辺境惑星アメストリア   作:甘めのコーヒー

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第3話

血と鉄の境界線

 

 

混沌軍撃退から七日後。

 

カルザーンⅣは、

ようやく本当の意味で静けさを取り戻し始めていた。

 

だが。

 

帝国側の空気は重い。

 

勝利したはずなのに、

誰も安堵していなかった。

 

理由は単純。

 

アメストリアという存在が、

あまりにも異質だったからだ。

 

 

帝国辺境艦隊旗艦《グロリアス・レクイエム》。

 

尋問室。

 

重厚な鉄扉の奥で、

数名の高官達が険しい表情を浮かべていた。

 

尋問官ヘルマン。

提督ヴァルディス。

機械神学派技師官マルケウス。

 

そして中央モニターには、

火星機械教団との通信映像。

 

赤いローブを纏った機械神官が、

不快そうな機械音声を発する。

 

『理解不能。』

 

『生身の人類のみで、

 混沌戦力及びティラニッド群を撃退。』

 

『論理矛盾。』

 

マルケウスが低く答える。

 

「しかし事実です。」

 

映像には、

アメストリア軍の戦闘記録が映されていた。

 

剣のみでスペースマリーンへ接近。

 

集団連携による関節破壊。

 

視界潰し。

 

包囲。

 

頸椎切断。

 

機械神官が沈黙する。

 

やがて。

 

『……危険。』

 

その一言だけを残し、

通信が切れる。

 

室内が静まり返った。

 

 

提督ヴァルディスが吐き捨てる。

 

「異端認定か。」

 

ヘルマンは腕を組んだまま動かない。

 

「まだだ。」

 

「だが時間の問題だろう。」

 

アメストリアは、

帝国の常識を否定し過ぎている。

 

機械化を拒絶。

 

遺伝子改造を否定。

 

それでいて超人的戦闘能力を持つ。

 

帝国にとって、

理解不能な存在は危険だ。

 

そして危険は、

いずれ粛清対象になる。

 

 

その頃。

 

アメストリア側は平然としていた。

 

都市復旧作業。

 

戦死者埋葬。

 

孤児保護。

 

兵士達は黙々と働いている。

 

誰も泣かない。

 

誰も絶望しない。

 

戦争が終われば、

次の戦争へ備える。

 

それがアメストリアの日常だった。

 

 

帝国側観察官は、

復旧中の都市を歩いていた。

 

そこで再び、

異様な光景を見る。

 

戦場帰りの兵士達が、

子供達へ剣術を教えている。

 

負傷兵ですら、

片腕で鍛錬している。

 

市民達は兵士を英雄扱いしない。

 

畏怖もしない。

 

ただ自然に接している。

 

まるで。

 

“全員が兵士”

であるかのように。

 

 

広場。

 

一人の少女が、

帝国兵へ水を差し出した。

 

まだ十歳にも満たない。

 

だがその腰には木剣。

 

帝国兵が苦笑する。

 

「君も兵士になるのか?」

 

少女は首を傾げる。

 

「もうなってるよ?」

 

その返答に、

帝国兵は言葉を失う。

 

 

アメストリアには、

軍人と民間人の境界が薄い。

 

理由は単純。

 

怪物達は、

民間人かどうかなど気にしないからだ。

 

だから全員が戦う。

 

生きるために。

 

人間で居るために。

 

 

その日の夜。

 

総統府。

 

キング・ブラッドレイは、

静かに窓の外を見ていた。

 

都市夜景。

 

復旧作業灯。

 

遠くで聞こえる訓練音。

 

そこへ、

副官セリムが現れる。

 

黒軍服の若い士官。

 

彼は静かに敬礼した。

 

「帝国側の動きが不穏です。」

 

「当然だ。」

 

ブラッドレイは振り返らない。

 

「奴らは我々を理解出来ん。」

 

「……敵になりますか?」

 

少しの沈黙。

 

やがてブラッドレイは低く答えた。

 

「既に半分は敵だ。」

 

 

セリムが苦い顔をする。

 

「ですが我々は人類です。」

 

「帝国も人類だ。」

 

「なら何故。」

 

そこで。

 

ブラッドレイは静かに目を細めた。

 

「人は、自分と違う人間を恐れる。」

 

