『WARHAMMER 40,000
――黒き総統と人類の証明――』
第一章
黒い軍服の惑星
⸻
銀河辺境宙域。
帝国星図ですら詳細が欠落した、忘れられた宙域。
そこでは数百年単位で戦争が続いていた。
オークの略奪。
ティラニッドの捕食。
混沌汚染。
海賊。
反乱。
異端。
帝国ですら、完全制圧を諦めた地帯。
そこへ、一つの救難信号が届く。
⸻
+++ 緊急救難通信 +++
辺境採掘惑星《カルザーンⅣ》壊滅寸前。
オーク大戦団確認。
防衛線突破。
市民避難失敗。
帝国軍増援求ム。
通信断続的。
皇帝陛下に栄光あれ。
+++ 通信終了 +++
⸻
帝国辺境艦隊旗艦《グロリアス・レクイエム》。
艦橋は重苦しい空気に包まれていた。
「到着まで?」
提督ヴァルディスが問う。
航海士が震える声で答える。
「ワープ潮流が不安定です。最短でも七時間。」
「七時間か……」
遅い。
遅過ぎる。
オークの侵攻速度を考えれば、
既に惑星は炎上している可能性が高かった。
艦橋モニターには、
過去にオークへ襲撃された惑星の記録映像が流れている。
焼かれる都市。
串刺しにされる住民。
笑いながら虐殺する緑皮共。
帝国兵達の顔が沈む。
その時だった。
通信士が叫ぶ。
「新規通信反応!」
「発信元は!?」
「……不明です。」
艦橋が静まり返る。
ノイズ混じりの映像。
暗い画面。
そして、
黒い軍服の男が映った。
眼帯。
白髪交じりの髪。
鋭過ぎる眼光。
まるで剣そのもののような男。
「こちら、アメストリア連邦軍。」
低い声が響く。
「カルザーンⅣのオーク軍は殲滅した。」
艦橋の空気が止まる。
提督が眉を顰める。
「……何だと?」
男は淡々と続けた。
「貴官らの到着は不要だ。」
「ふざけるな。
オーク大戦団だぞ。PDF程度で対処出来る規模では――」
そこで通信映像が切り替わる。
艦橋全員が息を呑んだ。
地表。
そこには。
無数のオークの死体。
山のように積み上がる巨体。
切断面。
鮮血。
焦土。
そして異様だったのは。
死体のほぼ全てが――
“斬られていた”。
銃創ではない。
爆撃でもない。
巨大な刃物による切断。
オークノブすら、
首を正確に刎ねられている。
提督が絶句する。
「……こんな馬鹿な。」
オーク相手に近接戦を行うなど、
通常の人類には自殺行為だ。
ましてここまで一方的な殲滅など有り得ない。
映像の男は静かに告げる。
「惑星は既に安定化した。
住民保護も完了している。」
「貴様らは何者だ。」
数秒の沈黙。
やがて男は言った。
「人類だ。」
通信終了。
⸻
七時間後。
帝国艦隊はカルザーンⅣへ到着する。
そして彼らは、
自らの常識が通用しない戦場を見る事になる。
⸻
惑星全域が血の臭いに包まれていた。
煙。
瓦礫。
死体。
だが奇妙な事に、
民間区域の被害が極端に少ない。
避難誘導が完璧だった。
それどころか、
都市機能の一部は既に復旧している。
帝国兵達は困惑する。
「本当に戦後か……?」
「有り得ん。」
さらに異常だったのは戦場。
オークの死体が、
異様な精度で解体されている。
首。
関節。
眼窩。
筋肉接続部。
全て人型生物への殺傷効率を極限まで突き詰めた斬撃。
帝国衛生兵が青ざめる。
「まるで解体作業だ……」
そこへ。
黒い軍服の兵士達が現れる。
無駄の無い隊列。
静かな足音。
全員がサーベルを携行していた。
ボルトガンではない。
チェーンソードでもない。
ただの剣。
帝国兵達は警戒する。
だが奇妙な事に、
彼らから敵意を感じない。
先頭に立つ将校が敬礼する。
「アメストリア連邦軍第七遠征連隊。
帝国軍を歓迎する。」
提督ヴァルディスが睨む。
「貴様らがこの戦場を?」
「はい。」
