辺境惑星アメストリア   作:甘めのコーヒー

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第2話

『WARHAMMER 40,000

 

――黒き総統と人類の証明――』

 

第一章

 

黒い軍服の惑星

 

 

銀河辺境宙域。

 

帝国星図ですら詳細が欠落した、忘れられた宙域。

 

そこでは数百年単位で戦争が続いていた。

 

オークの略奪。

ティラニッドの捕食。

混沌汚染。

海賊。

反乱。

異端。

 

帝国ですら、完全制圧を諦めた地帯。

 

そこへ、一つの救難信号が届く。

 

 

+++ 緊急救難通信 +++

 

辺境採掘惑星《カルザーンⅣ》壊滅寸前。

 

オーク大戦団確認。

 

防衛線突破。

 

市民避難失敗。

 

帝国軍増援求ム。

 

通信断続的。

 

皇帝陛下に栄光あれ。

 

+++ 通信終了 +++

 

 

帝国辺境艦隊旗艦《グロリアス・レクイエム》。

 

艦橋は重苦しい空気に包まれていた。

 

「到着まで?」

 

提督ヴァルディスが問う。

 

航海士が震える声で答える。

 

「ワープ潮流が不安定です。最短でも七時間。」

 

「七時間か……」

 

遅い。

 

遅過ぎる。

 

オークの侵攻速度を考えれば、

既に惑星は炎上している可能性が高かった。

 

艦橋モニターには、

過去にオークへ襲撃された惑星の記録映像が流れている。

 

焼かれる都市。

 

串刺しにされる住民。

 

笑いながら虐殺する緑皮共。

 

帝国兵達の顔が沈む。

 

その時だった。

 

通信士が叫ぶ。

 

「新規通信反応!」

 

「発信元は!?」

 

「……不明です。」

 

艦橋が静まり返る。

 

ノイズ混じりの映像。

 

暗い画面。

 

そして、

 

黒い軍服の男が映った。

 

眼帯。

 

白髪交じりの髪。

 

鋭過ぎる眼光。

 

まるで剣そのもののような男。

 

「こちら、アメストリア連邦軍。」

 

低い声が響く。

 

「カルザーンⅣのオーク軍は殲滅した。」

 

艦橋の空気が止まる。

 

提督が眉を顰める。

 

「……何だと?」

 

男は淡々と続けた。

 

「貴官らの到着は不要だ。」

 

「ふざけるな。

オーク大戦団だぞ。PDF程度で対処出来る規模では――」

 

そこで通信映像が切り替わる。

 

艦橋全員が息を呑んだ。

 

地表。

 

そこには。

 

無数のオークの死体。

 

山のように積み上がる巨体。

 

切断面。

 

鮮血。

 

焦土。

 

そして異様だったのは。

 

死体のほぼ全てが――

 

“斬られていた”。

 

銃創ではない。

 

爆撃でもない。

 

巨大な刃物による切断。

 

オークノブすら、

首を正確に刎ねられている。

 

提督が絶句する。

 

「……こんな馬鹿な。」

 

オーク相手に近接戦を行うなど、

通常の人類には自殺行為だ。

 

ましてここまで一方的な殲滅など有り得ない。

 

映像の男は静かに告げる。

 

「惑星は既に安定化した。

住民保護も完了している。」

 

「貴様らは何者だ。」

 

数秒の沈黙。

 

やがて男は言った。

 

「人類だ。」

 

通信終了。

 

 

七時間後。

 

帝国艦隊はカルザーンⅣへ到着する。

 

そして彼らは、

自らの常識が通用しない戦場を見る事になる。

 

 

惑星全域が血の臭いに包まれていた。

 

煙。

 

瓦礫。

 

死体。

 

だが奇妙な事に、

民間区域の被害が極端に少ない。

 

避難誘導が完璧だった。

 

それどころか、

都市機能の一部は既に復旧している。

 

帝国兵達は困惑する。

 

