興味のある方は是非。でも閲覧注意ではあります。
あと出来に関しては怒んないで…これでも頑張ったんです…
第41話 修羅場?再び
アルブレヒトが家に戻り、我が家は幸せな日々を過ごしていた。
アルブレヒトが帰ってから、色々なことがあった。まず友人各所への挨拶回り。特にザノバやクリフの感激のしようはすごかった。
「おおおおお!!先生!!よくぞお帰りになられました!!!このザノバ、先生のお帰りをずっとお待ちしておりましたぞ!!!!!」
「この、バカ玉葱!全部一人で抱え込んで…どれだけ心配したと思ってるんだ!!」
「ザノバ、クリフ…すまない。……ありがとう」
クリフからは早速呪い対策の魔導具を受け取った。大きな胸当てのような形で、いつもアルブレヒトは服の下につけている。今のところ闇霊は全く出る気配はなく、効果は順調だ。
ちなみに、アルブレヒトは2年も無断で大学を離れていたが、なんとかラノア魔法大学に復学することができた。特別生であったことと、力の希少性を鑑みた結果だそうだ。よかったよかった。
さて、それでは新生グレイラット家のモーニングルーティンをご紹介しよう。
「よし、じゃあ行きますか!」
「はい!」
「おう!」
「行きましょう、兄さん」
朝目覚め、ノルンとパウロ、俺の三人にアルブレヒトが加わり、四人でランニングする。
「あー、よく走った…」
「ルディ、お疲れ。はい、汗拭いて」
戻ればシルフィからもらったタオルを受け取り、汗を拭く。
アルブレヒトは帰って早速ルーシーに絡まれている。
「ある〜、だっこ〜」
「ルーシー。今は汗をかいているから…」
「だっこ〜!」
「…仕方ないな」
そう言って微笑みながら、ルーシーを抱き上げるアルブレヒト。
ルーシーとの仲も良好なようでなによりだ。
居間に行けば、朝食の準備をしているアイシャとリーリャがいる。
「おはよう、アイシャ、リーリャ」
「あ、アル兄!おはよう!」
「おはようございます、アルブレヒトさま」
少し遅れて、寝ぼけ眼で降りてくるロキシー。
「ふぁあああ…おはようございます」
「おはようございます、ロキシー先生。あ、寝癖が…」
最後に、居間でぼーっとしているゼニスのもとに向かうアルブレヒト。
膝を立て、目線を合わせる。
「母様、おはようございます」
「…………」
「朝食ができたようです、一緒に行きましょう」
アルブレヒトは、家に戻ってから頻繁にゼニスに話しかけている。彼が言うには、ソウル?を通じて意思疎通や、記憶を戻すことができるかもしれないとのことだった。今のところ成果はないが、ゼニスのために何かしてくれるのは嬉しい。
「よし、じゃあいただこうか!」
家族みんなで、食卓を囲む。
誰一人欠けていない、幸せな家庭。
やっとアルブレヒトが帰ってきた。本当に幸せだ。
この光景を、何度夢に見ただろう。
家族全員が食卓にいる。
誰も欠けていない。
それだけで涙が出そうになる。
……唯一心残りがあるとすれば、エリスだ。
エリスは俺の手紙に応じて、オルステッドとの決戦に駆けつけてくれた。
アルブレヒトとオルステッドが戦っている時も、ずっと守っていてくれたし、嫌いというわけじゃない。むしろ好きだ。何年も前とは言え、一緒に旅をして、心を通わせた仲だ。嫌いなわけがない。
でも、長い間離れていたから、どう話せばいいかわからない。あと三人目の妻って流石にどうなんだろう…いや三人も二人も一緒か?開き直るべきなのだろうか…
絶対一人じゃ家族のもとに帰らなかったアルブレヒトを無理やり連れてきてくれたという恩もあるわけだし…うむむむ……
「兄さん、どうかしましたか?」
「ん…?ああ、大丈夫だ」
おっと、今は食事の最中だった。エリスのことも大事だが、今は食事に集中しよう。
「そうですか。……兄さん、あとで時間をいただいてもよろしいでしょうか」
「そりゃもちろん。どうしたんだ?」
「エリスのことで、お話があります」
■
朝食が終わり、アルブレヒトと居間で二人で向き合う。
「兄さん。エリスと向き合っていただくことは、できないでしょうか」