「たったそれだけの兵力で?」
「十分でした。」
あまりにも平然としていた。
まるで、
オーク大戦団殲滅が日常であるかのように。
⸻
帝国側は共同調査を開始する。
そして徐々に、
“異常”が明らかになる。
⸻
オーク前衛部隊。
約二十万。
通常ならアストラ・ミリタルム数個連隊が必要。
だがアメストリア軍は、
僅か四万で迎撃。
しかも戦死率は二割以下。
有り得ない。
さらに調査班は、
奇妙な遺体を発見する。
巨大オーク。
体長四メートル超。
帝国記録上、
スペースマリーンすら苦戦する変異個体。
だがその怪物は。
両目を斬られ、
喉を裂かれ、
脳幹へ精密に刃を通されていた。
帝国尋問官が呟く。
「化物を……人間が狩っている。」
夜。
帝国将校団は、
アメストリア軍野営地へ案内される。
そこで彼らは再び困惑する。
兵士達が静か過ぎた。
酒もない。
騒ぎもない。
勝利に酔う様子もない。
兵士達は黙々と剣を研ぎ、
筋力訓練を行い、
負傷兵は自力歩行訓練をしている。
義肢を求める者は一人も居ない。
帝国軍医が思わず問う。
「治療用機械義肢は?」
アメストリア軍医は首を横に振る。
「不要です。」
「何故だ?」
「残った肉体を鍛えればいい。」
帝国側は言葉を失う。
狂っている。
だが。
その兵士達の目には、
確かな誇りがあった。
⸻
深夜。
帝国提督ヴァルディスは、
ついにアメストリア軍総司令部へ呼ばれる。
巨大テント内部。
中央に立つ男。
黒い軍服。
二本のサーベル。
眼帯。
昼間の通信映像の男。
キング・ブラッドレイ。
アメストリア連邦軍総統。
彼は地図を見つめたまま言う。
「帝国軍。
貴官らの奮戦には敬意を払う。」
ヴァルディスは眉を顰める。
「我々を知っているのか?」
「当然だ。
銀河最大の人類勢力だろう。」
ブラッドレイは淡々としていた。
恐れも、
敬意も、
敵意もない。
ただ事実を語るだけ。
ヴァルディスは問う。
「貴様らは何者だ。」
沈黙。
そしてブラッドレイは振り返る。
その瞬間。
提督は凍り付く。
威圧感。
まるで猛獣。
いや。
“死”そのもの。
ブラッドレイは静かに答えた。
「人間だ。」
「そんなものは見れば分かる!」
「いや、分かっていない。」
低い声。
だが重い。
「貴様ら帝国は、機械と改造に頼り過ぎた。」
ヴァルディスが険しい顔になる。
「それは人類存続のためだ。」
「理解している。」
ブラッドレイは否定しない。
「だが同時に、人類を弱くした。」
空気が張り詰める。
帝国将校達が武器へ手を掛ける。
だがブラッドレイは気にも留めない。
「人は、生身で怪物を殺せる。」
彼はサーベルを抜く。
刹那。
誰も動けなかった。
抜刀が見えなかった。
ただ。
“気付けば刃が存在していた”。
提督の額を汗が流れる。
この男は危険だ。
スペースマリーンとは別種。
純粋な“殺人技術”の化物。
ブラッドレイは静かに刃を納める。
「我々は証明している。
人間は、人間のままで戦えるとな。」
⸻
その時。
警報が鳴り響く。
通信士が叫ぶ。
「新規敵影!!」
ホログラムへ巨大生体反応が映る。
ティラニッド。
しかも大型群。
帝国側が青ざめる。
「何故こんな宙域に……!」
だが。
アメストリア兵達は誰一人慌てない。
静かに剣を取る。
軍帽を被る。
整列する。
ブラッドレイは薄く笑った。
「丁度いい。」
彼は外套を翻す。
「貴様らに見せてやろう。」
低く。
静かに。
総統は告げる。
「“人間”の戦争を。」
カルザーンⅣ外縁宙域。
虚空に無数の影が浮かぶ。
生体艦。
ティラニッド艦隊。
その姿を見た瞬間、帝国艦橋は凍り付いた。
「バイオシップ反応多数!」
「進路予測、惑星直下!」
「先遣捕食群ではありません!
