辺境惑星アメストリア   作:甘めのコーヒー

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第4話

機械達の行進

 

 

第七外縁防衛ライン。

 

そこは元々、

巨大採掘都市だった。

 

山脈を掘り抜き、

地下資源を採掘する工業拠点。

 

だが今。

 

都市は燃えていた。

 

 

ガウス兵器の緑光が夜を裂く。

 

触れた物質は、

肉も鉄も関係なく崩壊する。

 

兵士達が蒸発する。

 

戦車が骨組みだけになる。

 

黒煙。

 

悲鳴。

 

そして。

 

ネクロン達は静かに進んでいた。

 

 

無音。

 

それが何より不気味だった。

 

オークのような咆哮も無い。

 

混沌の狂笑も無い。

 

ティラニッドの絶叫も無い。

 

ただ。

 

機械の骸骨達が、

一定速度で前進する。

 

それだけ。

 

まるで“死”そのものだった。

 

 

前線司令部。

 

アメストリア軍第十一防衛連隊は、

必死に抵抗していた。

 

「右区画崩壊!!」

 

「第三区隊壊滅!!」

 

「ガウス照射で装甲車両消失!!」

 

兵士達の顔に疲労が浮かぶ。

 

ネクロンは厄介過ぎた。

 

斬っても。

 

撃っても。

 

再生する。

 

倒したと思えば、

再び立ち上がる。

 

まるで不死者。

 

 

連隊長グラン少将が怒鳴る。

 

「脚を狙え!!

 動きを止めろ!!」

 

アメストリア軍は即座に対応を変える。

 

関節切断。

 

視界破壊。

 

転倒誘導。

 

完全破壊が無理なら、

戦闘能力を奪う。

 

実にアメストリア的な戦い方。

 

だが。

 

それでも押されていた。

 

 

そこへ。

 

一台の黒い輸送車両が到着する。

 

兵士達の空気が変わる。

 

扉が開く。

 

黒い軍服。

 

外套。

 

二本のサーベル。

 

キング・ブラッドレイ。

 

 

彼が降り立った瞬間。

 

前線兵士達の目から、

恐怖が消える。

 

「総統だ……」

 

「総統が来たぞ!!」

 

士気が爆発的に上昇する。

 

帝国側観測将校は震えていた。

 

「あの男、

 存在だけで軍の士気を変えている……」

 

 

ブラッドレイは戦場を見る。

 

炎。

 

死体。

 

崩壊する防衛線。

 

そして。

 

静かに進むネクロン軍。

 

老総統は目を細めた。

 

「……気味の悪い連中だ。」

 

副官セリムが問う。

 

「どう戦いますか。」

 

ブラッドレイは短く答える。

 

「首を落とせ。」

 

「再生します。」

 

「なら動かなくなるまで斬れ。」

 

あまりにも単純。

 

だが。

 

アメストリア軍は即座に理解した。

 

 

号令。

 

「総統命令!!

 対再生戦闘へ移行!!」

 

兵士達が武器を変える。

 

大型斬撃武器。

 

杭。

爆薬。

拘束ワイヤー。

 

“完全破壊”ではなく、

“行動不能化”へ。

 

 

戦闘再開。

 

黒い軍服の兵士達が、

ネクロン群へ突撃する。

 

ガウス光線。

 

肉体崩壊。

 

兵士達が消える。

 

それでも。

 

誰も止まらない。

 

 

ブラッドレイも前進する。

 

ネクロン兵が一斉射撃。

 

普通なら回避不可能。

 

だが。

 

老総統は歩くように避ける。

 

半歩。

 

体傾斜。

 

最小動作。

 

光線が紙一重で通り過ぎる。

 

帝国兵が絶句する。

 

「まただ……

 何故避けられる……」

 

 

ブラッドレイは理解していた。

 

ネクロンは合理的。

 

だからこそ読みやすい。

 

感情が無い。

 

癖が少ない。

 

つまり。

 

“予測出来る”。

 

 

彼の刃が閃く。

 

ネクロン首部切断。

 

さらに二体。

 

関節破壊。

 

武器腕切断。

 

だが。

 

ネクロン達は静かに再生する。

 

ブラッドレイは舌打ちした。

 

「面倒だな。」

 

 

その時。

 

地面が揺れる。

 

帝国側が顔色を変える。

 

「来るぞ!!」

 

巨大影。

 

建物を踏み潰しながら現れたのは。

 

ネクロン・スコーペクデストロイヤー。

 