その声には、

長い疲労が滲んでいた。

 

 

彼は昔を思い出していた。

 

アメストリアも、

最初からこうだった訳ではない。

 

かつては普通の植民惑星だった。

 

だが。

 

辺境だった。

 

帝国は遠い。

 

援軍は来ない。

 

怪物だけが来る。

 

オーク。

混沌。

ティラニッド。

海賊。

 

人々は死に続けた。

 

機械も足りない。

 

強化技術も無い。

 

だから彼らは。

 

肉体を鍛えた。

 

技術を磨いた。

 

恐怖を殺した。

 

それしか、

生き残る方法が無かった。

 

 

ブラッドレイは呟く。

 

「我々はな。

生き延びた結果、

こうなっただけだ。」

 

セリムは黙って聞いている。

 

「最初から狂っていた訳ではない。」

 

「では今は?」

 

老総統は少しだけ笑った。

 

「……狂っているだろうな。」

 

その時だった。

 

警報。

 

都市全域へ鳴り響く。

 

副官が即座に端末確認。

 

顔色が変わる。

 

「ワープ裂け目です!!」

 

「規模は!?」

 

「……都市級。」

 

空気が凍る。

 

混沌汚染。

 

しかも大規模。

 

 

外。

 

空が裂けていた。

 

紫黒の亀裂。

 

雷鳴。

 

血の雨。

 

市民達が即座に避難開始。

 

兵士達が走る。

 

帝国側も緊急武装。

 

そして。

 

亀裂の中から。

 

“何か”が出て来る。

 

 

悪魔。

 

純粋なワープ存在。

 

角。

牙。

燃える眼。

 

物理法則すら歪める怪物。

 

帝国兵達が絶望する。

 

「デーモンだ!!」

 

通常兵器では意味が薄い。

 

精神汚染。

 

狂気。

 

恐怖。

 

人類最大級の災厄。

 

だが。

 

アメストリア軍は止まらない。

 

 

ブラッドレイが前へ出る。

 

帝国側が叫ぶ。

 

「総統!

悪魔相手に白兵戦は――」

 

「知っている。」

 

彼は二本のサーベルを抜いた。

 

「だから殺す。」

 

 

悪魔達が突撃。

 

空間が歪む。

 

普通の人間なら、

存在するだけで発狂する。

 

だが。

 

アメストリア軍は進む。

 

恐怖に耐えながら。

 

歯を食いしばりながら。

 

仲間を信じながら。

 

彼らは知っていた。

 

恐怖とは、

消すものではない。

 

踏み越えるものだと。

 

 

最前線。

 

巨大悪魔が兵士を吹き飛ばす。

 

炎。

 

悲鳴。

 

血。

 

そこへ。

 

ブラッドレイが踏み込む。

 

悪魔が咆哮。

 

巨大爪が振り下ろされる。

 

避ける。

 

斬る。

 

速い。

 

いや。

 

“正確過ぎる”。

 

悪魔の筋肉動作。

 

重心。

 

攻撃軌道。

 

全て見切っている。

 

老総統は、

まるで数秒先を読んでいた。

 

 

帝国兵達は震える。

 

「何なんだあの男は……」

 

尋問官ヘルマンだけが静かに呟く。

 

「恐らく。」

 

「人類が、

 怪物に抗い続けた果ての姿だ。」

 

 

ブラッドレイの刃が悪魔の核を断つ。

 

断末魔。

 

ワープ炎。

 

怪物が崩壊する。

 

だが。

 

裂け目の向こうには。

 

さらに巨大な影。

 

帝国側全員が青ざめる。

 

「まだ居るのか……」

 

空間そのものが軋む。

 

超巨大悪魔。

 

半身だけで建物並み。

 

その姿を見た瞬間、

一般兵達の一部が膝を付く。

 

本能的恐怖。

 

人類では抗えない存在。

 

だが。

 

ブラッドレイだけは、

静かに空を見上げていた。

 

そして。

 

薄く笑う。

 

「ようやく“大物”か。」

 

その瞬間。

 

アメストリア兵達の目から、

恐怖が消える。

 

総統が笑っている。

 

なら勝てる。

 

彼らは本気でそう信じていた。

 

 

