かぐやにこんがり脳を焼かれたつきんちゅの超ハッピーエンド計画   作:こんがり焼かれたつきんちゅ

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超かぐや姫、良いですよね。
でも仕事おわって帰った頃にはBlu-rayの予約、できなかったんだ。
かなしいね、バーニィ。


管理者つきんちゅ、かぐやに脳を焼かれる

今は昔……んんん、未来の話になるのかな? どっちかな、まぁいいや。

 

「かぐやぁ! テメェどこ行きやがった!!」

「わー!? ごめんてぇ!」

「今度ばっかりは許さねぇ! あれだけ光る竹に触んなって言っただろ!?」

 

地球がいっちばん綺麗に見える月のお屋敷の廊下で、鬼ごっこに興じる月人が二人ありけり。

 

「だってー、茶色一色とか地味じゃん」

「だからって七色に発光させるヤツがあるか! ゲーミングタケノコになってんじゃねぇか!」

「ぶはっ、ウケる」

「シバく!!」

 

月に帰ってめでたしめでたし。

そんなかぐや姫を待っていたのは、退屈でしんじゃいそうな月でのお仕事……なーんて思うじゃん? かぐやもね、ホントはそう思ってたんだ。

でもね、それだけじゃなかったの。

 

「なんだこれ、っと日記……いや、手紙か。すまん」

「読んでもいいんだよ?」

「ダメだ。こういうのはな、ちゃんと一番読んで欲しい人が一番最初に読むべきなんだよ」

 

かぐやの話を聞いて、そして彩葉が月に届けてくれた歌にこんがり脳を焼かれた月の偉い人が、かぐやの味方をしてくれたの!

 

「それで、このこんがり脳を焼かれた月人って誰よ?」

「めっちゃ読んでんじゃん! カッコよかったのに台無しだよ!!」

「まぁまぁ、細かい事は置いといて。んで、もしかして俺?」

「他にいなくない?」

「んーーーー、それはそう、部分的にそう」

 

それでね、かぐやが地球に帰れるように、お仕事の引き継ぎとか色々、めーっちゃ手伝ってもらってるんだ。それでね、えらえらかぐやもめちゃお仕事頑張ってるから、また会った時にいっぱい褒めて欲しいな?

 

「我涙不可避」

「ま、また泣いてる……。ほんと感情豊かになったよねぇ」

「まぁ、おかげさまでな」

「いい事なんだけど、重くてちょっと引く……」

「!?」

 

こんなことがあったんだよーって彩葉といっぱい話したいからさ、そんな偉い人との出会いも書こっかな!

 

 

平穏不変を愛する月人にあって、その少女は昔から"変わり者"と呼ばれていた。

月人達が愛する蹴鞠や舞楽に興味を示さず、仕事を「つまらないんだもん!」と投げ出す事さえあった。

 

特に、地球と呼ばれる星が近くなってからはそれが顕著で、飽きもせず隙をみては縁側から眺めては目を輝かせていたという。彼も月の光の中、浮かびあがる青い惑星をいつまでも見つめるその横顔を、通りがかりに幾度か見かけたこともあった。

 

そんな彼女が月を逃げ出したという知らせを聞いたのが少し前で、連れ戻されてきたのがつい先程。

 

月の対外観測と折衝を担う管理者の一人——情報生命体とでも形容すべき月人の中でも数少ない、時に肉体を得て外の世界と言葉を交わすことを生業とする男は、執務室に呼んでいたかぐやから、地球時間でおよそ二ヶ月分の出来事を報告として聞いていた。

 

彼は感情の起伏が少ない月人の中でも、さらに静かな部類だとよく言われる。それが仕事に向いているからか、仕事がそうさせたのかは今更わからない。ただ、長い年月をかけて培われた彼の平静さは、今この瞬間まで、一度も崩れたことがなかった。

 

「でね、ちょー楽しかったんだぁ……」

 

少女が語る言葉は時に脈絡を欠き、時に早口になり、時に途切れた。喜びと悲しみが入り混じった声は、まるで地球の嵐のように不規則で、月人の論理では到底整理のつかない順序で語られる。

男はそれを遮ることもなく、ただ静かに全てを聞いていた。

 

「よう、ございましたな」

「うん、聞いてくれてありがとね。これからはさ、ちゃんとお仕事頑張るから」

 

彼女の震える声と、笑顔の奥に滲む陰。そこに秘められた感情の正体が如何なるものか、男には正確には分からない。しかし、文字通り見違えたその少女の様子に——あの縁側の横顔とは全く別の、何かを経てきた者の顔に——地球での短くも濃密な時間が与えてくれたものの大きさは、何となく理解することができた。

 

「もー、なんでそんな悲しそうな顔してるの?」

「私が?」

「うん。辛い、泣きそーって顔してるよ」

 

言われて、男は傍らの窓に自分の顔を映してみた。そこには見慣れぬ表情があった。眉間に寄せられた皺。下がった眉根と口許。なるほど、確かに悲しそうだ——と他人事のように思った。