「本当に戦後か……?」

 

「有り得ん。」

 

さらに異常だったのは戦場。

 

オークの死体が、

異様な精度で解体されている。

 

首。

関節。

眼窩。

筋肉接続部。

 

全て人型生物への殺傷効率を極限まで突き詰めた斬撃。

 

帝国衛生兵が青ざめる。

 

「まるで解体作業だ……」

 

そこへ。

 

黒い軍服の兵士達が現れる。

 

無駄の無い隊列。

 

静かな足音。

 

全員がサーベルを携行していた。

 

ボルトガンではない。

 

チェーンソードでもない。

 

ただの剣。

 

帝国兵達は警戒する。

 

だが奇妙な事に、

彼らから敵意を感じない。

 

先頭に立つ将校が敬礼する。

 

「アメストリア連邦軍第七遠征連隊。

帝国軍を歓迎する。」

 

提督ヴァルディスが睨む。

 

「貴様らがこの戦場を?」

 

「はい。」

 

「たったそれだけの兵力で?」

 

「十分でした。」

 

あまりにも平然としていた。

 

まるで、

オーク大戦団殲滅が日常であるかのように。

 

 

帝国側は共同調査を開始する。

 

そして徐々に、

“異常”が明らかになる。

 

 

オーク前衛部隊。

 

約二十万。

 

通常ならアストラ・ミリタルム数個連隊が必要。

 

だがアメストリア軍は、

僅か四万で迎撃。

 

しかも戦死率は二割以下。

 

有り得ない。

 

さらに調査班は、

奇妙な遺体を発見する。

 

巨大オーク。

 

体長四メートル超。

 

帝国記録上、

スペースマリーンすら苦戦する変異個体。

 

だがその怪物は。

 

両目を斬られ、

喉を裂かれ、

脳幹へ精密に刃を通されていた。

 

帝国尋問官が呟く。

 

「化物を……人間が狩っている。」

 

夜。

 

帝国将校団は、

アメストリア軍野営地へ案内される。

 

そこで彼らは再び困惑する。

 

兵士達が静か過ぎた。

 

酒もない。

 

騒ぎもない。

 

勝利に酔う様子もない。

 

兵士達は黙々と剣を研ぎ、

筋力訓練を行い、

負傷兵は自力歩行訓練をしている。

 

義肢を求める者は一人も居ない。

 

帝国軍医が思わず問う。

 

「治療用機械義肢は?」

 

アメストリア軍医は首を横に振る。

 

「不要です。」

 

「何故だ?」

 

「残った肉体を鍛えればいい。」

 

帝国側は言葉を失う。

 

狂っている。

 

だが。

 

その兵士達の目には、

確かな誇りがあった。

 

 

深夜。

 

帝国提督ヴァルディスは、

ついにアメストリア軍総司令部へ呼ばれる。

 

巨大テント内部。

 

中央に立つ男。

 

黒い軍服。

 

二本のサーベル。

 

眼帯。

 

昼間の通信映像の男。

 

キング・ブラッドレイ。

 

アメストリア連邦軍総統。

 

彼は地図を見つめたまま言う。

 

「帝国軍。

貴官らの奮戦には敬意を払う。」

 

ヴァルディスは眉を顰める。

 

「我々を知っているのか?」

 

「当然だ。

銀河最大の人類勢力だろう。」

 

ブラッドレイは淡々としていた。

 

恐れも、

敬意も、

敵意もない。

 

ただ事実を語るだけ。

 

ヴァルディスは問う。

 

「貴様らは何者だ。」

 

沈黙。

 

そしてブラッドレイは振り返る。

 

その瞬間。

 

提督は凍り付く。

 

威圧感。

 

まるで猛獣。

 

いや。

 

“死”そのもの。

 

ブラッドレイは静かに答えた。

 

「人間だ。」

 

「そんなものは見れば分かる!」

 

「いや、分かっていない。」

 

低い声。

 

だが重い。

 