黒い軍服の兵士達が、

再び剣を構える。

 

血塗れで。

 

満身創痍で。

 

それでも。

 

怪物へ向かって前進する。

 

生身の人間として。

 

誇りだけを武器に。

 

 

空が燃えていた。

 

紫黒の裂け目。

 

そこから溢れ続けるワープの瘴気が、

都市全体を腐らせていく。

 

血の雨。

 

歪む重力。

 

空中で反転する建築物。

 

人間の悲鳴に似た風。

 

帝国兵達は顔を青くしていた。

 

「現実が侵食されている……!」

 

「ワープ汚染速度が異常だ!」

 

機械神官達は必死に祈祷を続ける。

 

だが。

 

裂け目は拡大し続けていた。

 

 

そして。

 

“それ”は現れた。

 

巨大過ぎる影。

 

都市防壁より高い上半身。

 

燃えるような眼。

 

捻じれた角。

 

裂けた口。

 

悪魔。

 

いや。

 

既に“災害”だった。

 

奴が動くだけで、

周囲の建物が歪む。

 

現実が耐え切れていない。

 

帝国兵の一人が膝を付く。

 

「勝てる訳が……」

 

その瞬間。

 

アメストリア軍将校が怒鳴った。

 

「顔を上げろ!!」

 

凄まじい怒気。

 

「総統がまだ立っている!!」

 

兵士達が顔を上げる。

 

そこには。

 

黒い軍服の老兵。

 

キング・ブラッドレイ。

 

彼だけが、

悪魔を真っ直ぐ見上げていた。

 

恐怖など存在しない。

 

まるで。

 

巨大な獣を観察する剣士。

 

 

悪魔が咆哮する。

 

音だけでガラスが砕け、

兵士数名が耳から血を流して倒れる。

 

だが。

 

ブラッドレイは歩く。

 

一歩。

 

また一歩。

 

帝国兵達は理解出来なかった。

 

何故。

 

何故この男は、

悪魔を前にして平然としていられるのか。

 

 

尋問官ヘルマンが低く呟く。

 

「……違う。」

 

提督ヴァルディスが振り向く。

 

「何がだ。」

 

「あの男は、

 恐怖を感じないんじゃない。」

 

ヘルマンはブラッドレイを見つめたまま続ける。

 

「恐怖を制御している。」

 

 

ブラッドレイは知っている。

 

恐怖とは生物として正常な反応だ。

 

死を理解している証拠。

 

だから彼は恐怖を否定しない。

 

ただ。

 

支配させないだけだった。

 

 

悪魔の腕が振り下ろされる。

 

轟音。

 

都市道路が粉砕される。

 

だが。

 

そこにブラッドレイの姿は無い。

 

帝国兵が目を見開く。

 

「消えた!?」

 

違う。

 

速過ぎる。

 

老総統は既に、

悪魔の側面へ到達していた。

 

サーベル閃光。

 

巨大な皮膚へ斬撃が走る。

 

火花。

 

しかし浅い。

 

悪魔が笑う。

 

『人間風情が。』

 

声だけで空気が震える。

 

ブラッドレイは静かに息を吐いた。

 

「硬いな。」

 

次の瞬間。

 

彼は後退する。

 

同時に。

 

アメストリア軍が一斉突撃。

 

帝国側が絶句する。

 

「正面から行くのか!?」

 

 

黒い軍服の兵士達が、

超巨大悪魔へ殺到する。

 

普通なら狂気の沙汰。

 

だが。

 

彼らの動きには一切の迷いが無い。

 

ワイヤー射出。

 

建物壁面走行。

 

多方向同時侵入。

 

巨大怪物へ対する、

完全な対大型戦術。

 

兵士達が悪魔の身体へ飛び乗る。

 

刃を突き立てる。

 

目。

関節。

筋肉接続部。

 

人間が、

怪物を“解体”していく。

 

 

悪魔が暴れる。

 

何人も吹き飛ぶ。

 

潰れる。

 

燃える。

 

それでも。

 

アメストリア兵は止まらない。

 

仲間が死んでも。

 

脚が千切れても。

 

彼らは刃を離さない。

 

帝国兵達は震えていた。

 

「狂ってる……」

 

違う。

 

覚悟しているのだ。

 