異常近接戦型。

 

巨大な機械殺戮兵。

 

四枚刃。

 

高速回転。

 

完全なる白兵戦特化。

 

 

それは。

 

今までのネクロンと違った。

 

速い。

 

異常に。

 

瞬間移動のような加速で、

アメストリア兵達を切り裂いていく。

 

数秒で十数人死亡。

 

兵士達に動揺が走る。

 

「速過ぎる!!」

 

「目で追えん!!」

 

 

そこへ。

 

ブラッドレイが前へ出る。

 

スコーペクが反応。

 

即座に突撃。

 

轟音。

 

地面爆裂。

 

帝国兵達が叫ぶ。

 

「総統!!」

 

 

しかし。

 

ブラッドレイは笑っていた。

 

久しぶりに。

 

心底楽しそうに。

 

「そうか。」

 

低い声。

 

「貴様、“速い”のか。」

 

次の瞬間。

 

二つの影が衝突する。

 

金属火花。

 

衝撃波。

 

誰も動きが見えない。

 

ただ。

 

斬撃音だけが響く。

 

 

スコーペクが高速連撃。

 

建物ごと切断。

 

だが。

 

ブラッドレイは全て避ける。

 

紙一重。

 

完全見切り。

 

未来予知じみた動き。

 

帝国兵達は息を呑む。

 

「人間じゃない……」

 

尋問官ヘルマンが静かに呟く。

 

「いや。」

 

「だから恐ろしいんだ。」

 

 

ブラッドレイは、

“人間の技術だけ”でここへ辿り着いている。

 

強化無し。

 

改造無し。

 

純粋鍛錬のみ。

 

だからこそ異常。

 

 

スコーペクが咆哮のような機械音を上げる。

 

超高速突撃。

 

ブラッドレイは踏み込む。

 

真正面から。

 

交差。

 

沈黙。

 

次の瞬間。

 

巨大機械兵の上半身が滑り落ちた。

 

完全切断。

 

 

静寂。

 

アメストリア軍が歓声を上げる。

 

だが。

 

ブラッドレイだけは冷静だった。

 

彼はネクロン群全体を見ている。

 

そして気付く。

 

「……居るな。」

 

副官セリムが振り向く。

 

「何がです。」

 

ブラッドレイの目が細くなる。

 

戦場後方。

 

瓦礫の上。

 

そこに。

 

一体の存在が立っていた。

 

 

金色装飾。

 

長衣。

 

杖。

 

緑に光る眼。

 

ネクロン貴族。

 

ネクロンロード。

 

 

周囲のネクロン達とは、

明らかに違う。

 

知性。

 

威圧感。

 

そして。

 

古代王者の空気。

 

ネクロンロードもまた、

ブラッドレイを見ていた。

 

まるで観察するように。

 

 

しばし沈黙。

 

やがて。

 

機械の王は低く言う。

 

『興味深い。』

 

その声は、

直接脳へ響く。

 

『脆弱な肉体。』

 

『有限の寿命。』

 

『それでなお、

 我らへ抗うか。』

 

ブラッドレイは鼻で笑った。

 

「当然だ。」

 

『理解不能。』

 

「だろうな。」

 

老総統はサーベルを構える。

 

黒い外套が風に揺れる。

 

「貴様らは、

 “死なない”代わりに忘れた。」

 

ネクロンロードが目を細める。

 

「何をだ。」

 

ブラッドレイは静かに答えた。

 

「生きる理由を。」

 

王達の対話

 

 

燃え盛る採掘都市。

 

崩壊した高架線路。

 

砕けた防壁。

 

無数の死体。

 

その中心で。

 

一人の人間と、

一体の機械王が向かい合っていた。

 

 

ネクロンロード。

 

数千万年を生きる不死王族。

 

銀河創世期すら知る古代種族。

 

対するは。

 

キング・ブラッドレイ。

 

ただの人間。

 

寿命ある肉体。

 

老いた兵士。

 

本来なら、

対等ですら有り得ない。

 

だが。

 

その場に居る全員が理解していた。

 

この二者は、

確かに“同格”だった。

 

 

ネクロンロードが静かに言う。

 

『有限生命体。』

 

『何故そこまで戦う。』

 

『貴様らはいずれ死ぬ。』

 

『文明も朽ちる。』

 

『肉体も衰える。』

 

『ならば機械となり、

 永遠を得るべきだ。』

 

その声には侮蔑が無い。

 

純粋な疑問だった。

 