「貴様ら帝国は、機械と改造に頼り過ぎた。」

 

ヴァルディスが険しい顔になる。

 

「それは人類存続のためだ。」

 

「理解している。」

 

ブラッドレイは否定しない。

 

「だが同時に、人類を弱くした。」

 

空気が張り詰める。

 

帝国将校達が武器へ手を掛ける。

 

だがブラッドレイは気にも留めない。

 

「人は、生身で怪物を殺せる。」

 

彼はサーベルを抜く。

 

刹那。

 

誰も動けなかった。

 

抜刀が見えなかった。

 

ただ。

 

“気付けば刃が存在していた”。

 

提督の額を汗が流れる。

 

この男は危険だ。

 

スペースマリーンとは別種。

 

純粋な“殺人技術”の化物。

 

ブラッドレイは静かに刃を納める。

 

「我々は証明している。

人間は、人間のままで戦えるとな。」

 

 

その時。

 

警報が鳴り響く。

 

通信士が叫ぶ。

 

「新規敵影!!」

 

ホログラムへ巨大生体反応が映る。

 

ティラニッド。

 

しかも大型群。

 

帝国側が青ざめる。

 

「何故こんな宙域に……!」

 

だが。

 

アメストリア兵達は誰一人慌てない。

 

静かに剣を取る。

 

軍帽を被る。

 

整列する。

 

ブラッドレイは薄く笑った。

 

「丁度いい。」

 

彼は外套を翻す。

 

「貴様らに見せてやろう。」

 

低く。

 

静かに。

 

総統は告げる。

 

「“人間”の戦争を。」

 

カルザーンⅣ外縁宙域。

 

虚空に無数の影が浮かぶ。

 

生体艦。

 

ティラニッド艦隊。

 

その姿を見た瞬間、帝国艦橋は凍り付いた。

 

「バイオシップ反応多数!」

 

「進路予測、惑星直下!」

 

「先遣捕食群ではありません!

本隊規模です!」

 

警報が鳴り響く。

 

赤い光。

 

怒号。

 

祈祷。

 

帝国海軍兵達が慌ただしく動き始める。

 

しかし。

 

その混乱の中で。

 

アメストリア軍だけが異様なほど静かだった。

 

 

総統キング・ブラッドレイは、

巨大戦略ホログラムを眺めている。

 

そこにはティラニッド降下予測地点が映っていた。

 

将校が報告する。

 

「第一降下地点、旧工業区。

第二降下地点、南部避難区画。

第三降下予測――」

 

「必要ない。」

 

ブラッドレイは即答した。

 

「敵指揮個体はここへ降りる。」

 

彼の指が一点を示す。

 

都市中央。

 

帝国側将校が顔を顰める。

 

「何故断定出来る?」

 

「獣だからだ。」

 

ブラッドレイは淡々と答える。

 

「最も人口密度が高く、最も恐怖が集まり、最も支配効果が大きい場所を狙う。」

 

その口調には確信しか無かった。

 

まるで何百回もティラニッドと戦ってきたかのように。

 

 

帝国尋問官ヘルマンが低く問う。

 

「貴様らは一体、この宙域で何と戦ってきた?」

 

ブラッドレイは少しだけ沈黙した。

 

そして。

 

「全部だ。」

 

静かな返答。

 

「オーク。

ティラニッド。

ネクロン。

混沌。

ダークエルダー。

そして人間。」

 

帝国側が息を呑む。

 

通常の惑星なら、

一勢力との戦争だけで滅亡している。

 

だがこの惑星は。

 

それを“日常”として生き残っていた。

 

 

地表。

 

アメストリア軍総動員令。

 

黒い軍服の兵士達が都市全域を駆ける。

 

市民達は慌てない。

 

避難経路へ整然と移動する。

 

子供達ですら泣かない。

 

老人達は炊き出しを始め、

女性達は弾薬運搬を行う。

 

帝国兵は困惑する。

 

「……何故ここまで統制されている?」

 

