超闘争   作:四脚好き

5 / 6
第5話

翌朝

────────────────────────

 

「んんッ? あぁ、朝か……」

 

 スマホのアラームを消してのっそりと布団から起き上がる。……昨晩色々あったせいか妙に気だるい。メガネ、メガネはどこだ……。あ、ここか。

 

「……うっし」

 

 洗面台へ向かってメガネを外し冷たい水で顔を洗って寝ぼけた頭をスッキリさせる。そのあと冷蔵庫にあったおにぎりを何個か食べつつ、制服に着替え、いつもより早めに家に出て上の階の彩葉の部屋に向かう。

 

「おはよー!」

「あぁ、おはよう」

 

 部屋についてインターフォンを押して名乗ると昨日の少女が部屋のドアを開けてくれる。……またデカくなってないか? いや、もう成長スピードについては言及すまい。

 

「彩葉は……生きてるな。流石優等生」

「当たり前でしょ。というかそんな簡単に死なないから」

「嘘つけ。最近はマシになって来たが以前のお前、割とすぐ死にそうだったぞ」

 

 だからこそ、芦花や真実があれこれ頑張っている彩葉を甘やかそうと努力しているんだがな。その成果が最近になってようやく出てきたと思ったところに赤ん坊の登場だったからな、随分焦った。そう言う意味ではこうして猛スピードで成長してくれて助かった。

 

「烏丸ー、彩葉が部屋に閉じ込めるの~。それにくそまじぃパンケーキ食べさせるの~」

「……閉じ込めるはなんとなく分かるがパンケーキとはなんだ?」

「水と粉のパンケーキ。安くて、お腹が膨れて、洗いものも少ない画期的な節約飯」

 

 彩葉の部屋のフライパンの上を見るとそこにはとてもパンケーキとは思えない物体があった。……これは何と言うか、ナンじゃないのか? これ単品で? かぐやと彩葉に許可を貰い一枚貰う。

 ……くそまずい、というほどじゃないがすっごくパサパサしてる。というかこれ単体はキツイ。焼きたてなら変わったのかもしれないがこの冷えた状態は……。というか塩だけでも良いから味が欲しい!

 

「これ単体は少しきついかも」

「えぇー?」

「でしょー!」

「塩かけろ、塩」

 

 俺が改善案を出すがそれでも少女は納得いかないのかウゲェという顔をしている。その横でさっさと身支度を整える彩葉。

 

「じゃあ、行ってきます」

「待ってやだやだ! ねぇ、烏丸も一緒にいようよー!」

 

 彩葉と俺の手を掴んで嫌々、と駄々をこねる少女。

 

「そんなに学校って大事なわけ?」

「いや~、まぁ俺にとってはそこまでだけど……」

「九朗もそんなこと言わない! 命より大事!」 

 

 おおぅ、彩葉の雷を喰らってしまった。まぁ、俺は正直前世の記憶もあるからそこまで重要視していないけど今世の親が折角金出して通わせてくれているんだ。しっかり通って勉強はしないとな。

 

「あんたと関わったのは私の責任だけど、もう全部元に戻すから。だからあんたも月へ帰って!」

 

 彩葉にとって学校は家庭環境のこともあり大切なものだ。それを守るためには仕方がないんだろうが少しばかり言葉がキツイ。しかしそうだよなぁ、彩葉はコイツに月に帰って欲しいよなぁ。……俺の最高のエモノ育成計画が……。

 

「でも帰り方わかんないし。なんかここおもしろそーだし」

 

 ほう、それは僥倖。思い出せるまでは地球に居るということか。

 

「とにかく早く思い出して! きょ―――」

「まぁ、待て彩葉。気持ちは解るがヒートアップし過ぎだ。そんでお前」

「私?」

 

 軽く興奮状態の彩葉をなだめつつ少女を呼ぶ。そうすると少女は小首を傾げつつ近寄って来たので昨日の夜の内に買っておいたあるものを渡す。

 

「お前に色々と聞きたいこと、話さなきゃいけないことはたくさんあるが、今は時間がない。ほら、これで遊んでていいからどうか今日はこの部屋で大人しくしておいてくれ。明日以降は、また帰ってきてから話そう。な?」

「これで、遊ぶ?」

「ああ! それじゃあ、ごめんな。行ってくる!」

 

 俺が渡したスマコンに少女が釘付けになっている間に彩葉の手を握って部屋の外に出る。そしてそのまま登校を開始する。部屋から出る瞬間、少女が何か言っているような気がしたがこれ以上時間はかけられないのでさっさとアパートを後にする。

 歩いてアパートからすこし離れた所で振り返って彩葉の顔を確認する。

 

「落ち着いたか?」

「ぁぁ……うん、ありがと」

 

 彩葉はなにやら緊張した面持ちで笑顔がぎこちない。どうかしたのか? 彩葉の視線の先を追うとそこにはがっちりと彩葉の手を握る俺の手。あ、力入れ過ぎたか。

 

「すまん」

「ぁぇ……っと大丈夫。うん、気にしないで」

 

 大丈夫とは言ってるが俺が握っていた手を反対の手ですりすりと摩ってるし傷めたか?

