玉葱騎士、六面世界に立つ   作:プラザ合意

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第15話 王竜王国その2

 

 その赤竜に会ったのは、吹雪の日だった。

 視界は白く閉ざされ、まともに前すら見えない。

 あてもなく雪山を進んでいた時、不意に殺気を感じた。

 

 振り向いた先。

 

 雪煙の向こうに、赤い瞳だけが浮かんでいた。

 

 最初に抱いた感想は―― 「美しい」でも、「恐ろしい」でもない。

 「強い」だった。

 

 直後、灼熱の息が雪を溶かしながら迫る。

 今より遥かに弱かった私は、いとも簡単に直撃を受け、焼き殺された。

 

 赤竜山脈ではいつもそうだった。

 竜より遥かに弱い自分は、簡単に殺される。

 復活してもすぐに赤竜に囲まれ、何度でも殺される。

 

 だが、この日は違った。

 

 赤竜は一匹だけだった。

 

 勝てる。

 

 そう思った。

 

 これまで負けてきたのは、数の暴力によるところが大きい。復活して一匹の隙をつこうとしても、他の赤竜に見つかり、殺されてきた。

 

 だが今回は一匹だけだ。

 殺せる。

 

 悍ましい呪いによる蘇生の感覚に耐えながら、赤竜の背後に復活する。そのまま竜狩りの大斧を具現化し、叩きつけようとし――

 

 ――尾の一払いで吹き飛ばされた。

 

 冷たい岩盤に叩きつけられる。

 直後、また灼熱の息。

 炎はいとも容易く鎧を溶かす。焼けた鉄が身体中にまとわりつき、皮膚を焦がす。息をしようにも、溶鉄が口を塞いで開くことすらできない。

 痛みが鈍い不死人の身体だとしても、地獄の苦しみだった。

 

 結局、黒い焼け焦げた塊になって、二度目の死を迎えた。

 

 二度目の復活。

 

 普段なら、ここで逃げの手を打つはずだった。

 隙をついても簡単にやられた。勝てる見込みはなく、逃げるしかない。

 

 だが、この時の自分はまた赤竜に立ち向かっていった。

 

 怒っていたのか、やけくそだったのか、逃げられないと思ったのか、今となっては定かではないが、とにかく戦い続けた。

 

 何度も、何度も死んで。何度も、何度でも蘇った。

 

 そうしているうちに、少しずつ見えるようになった。

 尾が動く前の筋肉。

 炎を吐く時の喉。

 翼の動き。

 赤竜の癖。

 

 最初は手に。次は尾に。その次は翼に。

 少しずつ、傷を与えられるようになっていく。

 

 完全に一方的だった戦いが、ゆっくりと変わり始める。

 

 そして、何十回目かの蘇生のあと、赤竜は動きを止めた。

 

「……?」

 

 吹雪の中、赤竜はこちらを見ていた。

 

 傷だらけだった。

 赤い鱗は割れ、血が雪を染めている。

 だが、その竜眼は衰えていない。

 

 爛々と輝きながら、真っ直ぐにこちらを見据えていた。

 まるで、“面白いもの”を見るように。

 

 やがて。

 赤竜はゆっくりと頭を下げた。

 

「…手打ちにしよう、ということか?」

 

 降参、と言わなかったのは、赤竜の眼光には興味と同じくらいの戦意が残ったままだったからだ。

 当然言葉は通じないはずだが、言葉を間違えればまた戦いが始まるだろうという確信があった。

 

 少しの間の戦いでもわかった。奴は自分の力に自信があり、自らのあり方に誇りがある。

 それを汚すものに容赦はしない。

 

 赤竜が、こちらへゆっくりと近づいてくる。

 

 警戒しながら、大斧を構える。

 だが赤竜は攻撃せず、ただ鼻先をこちらへ向け――腕を、軽く押した。

 

 まるで、確かめるような仕草だった。

 生きているのか。 本当に何度でも立ち上がるのか。

 そんなことを確認するように。

 

「……変な竜だな」

 

 そう呟いた時。

 赤竜が、低く喉を鳴らした。

 

 それが後に、“ヘルカイト”と呼ぶことになる赤竜との、最初の会話だった。

 

 

 

 

「ヘルカイト…?」

 

 思わず言葉が漏れる。

 首元に光る橙色の蝋石は、離れていても連絡が取れるように自分が渡したものだ。結局、一度も連絡はなかったが。

 

 あいつは赤竜山脈にいるはずなのに。なぜ王竜山脈に?どうやって?…加勢してくれたのか?