アメストリア兵が答える。

 

「生まれた時から戦場だからだ。」

 

 

カルザーンⅣ中央都市。

 

巨大防壁。

 

その上に、

数千人の黒い兵士達が整列する。

 

重火器は少ない。

 

主兵装は剣。

 

サーベル。

 

槍。

 

ボルトアクションライフル。

 

帝国将校が青ざめる。

 

「正気か……

ティラニッド相手に白兵戦をやるつもりか?」

 

隣のアメストリア将校は平然としていた。

 

「当然だ。」

 

「奴らは生物だ。

ならば殺せる。」

 

その目に恐怖は無い。

 

あるのは確信だけ。

 

 

空が裂ける。

 

無数の胞子嚢胞が降下する。

 

着弾。

 

爆裂。

 

地面が肉塊のように脈動し始める。

 

そして。

 

現れる。

 

ホーマゴーント。

 

テルマガント。

 

ウォリアー。

 

リクター。

 

帝国兵達が息を呑む。

 

通常のPDFなら、

数分で崩壊する規模。

 

だが。

 

アメストリア軍は逃げない。

 

号令。

 

「抜刀。」

 

数万の刃が一斉に抜かれる。

 

鋼の音が都市に響く。

 

次の瞬間。

 

ティラニッドが突撃。

 

そして。

 

黒い軍服の兵士達も前進した。

 

 

衝突。

 

普通の人間なら、

瞬時に食い破られる。

 

だが。

 

アメストリア兵達は異常だった。

 

横一列で突撃せず、

複数人単位で包囲陣形を形成。

 

一人が誘導し、

一人が脚部を断ち、

一人が視界を潰し、

最後に頸椎を斬る。

 

完璧な連携。

 

まるで巨大生物解体作業。

 

帝国兵達が絶句する。

 

「ティラニッドを……押し返している……?」

 

 

さらに異常なのは練度。

 

一切無駄が無い。

 

悲鳴も少ない。

 

感情で戦っていない。

 

恐怖を制御し切っている。

 

アメストリア軍にとって、

怪物との白兵戦は“日常訓練”だった。

 

 

帝国側も援護射撃を開始する。

 

ラスガン。

 

重機関砲。

 

迫撃砲。

 

しかし。

 

ティラニッドの波は止まらない。

 

無数。

 

無限。

 

死体を踏み越え、

怪物達が押し寄せる。

 

防衛線各所で白兵戦が発生。

 

血飛沫。

 

肉片。

 

咆哮。

 

そしてその中を。

 

一人の男が歩いていた。

 

キング・ブラッドレイ。

 

 

彼は走らない。

 

焦らない。

 

ただ歩く。

 

だが。

 

彼の周囲だけ、

異常な速度で敵が死んでいく。

 

斬撃が見えない。

 

気付けば首が飛ぶ。

 

気付けば脚が落ちる。

 

気付けば大型個体が崩れる。

 

帝国兵の一人が呆然と呟く。

 

「……化物。」

 

違う。

 

むしろ逆だった。

 

彼は“純粋な人間”だった。

 

だからこそ恐ろしい。

 

強化改造でもない。

 

遺伝子強化でもない。

 

ただ極限まで鍛え上げられた、

一人の老兵。

 

 

突如。

 

地面が爆発する。

 

カルニフェックス。

 

巨大突撃生体。

 

装甲車両すら粉砕する怪物。

 

帝国側が叫ぶ。

 

「総統!!」

 

だがブラッドレイは動じない。

 

むしろ。

 

笑っていた。

 

カルニフェックス突撃。

 

轟音。

 

大地震動。

 

次の瞬間。

 

閃光のような斬撃。

 

巨大生体の脚部が切断される。

 

巨体が傾く。

 

そこへ。

 

二撃目。

 

首。

 

断裂。

 

カルニフェックスが崩れ落ちる。

 

静寂。

 

帝国兵達は理解出来なかった。

 

