僕のヒーローアカデミア ~The Cinder of Rubicon~ 作:柴猫
前の方が良かったという方は申し訳ありません。
いつか聞いた花火のようだと、そう感じた。
アーキバスが直してしまったバスキュラープラントを、恒星間入植船であるザイレムが再び元に戻す。火薬庫の役割としては、少し違和感を覚えてしまう。正しく言うなら、火薬庫に火薬庫が突っ込む、だろうか。
出来るならカーラに、チャティにも聞いてほしかった。きっと彼らは笑ってくれただろう。いや、チャティはどうだろうな。
ああ、どうしてこんな面白いことを、もっと早く口に出せなかったのだろうか。
あの子を置いていくように、逃げるようにブースターを吹かして、でもどうしても前に進みたくなくて。
貴重なENを使ってまで反転して、初めて直視したルビコンという丸い星の全容。
それが真っ赤に、成層圏すら乗り越えて宇宙を、イチゴミルクをこぼしたように拡がっていく様に、もう背を向けられそうになかった。
『…621 仕事は終わったようだな』
声が聞こえる。
『お前は自ら選び、俺たちの背負った遺産を清算した』
あの時見捨てた、温もりを残した手触りが。
『すまない そして感謝しよう』
飛び上がるほど嬉しいはずなのに。
猟犬なら、尻尾を振って喜ぶべき言葉なのに。
『621』
私の瞼は少しも震えなかった。
『お前を縛るものはもう何もない』
違うよ。
違うんだ、ハンドラー。
『これからのお前の選択が…』
そうじゃないんだ。
『お前自身の可能性を広げることを祈る』
私が、ほんとうに、ほしかった―――
いってほしかった、ことばは
火に包まれる中で、私は揺蕩っていた。
聖者は串刺しにされ、罪人は火炙りにされると聞いた覚えがある。さぞ焼かれるのは痛いのだろうと思っていたが、感じたものは熱ではなかった。
蕩けたチーズのように焼いた皆に押し流され、そこに埋もれていく。あの人の腕の中のようで、でも決してそれではない。
―おっきくなったら、リンゴジュースにとけたい―
昔の夢、自分の体に覆われて視界が一色に染まっていく感覚。
?
なんだろう
光が
ちっちゃな、
こえが
みえて
視覚の回復も待たずに、膨大な情報量が灼かれたはずの脳を貫いてきた。
さっきまで何をしていたのか見ていたのか、全て忘れてしまうほどの感情の波。頭が割れるような痛みが、とっさの状況判断などできないほどに襲い掛かってきた。
恐怖、混乱、日常の壊れる音。それらの声が視界を塞いでしまうほどに、再教育が温く見えるレベルの、地獄がそこにあった。痛みと恐怖に呻く声が自分のなのか誰のものなのかさえ分からなかった。
痛みに耐えて辛うじて分かるのは、そこが辺境の都市ということ。強化人間でも分かるくらいには技術水準の低い建物が並んでいる。
その光景で、道路の真ん中で暴れている化け物が、人の群れを脅かす。夢か、それともここが地獄の景色なのか。
だがそれの正体を探る余力も判断力も、悲鳴にかき消されてもう残ってないらしい。
息が浅くなる。手足が震えて覚束ない。
だが、心配する声も、状況を知らせる無線も入ってこなかった。
当然だ。
ぜんぶ、燃やしたのだから。
―!!―
声にならない声が漏れた。ような気がする。
化け物は自分の力を誇示するように、もっと俺を見ろと叫ぶ。
咆哮に共鳴して、辺りのノイズが更に酷くなる。もういっそ、早く死んだ融けたほうが楽だったと思うほどに。
「HAーーHAHAHA!!」
ふと、膨大な恐怖の先から巨大な声が
それらの悲鳴をかき消すほどに大きな、でもまるで励ますような純粋な温かさを持って。
画風が、いや存在感そのものが、違う。
たなびく金髪に、吊り上がった口角。聞く者の心に響く、いい笑い声。
「もう大丈夫!」
どうやってか飛んでやってきたその男は、化け物の頭を殴りつけ一瞬で沈めた。
当然その相手は死んで……ない。あの速度なら殺せたはずの者を、金髪の偉丈夫は子どもを懲らしめるような拳で気絶に納めた。
とても、優しい手のひらだ。
「なぜって?」
青と赤のパツパツなスーツ、たなびくマント。何のタクティカルアドバンテージももたらさない筈の衣装、武装の類は無し。