真剣な顔でアルブレヒトが言う。
「…そりゃ、わかってはいるよ。エリスのことは大事だし、向き合わなきゃいけないとは思ってる。でも、三人目ってのも…」
「兄さん」
言葉を遮るように、口を開くアルブレヒト。
「エリスはずっと兄さんだけを見ていました」
「ずっと、ずっと鍛錬して、兄さんのためになろうとしていました」
「エリスは、兄さんが幸せなら、それでいいと言うでしょう」
「でも、そんなのは残酷すぎる」
「俺が言うのもなんですが…逃げないでください」
「エリスの思いに、向き合ってあげてください」
実のところを言えば、エリスはちょくちょくこの家に顔を出している。ノルンに剣を教えたり、家族との関係も良好だ。拒否する理由はない。
ただしかし、どう話せばいいかわからないのだ。エリスはずっと俺のことを想ってくれたのに、俺はエリスのことを忘れ、二人の妻を作ってしまった。それはなんというか…不義理が過ぎる。
「……………」
だが、それでも向き合うべきなのだろう。
今でもエリスが俺のことを想い続けてくれるなら、俺はそれに向き合う義務がある。
「……わかったよ、アル。うまくできるかはわからないけど、俺なりに向き合ってみる」
決心した。俺は、エリスと向き合う。それでどんな結果になろうと、受け入れる覚悟はある。
「そうですか。…よかった」
アルブレヒトも、ほっと息を吐く。
そんな中、どこかから視線を感じる。
「ん……?」
ふと、視線の方向に振り向く。
扉の向こうから、かすかに衣擦れが聞こえた。
扉が五センチほど開いている。
その隙間から、真っ赤な髪がぴょこんと覗いていた。
エリスだ。
「きゃぁ!」
「!?…兄さん?」
悲鳴をあげると、エリスがぬっ、と扉から出てきて、姿を表す。
覚悟を決めたばかりだというのに、驚いてしまった。あまりにも突然で…
いや、言い訳はすまい。俺はエリスと向き合わなければいけないのだ。
「え、エリス!お話が、あります…!」
「………なによ」
「……まず。ごめん。いきなり手紙を出して、困惑したよな」
「……別に。私も、悪かったんでしょ?」
「うん。まあ…ね」
「手紙、読んだわ。ルーデウスも、辛かったのよね?」
エリスの言葉に、ゆっくりと頷く。
責めたいわけではない。だが、昔の俺は確かに傷ついた。それを水に流すことができるほど、俺は大人ではなかった。
「ねえ、ルーデウス」
「なんでしょう」
「……」
エリスは口をつぐんだ。
何を言っていいか、何をすればいいか分からないのだろう。
向き合うと決めたはずなのに、言葉が出ない。
別れてから、とても長い時間が過ぎた。その時間が、壁のようになってエリスと俺の間に立ちふさがっていた。
「ルーデウスは、あの二人を…愛してるのよね?」
「ああ、愛してる」
断言すると、エリスの手に力が篭った。
「私よりも、好きなのよね?」
「……ああ」
そう言うと、エリスが悲しそうな顔をする。
まずい。いかに事実とは言え、言い方があったのではないだろうか。エリスのことだって好きなのだ。それを伝えなければ…
「私の事は、もう、嫌い?」
「そんなことはないよ。たださ…ちょっと離れていた期間が長すぎて、どう接していいか、わかんないというか、なんというか」
「私は今でも、ルーデウスが好きよ。ルーデウスに愛されたいわ」
エリスの顔は真っ赤だった。
すごい発言だ。まさに愛の告白。
どう答えるべきか。
だが、その前に現実の話はしておかなければならない。
「でも、俺にはもう、二人も妻がいるんだ」
「……」
エリスはむっとした顔で、立ち上がった。
腕を組み、足を肩幅に開いて、クッとあごを上げて。初めて出会ったときと同じポーズで、見下ろしていた。
「ルーデウス。外に出なさい、決闘よ!」
「えっ! 決闘!?」
慌てて聞き返す。
「そうよ! 決闘して、あなたが勝ったら、私は出て行くわ!
それで、私が勝ったら……」
エリスは、俺をビッと指差して言い放った。
「私が勝ったら、私も愛しなさい!」
なんだか妙な事になった。
ちらりとアルブレヒトを見る。
(兄さん…わかってますね…!)