何が起きたのか。

 

ただ一つ分かる。

 

あの男は、

“人類の範疇”を技術だけで踏み越えている。

 

 

しかし。

 

ティラニッド側も変化を始める。

 

シナプス反応増大。

 

上空から、

巨大影が降下する。

 

ハイヴタイラント。

 

帝国兵達が青ざめる。

 

「あれは駄目だ!!」

 

スペースマリーン中隊級戦力が必要な怪物。

 

その怪物が、

咆哮と共に降り立つ。

 

周囲のティラニッドが一斉に狂暴化。

 

防衛線が揺らぐ。

 

帝国将校が叫ぶ。

 

「総統!後退を!」

 

だがブラッドレイは前へ出る。

 

静かに。

 

ゆっくりと。

 

彼はサーベルを構えた。

 

「下がれ。」

 

その一言だけで、

周囲の兵士達が即座に後退する。

 

ハイヴタイラントが咆哮。

 

空気が震える。

 

超巨大の骨剣が振り下ろされる。

 

普通なら即死。

 

だが。

 

ブラッドレイは半歩だけ動いた。

 

避けた。

 

紙一重。

 

そのまま敵懐へ潜り込む。

 

速過ぎる。

 

老兵の動きではない。

 

二本のサーベルが閃く。

 

関節。

 

腱。

 

眼球。

 

呼吸器官。

 

超巨大怪物を、

まるで“解体”していく。

 

ハイヴタイラントが絶叫。

 

暴れる。

 

しかしブラッドレイは止まらない。

 

無駄が無い。

 

恐怖も無い。

 

怒りすら無い。

 

ただ。

 

殺すためだけの動き。

 

最後に。

 

彼は怪物の頭部へ飛び乗る。

 

そして。

 

一閃。

 

巨大な首が宙を舞った。

 

 

沈黙。

 

ティラニッド群全体が揺らぐ。

 

シナプス崩壊。

 

統率消失。

 

その瞬間。

 

ブラッドレイが振り返る。

 

血塗れのサーベルを持ったまま。

 

「突撃。」

 

静かな命令。

 

だが。

 

アメストリア軍は歓声すら上げない。

 

ただ一斉に前進する。

 

黒い津波のように。

 

そして。

 

崩れたティラニッド群へ襲い掛かった。

 

 

夜明け。

 

戦場には無数の死体が転がっていた。

 

ティラニッド。

 

人間。

 

血。

 

灰。

 

煙。

 

帝国兵達は呆然と立ち尽くしていた。

 

勝った。

 

確かに勝った。

 

だが。

 

理解が追いつかない。

 

何故、

こんな人間達が存在するのか。

 

 

その頃。

 

ブラッドレイは一人、

都市外縁部に立っていた。

 

朝日を見つめながら。

 

そこへ帝国尋問官ヘルマンが来る。

 

「貴様は何を目指している。」

 

ブラッドレイは少し黙った。

 

そして静かに答える。

 

「証明だ。」

 

「何を。」

 

老いた総統は空を見上げる。

 

「人類は、まだ終わっていないとな。」

 

ティラニッド戦役終結から三日後。

 

カルザーンⅣには、

奇妙な静けさが戻っていた。

 

帝国側は未だ混乱していた。

 

理解出来ないのだ。

 

何故、

たった生身の人類だけで、

あれほどの怪物達と渡り合えるのか。

 

 

帝国艦隊旗艦《グロリアス・レクイエム》。

 

作戦会議室。

 

空気は重かった。

 

巨大ホロマップには、

アメストリア周辺宙域が表示されている。

 

赤いマーカーだらけ。

 

オーク。

混沌。

ティラニッド。

海賊。

未確認異種族。

 

普通の星系なら、

とっくに滅んでいる。

 

提督ヴァルディスが低く呟く。

 

「……狂っている。」

 

尋問官ヘルマンが腕を組む。

 

「だが生き残っている。」

 

「それが問題だ。」

 

