セイア様の寝顔を見たことはあるだろうか。普段から気品あふれる佇まいをしているセイア様でも、寝ているときはあどけないものだ。すぅ、すぅと小さく寝息を立てながら眠るその様はまさしく、眠れる白雪姫のよう。しかし、今日は早朝から定例会議がある関係上、王子様のキスなしで起きてもらわなくてはいけないのだ。 時計の短針は後少しで6を指そうとしているため、支度や移動の時間を考えるとそろそろ起床してもらわなくては、廊下を走る羽目になる。
「チチッ、チチ(そろそろ起きてください、セイア様)」
「んん…」
…セイア様、頭から布団をかぶっても寝ていいとはなりませんよ。
「チチチ、チーッ(遅刻してしまいますよ?)」
「…もう、少しだけ……」
「チチッ、チチチチッ!(二度寝してはダメですセイア様!)」
「うぅ…」
ぼんやり見え始めたヘイローがまた薄くなっていく。まずい、このままだとほんとうにまずい。
「チチチ…(かくなるうえは…)」
申し訳ありません、と心のなかで無礼を謝りつつ、セイア様の首元に体を添える。そして…
「チチチチーッ!!(起きてくださいセイア様ーっ!!)」
すりすりすりすりすりすり!
「…!? くっ、くすぐった、っ…!」
少し前に気づいたことなのだが、セイア様は首筋のくすぐりに弱い。私の
「わ、分かった!起きるからもうやめてくれ…!」
この程度、造作もない。ふふん、セイア様を知り尽くしているからこそ、このような難題すら成せるのだ。ようやく起きたセイア様は大きく伸びをした後、寝間着から普段の制服に着替える。当然だがセイア様もレディの一人、着替え中の姿を見るなど言語両断。間違っても目に映らぬよう、ちゃんと目を逸らしている。それから朝の支度を済ませた後、1分たりとて遅れることなく会議室へとたどり着いた。
…
…
…
「…では以上で、定例会議を終わります」
ナギサ様の一言で、会議室の雰囲気が弛緩する。時刻はそろそろ昼頃になろうとしているので、今日の昼食についてを相談し合う人達が多く見受けられた。その中でセイア様は手早く済ませられるサンドイッチを食べていた。何やら、午後から先生との予定が入っているらしい。
…
ああ、食べている姿すら麗しい…「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」とはまさしく彼女を言い得ており、セイア様のためだけにある言葉と言っても差し支えない。セイア様のことを見守り続けてはや5年。セイア様のことを見飽きることはなく、むしろ美しさを毎日更新されゆくセイア様の隣にい続けられることに感謝しながらも、サンドイッチを食べるセイア様をこっそり見つめる。真正面切ってじろじろと見ているのは不躾というものですから。
「…? 君も食べたいのかい?」
バレバレだった。 …確かに今は程々に腹も空いているし、このご厚意に大いにあやかることも出来る。なんなら今すぐにでもそのパンを堪能したい。しかし、私がサンドイッチを頂けばセイア様の食べる量が減ってしまうことであり、そんなことはあってはならないのだ。今こそ元気な姿を見せてくれているセイア様。しかし、昔は病弱でよく床に伏していたのだと聞く。申し出は本当の本当に嬉しいのだが…仕方あるまい、ここは涙を飲んで断るとしよう。
「チチチチ、チチ(いえ、私のことはお気になさらずお食べください)」
「ふむ、分かった。少し大きめに千切るとしよう…これだけあれば十分かい?」
悲しいかな、私の思いが伝わることはなかった。ちなみにしっかり頂いた。非常にふわふわで美味しかった。
…
…
自室に戻ったセイア様は息つく間もなくクローゼットに手をかける。どうやら一度着替えてから先生の元へ向かうらしい。 …シャーレの先生。噂では、昏睡状態のセイア様を救ってくれたと聞いたのだが…何故だか良くない噂を多く耳にする。告白まがいの発言、生徒の足を舐める、挙句の果てには全裸で草原を駆け回る。なんてこった、ただの変態じゃないか。…とは言っても、生徒の模範像たる先生がそんなことをするはずがないので全てデマだろう。言われた情報を鵜呑みにするほどエリートは落ちぶれていないのだ。
「ふふ、久方ぶりのこの装い…悪いものではないね」
セイア様が着替えを終えたらしい。はてさて一体どんな服装なのかと、逸らしていた目線を戻す。そこにいたのは麗しき水着姿のセイア様…水着?え?水着?えぇ?? …水着というのは本来海やプールで着るものだったはず。それをどうして今、ここで??
「チチチ!チチチチチッ!?(セイア様!どうしてそんな服装を!?)」
「うん?…ああ、もしかしてパンの一欠片じゃ足りなかったのかい?しかし、今は生憎持ち合わせが無くてね…っといけない、もう時間じゃないか」
いえそういうことではなく…あっちょっとどこ行くんですかそんな小走りだと私追いつけないんですよほんとに待ってください私をおいていかないでくださいセイア様ああああああぁぁぁぁーーーーっっっ!!!!!