きっ、とした顔を作り、何かを伝えたそうに拳を握るアルブレヒト。
流石にわかっている。俺は、この決闘を受けなければならない。
「…わかった。決闘を、しよう」
■
シャリーアの郊外で、エリスと対面する。
俺とエリスの二人以外には、アルブレヒトがいた。審判役としてついてきてくれた。
「……………」
エリスは堂々と仁王立ちし、俺を見据えている。
いや、少し震えているように見える。
どういう反応なのだろうか。武者震いか、それとも…
俺は、どうするべきなのだろうか。正直、この決闘は負けたほうがいい。エリスが負けたら出ていくというのなら、俺の負けでいい。
だが、それはそれでどうなのだろう。真剣に鍛錬を続けてきたエリスに対して、わざと負けるのは不誠実ではないだろうか。
ここは、全力を見せつけ勝利し、その上でお前は俺のものだ。文句を言わずにうちに来い、と言うのがいいのではないだろうか。
よし。それで行こう。その方がかっこいいし。杖を強く握り直す。この至近距離で剣士と戦うということで、あまり勝ち目は見えないが、それでも精一杯頑張ろう。
「兄さん。少しいいですか」
そんなことを考えていると、アルブレヒトが声をかけてくる。
「…エリスは、本当に、心から兄さんのことを想っています。その気持ちを、汲んであげてほしいです」
「それに加えて、エリスはかなり不器用です。大切に想っていても、うまくそれを表現できない。…それでも、受け止めてあげてください」
「………おう」
その言葉を聞いて、今から俺がしようとしていることは正しいのかと思い直す。
エリスを見る。
腕を組み、脚を開いて、顎を上げ、自信満々といった様子で立っている。…いや、そうではない。エリスは震えている。それは武者震いなどではない。それは、きっと―――
「では、はじめ!」
アルブレヒトの号令とともに、決闘が始まる。
エリスは、腕を組んだまま動かなかった。
俺も、杖を下げて動かなかった。
しばらくして、エリスが近づいてくる。
剣を抜き、ゆっくりと。
殺気も敵意も感じない。
「…戦わないの?」
「俺は…俺が勝ったらエリスが出ていくというなら、俺の負けでいいよ」
エリスが目を丸くする。
「……うまく、言えないけど。俺もエリスのことが好きなんだ。愛してるんだ」
その瞬間、かっ、とエリスが目を見開く。
怒ったのか、と思い思わず目をつぶる。
その後、頭に優しい衝撃が落とされた。全然痛くない。
目を開けると、エリスは剣の柄を軽く俺の頭に乗せていた。
「本当に、いいの?」
「…ああ」
「私、シルフィみたいに料理はできないわ。ロキシーみたいに賢くないし、二人みたいに可愛くないわ」
「そんなことない。エリスはかわいくてかっこいい美人さんだよ」
エリスは剣を鞘に戻し、恐る恐る手を伸ばす。
そのまま、ぎこちなく手を俺の背に回し、抱きしめる。
「私の勝ちで、いいのよね?」
「うん」
「私、ルーデウスが本気で拒絶したら……ちゃんと、諦め、られる、わよ?」
震える声で言うエリス。
…きっと彼女は、俺が本気で戦っていたなら、わざと負けるつもりだったのだろう。
「諦めなくていい」
「じゃあ、私はルーデウスの家族になれるの?」
「うん。シルフィとロキシーと一緒で、エリスがよければ、だけど……」
きちんと言おう。
安っぽく聞こえてしまうかもしれないが、それでも。
「結婚してください」
そう言うと、エリスの目が見開かれた。
「……ふ、ふん!」
耳まで真っ赤に染めながら顔を逸らす。
「しょうがないから、結婚してあげるわ!」
声だけはいつものように強気だった。
けれど、頬を伝う涙だけは隠せなかった。
ふてくされたようにそっぽを向きながら、返事をするエリス。
そんな一連の様子を見ていたアルブレヒトが、嬉しそうに近づいてくる。
「おめでとう、エリス」
「アルブレヒト……」
エリスは照れ臭そうに笑う。
「…ありがとう。あんたが、いろいろ気を使ってくれたのよね」
「大したことはしていない。この結果は、兄さんとエリスの努力によるものだ」
そう言って首を横に振る。
だが、アルブレヒトは少しだけ目を細めると、どこか懐かしそうに微笑んだ。
「だが、それでも言わせてもらうなら――」
「少しは、貸しを返せたか?」
一瞬だけ、エリスはきょとんとした顔をした。
そして、その意味に気付いたのか、小さく吹き出す。
「……充分、返されたわよ」