ネクロンにとって、

生物は脆弱過ぎる。

 

何故、

そんな不完全な形に拘るのか。

 

理解出来ない。

 

 

ブラッドレイは静かに答える。

 

「永遠だから何だ。」

 

ネクロンロードの目が細くなる。

 

「……何?」

 

老総統は戦場を見る。

 

傷付いた兵士達。

 

死体回収を続ける市民。

 

瓦礫の中でも、

立ち上がろうとする人間達。

 

「人間はな。」

 

低い声。

 

「死ぬから前に進める。」

 

 

ネクロンロードは沈黙する。

 

ブラッドレイは続けた。

 

「失うから守る。」

 

「終わるから繋ぐ。」

 

「限界があるから鍛える。」

 

サーベルを構える。

 

「それが人間だ。」

 

 

周囲のアメストリア兵達が、

静かに総統を見つめていた。

 

誰も口を挟まない。

 

この言葉は、

彼ら全員の思想そのものだった。

 

 

ネクロンロードが低く呟く。

 

『非合理。』

 

「当然だ。」

 

ブラッドレイは笑った。

 

「人間だからな。」

 

その瞬間。

 

ネクロンロードの周囲に、

大量の機械兵が集結する。

 

プレトリアン。

 

リッチガード。

 

スコーペク。

 

精鋭群。

 

都市空気が重くなる。

 

帝国兵達が顔色を変える。

 

「総統!!

 数が――」

 

しかし。

 

ブラッドレイは一歩前へ出る。

 

「数ならこちらも居る。」

 

その声と同時に。

 

黒い軍服の兵士達が整列する。

 

剣。

 

銃。

 

傷だらけの肉体。

 

だが。

 

誰一人引かない。

 

 

帝国側観測士官は震えていた。

 

「何故だ……」

 

「何故、

 あそこまで戦える……」

 

尋問官ヘルマンが答える。

 

「信じているからだ。」

 

「何を。」

 

ヘルマンはブラッドレイを見る。

 

「自分達が、

 “人間”である事を。」

 

 

戦闘再開。

 

ネクロン軍前進。

 

緑光線。

 

肉体分解。

 

アメストリア兵達が倒れる。

 

だが。

 

その瞬間。

 

黒い兵士達も突撃した。

 

 

近接戦。

 

火花。

 

鋼。

 

肉。

 

ネクロンは強い。

 

圧倒的に。

 

普通の人類では勝負にならない。

 

だが。

 

アメストリア軍は違う。

 

彼らは怪物との戦いを、

日常として生きてきた。

 

恐怖込みで、

戦術へ組み込んでいる。

 

 

一人が囮。

 

一人が脚部切断。

 

一人が拘束。

 

最後に首。

 

完全な連携。

 

ネクロン側も次々と行動不能へ追い込まれていく。

 

 

ブラッドレイはネクロンロードへ向かう。

 

ネクロン王族もまた、

ゆっくりと杖を構えた。

 

『来るか。』

 

「当然だ。」

 

次の瞬間。

 

二人が消える。

 

 

轟音。

 

地面爆裂。

 

杖とサーベル激突。

 

衝撃波で周囲瓦礫が吹き飛ぶ。

 

帝国兵達が絶句する。

 

「速い……!」

 

 

ネクロンロードは強い。

 

単なる指揮官ではない。

 

数千万年戦い続けた戦士。

 

動きに一切の無駄が無い。

 

対するブラッドレイもまた、

人類極致。

 

技術だけを極めた怪物。

 

 

連撃。

 

回避。

 

反撃。

 

未来予測のような読み合い。

 

二人共、

相手の動きを読んでいる。

 

帝国側には、

何が起きているのかすら分からない。

 

 

ネクロンロードが言う。

 

『貴様は理解している筈だ。』

 

『肉体はいずれ壊れる。』

 

『老いは止められん。』

 

『何故抗う。』

 

ブラッドレイが斬撃を弾く。

 

「老いるから面白い。」

 

『……理解不能。』

 

「だろうな。」

 

ブラッドレイの目が鋭くなる。

 

「貴様らは、

 完成した瞬間に止まった。」

 

 

ネクロンロードが一瞬止まる。

 

その僅かな隙。

 

ブラッドレイは見逃さない。

 

踏み込み。

 

一閃。

 

ネクロンロード肩部切断。

 

火花。

 

緑液体飛散。

 

 

だが。

 

ネクロンロードは即座に再生する。

 

『無意味だ。』

 

「知っている。」

 

ブラッドレイは静かだった。

 

「だから壊し続ける。」

 

 

再び激突。

 

ネクロンロードが杖を振る。

 

空間断裂。

 

ブラッドレイ回避。

 

だが頬が裂ける。

 

血。

 

老総統は笑う。

 

久しぶりだった。

 

これほど純粋に、

“死”と向き合うのは。

 

 

その時。

 

戦場全域に異変。

 

ネクロン兵達の動きが加速する。

 

帝国側が叫ぶ。

 

「転送反応!!

