Sol-Orbitraにおける技術革新と人類文明の変遷   作:Hnz

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第2章 Atomic Computing System : ACSの出現

2.1 軌道上建造物とそれに伴ったデブリ除去の課題

 第1章 第2節で述べた通り,人類の宇宙進出を妨げるデブリ除去技術の開発は国際社会からも強く求められていた.そこで,旧西暦2346年に粉砕後のデブリが自然と大気圏に再突入することを促すのではなく,WORM自身が回収し,そして意図的に大気圏へ再突入させる計画が新たに始動した.

 当初この計画は頓挫しかけていたが,4年後の2350年にRundorf大学から発表された一件の発表でこの計画は大きく動き出した.

 E. Müller氏は当時Rundorf大学にて助教を務めており,電磁波工学を専門としていた.当時,核融合炉向けの磁場制御技術の研究を行っていたが,彼はmm単位の極めて狭い空間において,局所磁場を精密に形成・維持することに成功する.この成果は2350年3月の欧州電磁気学会にて発表された[1].

 この技術は,本来は高温プラズマの安定化を目的としたものであったが,MPSLの研究者たちはこれを宇宙空間に応用することで,金属片を含むデブリの誘導・固定が可能になると考えた.従来のWORMでは困難であった不規則なデブリの捕捉が,理論上は大幅に容易になる可能性が示されたのである[2].MPSLは発表直後にMüller氏へ接触し,WORMへの搭載を前提とした共同研究の検討を開始した.

 2355年にはWORM-Mk.VIが完成し,粉砕後のデブリという課題を乗り越えた我々は,ついに宇宙進出への扉を開いた[3].

 

 

2.2 Gastre-Rosen-Li理論とMagnahの定理

 旧西暦2357年,量子コンピュータの研究を行っていたY. Magnah氏は,Müllerの超局所磁場制御技術を基にヘリウム原子を用いた実験にて,電子状態に局所的な同期状態が形成される現象を発見する.この成果は同年8月に開催された応用量子力学会にて発表され,その後Magnahの定理として整理された[4].

 その一方で,高温超伝導に関する研究を行っていたGastre,Rosen,LiらはMagnahの定理が自身らの研究に応用可能であることに着目し,2358年にGastre-Rosen-Li理論の完成へ向けて実験とシミュレーションを繰り返したという.そして2360年にGRL理論は完成を迎えた.

 Magnahの定理によって,熱雑音環境下においても電子状態の局所同期が理論的に保証されることが示された.そしてGRL理論では,室温下における量子制御の理論的基盤を確立した.この二つの研究成果はMPSLによって革命へと昇華されることとなる.なお,理論の詳細な導出についてはGRL理論の原著論文[5]を参照されたい.

 

 

2.3 Atomic Computing System : ACS

 Müllerの超局所磁場制御技術,Magnahの定理,GRL理論,これら三つの成果が合わさることで,室温環境下において人類は量子状態を動的に制御する手段を手に入れた.MPSLはいち早くこれらの応用を考え,旧西暦2373年(N.O.S. 0年)にAtomic Computing System(通称ACS)[6]を発表する.量子レベルでの状態制御を利用した超並列演算による高速化を可能としたACSは,既存の半導体コンピュータ,量子コンピュータを過去のものとした.量子コンピュータが専門領域であったMagnah氏曰く「まさか,自分の研究成果で自分の専門が事実上の終焉を迎えるとは思ってもみなかった」と後年語っている[7].

 ACSは当初,量子コンピュータの延長かと思われていたが,ACSの量子制御は既存の量子コンピュータのそれとは異なる.既存の量子コンピュータでは「量子ビット」および量子もつれ状態を活用しているが,ACSは──語弊を恐れずにいうと──半導体コンピュータが成している“回路”のようなものを“動的に”形成し演算を行っている.すなわち,ノイマン型計算機資産との互換性を維持できるものであったため,どちらかといえば半導体コンピュータに近いものである.そのため,人類がそれまで長い間培ってきた馴染みあるアルゴリズムをほとんど流用しながら,演算時間が大幅に短縮されるまさに歴史の転換点となるほどの革命を起こした.

 

 

References

[1] E. Müller et al., “Ultra-Localized Magnetic Confinement under Ambient Conditions”, European Conference on Electromagnetic Engineering, March 12th, 2350.

[2] A. William, “Application of Localized Magnetic Fields to Orbital Debris Capture”, AAA-Archive, AAA-TR-2351-017.

[3] A. William, “Operational Evaluation of WORM-Mk.VI in Active Debris Recovery Missions”, AAA-Archive, AAA-TR-2355-062.

[4] Y. Magnah, “On Localized Electron Synchronization under Magnetic Confinement”, Advanced Electromagnetic Physics 9, 102985 (2357).

[5] M. Gastre, S. Rosen, Y. Li, “A Unified Framework for Room-Temperature Quantum State Control”, Physical Systems Letters 27, 809-832 (2360).

[6] K. Volkich, “Atomic Computing System : ACS”, MPSL Archive 12, 176-228 (2373).

[7] “Interview with Y. Magnah : The End of Quantum Computing? ”, XYZ Science News, July 18th, 2384.

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