 

「そ、そう言えばあのときアイツに何渡したの? なんか小物みたいでよく見えなかったんだけど……」

「ん? あぁ、スマコン」

「は?」

 

 俺の言葉に彩葉が固まる。

 

「え、ええ!? す、スマ、スマコン!? 新品だよね!?」

「当たり前だ。目に入れるもんなんだから中古なんて与えられるわけないだろ」

「え? えぇ? 確かスマコンの新品価格って……」

「12万ちょい」

「あ、あ、なん、え?」

 

 バグ寄ラグ葉だ。なんか物凄い勢いで顔色が変わってる。見ている分には面白いが人間こんな急激に顔色代わりまくって大丈夫なのか?

 

「な、なんでそんな高価な物を!?」

「あぁ別に気にするな。俺は俺の考えがあってアイツにスマコンを買い与えたんだ。それにツクヨミなら外出してる気分になるし、無料で遊べるからアイツも部屋で大人しくなってるだろうさ」

「それはそうかもだけど……」

「だからほら、彩葉は何も気にしなくていい」

「ん、むぅぅ……」

 

 ふふふ、いつもなら『お金返す』と言う彩葉も12万のものは無理だろう。言葉に詰まって何も言えなくなってらぁ。苦悶の表情を浮かべる彩葉をなだめつつ俺達は学校へ向かったのだった。

 そして時間は流れて放課後。

 

「彩葉って進路どうするの?」

「音楽系でしょー? それかeスポーツとかー?」

 

 俺は彩葉とその友人の芦花と真実たちと共に下校していた。実は二人ともツクヨミ内では有名なインフルエンサーであり、芦花は美容系インフルエンサー『ROKA』として活動していてファン数は約17万人。『KASSEN』での腕前は上の下、まぁそこそこ楽しい相手って感じ。真美はグルメインフルエンサー『まみまみ』として活動していてファン数約12万人。『KASSEN』の腕前は芦花と同じく上の下、ただ芦花よりかは楽しいがどっちもどっちって感じ。

 

「そんな才能ないよー。音楽は無理だし、eスポーツはもっと向いてる人がやるべき。それこそ九朗みたいな。それに最低限東大にはいかないと親が認めてくれなそうなんだよね」

「キッついなぁ……」

「最低ラインがそこ? 厳しー」

「私なんかでろでろに甘やかされてるなー」

 

 彩葉の言葉にいつもと変わらぬノリと笑顔で返事する俺と芦花と真実。よし、ここまでは問題ないはず。

 

「こっちだよねー?」

「うん、そこの階段上ったとこ。彩葉おいでー」

「え、え、え?」

「ほら、荷物持ってやるからさっさと行け」

 

 真実が地図を確認しながら先導し、芦花が彩葉の手を引き、俺が彩葉の荷物をもって離脱や逃亡を許さない。昼休みに彩葉を除いた三人で事前で話し合った通りだ。

 

「え、待って三人とも今日何かあったっけ?」

「新しいカフェ、行くって約束したじゃん」

「いや、今日は……」

「問答無用」

「はい、れっちごー!」

「後生ですから~!」

 

 悲鳴を上げる彩葉の抵抗虚しく、カフェへと面込まれた彩葉。ふっ、馬鹿だなぁ。三人に勝てる訳ないだろ。……ツクヨミ内だったら俺は勝つけど。ま、ともかく金については心配する必要ないぞ、なにせ――――。

 

「彩葉ノートで赤点回避記念~」

「お礼の品でーす」

「お納めください」

 

 なにせ、俺達三人からの奢りだからな! 前世の知識で下駄をはいているはずなのにそれを軽々しく超えてくるお前の頭脳にはほんと驚きだよ、酒寄彩葉。

 

「あ、ありがとう!」

 

 目の前の三段パンケーキに目を輝かせた彩葉。彼女が喜びの表情でパンケーキに手を伸ばした瞬間、横からフォークがパンケーキに突き刺さる。

 