沈黙。

 

帝国側は恐れていた。

 

アメストリアという存在を。

 

機械化を拒絶し。

 

遺伝子改造を否定し。

 

それでいて怪物達を殺す。

 

帝国教義から見れば、

危険思想ですらある。

 

だが同時に。

 

彼らはあまりにも“人類”だった。

 

 

その時。

 

通信士が叫ぶ。

 

「ワープ反応!!」

 

全員が振り返る。

 

巨大ホロスクリーン。

 

そこへ現れたのは。

 

混沌艦隊。

 

黒い装甲。

 

禍々しい刻印。

 

悪魔的艦影。

 

しかも。

 

先頭艦識別反応。

 

《ブラック・レギオン》。

 

空気が凍る。

 

帝国兵の顔から血の気が引く。

 

「アバドン派閥だと……!?」

 

「何故こんな辺境に!?」

 

しかし。

 

ブラッドレイだけは静かだった。

 

「来たか。」

 

まるで、

予測していたかのように。

 

 

アメストリア総司令部。

 

非常招集。

 

黒い軍服の将校達が整列する。

 

誰一人騒がない。

 

ブラッドレイはホログラムを見つめる。

 

「敵目的は?」

 

参謀が答える。

 

「惑星制圧と思われます。」

 

「違う。」

 

ブラッドレイは即答した。

 

「奴らの狙いは“私”だ。」

 

帝国側が息を呑む。

 

その直後。

 

外部通信回線へ割り込みが入る。

 

ノイズ。

 

悲鳴のような機械音。

 

そして。

 

重低音の声。

 

 

『アメストリア総統。』

 

『貴様を見に来た。』

 

 

巨大モニターへ、

混沌兵士の姿が映る。

 

黒金の装甲。

 

赤い目。

 

スペースマリーン。

 

しかしその姿には、

純粋な殺意とは別の感情があった。

 

興味。

 

執着。

 

畏怖。

 

『生身の人間だけで銀河を戦う男。』

 

『実に興味深い。』

 

『我らへ加われ。』

 

『その剣技。

その精神。

混沌の祝福を得れば、貴様は神話になれる。』

 

艦橋が静まり返る。

 

誰もがブラッドレイを見る。

 

老いた総統は。

 

鼻で笑った。

 

「断る。」

 

『何?』

 

「私は“人間”だ。」

 

その瞬間。

 

ブラッドレイの目が細くなる。

 

殺気。

 

モニター越しですら、

空気が凍る。

 

「化物になる気は無い。」

 

沈黙。

 

そして。

 

混沌兵士が低く笑った。

 

『ならば証明してみせろ。』

 

『貴様の“人間”が、我らを超えると。』

 

通信終了。

 

 

数時間後。

 

惑星降下開始。

 

空が裂ける。

 

黒い降下艇。

 

悪魔の咆哮。

 

混沌兵士達が降り立つ。

 

スペースマリーン。

 

しかもブラック・レギオン精鋭。

 

通常兵士では相手にならない。

 

帝国側ですら撤退を考える相手。

 

しかし。

 

アメストリア軍は逃げない。

 

黒い兵士達が整列する。

 

剣を抜く。

 

その様子を見た帝国兵が震える。

 

「勝てる訳がない……」

 

隣のアメストリア兵が静かに答えた。

 

「勝つさ。」

 

「我々は、そのために生きている。」

 

 

戦闘開始。

 

爆音。

 

ボルト弾。

 

肉片。

 

黒い巨人達が突撃する。

 

スペースマリーン。

 

一撃で人間を粉砕出来る怪物。

 

だが。

 

アメストリア軍は真正面から迎え撃った。

 

 

帝国兵達は理解する。

 

この軍は、

“超人を殺す”ためだけに進化している。

 

包囲。

 

死角。

 

関節破壊。

 

装甲隙間への刺突。

 

単独では勝てない。

 

ならば集団で殺す。

 