本隊規模です!」
警報が鳴り響く。
赤い光。
怒号。
祈祷。
帝国海軍兵達が慌ただしく動き始める。
しかし。
その混乱の中で。
アメストリア軍だけが異様なほど静かだった。
⸻
総統キング・ブラッドレイは、
巨大戦略ホログラムを眺めている。
そこにはティラニッド降下予測地点が映っていた。
将校が報告する。
「第一降下地点、旧工業区。
第二降下地点、南部避難区画。
第三降下予測――」
「必要ない。」
ブラッドレイは即答した。
「敵指揮個体はここへ降りる。」
彼の指が一点を示す。
都市中央。
帝国側将校が顔を顰める。
「何故断定出来る?」
「獣だからだ。」
ブラッドレイは淡々と答える。
「最も人口密度が高く、最も恐怖が集まり、最も支配効果が大きい場所を狙う。」
その口調には確信しか無かった。
まるで何百回もティラニッドと戦ってきたかのように。
⸻
帝国尋問官ヘルマンが低く問う。
「貴様らは一体、この宙域で何と戦ってきた?」
ブラッドレイは少しだけ沈黙した。
そして。
「全部だ。」
静かな返答。
「オーク。
ティラニッド。
ネクロン。
混沌。
ダークエルダー。
そして人間。」
帝国側が息を呑む。
通常の惑星なら、
一勢力との戦争だけで滅亡している。
だがこの惑星は。
それを“日常”として生き残っていた。
⸻
地表。
アメストリア軍総動員令。
黒い軍服の兵士達が都市全域を駆ける。
市民達は慌てない。
避難経路へ整然と移動する。
子供達ですら泣かない。
老人達は炊き出しを始め、
女性達は弾薬運搬を行う。
帝国兵は困惑する。
「……何故ここまで統制されている?」
アメストリア兵が答える。
「生まれた時から戦場だからだ。」
カルザーンⅣ中央都市。
巨大防壁。
その上に、
数千人の黒い兵士達が整列する。
重火器は少ない。
主兵装は剣。
サーベル。
槍。
ボルトアクションライフル。
帝国将校が青ざめる。
「正気か……
ティラニッド相手に白兵戦をやるつもりか?」
隣のアメストリア将校は平然としていた。
「当然だ。」
「奴らは生物だ。
ならば殺せる。」
その目に恐怖は無い。
あるのは確信だけ。
⸻
空が裂ける。
無数の胞子嚢胞が降下する。
着弾。
爆裂。
地面が肉塊のように脈動し始める。
そして。
現れる。
ホーマゴーント。
テルマガント。
ウォリアー。
リクター。
帝国兵達が息を呑む。
通常のPDFなら、
数分で崩壊する規模。
だが。
アメストリア軍は逃げない。
号令。
「抜刀。」
数万の刃が一斉に抜かれる。
鋼の音が都市に響く。
次の瞬間。
ティラニッドが突撃。
そして。
黒い軍服の兵士達も前進した。
⸻
衝突。
普通の人間なら、
瞬時に食い破られる。
だが。
アメストリア兵達は異常だった。
横一列で突撃せず、
複数人単位で包囲陣形を形成。
一人が誘導し、
一人が脚部を断ち、
一人が視界を潰し、
最後に頸椎を斬る。
完璧な連携。
まるで巨大生物解体作業。
帝国兵達が絶句する。
「ティラニッドを……押し返している……?」
⸻
さらに異常なのは練度。
一切無駄が無い。
悲鳴も少ない。
感情で戦っていない。
恐怖を制御し切っている。
アメストリア軍にとって、
怪物との白兵戦は“日常訓練”だった。
⸻
帝国側も援護射撃を開始する。
ラスガン。
重機関砲。
迫撃砲。
しかし。