「……え?」

「いただきまーす! あむ、もぐもぐ……うんまぁぁぁ!」

 

 一口で一枚のパンケーキを平らげ、彩葉の三段パンケーキを二段へと減量させた犯人はアパートの一室にいるはずの少女だった。

 

「よっ、彩葉、烏丸!」

「……おぅ」

 

 もう、驚きで適当な返事しかできなかった。ほら、見ろお前。彩葉もまるで劇画みたいな作画になっちまってるだろうが。

 

「えー、可愛い。誰この子? というか九朗とも知り合いなの?」

「彩葉の服着てる。彩葉の友達?」

「あああああ、そう! そうなの! いや、友達って言うか、その……」

 

 芦花と真実の言葉にどう答えたものかと苦戦する彩葉。俺もどう説明したものかと思い悩み、ゆっくりとコップの水を口に含む。

 

「パンケーキ好き? はい、これもどーぞ」

 

 芦花が自分の分を少女に渡そうとするのを止める。

 

「芦花、いい。ほれ、俺のやるから大人しく座ってろ」

「分かった!」

「なぜそこで俺の膝の上に座る」

 

 俺は席を譲ろうと思ったのにそれよりも早く俺の膝の上に座ってきやがった。ああ、もうどうにでもなれ。頭の上に乗って来た少女の頭を撫でてやる。

 

「このパンケーキ美味しいね! 彩葉のと全然ちがーう」

「彩葉のあれは忘れてやれ。あれはパンケーキじゃない、べつの何かだ」

「二人とも紹介してよ。こんな可愛い子を独占はズルいって」

 

 流石美容系インフルエンサー。コイツの素材の良さに気が付いたのか視線が鋭い。まるで眼光のように()()()()()()が光ってる。

 

「月から来たの!」

 

 彩葉がコイツをどう紹介しようか迷っている間に他ならぬコイツ自身から語り出してしまった。

 

「……え?」

「ツキ……?」

「ジ! 築地だよね! 築地から来たの、私の従妹!」

 

 おぉう、中々凄いフォローの仕方だ。さて、大分苦しいが……。

 

「わー、美味しいお鮨屋さん教えて~?」

 

 よし、グルメインフルエンサーは釣れた! あとは芦花だか……。

 

「可愛いね、お名前は?」

「名前? 名前は、えーっと……」

 

 おっとそう言えばまだ名前なかったな。さて、どうするか。

 

「かぐや!」

 

 彩葉がそう言った。ははぁーん、さては昨日の竹取物語をこのタイミングで思い出したな?

 

「かぐや~~、かわよー!」

「えー、ぴったりだね」

 

 よし、芦花も真実も連れた。これでひとまずの難所は乗り切ったか。

 

「かぐや? かぐや……かぐや……そっかぁ。かぐやかぁ~!」

 

 名づけられた少女、もといかぐやは随分と嬉しそうにしていた。しかしかぐや、か。そう言えば俺はヤチヨに対しても初対面の時かぐや姫の様だと感じたがそこまで被る要素があるとはな。

 

「ごめん、私帰る。ありがとね、ごちそうさま! 後で埋め合わせするから!」

 

 そういって彩葉は残った二階分のパンケーキを素早く食べるとがくやの手を引いて素早く店をあとにするのだった。さて……。

 

「それじゃあ九朗――」

「九朗君―――」

「「説明、してくれるよね」」

 

 俺はこの複数ボスを攻略しないといけないのか……。オンスモ、マンイーター、王の仔、ヤーナムの影、英雄のガーゴイル……。うっ、頭が……。

 




 九朗、スマコンを渡したはいいが使い方を教えていない。そして右耳ピアスの芦花。
 
芦花と九朗
 芦花は美容系インフルエンサーとして顔出し配信もするため、学校からの帰り道が暗くなる時期だと護衛として九朗が付いて帰ることもある。そしてツクヨミ内でも人気からROKAが囲まれた時護衛として渡り鴉がいる。稀にROKAの厄介ファンが渡り鴉に因縁つけて『KASSEN』での勝負を挑んでくることがあるため、渡り鴉は喜んでこれを狩る。というかROKAと共にいる理由はこれ目当てである。

九朗『ROKAと乃依といると沢山喧嘩を売られるから楽しい。最高の撒き餌だ。まみまみ? アイツはアイツの彼氏がいるから俺の必要がない。というか稀に俺から喧嘩売りに行く』
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。