十人で止め、

二十人で斬り、

三十人で仕留める。

 

損耗を前提に、

確実に怪物を削る。

 

それは戦術ではない。

 

執念だった。

 

 

しかし。

 

ブラック・レギオンは強過ぎた。

 

アメストリア軍精鋭すら、

次々に斬り裂かれる。

 

都市各所で防衛線崩壊。

 

混沌汚染も始まる。

 

空間が歪み、

空から血が降る。

 

帝国兵達が恐慌寸前になる中。

 

アメストリア軍だけは崩れない。

 

理由は単純だった。

 

彼らは。

 

“総統が居る限り負けない”

と信じている。

 

 

中央戦線。

 

ついに。

 

敵指揮官が現れる。

 

巨大な混沌の英雄。

 

四メートル近い巨体。

 

悪魔剣。

 

黒い装甲。

 

周囲の空気すら歪む。

 

帝国側が絶望する。

 

「あれは……ケイオスロード……!」

 

怪物。

 

生きた災害。

 

普通の人間では近付くだけで狂う。

 

だが。

 

ブラッドレイは歩き出した。

 

たった一人で。

 

 

黒い外套が揺れる。

 

二本のサーベル。

 

老いた肉体。

 

対するは、

超人を超えた悪魔戦士。

 

誰もが死を確信した。

 

しかし。

 

ブラッドレイは静かに言った。

 

「来い。」

 

その瞬間。

 

ケイオスロードが消える。

 

超高速突撃。

 

地面爆裂。

 

悪魔剣が振り下ろされる。

 

だが。

 

当たらない。

 

ブラッドレイは紙一重で回避する。

 

一歩。

 

半歩。

 

最小動作。

 

まるで未来を見ている。

 

帝国兵が震える。

 

「見えているのか……?」

 

違う。

 

読み切っているのだ。

 

筋肉。

 

視線。

 

重心。

 

殺気。

 

全て。

 

 

ブラッドレイの刃が閃く。

 

装甲接続部。

 

火花。

 

だが浅い。

 

ケイオスロードが笑う。

 

『遅い!!』

 

悪魔剣横薙ぎ。

 

建物ごと粉砕。

 

しかし。

 

その瞬間。

 

ブラッドレイは既に背後に居た。

 

二閃。

 

膝関節切断。

 

巨体が崩れる。

 

だがケイオスロードは強引に立ち上がる。

 

咆哮。

 

周囲へ衝撃波。

 

普通の人間なら内臓破裂。

 

しかし。

 

ブラッドレイは踏み込む。

 

真正面から。

 

帝国兵達が絶句する。

 

「何故怯まない!?」

 

老総統の目には、

恐怖が存在しなかった。

 

彼はただ。

 

静かに怒っていた。

 

 

「人間を……侮辱するな。」

 

低い声。

 

次の瞬間。

 

斬撃。

 

誰も見えなかった。

 

ケイオスロードの動きが止まる。

 

沈黙。

 

そして。

 

巨大な首が落ちた。

 

 

静寂。

 

混沌兵士達すら動きを止める。

 

帝国側も理解出来ない。

 

ただ。

 

一つだけ分かる。

 

あの男は。

 

“人類そのものの執念”

だった。

 

 

戦場中央。

 

血塗れのブラッドレイが振り返る。

 

黒い軍服。

 

返り血。

 

老いた顔。

 

だがその背中は、

誰より巨大に見えた。

 

彼は静かに剣を振る。

 

「前進。」

 

それだけ。

 

その一言だけで。

 

アメストリア軍は再び立ち上がる。

 

傷付いても。

 

血を流しても。

 

怪物相手に。

 

生身で。

 

再び突撃する。

 

帝国兵達は呆然と見ていた。

 

そして気付く。

 

この惑星の強さは、

武器ではない。

 

思想だ。

 

 

「人間は、怪物に屈しない。」

 

その思想だけで。

 

彼らは銀河を戦っている。

 

 

 

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