非合理的な武器で、あっという間に敵を倒す。
今まで見たことも聞いたことも無い、滅茶苦茶な戦い方。
そして、その無茶の代償となる、ボロボロにささくれた掌を、掲げる。誰にも見えないように。
「私が、来た!!」
気付けば溺れるほどの悲鳴の波は聞こえなくなっていた。目の前の偉丈夫に、全部持っていかれた。
あの人なら、私をまた抱いてくれるのだろうか。
そうして無意識に伸ばした手は、
真っ赤なコーラルのそれだった。
―?―
自分の声も、聞こえない。聞こえるはずない。
頭の痛みもふらつく手足も。
浅くなる息も灼かれていた脳も。
全部ただの
はっきりと、現実が見えてきた。
見知らぬ土地に、見知らぬ人類。そして、目の前の大男。
周り全て未知の中、私の体だけが、あのコーラルと同じ色だった。
ここにいても、何も変わらない。
知る必要がある。そして術も必要だ。
『敵』を排除する、方法が。
嫌に軽くなった体は、まるでコミックの世界のように、なすすべなく風に吹き飛ばされる蛾のように空へ放り出された。誰にも見えない花びらみたいに。
遠くなる声を背に、晴天の雲間から紅い光が瞬いていた。
ある時を境に、この星は〝超常〟という人ならざる力が、人に宿った。
異能と呼ばれた超常的な力は、突然の発現以降世界を揺るがし、人々を互いに脅かす力となっていた。
だが、後にその力を弱者を守る力として先鋭化、活動を行う超人が現れる。
以降、異能は『個性』と名を変え、人間に備わる当たり前の力として認められていくようになった。
時代が下り、異能を持つ者、個性保持者は世界のマイノリティとして台頭していく。
それは個性を持つ者と持たざる者に、決定的な差を覆す不可逆な機会となった。
そうして人を超えた超人たちは、未だ覚束ない足元を何とかしてやり過ごそうと、空の上を見ることは無くなった。
真夜中の都心を、駆ける複数の影がある。
「目標は」
「奪取成功。金庫の紙幣もある程度は」
「後援のご機嫌取り位にはなるか。作戦通りこのまま上海へ向かうぞ」
夜の闇を味方にし、個性を存分に発揮して盗みを行うこの集団は、国際指名手配もされている海外テロ組織だ。
助けを求める声に敏感なのがヒーローだが、ならばと彼らは一切の痕跡を残す事なく目標を奪い、日本のヒーローたちの耳に入る前に海外へ逃亡しようとしていた。
己の個性を過信し、ただ暴れまわる者がヴィランでありそれを倒すのがヒーロー。日本社会の腑抜けた常識に隊長は内心嗤うしかなかった。
「平和ボケしてんな、この国のヒーローもヴィランも」
そうして都市部を離脱し、ヴィランの一味は隠していた船のある海辺の洞穴へ到着した。
リアス式海岸による足場の不安定さ、更に吹き付ける潮風が崖に当たる際に鳴る不気味な風切り音から、人は滅多に近寄らない。
そこに隠された偽装漁船へ隊員を向かわせ、後は出港するのみ。一息つき、隊長は暗闇の海の向こうを見つめていた。
―ヒュォォォォォ―
まるで女性の金切り声にも聞こえる風だが、それより怖いヒーローや警察組織に追われている彼らが怯えるはずもない。チンピラもどきのヴィラン連中とは練度が違う。裏に生きる以上は常に生と死と隣り合わせ、それが常識なのだから。
だからこそ、風鳴りに紛れて聞こえてきた機械音に、一瞬だけ反応が遅れたのは彼等もまた平和ボケしていたのだ。
洞窟から爆発が生じ、偽装していた脱出艇が海の藻屑となって闇に沈んでいった。エンジンをかけようとしていた隊員もまた、夜に溶けていく。
「Get Down!!!」
隊長の掛け声に一斉に腹ばいとなる兵士たち。
同時に、洞窟から漏れ出る粉塵とともに影が飛び出して来た。
「なんだあれは!?」
暗視ゴーグルを装着し、見えた姿に疑問がこぼれる。
それは鉄の人間だった。
背中のバックパックから蒼い噴射炎を吐き出し、両手には機関銃と思しき武装を持ち、肩には何らかの武装が格納されているのだろう四角い箱を背負っている。
炯々と光る頭部のモノアイがこちらと合い、その瞬間リーダーは怖気を吐き出すように反射的に叫んでいた。
「撃て!!」
そうして鉄の人間に殺到する弾丸、そして個性による刃。風、爪やら石やら。それらは共通して、人を殺すための殺傷力を秘めていた。