この銀河で生きる事を。

 

 

ブラッドレイは戦場全体を見ていた。

 

兵士達の動き。

 

悪魔の癖。

 

筋肉収縮。

 

視線。

 

呼吸。

 

全てを読む。

 

彼の“最強眼”は、

怪物相手でも機能していた。

 

そして。

 

見つける。

 

核。

 

悪魔存在を維持する、

中心部。

 

通常なら不可能。

 

だがブラッドレイには見えていた。

 

 

彼は呟く。

 

「そこか。」

 

次の瞬間。

 

踏み込む。

 

空気が裂ける。

 

帝国兵ですら視認出来ない速度。

 

悪魔が反応する。

 

巨大爪。

 

衝撃波。

 

炎。

 

しかし当たらない。

 

ブラッドレイは最小動作で回避し続ける。

 

半歩。

 

首傾け。

 

体重移動。

 

たったそれだけで、

致命攻撃全てを避ける。

 

帝国兵が呆然とする。

 

「あれが……人間?」

 

 

悪魔が怒り狂う。

 

空間歪曲。

 

周囲へワープ炎爆発。

 

兵士達が吹き飛ぶ。

 

その瞬間。

 

ブラッドレイは跳んだ。

 

瓦礫。

 

壁。

 

悪魔の腕。

 

空中機動。

 

一直線。

 

悪魔核へ。

 

 

『貴様ァァァ!!』

 

巨大咆哮。

 

悪魔が掴み潰そうとする。

 

だが。

 

遅い。

 

ブラッドレイの刃が先に届く。

 

二本のサーベルが交差する。

 

一閃。

 

沈黙。

 

次の瞬間。

 

悪魔の身体中央に、

巨大な裂け目が走った。

 

 

時間が止まる。

 

悪魔が、

信じられないものを見るように、

ブラッドレイを見下ろす。

 

老総統は静かだった。

 

返り血を浴びながら。

 

ただ立っている。

 

そして。

 

超巨大悪魔は。

 

崩壊した。

 

 

ワープ炎。

 

断末魔。

 

裂ける空間。

 

怪物が粒子化して消滅する。

 

同時に。

 

空の裂け目も縮小を始めた。

 

帝国兵達が絶句する。

 

「倒した……?」

 

「生身の人間が……?」

 

 

だが。

 

その瞬間だった。

 

ブラッドレイの動きが止まる。

 

膝が揺れる。

 

口元から血。

 

帝国側が息を呑む。

 

副官セリムが駆け寄る。

 

「総統!!」

 

ブラッドレイは片手で制した。

 

「騒ぐな。」

 

だが明らかに異常だった。

 

尋問官ヘルマンが目を細める。

 

「……限界か。」

 

当然だった。

 

ブラッドレイは超人ではない。

 

純粋な人間。

 

肉体には限界がある。

 

老化もする。

 

傷も蓄積する。

 

それでも。

 

彼は立ち続けていた。

 

 

周囲の兵士達が集まる。

 

誰も声を出さない。

 

ただ。

 

総統を見ている。

 

ブラッドレイは静かに笑った。

 

「そんな顔をするな。」

 

血を拭いながら。

 

「まだ死なん。」

 

兵士達の表情から、

少しだけ緊張が消える。

 

それを見た帝国兵達は理解した。

 

この男は。

 

アメストリアそのものだ。

 

 

夜。

 

都市復旧作業が始まる。

 

死体回収。

 

負傷兵搬送。

 

瓦礫撤去。

 

誰も止まらない。

 

明日また戦争が来ると知っているからだ。

 

 

総統府医務室。

 

ブラッドレイは上半身包帯だらけで椅子に座っていた。

 

医師が怒鳴る。

 

「安静にしてください!!」

 

「断る。」

 

「肋骨三本骨折してます!!」

 

「まだ動ける。」

 

医師が頭を抱える。

 

副官セリムが苦笑した。

 

「昔からこうなんだ。」

 

 

その時。

 

来客。

 

尋問官ヘルマン。

 

帝国側最危険人物。

 

彼は静かにブラッドレイを見る。

 

「単刀直入に聞く。」

 

「何だ。」

 

「何故そこまで人間に拘る。」

 

部屋が静まる。

 