 たくさんの疑問が浮かぶ。

 だが、どんな疑問より優先されることがある。

 

 おそらく、というより、確実に。ヘルカイトは"赤災"だ。

 つまり、討伐対象(ころすべきあいて)

 

「お前っ…!こんなところで何をしている!」

 

 気づけば、叫んでいた。

 ぴくり、とヘルカイトが動く。 灼熱のような竜眼が、真っ直ぐにこちらを捉えた。

 

「早く逃げろ!」

 

 状況が分からない。理由も分からない。だが、ヘルカイトをここで殺させるわけにはいかない。

 

「ここは危険だ!討伐隊もいる、このままでは――」

 

 その瞬間。 ヘルカイトの竜眼が、ゆっくりと細められた。

 

 怒りでも敵意でもない。

 

 ほんの一瞬だけ。安堵したような、切なげな色が宿る。まるで、長い間探していたものを、ようやく見つけたような――

 

「聞いてるのか!?見つかれば狩られるぞ!」

 

 その瞬間。

 ヘルカイトの瞳から色が消える。

 代わりに浮かんだのは、じわじわと煮え立つような苛立ち。

 

「……グルルル」

 

 低い唸り声。

 不機嫌極まりない声音だった。

 

 ヘルカイトが一歩前に出る。

 大地が沈む。熱が膨れ上がる。

 牙を剥き、翼を広げるその姿は、災害そのもの。

 

 ――怒っている。

 しかも、かなり。

 

「グオオオオッ!!」

 

 咆哮。

 衝撃波めいた轟音が瓦礫を吹き飛ばす。赤熱したブレスが喉奥で渦巻く。

 

「チッ…しょうがない…!」

 

 大斧とグレートソードを構える。

 殺すわけではない。だが少し落ち着いてもらうしかない。強くなった自分であれば、できるはずだ。

 

 赤災が地を飛び立つ。

 その瞬間。

 

「グギャアアアアアッ!!」

 

 別方向から複数の咆哮が響いた。

 

「!?」

 

 十を超える王竜の群れが、一斉に突撃してくる。

 

 先程までヘルカイトを恐れて距離を取っていた王竜たちだったが、意を決して突撃してきた。

 

 最悪の乱入だった。

 王竜たちが重力魔術を展開する。空間が軋み、大地が沈む。

 

 だが。

 

「――グルァァァァァッ!!!」

 

 ヘルカイトの咆哮が、それを塗り潰した。

 

 爆炎が迸る。

 

 赤い奔流が王竜の群れを呑み込み、分厚い外皮ごと焼き焦がした。

 

「ギャアアアアッ!?」

 

 王竜たちの悲鳴。

 ヘルカイトは止まらない。

 

 飛びかかってきた王竜の首を噛み砕き、そのまま巨体を振り回して別の個体へ叩きつける。

 

 大岩がぶつかり合うような轟音。

 王竜の巨体が玩具のように吹き飛ぶ。

 

「……相変わらず、無茶苦茶だな」

 

 思わず漏れる。

 以前より強い。いや、荒々しい。

 まるで、怒りそのものを力に変えているようだった。

 

「ギャアアアッ!!」

 

 王竜の巨体がヘルカイトへ叩きつけられる。

 だが赤災は避けない。

 真正面から受け止め、逆に爪で王竜の顔面を引き裂いた。

 赤い鮮血が大地を染める。

 

 圧倒。

 

 そこにあったのは戦いではない。蹂躙だった。

 

 王竜は怪物だ。だが、その王竜を一方的に食い散らかすヘルカイトは、もはや災害だった。

 

 その時。

 

「総員撤退!!」

 

 響いたのは、パックスの声だった。

 

「今のうちに下がれ!あれに巻き込まれたら全滅するぞ!!」

 

