうだよ、ヤチヨ! ただでさえミニヤチヨが街中に居るってことで話題になっちゃってるし、彩葉たちが返ってくる前に解決しないとめっちゃ怒られるー!」
「へぇ……私に怒られるようなことしたんだ。二人とも」
「うげぇ!」
「お、オヨヨ~。彩葉、いつの間にお帰りにー?」
学校が終わって急いで家に帰り、ヤチヨから貰ったパスコードを使って管理人室に直接ログインするとかぐやとヤチヨが私に気が付かず目一杯コンソールを操作しながらそんなことを離していた。
「私と芦花が帰ってきても気が付かないほど大変だなんて……一体今度は何やらかした悪童ども! それから全く起きない九朗に関しても詳しく説明しなさい! 私も芦花も心配したし、カヨコさんが見たらまたトラウマなるわ!」
家について九朗がAMSつけたまま寝ててどれだけ話しかけても体を揺すっても起きないのだ。その姿はかつてかぐやの卒業ライブで無茶した後の九朗の姿を思い出させて芦花は無茶苦茶動揺したし、私もちょっと怖かった。
芦花は九朗のそばで待機させて比較的冷静な私がこうやってツクヨミにログインしてかぐや達にどういうことか説明を聞きに来たわけなんだけど……。
「え、えっと……義眼の機能の自動アップデート中に暇な時間が出来ちゃって、それで九朗とかぐやと私でここでおしゃべりしてたの」
私の質問にヤチヨが説明をし始める。
「それでね、九朗の昔の話になったの。ヤッチョは初めて九朗がログインしたときの九朗の姿を知ってるからあの時の九朗は可愛かったなぁ~ってお話したの。あ、勿論今の九朗も可愛いよ!」
分かってるわそんなこと。けど……九朗が初ログインしたときの姿……。
「九朗の初ログインって……あの小学生の……」
ヤチヨの8000年の記憶を巡ったときに見た今よりも小柄で短パンをはいて居た頃の九朗。あぁー、確かにあれは可愛かった。
「えぇー! 彩葉も小っちゃい九朗知ってるの!? 良いなー! 小っちゃい九朗の姿もっと見たかったのにー!」
「『もっと見たかった』……?」
かぐやの言葉に引っかかりを覚える。
「あ、やべ」
「おい待て、こら。かぐや、なにしたの? いや、この感じ、わがまま言ったのはかぐやでヤチヨが悪乗りしたな?」
「あ、アハハハ……」
自分の口に手を当てて失言した、と顔を青ざめるかぐやと笑顔で冷や汗を流しながら頭を掻くヤチヨ。
「え、えっとね……かぐやがどうしても小っちゃい九朗を見たいって言うから、ヤチヨが九朗のアバターを弄って当時の姿に変えようとしたんだけど……。ちょっとツクヨミがバグっちゃって、当時よりも小っちゃい姿……具体的に言うと幼稚園児ぐらいに若返っちゃった上に記憶も当時の物になっちゃったみたいで……」
「は?」
い、今なんて言った?
「だから九朗からするといきなり知らない場所で、知らないお姉さんたちに囲まれたみたいに感じちゃったわけで……逃げられちゃった。バグの影響で肉体と精神の繋がりがあやふやになっていたうえに逃走だから、意識だけが走り出しちゃったみたいな状況で肉体の方の九朗は意識不明になっちゃって寝てるの。小さい九朗を見つけてここに連れてくれば全部もと通りにはできるんだけど……全然小さい九朗を見つけられなくて。――て、てへぺろ!」
あー、だからミニヤチヨがツクヨミ中を探し回ってた訳かー……。
「こぉんの……馬鹿!!!」
「ひぇー! ごめん彩葉! だってかぐやも小っちゃい九朗見たかったんだもーん!」
「まさかこのタイミングでバグが発生するとは考えてなくてごめんね、彩葉~」
「―――というわけで……ごめん! みんな九朗を探すの手伝って!」
管理人室でかぐや達を叱りつけてからまた時間は経って、私は月人撃退作戦の時とかぐや奪還作戦の時に使ったミーティングルームでネストのメンバーに真実、瑛斗君、さらにはブラックオニキスの面々に事情を話して頭を下げていた。
「かぐやちゃんもヤチヨも凄いことしたねぇ、もちろん協力するよ」
「なんでもありなのはさすがツクヨミ管理人と言ったところでしょうか……?」
「なるほど、あのミニヤチヨ大量発生の原因は迷子探し……いやニュースにはできないか」
「よ、幼稚園児のお兄……。大丈夫です、イケます」
芦花、カカさん、オタ公さん、リンちゃんは九朗のことなので当たり前に協力してくれる。
「で、この写真が逃げる直前に撮影できた今の九朗くんの姿。小っちゃいねぇ……」
「あいつにもこんな時期があったんだな。真実も俺も協力しよう」
良かった真実と瑛斗君も協力してくれるらしい。
「かぐやちゃんのお願いとあっちゃ、聞かないわけには行かないよ―――「あー、帝。今回は俺たち降りた方が良いかも」―――え? なんでだよ?」
お兄ちゃんの言葉を乃依くんが遮る。どうしてだろ?
「今の俺たちは『鬼』。ツクヨミも知らない年齢の子供からすれば間違いなく本物と思われるだろう。見つけても逃げられ、泣かれるのは確実だ」
「あ」
あー、そっかお兄ちゃんたちって鬼のアバターか。確かに九朗は怖がって近づかないし隠れて余計見つかりにくくなるかも。
「だから雷、あとはよろしく~」
「あぁ」
そういって雷さんはフードを外し普段は隠れている熊の丸い耳を出す。よく見るとピョコピョコと動いている。雷さんも確かに鬼だけど小さめな片角だけだし、この状態ならどちらかというと耳の方に目が行く!