ティラニッドの波は止まらない。
無数。
無限。
死体を踏み越え、
怪物達が押し寄せる。
防衛線各所で白兵戦が発生。
血飛沫。
肉片。
咆哮。
そしてその中を。
一人の男が歩いていた。
キング・ブラッドレイ。
⸻
彼は走らない。
焦らない。
ただ歩く。
だが。
彼の周囲だけ、
異常な速度で敵が死んでいく。
斬撃が見えない。
気付けば首が飛ぶ。
気付けば脚が落ちる。
気付けば大型個体が崩れる。
帝国兵の一人が呆然と呟く。
「……化物。」
違う。
むしろ逆だった。
彼は“純粋な人間”だった。
だからこそ恐ろしい。
強化改造でもない。
遺伝子強化でもない。
ただ極限まで鍛え上げられた、
一人の老兵。
⸻
突如。
地面が爆発する。
カルニフェックス。
巨大突撃生体。
装甲車両すら粉砕する怪物。
帝国側が叫ぶ。
「総統!!」
だがブラッドレイは動じない。
むしろ。
笑っていた。
カルニフェックス突撃。
轟音。
大地震動。
次の瞬間。
閃光のような斬撃。
巨大生体の脚部が切断される。
巨体が傾く。
そこへ。
二撃目。
首。
断裂。
カルニフェックスが崩れ落ちる。
静寂。
帝国兵達は理解出来なかった。
何が起きたのか。
ただ一つ分かる。
あの男は、
“人類の範疇”を技術だけで踏み越えている。
⸻
しかし。
ティラニッド側も変化を始める。
シナプス反応増大。
上空から、
巨大影が降下する。
ハイヴタイラント。
帝国兵達が青ざめる。
「あれは駄目だ!!」
スペースマリーン中隊級戦力が必要な怪物。
その怪物が、
咆哮と共に降り立つ。
周囲のティラニッドが一斉に狂暴化。
防衛線が揺らぐ。
帝国将校が叫ぶ。
「総統!後退を!」
だがブラッドレイは前へ出る。
静かに。
ゆっくりと。
彼はサーベルを構えた。
「下がれ。」
その一言だけで、
周囲の兵士達が即座に後退する。
ハイヴタイラントが咆哮。
空気が震える。
超巨大の骨剣が振り下ろされる。
普通なら即死。
だが。
ブラッドレイは半歩だけ動いた。
避けた。
紙一重。
そのまま敵懐へ潜り込む。
速過ぎる。
老兵の動きではない。
二本のサーベルが閃く。
関節。
腱。
眼球。
呼吸器官。
超巨大怪物を、
まるで“解体”していく。
ハイヴタイラントが絶叫。
暴れる。
しかしブラッドレイは止まらない。
無駄が無い。
恐怖も無い。
怒りすら無い。
ただ。
殺すためだけの動き。
最後に。
彼は怪物の頭部へ飛び乗る。
そして。
一閃。
巨大な首が宙を舞った。
⸻
沈黙。
ティラニッド群全体が揺らぐ。
シナプス崩壊。
統率消失。
その瞬間。
ブラッドレイが振り返る。
血塗れのサーベルを持ったまま。
「突撃。」
静かな命令。
だが。
アメストリア軍は歓声すら上げない。
ただ一斉に前進する。
黒い津波のように。
そして。
崩れたティラニッド群へ襲い掛かった。
⸻
夜明け。
戦場には無数の死体が転がっていた。
ティラニッド。
人間。
血。
灰。
煙。
帝国兵達は呆然と立ち尽くしていた。
勝った。
確かに勝った。
だが。
理解が追いつかない。
何故、
こんな人間達が存在するのか。
その頃。
ブラッドレイは一人、
都市外縁部に立っていた。
朝日を見つめながら。
そこへ帝国尋問官ヘルマンが来る。
「貴様は何を目指している。」
ブラッドレイは少し黙った。