ブラッドレイは少し黙った。

 

やがて。

 

低く答える。

 

「簡単だ。」

 

その目は、

どこか遠くを見ていた。

 

「怪物になれば、

 戦う理由を忘れる。」

 

ヘルマンは黙って聞く。

 

「力を求めれば、

 人は簡単に化物になる。」

 

ブラッドレイは窓の外を見る。

 

復旧作業を続ける市民達。

 

兵士達。

 

子供達。

 

「だがな。」

 

静かな声。

 

「弱くても。

恐怖しても。

傷付いても。」

 

老総統は笑う。

 

「人間だからこそ、

 守りたいものがある。」

 

沈黙。

 

尋問官ヘルマンは、

初めて理解しかけていた。

 

この惑星の異常さを。

 

そして。

 

その異常さが、

どれほど“人類的”なのかを。

 

人類という名の狂気

 

 

カルザーンⅣ戦役から二週間。

 

惑星は再建されつつあった。

 

だが。

 

帝国側の空気は、

日に日に重くなっていく。

 

理由は単純。

 

アメストリアを知れば知るほど、

理解出来なくなるからだ。

 

 

帝国尋問官ヘルマンは、

単独で都市調査を続けていた。

 

彼は数百年を生きる古参尋問官であり、

数多の異端と狂気を見てきた。

 

混沌崇拝者。

 

肉体改造狂信者。

 

機械化極致派。

 

異種族協力者。

 

だが。

 

アメストリアだけは、

分類出来ない。

 

 

朝。

 

都市第五区画。

 

霧の立ち込める工業街。

 

そこでは、

戦闘訓練が行われていた。

 

まだ十代前半の少年少女達。

 

木剣。

 

模擬銃。

 

ナイフ。

 

教官の怒号。

 

「遅い!!」

 

「怪物は待ってくれん!!」

 

少年達が転がる。

 

叩き付けられる。

 

だが。

 

誰も泣かない。

 

誰も逃げない。

 

ヘルマンは眉を顰める。

 

「子供にここまでやらせるのか。」

 

隣に居た教官が答える。

 

「死なせたくないので。」

 

その返答に、

ヘルマンは言葉を失う。

 

 

訓練内容は異常だった。

 

対オーク戦術。

 

対ティラニッド戦術。

 

対混沌汚染対応。

 

敵解剖学。

 

急所。

 

包囲連携。

 

撤退判断。

 

完全に“戦争教育”。

 

だが。

 

そこには狂気じみた虐待感が無い。

 

教官達の目は真剣だった。

 

本気で、

この子供達を生かそうとしている。

 

 

訓練後。

 

少年兵の一人がヘルマンへ近付く。

 

「帝国の人?」

 

「ああ。」

 

「スペースマリーンって本当に三メートルあるの?」

 

「……個体による。」

 

少年は目を輝かせる。

 

「すげぇ。」

 

その顔には、

恐怖より好奇心があった。

 

ヘルマンは気付く。

 

アメストリアでは、

怪物達が“現実”なのだ。

 

絵本の中ではない。

 

日常だ。

 

だから子供達も受け入れている。

 

 

都市中央医療区画。

 

そこもまた異様だった。

 

医療技術は高い。

 

帝国基準でも上位。

 

だが。

 

機械義肢区画だけ、

異様に静かだった。

 

ほとんど利用者が居ない。

 

ヘルマンは主任医師へ問う。

 

「何故使わん。」

 

老医師はカルテを閉じる。

 

「総統の方針です。」

 

「非効率だろう。」

 

「ええ。」

 

老医師は頷く。

 

「ですが。」

 

その目には、

奇妙な誇りがあった。

 

「この惑星の人間は、

 “人間として戦う”事に意味を見出している。」

 

 

ヘルマンは思い出す。

 

ブラッドレイの言葉。

 

『怪物になれば、戦う理由を忘れる。』

 

あの男は。

 

本気で信じているのだ。

 

人類は、

人類のまま銀河を戦えると。

 

 

その日の夜。

 

総統府地下。

 

アメストリア軍中央作戦室。

 

巨大ホログラムには、

周辺宙域の戦況が映っている。

 

赤だらけだった。

 

オーク侵攻。

 

混沌反応。

 