「雷は小さいころ俺の面倒もよく見てくれてたし小さい子の相手も得意だからうってつけだと思うよ」
「今も面倒を見ているだろ」
乃依くんの言葉に雷さんがそう返して少し笑っている。さらに小さい子の相手もなれている……なるほど確かに雷さんは今回の捜索にぴったりかもしれない。
「と、いう訳で俺と帝はみんなが探して終わったエリアで突発路上ライブでもやるよ。そうすればそこに人が集まってほかのエリアの人は少なくなって九朗を探しやすくなると思うからさ」
「ありがとう、乃依くん。お兄ちゃんもそれでよろしく!」
「お、おう!」
というわけで九朗捜索作戦が始まった。
────────────────────────
「いた! 第3服飾市場付近! つぅーか滅茶苦茶早いんだけど!?」
『分かったすぐ向かうね!』
『マジか~、私とレオ反対のエリアに居る。ちょっと遅れるかも!』
『私とオタ公さんは隣接したエリアに逃げ込んでも挟み撃ちできるように隣のエリアで待機しておきます』
『園児のお兄、かっわ、これすぐにイっちゃい―――お゛っ。……離脱します、すいません』
『見た目は子供でも体は【渡り鴉】のアバターだからね。ステータスは高いよー』
『鬼瓦で逃走ルートを限定する。俺のスピードでは追いつけん、頑張れ』
捜索開始から数十分、路地裏で蹲って泣いている幼い九朗を発見して声をかけるがその瞬間に逃げられた。グループ通話で発見と闘争の報告をすればみんなからの返事が返ってくる。
芦花はすぐに来てくれるらしく、真実と瑛斗君は遠くに居て遅れてくる。カカさんとオタ公さんは隣接したエリアのどちらに逃げても対応できるように待機中、リンちゃんは離脱していて雷さんは援護に向かってきてくれている。
「待って九朗!」
「やー! 知らない! 来ないで!」
「ッ!」
記憶がないから仕方がないけど『来ないで』って言われると傷つくなぁ!
「にしても……」
本当によく逃げる! ステータスが高いとかそんな物じゃなくて
「あなたはこの世界に迷い込んじゃてるの! だから私たちはあなたを元居た場所に返したいの! 会いたいでしょ! 九朗のお父さんとお母さんに!」
「知らない! 知らない! 会いたくない!」
「え?」
追いかけながら説明してみるがどうにも拒否される。どういうこと? お父さんやお母さんに会いたくないの? もしかしてちょうど喧嘩したときの記憶とか言わないでしょうね……。
いや、喧嘩しててもこんなに小さい子だし、いきなり見ず知らずの土地にいるんだから両親に泣きつきたいはずなのに……どういうこと?
「あぶぇ!?」
「ッ! 止まった!」
私が考え事をしている間に九朗の目の前に雷さんの鬼瓦が落ちてきて九朗はよけきれず正面衝突する。そして尻もちを付いた瞬間に私は九朗を捕まえる。
「捕まえた! 雷さんありがと!」
「ん」
鬼瓦が飛んできた方を見ると近くの建物の屋根の上に雷さんがいてこちらに向かっていつものピースポーズをしていた。
「やーだ! 離して! やだやだ!」
「あぁーもぅ、落ち着いて。 怖いことしないからお願い。ね、九朗」
「僕、九朗って名前じゃないもん! 離して! 僕はお家に帰りたいの!」
「え? 九朗じゃない……?」
どういうこと? 実は九朗の家って昔ながらの名家で幼名があったとかそういう感じ? いや、でもそんなことならリンちゃんが事前に説明してくれるだろうし……。もしかして幼くなった九朗は別にいてこの子は本当に無関係だったりする? いや、でも本当にこの子九朗にそっくりだし……うーん? 一先ず話を合わせて探りを……。
「え、えっとそうなんだ……。それじゃぁお姉さんたちの勘違いかもしれないから確認のため君の名前教えてもらっても良い? お姉さんたちも君ぐらいの男の子を探してるんだ、だから協力してくれないかな? お願い」
私は抱えていた九朗? を手を繋いだまま下ろして目線を合わせてお願いする。すると九朗? は少し考えた後私の方を向いて口を開いた。
「僕は■■……」
それは聞いたことのない名前だった。
ほれ幼くなった渡り鴉だ、可愛いだろ。
・ツクヨミのバグといえばすべては許される。いいですね?
・■■ この作品を読んだ人ならこれが一体だれなのかわかりますよね?
・ちなみにネストのメンバーは九朗のことが大好きなのはもちろん他のネストのメンバーのことも大好きなのでいろろか、かぐヤチ、カカオタなどもあります。
・寝たきりで反応のない九朗はネストのみんなが苦手とするもの。
・雷さんは無表情だけどちっさい子にも懐かれると思う。
・ちなみに突発ネタなので続きは考えてません。すいません。また思いついたらボチボチ書いてきます。
以下オーディオコメンタリーのある部分について。ネタバレの為反転入れます。
かぐやがさぁ! 紅葉さんについて語るときにさぁ!『戦いこそ人生だ』って言っててさぁ! 色々脳内よぎったよね。まぁ~た紅葉さんと九朗くんの相性がいいって判断できる材料が出てきちまったよ……。