 増援です!!」

 

空間が裂ける。

 

無数のネクロン転送門。

 

そこから現れる、

さらに大量の機械兵。

 

絶望的戦力差。

 

帝国兵達の顔から血の気が引く。

 

 

だが。

 

アメストリア軍は退かない。

 

何故なら。

 

まだ総統が立っている。

 

 

ブラッドレイは周囲を見る。

 

兵士達。

 

傷付いている。

 

疲弊している。

 

それでも戦っている。

 

彼は静かに息を吐いた。

 

そして。

 

二本のサーベルを逆手に持つ。

 

副官セリムの顔色が変わる。

 

「総統……!」

 

知っている。

 

あの構えは。

 

ブラッドレイが、

“本気で全滅戦をやる時”の構えだ。

 

ネクロンロードが目を細める。

 

『何をする。』

 

ブラッドレイは静かに笑った。

 

「決まっている。」

 

その目に宿るのは、

狂気ではない。

 

覚悟。

 

人間が、

人間のまま怪物へ挑む覚悟。

 

老総統は一歩踏み出す。

 

「人類を証明する。」

 

 

黒煙が空を覆っていた。

 

採掘都市は既に半壊。

 

高層施設は崩れ、

鉄骨が墓標のように突き出している。

 

緑色のガウス光線が夜を裂き、

人間も建物も分解していく。

 

その地獄の中心で。

 

キング・ブラッドレイは、

静かに立っていた。

 

 

ネクロン軍増援。

 

数。

 

質。

 

どちらも絶望的だった。

 

プレトリアン部隊。

リッチガード。

重機動型デストロイヤー。

 

さらに上空には、

巨大ネクロン艦の影。

 

帝国側戦術予測では、

既に敗北確率九割超。

 

普通なら撤退する。

 

だが。

 

アメストリア軍は退かない。

 

 

理由は単純だった。

 

総統がまだ前に居る。

 

それだけで、

彼らは戦える。

 

 

ブラッドレイは二本のサーベルを逆手に持つ。

 

古傷だらけの手。

 

老いた筋肉。

 

疲労した肉体。

 

それでも。

 

彼の立ち姿には、

揺らぎが無かった。

 

 

ネクロンロードが静かに問う。

 

『何故だ。』

 

『何故そこまで抗う。』

 

『貴様は理解している筈だ。』

 

『いずれ死ぬ。』

 

『いずれ滅びる。』

 

『ならば何故、

 その脆弱な肉体へ拘る。』

 

 

ブラッドレイは少し黙った。

 

周囲では、

兵士達がまだ戦っている。

 

悲鳴。

 

怒号。

 

刃。

 

銃声。

 

死。

 

それを聞きながら。

 

老総統は静かに答えた。

 

「……簡単な話だ。」

 

その声は、

驚くほど穏やかだった。

 

「人間だからだ。」

 

 

ネクロンロードが沈黙する。

 

理解出来ない。

 

論理的ではない。

 

合理性が無い。

 

だが。

 

ブラッドレイの背中には、

確かな“力”があった。

 

 

「貴様らは永遠を得た。」

 

ブラッドレイは続ける。

 

「だが同時に、

 終わりを失った。」

 

サーベルを構える。

 

「終わりが無ければ、

 生に意味は宿らん。」

 

 

その瞬間。

 

ネクロンロードが動いた。

 

超高速。

 

空間滑走。

 

杖が振り下ろされる。

 

だが。

 

ブラッドレイは踏み込む。

 

真正面から。

 

 

激突。

 

衝撃波。

 

瓦礫が吹き飛ぶ。

 

二人の動きが消える。

 

帝国兵達には見えない。

 

ただ。

 

凄まじい金属音だけが連続する。

 

 

ネクロンロードは強い。

 

数千万年戦い続けた王。

 

動きに迷いが無い。

 

対するブラッドレイもまた、

人類戦闘技術の極致。

 