…
…
嗚呼、無常。私がセイア様に追いつけることはなかった。今頃、セイア様は愛用車に乗って先生のもとへと向かっているのだろう。このままでは1日密着が出来ない。それ即ち皆様方が
「チ…チチ(はぁ…どうしたものか)」
何とかアイデアをひねり出さねば…何か…何かないものか…?
「チチチ…(フフフ…)」
「!?チチッ…?(誰だっ!?)」
ばっ、と声のした方を振り向く。と、そこに居たのは…シマエナガだった。
「久しぶりじゃないかシマエナガ。今日こそエリートの名とセイア様の頭の上は貰っていくぞ!」
「チッ、今重大な問題を抱えてるってのに…!」
面倒なやつに目をつけられた。私の特権たるセイア様の頭の上を狙う不埒な輩、シマツーだ。
「絶対に勝ってやる…」
「こんなことしてる場合じゃないって分からないのかぁ!?」
あーもう、なんでこうなった!?私はただセイア様のことを語りつくしたいだけだと言うのに!!!セイア様は最近先生のところによく行くし!!私にあんまり構ってくれなくなったし!!そして!!何故!!こんな奴に!!!構わなくてはいけないのだあぁぁぁああああ!!!!!
…
…
…
「……チ(はぁぁ…)」
今日は日が悪かった。…こんなずさんな話では、先生方にセイア様の魅力なんぞ伝わるはずがない。はぁぁ、この話はボツにするしか…
「ふぅ、ただいま」
あ、セイア様が帰ってきましたね。
「チチッ(お帰りなさいませ、セイア様)」
「ああ、ただいま。それと…パンを買ってきたんだが、食べるかい?」
…そういえば、今日は全然食べてませんてましたね、ありがたく頂くとしましょう。……しかしこうしてみると、やはり美しい体つきだ。
まず、前提として今セイア様は水着を着ている。バイザーとサングラスを付け、露出を多くしたスクール水着のような服とだぼっとした上着を着ている。そのおかげか、体のラインがはっきりと分かる。そのラインの美しさたるや…下手に触ってしまえば壊れてしまいそうなほど細い。なんなら水着のせいでヘソの部分まで見えている。一部の先生方はヘソの部分をよく「素晴らしい」と褒め称える。私もそう思う。
「…?どうした、食べないのかい?」
ああいえそんなことはありません。しっかりいただきます。しかし少々困惑気味のセイア様のお顔も素晴らしい…普段こそ穏やかな微笑が似合うセイア様ですが、先生の影響か色んな表情を見せてくれるようになりました。びっくりした時だとか、照れている時だとか、ティーパーティーの皆様と雑談している時だとか…私は幸せなセイア様が見られるならそれで十分なのです…あ、このパン美味しい。
「ふふ、美味しいかい?」
ええ、もちろんです。セイア様から貰ったものならば、なんだって美味し……嗚呼、その微笑み…正しく聖女と表すに相応しい…………
「…あれ、シマエナガ?…寝てしまったのか?」
セイア様の美しさに当てられ、私は気絶した…
GAME OVER
「……えぇ?」
「ふっふーん、今回こそは絶対売れるでしょこれ!」
「流石はモモイです!まさか、ミレニアムEXPOで出会ったシーフ王のことをゲーム化してしまうなんて!」
「え、えっと…ケイちゃん、どうかな…?」
「…」
「…でしょうが」
「え?なんて?」
「こんなの…駄目に決まってるでしょうが!!!主人公がシマエナガで何喋ってるかわかんないなんてクソゲーもいい所です!!!なんなんですか!?チチチチしか言わないじゃないですか!?途中で変なシマツー?とやらも出てきますし!あいつはなんなんですか!?」
「シマツーはね、宇宙を股にかける超エリートシマエナガで、ゲームだとセイアを狙って何回も襲撃してくるから撃退するの!」
「意味がわかんないですよ!!なんなんですか宇宙を飛び回るシマエナガって!!途中でバリバリのメタ発言もしてますし!!最後は美しさにあてられて気絶した!?理不尽すぎるんですよ!!」
「け、ケイちゃん落ち着いて…」
「はあ、はあ…とりあえず、それはボツです。著作権にも引っかかりそうですし、本人に見られたらどうする言い訳するつもりなんですか?」
「ええー、でもせっかく作ったのに「ボ ツ で す」…はーい」
「まったく…主人が帰って来たらいきなりシマエナガが饒舌になるし…なんでこんなとこに情熱燃やしてるんだか…」
「え?そんなに話し込んでたっけ?」
「話してたでしょう、シマエナガが水着のおかげでラインがはっきり見えるとかなんとか。そういえば、あそこだけシマエナガが喋って…」
「いや、そんなコード作ってないんだけど……」
「…」
(……いや、まさか。ゲームのキャラクターが命を持つなんて、そんなことある訳ないでしょう)
「やっぱり、なんでもないです」
「ミドリ、あのゲームの主人の身体、かなり細かったですけど水着シーンあるんですからもっと豊かにしてま良かったんじゃありませんか?そっちの方が人気でそうですし」
「私も最初はそうしようと思ったんだけど、なんでだろう…夜道で襲われる気がして」
「はぁ…」