 恐怖で震えていたはずの声は、今や不思議なほど通っていた。

 

「負傷者を優先しろ!全速で離脱!走れっ!!!」

 

 指示が飛ぶ。

 混乱していた討伐隊が、少しずつ動き始める。

 

「ジークフリート!!」

 

 ルイジェルドが叫ぶ。

 

「退くぞ!」

「……っ」

 

 ヘルカイトを見る。

 赤竜は王竜を踏み砕きながら、こちらを睨んでいた。

 怒っている。

 

 だが同時に。

 他に、なにか感情がこもっているようにも思えた。

 

「何をしている!早くしろ!」

 

 ルイジェルドが再び叫ぶ。

 

「…わかった」

 

 小さく呟き、ヘルカイトに背を向け走り出す。

 

 

 王竜の悲鳴と、ヘルカイトの苛立った叫びが、ひたすらに戦場に響いていた。

 

 

 

 

 山脈から少し離れた丘の上で、討伐隊は態勢を立て直していた。

 負傷者のうめき声。 怒号。 慌ただしく動き回る騎士たち。

 

 その喧騒から少し離れた場所で、ジークフリートは王竜山脈を見つめていた。

 

 遠くに、赤い影が見える。

 王竜たちの咆哮が時折響き、その度に地面が揺れた。

 

「……気になるか」

 

 隣に立ったルイジェルドが言う。

 

「ああ」

 

 短く答える。

 

「ヘルカイト……だったか」

「…赤竜山脈で、共に戦った竜だ」

 

 そこまで言って、言葉が止まる。

 仲間。戦友。友人。

 どれもしっくり来ない。

 

 最初は殺し合いだった。協力関係になってからも、互いに必要以上を語ることはなかった。

 

 だが。

 

 気づけば、あいつは隣にいた。

 吹雪の中も。赤竜の群れの中も。休息の時も。

 気づけば、当たり前のように。

 

「……わからない」

 

 思わず呟く。

 

「何がだ?」

「あいつとの関係が、だ」

 

 数年ぶりに見たヘルカイトは変わっていた。

 一回り大きくなった体躯。増した荒々しさ。

 

 そして何より、あの目だ。

 

 怒りに染まりながら、一瞬だけ見えた、何かの感情。

 

「あれは…私の知っているヘルカイトではなかった」

 

 そう言うことが、なぜか少し恥ずかしかった。

 何かを見落としていた気がした。

 

 その時。

 

「おおーい!!」

 

 妙に元気な声が飛んでくる。

 振り向けば、顔を真っ赤にしたパックスが大股で近づいてきた。

 興奮が抜け切っていないのか、目が爛々としている。

 

「いやぁ、見たか!?余の指揮を!!」

「……元気だな」

「当然である!」

 

 パックスは胸を張る。

 

「余の指揮!そして貴様とルイジェルド殿の武勇! あれがなければ戦線は崩壊していたぞ!」

 

 興奮気味にまくし立てる。

 

「特にルイジェルド殿!各地を駆け回って被害を抑え続けていたではないか!見事だった!」

「当然だ」

 

 ルイジェルドは淡々と答える。

 

「やるべきことをやっただけだ」

「ははは!言うではないか!」

 

 パックスは大笑いした後、ふと首を傾げた。

 

「……しかしジークフリート、貴様浮かない顔だな?」

 

「あいつは…赤災は、ヘルカイトと言って、赤竜山脈で共に戦ってくれた竜だ」

「なに?どういうことだ?もっと詳しく聞かせろ」

「……それ以上のことは、わからないんだ」

 

 ぽつりと呟く。

 

「はあ…?貴様、そんなわけが…」

 

 パックスはジークフリートを見る。彼は戦場での勇姿が嘘のように落ち込んだ様子で、まるで小さな子供のようだった。

 

 少しの沈黙のあと、しょうがない、と言うように小さく鼻を鳴らすパックス。

 

「ふん。難儀なやつだな、貴様も」

 

 パックスは腕を組み、わざとらしく肩をすくめた。

 

「だが、あの赤災の目は確かに妙だったぞ。まるで――」

 

 そこで言葉を切る。

 少し迷ったあと、気まずそうに続けた。

 