そして静かに答える。
「証明だ。」
「何を。」
老いた総統は空を見上げる。
「人類は、まだ終わっていないとな。」
ティラニッド戦役終結から三日後。
カルザーンⅣには、
奇妙な静けさが戻っていた。
帝国側は未だ混乱していた。
理解出来ないのだ。
何故、
たった生身の人類だけで、
あれほどの怪物達と渡り合えるのか。
⸻
帝国艦隊旗艦《グロリアス・レクイエム》。
作戦会議室。
空気は重かった。
巨大ホロマップには、
アメストリア周辺宙域が表示されている。
赤いマーカーだらけ。
オーク。
混沌。
ティラニッド。
海賊。
未確認異種族。
普通の星系なら、
とっくに滅んでいる。
提督ヴァルディスが低く呟く。
「……狂っている。」
尋問官ヘルマンが腕を組む。
「だが生き残っている。」
「それが問題だ。」
沈黙。
帝国側は恐れていた。
アメストリアという存在を。
機械化を拒絶し。
遺伝子改造を否定し。
それでいて怪物達を殺す。
帝国教義から見れば、
危険思想ですらある。
だが同時に。
彼らはあまりにも“人類”だった。
⸻
その時。
通信士が叫ぶ。
「ワープ反応!!」
全員が振り返る。
巨大ホロスクリーン。
そこへ現れたのは。
混沌艦隊。
黒い装甲。
禍々しい刻印。
悪魔的艦影。
しかも。
先頭艦識別反応。
《ブラック・レギオン》。
空気が凍る。
帝国兵の顔から血の気が引く。
「アバドン派閥だと……!?」
「何故こんな辺境に!?」
しかし。
ブラッドレイだけは静かだった。
「来たか。」
まるで、
予測していたかのように。
⸻
アメストリア総司令部。
非常招集。
黒い軍服の将校達が整列する。
誰一人騒がない。
ブラッドレイはホログラムを見つめる。
「敵目的は?」
参謀が答える。
「惑星制圧と思われます。」
「違う。」
ブラッドレイは即答した。
「奴らの狙いは“私”だ。」
帝国側が息を呑む。
その直後。
外部通信回線へ割り込みが入る。
ノイズ。
悲鳴のような機械音。
そして。
重低音の声。
⸻
『アメストリア総統。』
『貴様を見に来た。』
⸻
巨大モニターへ、
混沌兵士の姿が映る。
黒金の装甲。
赤い目。
スペースマリーン。
しかしその姿には、
純粋な殺意とは別の感情があった。
興味。
執着。
畏怖。
『生身の人間だけで銀河を戦う男。』
『実に興味深い。』
『我らへ加われ。』
『その剣技。
その精神。
混沌の祝福を得れば、貴様は神話になれる。』
艦橋が静まり返る。
誰もがブラッドレイを見る。
老いた総統は。
鼻で笑った。
「断る。」
『何?』
「私は“人間”だ。」
その瞬間。
ブラッドレイの目が細くなる。
殺気。
モニター越しですら、
空気が凍る。
「化物になる気は無い。」
沈黙。
そして。
混沌兵士が低く笑った。
『ならば証明してみせろ。』
『貴様の“人間”が、我らを超えると。』
通信終了。
⸻
数時間後。
惑星降下開始。
空が裂ける。
黒い降下艇。
悪魔の咆哮。
混沌兵士達が降り立つ。
スペースマリーン。
しかもブラック・レギオン精鋭。
通常兵士では相手にならない。
帝国側ですら撤退を考える相手。
しかし。
アメストリア軍は逃げない。
黒い兵士達が整列する。
剣を抜く。
その様子を見た帝国兵が震える。
「勝てる訳がない……」
隣のアメストリア兵が静かに答えた。
「勝つさ。」