だが、鉄の人間は既に下へ降り、そこで背中の噴射炎を地上へ向けて吹かし、激突寸前で再び上空へ舞い上がり、上から弾丸の雨を降らしていく。
日本は銃禁止だろ!そう毒づいたリーダーだが、飛び回るそいつが撃っているのは機関銃だった。火線の後には仲間の血が流れ、戦闘不能とされていった。
生きてはいるらしい。だが鉄の人間は肩部に懸架された箱を開くと、大量のミサイルを海岸線に潜伏したヴィランたちへ容赦なく浴びせていく。
「Shit up!!」
悪態と共に隊長は個性をフルで使用。銃を捨て、己の手が黒い魔手となって大量にミサイルをはたき落とし、そのままロボットへ向かっていく。しかし敵は上昇下降加速減速を繰り返し、鳥や戦闘機でも不可能な踊るように軌道を夜空に描いていく。
砂煙の中でも、熱を孕んだ潮風が、背中で止まったのを感じて隊長は毒気づいた。
「この鳥野郎がぁ」
それが彼の最後の言葉となり、海岸には閃光が迸って、やがて暗闇となった。
「……相変わらずやってることエグイっすね~」
数刻後、収容されていくヴィランの様子を見た男が独り言ちる。火のように真っ赤な鳥の翼を生やした男の鋭い視線に、鉄の人間から出てきたそれはにべもなく返す。
『私は依頼に答えただけ。確実かつ迅速に無力化しろ、そう言っただろう』
「いやいやいや、だからといってターゲットを囮にしますか普通」
『?別にあれは人命ではない、ただの機密だ。漏れなければそれでいい』
「万が一にも漏れちゃまずいから言ってんですよ。失敗したらどうするんですか全く」
『私は失敗しない』
男と問答しているのは、これも人間ではなかった。
先の外装を脱ぎ捨てた内から出てきたのは、そのまま人型のロボットだった。恐らく女性を基軸に造られたのだろう機体は、半端に肉のついた人の骨格のような構造で、一目見なくとも人間ではないと分かる。
人擬き。そんなロボットの表面が光に覆われると、のっぺりとした頭部は肌色に、目、鼻、口、耳の人の器官が出来上がる。最後に短く切られた黒髪が写し出されるて風に靡くと、首から上は人間に、下は鉄製の歪な人体の骨格体が出来上がった。
「相変わらず凄いホログラムですね。それで人間の振りして町中出歩いてるんですか」
「?この体で出かける理由は無いぞ。仕事の話だけだ」
「……そっすか。じゃあ俺も帰りますんで」
「ああ、気を付けてな」
さりげなく放たれた言葉に、男――ヒーロー、ホークスは頬を引きつらせ、その剛翼を使って天高く飛んでいった。
土埃が舞いホログラムに微かな乱れが生じる中、彼女はその場で先の戦闘データを確認していた。
「物理的個性への対応力はクリア……状態変化の個性への対応は、確認できる発動条件は何らかの接触がトリガーになっているものが多い……やはりパルスアーマーは必要、と」
ヒーロー ”レイヴン”
類を見ない体質とその戦闘力から公安の監視下に置かれているヒーロー。
表に出てくることは一切なく、また情報も殆ど無い。
ただ知られていること。
依頼通り徹底的に、対象を叩きのめす。
誰の喝采を浴びることも無く。
「あ……オールマイト……」
「ふふ……」
今はただ空飛ぶスーパーマンに向けて、不器用に笑う。
「おーい、姐さん。手紙が来てたぞ」
「分かった。今見る」
「まーた公安からのお達しかぁ?」
「あのビビり連中なら直接あいつを呼び出すだろうさ。しかし……」
「?なんかありましたかい」
「いや」
「喜べ、
「雄英高校から技術協力のお誘いが来たぞ!」
え?レイヴンさんですか?
確かにまぁ、同期ではありますけどねぇ。まぁ、あんまり話したことはないっていうか。
俺は大してあの人のこと知らないけど、まぁ敵にしたくはないですね。いやホントだって、あの人ヴィランに本当に容赦しないんですから。
その割に脛に傷持ってる連中を自分のサイドキックにしてるんで、ダブスタしてんじゃないですかねぇ。あの人。
あ、ネガキャンとかじゃないですよ!?色々言っちゃったけど能力は確かだし、というかかなり高いので。市民の皆さんは安心してくださいね!
……俺なんであの人の宣伝しよっとかねぇ