「……捨てられた犬みたいな目をしておった」

「犬ではない。竜だ」

「そこはどうでもよい!」

 

 即座に返され、パックスが怒鳴る。

 

「とにかくだ! 余にはそう見えた!」

 

 ジークフリートは黙る。

 

 捨てられた。

 

 その言葉が、妙に胸に引っかかった。

 自分は別れを告げた。 一方的に消えたわけではない。

 

 だが、あの時、自分は“戻る”とは言わなかった。

 ヘルカイトも、何も言わなかった。

 

 だから、それで終わりなのだと思っていた。

 

「……わからない」

 

 口にした瞬間、妙な恥ずかしさが込み上げた。

 自分はずっと、あいつを理解しているつもりでいた。

 言葉など通じなくとも、 並んで戦えば、それで十分だと思っていた。

 

 だが、本当は。

 

 自分は、ヘルカイトのことを何一つ知らなかったのではないか。

 

 

 

 

 宿へ戻る頃には、空はすっかり暗くなっていた。

 

 王竜山脈の方角では、今なお時折、地鳴りのような咆哮が響いている。 討伐隊は一時撤退となったが、戦いそのものが終わったわけではないのだろう。

 

 部屋の扉を開ける。

 すると、ぱたぱたと足音が響いた。

 

「おかえりなさい!」

 

 最初に飛び出してきたのはアイシャだった。その後ろからノルンとジンジャー、そして椅子に腰掛けていたシャンドルも顔を上げる。

 

「ご無事でしたか」

 

 ジンジャーが安堵したように息を吐く。

 

「もちろんですよ。誰の弟子だと思ってるんです?」

 

 シャンドルが得意げに言う。

 

「はい。師匠の教えがあってこそです」

「でしょう?本当に君は良い弟子ですね〜」

 

 アイシャが身を乗り出し、聞きかける。

 

「それで!?どうだったんですか!?王竜って本当に強いんですか!?」

「強い」

 

 即答だった。

 

「だが、勝てない相手ではない」

「その“勝てない相手ではない”で何体倒したんです?」

 

 シャンドルが面白そうに聞く。

 そこで口を開いたのはルイジェルドだった。

 

「少なくとも、俺が見た限りでは十体近い」

 

 部屋が静まり返る。

 

「……はい?」

 

 アイシャが固まる。

 ジンジャーも目を見開いた。

 

「じゅ、十体……?」

「正確には数えていない。戦場は混乱していたからな。ジーク、実際はどうなんだ?」

「私も数えていたわけではない。まあ、多分そのくらいだ」

「ええ〜…すっごい…」

「ただの成り行きだ」

「成り行きで王竜を倒す人がいますか!」

 

 呆れたように言うアイシャ。

 さらに口を開くルイジェルド。

 

「しかも途中から、周囲の冒険者たちが“あの玉葱騎士に続け”と叫び始めてな。半ば英雄扱いだったぞ」

「玉葱騎士……」

 

 アイシャがジークフリートの丸い鎧を見て、吹き出しそうになる。

 

「……玉葱では、ない」

「あはは!いやいや、どっからどう見ても玉葱ですよ、君は!」

「た、玉葱…」

 

 シャンドルが笑いながら相づちを打つ。ノルンはなんとか笑いをこらえていた。

 

「いやぁ、いいじゃないですか玉葱騎士。愛嬌があって」

「……もういいです」

 

 シャンドルは妙に上機嫌だった。にこにこと笑いながら肩を叩いてくる。

 

「君は鍛錬を重ね、強くなりました。平常心を保てているなら王竜相手でも苦戦はしませんよ」

「……苦戦はしました」

「死んでないなら大したものですよ。しかし…」

 

 シャンドルがふと首を傾げた。

 

「君、浮かない顔ですねぇ。王竜を蹴散らして帰ってきた英雄にしては暗い」

「……その」

 

 ジークフリートは少し迷ったが、今回の顛末を話し始めた。

 

 王竜を討伐していたところ、赤災…ヘルカイトが乱入してきたこと、戸惑いながら逃げろと言ったら敵意を向けられたこと、そこに王竜たちが横槍を入れてきて有耶無耶になり、撤退してきたこと。