 

「それは」

 

言いかけて、止まる。

 

今、何を言おうとしたのか。

長く月の管理者として生きてきて、言葉が無意識のうちに口をついて出そうになるなど、初めての経験だった。だが、この身の内から湧き上がるものを無視せず、引き出してみれば——その正体を知ることができる気がした。

 

「とても悲しい、からでしょうか?」

「めでたしめでたし、ハッピーエンドだよ?」

「そうかもしれません。しかし、私はそれでも悲しいと感じてしまった」

 

男の言葉に、少女は一瞬、顔を歪めた。しかしそれも瞬き一つの間に、まるで大輪の花が咲くが如く、可憐で美しく——そして決して手折られぬ強さを秘めた笑みへと変わっていた。

 

「大丈夫。彩葉との、皆との思い出が足元を照らしてくれるから。だからね、かぐやはお仕事もちょー頑張れるんだ。迷惑いっぱいかけちゃった分、バリバリ働くよー!」

「あぁ……」

 

それだけ言うのが精一杯だった。

今まで多くの星の使者と向き合い、交渉を重ね、どんな言葉も受け流してきた男が——たった一人の少女の、何でもないような笑顔と言葉に、完全に打ちのめされてしまった。胸の中心で、ぱちぱちと何かが燃えている。月の者にはおよそ不要なはずの、熱い何かが。

 

見事にこんがりと焼かれてしまった訳である。

 

「なんと、尊いのか」

「か、かぐやのリスナーみたいなこと言い出しちゃった」

「誰かを想うその気持ちは、争いもなく、別離も知らぬ我々ただの月人が感じるものとは似て非なるものです。それを、私はとても尊く、そして非常に好ましく感じます」

「そ、そっか。うん、ありがとね?」

 

驚いて若干のけぞる少女だが、男はそれどころではなかった。

初めて感じる己のうちの熱に浮かされ、そして溢れ出した分が涙となって頬を伝う。思えば涙というものを流した記憶が、自分にはない。知識の上では知っていた。だが今まで一度も、その必要がなかったのだ。

 

「えっ、ちょ、待って待って待って!? 泣かないでよ」

「はい」

 

男は静かに首を振った。しかしぽたり、ぽたりと落ちる雫は止まらない。

月人の身体は、地球人と比べれば極めて整然としている。機能に無駄はなく、感情による過剰な反応も少ない。故に涙を流すというのは、止めようとしてそう簡単に止められるものではなかった。

 

「おかしいですね、止まりません」

「あーもう、ほら!」

 

少女は慌てふためきながら、自分の袖で男の頬をぐいぐいと拭う。月の管理者の一人に対する所作としてはあまりに不敬だ。

けれど男は袖越しに伝わるその不器用で真っ直ぐな優しさに、温かなものを感じていた。

地球から帰ってきた少女の袖が、あの青い惑星の匂いをまだ纏っているような気がした。

 

「名前を、もらったと言っていましたね」

「ありゃ言ってなかったっけ? かぐやはね、かぐやだよ!」

「かぐや……いい名前ですね」

「でしょ? 大好きな彩葉にもらった大事な大事な名前なんだ」

 

名前を褒められたかぐやは目に見えてご機嫌となり、鼻歌を歌いはじめる。卒業ライブのために大好きな彩葉が自分を想って紡いでくれたメロディは、かぐやの心の奥深くに大切に仕舞われているのだという。男はその声を聞きながら、目元を押さえた。

 

「落ち着いた?」

「はい。お手数をおかけしました」

「えへへ。じゃあかぐや、お仕事戻るね」

 

少女は軽やかに立ち上がり、廊下の向こうへと消えていく。その背中を見送りながら、男はもう一度、窓の外の地球を見た。今まで幾度も眺めてきた青い惑星が、今日は少しだけ違って見えた。

 

——あの少女がいた場所が、あそこなのか。

 

長い月の歴史の中で、誰かの話を聞いてこんな気持ちになったことは一度もなかった。感情というものを、こんなに近くで感じたことも。

胸の中でまだくすぶる熱を確かめるように、男はゆっくりと息を吐いた。

 

——帰れるよう、何とかしましょうか。

 

声に出したわけでも、誰かに告げたわけでもなかった。ただ、その思いだけが執務室に静かに満ちて、やがて己のうちに沈んでいった。

 

 

それからの日々は、男にとって初めて尽くしの連続だった。

 

翌朝、目が覚めた瞬間に最初に思ったのはかぐやのことだった——などという事実を自覚した時の、あの奇妙な感覚は今でも覚えている。長い長い月日を生きてきて、朝に誰かの顔が浮かぶなど、一度たりともなかった。

 

仕事は粛々と続けた。表向きはいつも通りに。

 

しかし水面下では、かぐやが地球へ戻るための筋道を探ることが、いつの間にか男の中で最も重要な仕事になっていた。月の事情は深く複雑に絡み合っている。一個体の感情を理由に曲げることは許されない。

