今日だけ子供…と言われても、すべての仕事をほっぽいて怠けるわけには行かない。膝枕されたまま、ニコに話しかける。
"ふう、元気になったよ。ありがとう"
"だから、そろそろ仕事に…"
行きたいんだけど、と言おうとしたが、遮られてしまう。
「ダメです。昨日は徹夜したんですよね?隈もひどいですし…せめて今日くらいは、ゆっくりしてください。」
"でも、仕事をニコ一人にやらせるのは…"
時計を見れば、短針が8字を通り過ぎ、もうすぐ9時を指そうとしている。普段ならスーツに着替え、椅子に座ってパソコンとにらめっこしているところなのだが、今見ているのは薄い電子機器ではなく、可愛らしく頬を膨らませるニコなのだ。ニコを眺めていても、仕事の達成率は1%たりとて進むことはない。
「…先生は、いつも頑張りすぎです。」
そういうと、頭に仄かな温かみを感じる…手だ。ニコの手が私の頭を優しく撫ででくれている。誰かに撫でられたのは何時ぶりだろうか。
「たまには、私達のことも頼ってください。」
"…"
"うん、分かったよ。"
それからしばらく、ニコに頭を撫でられ続けた。ニコの手は温かくて柔らかく、心地よかった。名は体を表す、と言うのだろうか、撫でている間中ニコはずっとニコニコしていた。
…
…
ニコに頭を撫でられ続け数分。寝転がっているせいかニコの手つきが良すぎるのか、段々とまぶたが重くなってきた頃。
「…そういえば先生、朝ごはんはまだでしたよね?」
"そういえば…"
昨日は忙しくまともな食事を取っていなかったために、腹が「上等なものを食べさせてくれ」と不満を訴える。
「今日はお稲荷さんを作ってきたんです。よかったら朝食に、と」
"それじゃあ、ありがたくいただこうかな。"
「はい、ではちょっと待っててくださいね。」
そういうとニコは、膝枕から私の頭を降ろし、寝室を後にした。ここまで至れり尽くせりな日を過ごすのは久し振りだ、と思いながらしばらく待っていると、稲荷の入った包みを持ってニコが戻ってきた。
「お待たせしました、先生。」
"ありがとう、ニコ。"
"それじゃあ、早速…"
「あ、ちょっと待ってくださいね。」
食べようとした矢先、ニコに待ったをかけられた。
「私があーんします。」
"…え"
こんな至れり尽くせりな日を過ごすのは久しぶりではなく、初めてだ。
"いや、大丈夫だよ!"
"流石に一人で食べられるから…"
あーんされることが嫌な訳では無い、むしろ嬉しい。のだが…これを第三者から見てみれば「生徒に稲荷をあーんで食べさせてもらっている先生」。気恥ずかしい、とか恋人みたい、どころで済む話ではない。ただそれでも、ニコは譲る気は無いようで。
「いえ、起きたばかりですと手に力が入らずお稲荷さんを落としてしまうかもしれませんから。」
"た、確かにそうかもしれないけど…"
「ですが…」
"いやでも…"
…
…
……結局、こちらが根負けした。
「では先生、口を開けてください。」
"あー…"
言われた通り口を開ける。ニコが稲荷をゆっくりと口に運び、私は抵抗なく受け入れる。
"ん、美味しい…!"
稲荷の中に入っていたのは酢飯…ではなく、五目ご飯だった。味付けされたご飯に人参や鶏肉、キノコが細かく刻まれて入っており、それらをふっくらした油揚げが包んで、まとめ上げている。
「ふふっ、喜んでもらえて良かったです。先生はパソコンの作業が多いですから、目に良い人参はいっぱい食べてくださいね。」
"うん、そうさせてもらうよ"
私が口を開け、ニコが稲荷を運ぶ。端から見れば、これはまるで…
"なんだか、夫婦みたいになっちゃってるね…"
親鳥が小鳥に餌を与えるような絵面ではある。が、どちらかといえばこっちのほうが何となくしっくり来る。
「えっ?あ…た、確かにそうですね…」
そのセリフの矛先たるニコは、なぜだか顔を赤くしていた。…失礼なことを言ってしまっただろうか?
…
…
稲荷を平らげた後、ここまでしてもらって寝てばかりというのも気が引けたので、お礼と称して仕事を手伝うことにした。
「もう少し休んでいても良いんですよ?」
"あんなに美味しい稲荷をご馳走になったんだし、"
"少しくらいは、ね"
「むう…しょうがないですね」
若干不服そうにしていたが、その顔はどこか嬉しそうだった。
1700文字書くのにすら結構時間かかるっていうのにみんな平気で5000とか書くのはなんなんですか???(畏敬寄りの尊敬)