ネクロン覚醒兆候。

 

ティラニッド航路。

 

地獄のような宙域。

 

副官セリムが報告する。

 

「第三植民衛星、

 オーク先遣隊と交戦中。」

 

「第五採掘基地、

 通信途絶。」

 

「混沌汚染反応、

 辺境居住区にて微増。」

 

ブラッドレイは静かに聞いていた。

 

疲労の色が濃い。

 

だが目だけは鋭い。

 

 

そこへ帝国側から緊急通信。

 

提督ヴァルディスの顔が映る。

 

「総統。」

 

「何だ。」

 

「帝国本部より通達だ。」

 

空気が少し変わる。

 

ヴァルディスは苦い顔をしていた。

 

「……アメストリアへ監査艦隊が派遣される。」

 

沈黙。

 

副官達の目付きが変わる。

 

ブラッドレイだけが静かだった。

 

「予想より早いな。」

 

 

監査艦隊。

 

その意味は単純。

 

調査。

 

審問。

 

そして場合によっては――粛清。

 

帝国は理解不能な存在を恐れる。

 

特に。

 

“制御出来ない強さ”を。

 

 

ヴァルディスが低く言う。

 

「逃げろとは言わん。」

 

「だが備えろ。」

 

「来るのは異端審問局と機械教団だ。」

 

副官達に緊張が走る。

 

だが。

 

ブラッドレイは静かに紅茶を飲んだ。

 

「構わん。」

 

「総統!!」

 

セリムが声を上げる。

 

「奴らは本気です!!

 最悪、惑星浄化すら――」

 

「分かっている。」

 

ブラッドレイは遮った。

 

その目には、

怒りも焦りも無い。

 

ただ。

 

長い諦観だけがあった。

 

 

「人類は昔からそうだ。」

 

静かな声。

 

「理解出来ぬものを恐れる。」

 

「そして恐怖は、

 いずれ刃になる。」

 

 

副官達が黙る。

 

誰も反論出来ない。

 

彼らも知っている。

 

アメストリアは異常だ。

 

帝国から見れば、

危険思想そのもの。

 

だが。

 

彼らは人類だった。

 

誰よりも。

 

 

その時。

 

警報。

 

全員が振り返る。

 

通信士が叫ぶ。

 

「第七外縁防衛ラインより緊急通信!!」

 

ホログラム起動。

 

そこには。

 

燃える宇宙港。

 

大量の死体。

 

そして。

 

黒い巨影。

 

帝国側全員の顔色が変わる。

 

ネクロン。

 

 

金属骸骨達が、

静かに前進していた。

 

無言。

 

無感情。

 

ガウス兵器で、

人間を分子分解していく。

 

アメストリア兵達が応戦する。

 

だが。

 

ネクロンは異質だった。

 

恐怖しない。

 

疲労しない。

 

痛覚も無い。

 

純粋な殺戮機械。

 

 

通信越しに、

兵士の悲鳴が響く。

 

「駄目です!!

 再生する!!」

 

切断されたネクロン兵が、

再び起き上がる。

 

帝国兵が呻く。

 

「最悪の相手だ……」

 

だが。

 

ブラッドレイは静かに立ち上がる。

 

軍帽を被る。

 

二本のサーベルを取る。

 

その動作だけで、

作戦室の空気が変わる。

 

 

副官セリムが問う。

 

「総統。」

 

「何だ。」

 

「……勝てますか。」

 

少しの沈黙。

 

ブラッドレイは、

ホログラムのネクロン軍勢を見つめる。

 

機械の怪物。

 

魂を捨てた種族。

 

永遠の兵士。

 

そして。

 

老総統は静かに笑った。

 

「知らん。」

 

全員が目を見開く。

 

ブラッドレイは続ける。

 

「だが。」

 

軍服を翻し、

出口へ歩き出す。

 

「勝てるかどうかで、

 戦う訳ではない。」

 

その背中を見た瞬間。

 

アメストリア兵達の恐怖が消える。

 

総統が前に出る。

 

ならば戦える。

 

彼らは本気でそう信じていた。

 

 

ブラッドレイは歩く。

 

燃える戦場へ。

 

終わらない銀河へ。

 

人間である事を、

証明するために。

 

 

 

 

 

 

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