Sol-Orbitraにおける技術革新と人類文明の変遷 作:Hnz
3.1 ACS-ICの開発
2373年にその概念が提唱されてから,大手ICチップ製造会社であるVortex Core社はMPSLに一番にコンタクトをとったという.そこから5年の開発期間を経てN.O.S. 5年(旧西暦2378年)ACSを集積回路として実装したACS-ICを発表した.これは計算機史上でも異例の速度での商業化であった.なお,これらの詳細は当時の特許資料においてもブラックボックス部分が多く未だ明らかにされていないが[1],ACS-IC発表の3年後(N.O.S. 8年, 旧西暦2381年)にForce Field Electronics社(通称FFE社)が量産型ACS-ICを独自に開発したことで一般にも普及することとなった.
FFE社製のACS-ICは演算処理能力がVortex Core社製のものと比べて約10%劣っていたが,もはやACSでの10%など誤差にすぎず,実用に際しての問題は全く存在しなかった.そのため,コンシューマ向け製品ではFFE社が,軍や研究所向けなどのワークステーションにはVortex Core社製が主に採用されている.
ACS-ICが優れていた点は演算速度だけではない.発熱,動作温度,集積度,サイズのいずれをとっても既存のコンピュータをはるかに上回っていた[2].動作温度はおよそ摂氏-30℃~340℃の範囲であり,原子単位での回路形成が可能なICであるため,1つのコアサイズは米粒程である.また発熱においても空冷で間に合う程度の発熱であるため実装が容易であった.しかし,依然としてACSは旧CPUと比較して高価であり,普及初期においては一部の高性能機器に限定されていた.
3.2 ACS-IC搭載コンピュータの完成
ACS-ICは登場当初一般人が手を出すにはあまりにも高価だったため,法人向けのワークステーションに搭載されるのみであったが,FFE社の登場により各AIBメーカーはコンシューマ向けパーツの販売を開始.Vortex Core社製ACS-IC搭載PCは企業のサーバ,PCなどを瞬く間に塗り替えていったが,FFE社製は中流層へのACS-IC普及に多大な貢献をした.
ユーザーにとって幸運だったのは,小型化による持ち運び性能の向上だけではなく,MPSL製のOSが最初から付属していたため,新たにOSを購入する必要がなかった点であろう.特にMPSL製OSはACSアーキテクチャへの最適化が“それなりに”進んでおり,多くのソフトウェア開発企業が同OSを標準環境として採用したことで,結果として旧世代OS群は急速に市場から姿を消していった.また,ACS-ICは旧来型CPUと比較して圧倒的な電力効率を誇っており,従来は大型冷却設備を必要としていたサーバ群の小型化・分散化を加速させた.これにより企業のみならず一般家庭にも高性能計算環境が浸透していった.
3.3 NOX’s OSの出現とオープンソースコミュニティ
ACS-IC搭載のPCが普及し始め,世間一般的にも利用され始めていたN.O.S. 11年(旧西暦2384年)12月25日に,とあるインターネット掲示板にてnox_00F氏が自身のウェブサイトであるNox’s Box[3]より,NOX’s OS(以下NOXOS)とそのライブラリ群を公開したことを宣伝した.当初,NOXOSはあまり注目されていなかった.しかし,同掲示板に居合わせたMaximinimum氏によって,その異常なまでの最適化による動作の軽量さが明らかとなった.NOXOSを用いた,計算コストの高いリアルタイム流体シミュレーションでは,既存のOSと比較しておよそ22%ほどのフレームレート向上が確認できた.しかしながら,他アーキテクチャ上ではNOXOSは一切動作しないことから,同OSはACS-IC超特化型OSであることが伺える.また,NOXOSはAPIを公開しており,有志における拡張ライブラリ,ドライバ開発などが盛んに行われ,オープンソースコミュニティは歴史上類を見ないほどの賑わいを見せていた.
NOXOSは執筆現在でもアップデートが続けられている.しかし,nox_00F氏がそれ以前にも以後にも掲示板へ現れた痕跡は確認されていない.そのため,同氏はMPSL関係者なのではないかという説が現在でも根強く存在しているが,彼/彼女が何者なのかは依然として明らかになっていない.
ACSはハードウェアの革命だった.ならば,NOXOSはソフトウェアの革命であると言えるだろう.
References
[1] Vortex Core Corporation, “ACS-IC Architecture Overview”, VC Technical Report , 2378-04.
[2] Force Field Electronics, “FFE ACS-IC Gen1 Product Specifications”, 2381-07-02.
[3] Nox’s Box Archive Mirror, mirror://nox_box.archive/os/noxos