「我々は、そのために生きている。」
⸻
戦闘開始。
爆音。
ボルト弾。
肉片。
黒い巨人達が突撃する。
スペースマリーン。
一撃で人間を粉砕出来る怪物。
だが。
アメストリア軍は真正面から迎え撃った。
⸻
帝国兵達は理解する。
この軍は、
“超人を殺す”ためだけに進化している。
包囲。
死角。
関節破壊。
装甲隙間への刺突。
単独では勝てない。
ならば集団で殺す。
十人で止め、
二十人で斬り、
三十人で仕留める。
損耗を前提に、
確実に怪物を削る。
それは戦術ではない。
執念だった。
⸻
しかし。
ブラック・レギオンは強過ぎた。
アメストリア軍精鋭すら、
次々に斬り裂かれる。
都市各所で防衛線崩壊。
混沌汚染も始まる。
空間が歪み、
空から血が降る。
帝国兵達が恐慌寸前になる中。
アメストリア軍だけは崩れない。
理由は単純だった。
彼らは。
“総統が居る限り負けない”
と信じている。
⸻
中央戦線。
ついに。
敵指揮官が現れる。
巨大な混沌の英雄。
四メートル近い巨体。
悪魔剣。
黒い装甲。
周囲の空気すら歪む。
帝国側が絶望する。
「あれは……ケイオスロード……!」
怪物。
生きた災害。
普通の人間では近付くだけで狂う。
だが。
ブラッドレイは歩き出した。
たった一人で。
⸻
黒い外套が揺れる。
二本のサーベル。
老いた肉体。
対するは、
超人を超えた悪魔戦士。
誰もが死を確信した。
しかし。
ブラッドレイは静かに言った。
「来い。」
その瞬間。
ケイオスロードが消える。
超高速突撃。
地面爆裂。
悪魔剣が振り下ろされる。
だが。
当たらない。
ブラッドレイは紙一重で回避する。
一歩。
半歩。
最小動作。
まるで未来を見ている。
帝国兵が震える。
「見えているのか……?」
違う。
読み切っているのだ。
筋肉。
視線。
重心。
殺気。
全て。
⸻
ブラッドレイの刃が閃く。
装甲接続部。
火花。
だが浅い。
ケイオスロードが笑う。
『遅い!!』
悪魔剣横薙ぎ。
建物ごと粉砕。
しかし。
その瞬間。
ブラッドレイは既に背後に居た。
二閃。
膝関節切断。
巨体が崩れる。
だがケイオスロードは強引に立ち上がる。
咆哮。
周囲へ衝撃波。
普通の人間なら内臓破裂。
しかし。
ブラッドレイは踏み込む。
真正面から。
帝国兵達が絶句する。
「何故怯まない!?」
老総統の目には、
恐怖が存在しなかった。
彼はただ。
静かに怒っていた。
⸻
「人間を……侮辱するな。」
低い声。
次の瞬間。
斬撃。
誰も見えなかった。
ケイオスロードの動きが止まる。
沈黙。
そして。
巨大な首が落ちた。
⸻
静寂。
混沌兵士達すら動きを止める。
帝国側も理解出来ない。
ただ。
一つだけ分かる。
あの男は。
“人類そのものの執念”
だった。
⸻
戦場中央。
血塗れのブラッドレイが振り返る。
黒い軍服。
返り血。
老いた顔。
だがその背中は、
誰より巨大に見えた。
彼は静かに剣を振る。
「前進。」
それだけ。
その一言だけで。
アメストリア軍は再び立ち上がる。
傷付いても。
血を流しても。
怪物相手に。
生身で。
再び突撃する。
帝国兵達は呆然と見ていた。
そして気付く。
この惑星の強さは、
武器ではない。
思想だ。
⸻
「人間は、怪物に屈しない。」
その思想だけで。
彼らは銀河を戦っている。