 

「ヘルカイトは赤竜山脈で共に戦ってきた…協力関係というか、そういった関係で…」

 

 アイシャが目を丸くする。

 

「竜と!?一緒に!?」

「…成り行きでな」

「成り行きで竜と仲良くなる人います!?」

 

 本日二度目だった。

 

「仲良く…なれていたのかもわからん」

 

 シャンドルが顎に手を当てる。

 

「ふーむ。つまり、久しぶりにあった友人…とも言えないような関係の相手に異常な怒気を向けられてどうすればいいかわからない、と」

「…はい」

「私はそのヘルカイトさんに会ったことありませんからね…なんとも…」

 

 その時。

 

「あの」

 

 小さく手を上げたのはノルンだった。

 

「ヘルカイトさんのこと、もっと聞かせてもらってもいいですか?」

 

 ジークフリートは少し考え――頷いた。

 ぽつりぽつりと語る。

 

 吹雪の日に出会ったこと。

 最初は殺し合いだったこと。

 何度も戦い、それでも最後には共に戦うようになったこと。

 最初は寝床すら見せなかった赤竜が、いつの間にか隣で眠るようになったこと。

 自分は大して食事も必要としないのに、ヘルカイトが無理やり獲物を持ってきて共に食事をさせたこと。

 オルステッドとの戦いで敗れた後、助けられたこと。

 

 そして、別れたこと。

 

 語り終える頃には、部屋は静かになっていた。

 最初に口を開いたのはノルンだった。

 

「…そのヘルカイトさん、本当は怒ってたんじゃなくて……寂しかったのかもしれません」

「……寂しい?」

 

 思わず聞き返す。

 ノルンは小さく頷いた。

 

「ずっと一緒にいた人が、急にいなくなったら、寂しいと思います」

 

 少し俯く。

 

「私も、アル兄さん…ずっと可愛がってくれていた兄がいたんですが、転移事件で別れたときは本当に寂しかったです」

 

 静かな声だった。

 

「仕方ないって、頭ではわかってたんです。でも、それでも……なんで置いていったの、って思っちゃって、理不尽に怒ることもありました」

 

 ぎゅっと、自分の服の裾を握る。

 

「お父さんがいてくれたから耐えられました。でも、もし一人だったらって考えると……」

 

 そこで顔を上げた。

 

「ヘルカイトさんの気持ち、少しわかる気がします」

「……」

「ずっと一人でいて。寂しくなって。故郷を離れてでも、ジークさんに会いたくなったのかもしれません」

 

 最後に、少し照れくさそうに笑う。

 

「……私の勝手な想像ですけど」

「寂しくて、会いたくなった……」

 

 ジークフリートは呟く。

 ヘルカイトは強い。

 気高く、誇り高い竜だ。

 だから、自分など気にしていないと思っていた。

 ただ利害が一致していただけの関係なのだと。

 

 だが。

 もし、本当に。

 

 あの赤竜が、自分に会うためにここまで来たのだとしたら。

 

 ――最初にかけるべき言葉は、あれではなかった。

 

 何をしている、ではなく。

 もっと、他に。

 

「…………そうか」

 

 ゆっくりと目を閉じる。

 胸の奥に引っかかっていたものが、少しだけ形になった気がした。

 

「ノルン、ありがとう。大事なことに気づけた気がする」

 

 ノルンは少し驚いたように目を瞬かせた。

 

「い、いや、そんな大したことは…」

 

 その時だった。

 こんこん、と部屋の扉が叩かれる。

 

 ジンジャーが扉を開くと、そこには王竜王国の騎士が立っていた。

 

「ジークフリート殿」

 

 騎士は一礼する。

 

「本日の戦いにおける功労者として、竜討伐隊の会議へご参加いただきたいとのことです」

 

「……わかった」

 

 ジークフリートは静かに立ち上がる。

 

 赤い竜の姿が、脳裏から離れない。

 

 怒り。 苛立ち。 そして――あの、一瞬だけ見せた寂しそうな目。

 

 もし本当に。あいつが、自分に会うためにここへ来たのだとしたら。

 次に会った時は。今度こそ、間違えたくないと思った。

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