 

故に男は論理と理屈をもって、かぐやが地球に帰れる道筋を探す。地球の継続的な観測記録の必要性、かぐやが持ち帰った、宇宙全体を見ても稀有な特性を持つ地球人の情報の価値、そして地球の技術発展に伴う将来的な長期的な関係構築の重要性——そういった建前を、ひとつ、またひとつと積み木を組み上げるように丁寧に重ねていくのだ。

 

根回しを進める合間に、かぐやが執務室へ顔を出すようになった。最初は仕事の確認という体裁で。やがてそれが、特に用のない立ち寄りに変わっていった。

 

「ねーねー、この補正値合ってる?」

「三桁目が違います」

「あ゛ー! ここか! ありがと!」

 

すぐ来てはすぐ帰っていく。それだけのことだった。それだけのことなのに、男はいつしかかぐやがやってくるあの軽くて弾む廊下の足音を、部屋の外から聞き分けられるようになっていた。

 

「なんかさ、仕事ってやってみると意外とおもしろいね」

「以前は投げ出すことも多かったと聞いていますが」

「うっ……それは言わないでよ」

「何が変わりましたか」

 

かぐやは少し考えて、それから窓の外の地球を見た。

 

「彩葉も、皆も、毎日すっごく一生懸命生きてたから。あそこで今も頑張ってるんだろうなって思うと、かぐやも頑張れるの」

 

男は何も言わなかった。ただ静かに頷いて、書きかけの書類に視線を戻した。

 

しかしその言葉は、ずっと胸の中に残り続けた。

 

そして月の時間でいえばずいぶん経ったある日、かぐやが執務室の扉を勢いよく開けて飛び込んできた。

 

「聞いた⁉ 許可、下りそうだって‼」

「……そうですか」

「君が動いてくれたんでしょ」

 

かぐやの声が、静かになった。

 

男は書類から顔を上げた。少女は真っ直ぐにこちらを見ていた。あの日の大輪の笑みでも、慌てた顔でもなく——透明で、真剣な眼差しで。

 

「……いいえ、私はなにも」

 

短い沈黙。

 

「ありがとう」

 

それだけで、男の胸にあの熱がまた戻ってきた。しかし今度は泣くことはない。

代わりにそれをさらなる原動力に換え、不敵に笑うのだ。

 

「まずは仕事を引き継げる環境を作るところからです。まだまだ先は長いですよ?」

「上等! ちょー天才かぐやならちょちょいのちょいだよ」

 

笑いあう二人を、浮かぶ青い星が優しく見守っていた。

 

 

「あの頃は真面目だったのに、すっかりグレっちゃった。言葉遣いもきちゃなくなっちゃって」

「やかましいわ。どこぞのお転婆小娘に振り回されてりゃこうもなるだろ」

「へへへ、かぐやしらなーい」

「コイツほんま……」

 

回想はここで終わる。

 

今目の前で逃げ回っている少女が、あの頃の感情こそ豊かだったが、どこか遠い目をして何かを諦めたかのような哀しげな雰囲気を纏う少女と同一人物だとは傍目には信じられないだろう。

 

廊下を全力で逃げながら、心底おかしそうに笑っている。月の管理者の一人に向かって「しらなーい」と言い放てるくらいには、ここでの日々が板についてきた——そしておそらく、地球に帰れる日が確実に近づいてきていることも、ちゃんとわかっているのだろう。

 

「待てコラ!!」

「やーだ!」

 

男は廊下を走りながら、内心では呆れつつも口許が緩むのをどうしても止められなかった。感情というものを得てから、自分の顔がこんなにも動くものだと初めて知った。静かな月人の管理者が廊下を走り回るなど、以前の自分には到底想像もつかないことだ。

 

まったく、誰のせいなのやら。

 

「捕まえたぞ小娘」

「あっ、ずる! ワープはチートじゃん!」

「当たり前だ。いつまでも追いかけっこしてる暇はねぇんだよ」

「うー……」

 

首根っこを押さえられたかぐやが、観念したように項垂れる。それから上目遣いにうるんだ瞳を男に向け、言った。

 

「ねえ、今日ってまだお仕事しないとダメ?」

「……何かあんのかよ?」

「たまにはさ、一緒に地球見ようよ。君の大好きな歌もね、歌ってあげる!」

 

男は少し黙った。

窓の外では、地球が今日も静かに青く輝いている。

 

「……少しだけなら」

「やった!」

「どうして断れない……何故……?」

 

かぐやが嬉しそうに駆けていく。男はその背中を見て深いため息を吐きながら、ゆっくりと歩き出した。

別れの時まであと少し、今だけこの少女との思い出を作るのも悪くはないだろう。

 




お読みいただき、ありがとうございます。
社畜ゆえ不定期更新ですが超かぐや姫の熱が続く限り続けていければと思っています。
引き続きよろしくお願いいたします。
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