二人は似ていた。

 

極限まで無駄を削ぎ落としている。

 

だが。

 

決定的に違うものがある。

 

 

ブラッドレイには、

“熱”があった。

 

怒り。

 

執念。

 

守る意思。

 

恐怖。

 

覚悟。

 

それら全てを抱えたまま、

彼は戦っている。

 

 

ネクロンロードが問う。

 

『何故そこまで人類へ拘る。』

 

『貴様ほどの存在なら、

 既に怪物へ至れた筈だ。』

 

『何故拒む。』

 

ブラッドレイは斬撃を放つ。

 

火花。

 

ネクロンロード後退。

 

老総統の目が細くなる。

 

「怪物になれば。」

 

低い声。

 

「人間を見下すようになる。」

 

 

その言葉に。

 

ネクロンロードの動きが、

ほんの僅か止まる。

 

ブラッドレイは見逃さない。

 

踏み込み。

 

一閃。

 

ネクロンロードの胸部装甲へ、

深い斬撃。

 

 

しかし。

 

ネクロン王は即座に再生する。

 

『非効率だ。』

 

『感情は判断を鈍らせる。』

 

『恐怖は弱さだ。』

 

ブラッドレイは笑った。

 

「違うな。」

 

ネクロンロードが目を細める。

 

「恐怖があるから、

 人間は死に物狂いになれる。」

 

 

その瞬間。

 

ブラッドレイの速度が変わる。

 

帝国兵達が息を呑む。

 

速い。

 

今まで以上に。

 

老いた肉体とは思えない。

 

 

ネクロンロードも加速。

 

杖。

 

空間刃。

 

重力波。

 

だが。

 

ブラッドレイは避ける。

 

読んでいる。

 

完全に。

 

 

彼の“最強眼”は、

相手の癖を見抜いていた。

 

攻撃前動作。

 

重心。

 

エネルギー収束。

 

視線。

 

全て。

 

ネクロンロードの未来行動が、

手に取るように見えている。

 

 

ブラッドレイは思い出していた。

 

若い頃。

 

アメストリアは弱かった。

 

ただの辺境星。

 

毎日のように人が死んだ。

 

援軍は来ない。

 

帝国は遠い。

 

誰も守ってくれない。

 

だから。

 

彼らは戦った。

 

人間のままで。

 

 

最初は恐怖していた。

 

オークを見るだけで震えた。

 

ティラニッドの咆哮で失禁する兵士も居た。

 

混沌を見て発狂した者も居た。

 

当然だ。

 

人間なのだから。

 

だが。

 

それでも。

 

立ち向かった。

 

仲間を守るために。

 

家族を生かすために。

 

故郷を残すために。

 

 

ブラッドレイは呟く。

 

「人間は弱い。」

 

ネクロンロードが動く。

 

杖突き。

 

ブラッドレイ回避。

 

反撃。

 

火花。

 

「だから支え合う。」

 

斬撃。

 

「だから鍛える。」

 

踏み込み。

 

「だから足掻く。」

 

一閃。

 

 

ネクロンロードの片腕が飛ぶ。

 

機械王が後退する。

 

初めて。

 

その緑眼に、

僅かな動揺が宿った。

 

 

『理解……出来ない。』

 

ブラッドレイは静かに立つ。

 

血塗れで。

 

息を切らしながら。

 

老いた肉体は限界に近い。

 

だが。

 

その目だけは死んでいない。

 

 

「当然だ。」

 

ブラッドレイは言う。

 

「貴様らは、

 “死”から逃げた。」

 

その言葉に。

 

周囲のネクロン達が反応する。

 

空気が変わる。

 

まるで侮辱を受けた王族のように。

 

だが。

 

ブラッドレイは止まらない。

 

「永遠を得た代わりに、

 貴様らは“生”を捨てた。」

 

サーベルを構える。

 

「だから空っぽなんだ。」

 

 

ネクロンロードの周囲に、

異常なエネルギーが集束する。

 

怒り。

 

機械種族である筈の王が、

明確な感情を見せていた。

 

『……黙れ。』

 

低い声。

 

『脆弱な肉塊風情が。』

 

空間震動。

 

周囲建築物が崩壊する。

 

帝国兵達が叫ぶ。

 

「総統!!」

 

 

だが。

 

ブラッドレイは笑っていた。

 

心底愉快そうに。

 

「そうだ。」

 

「それでいい。」

 

ネクロンロードが止まる。

 

「何?」

 

老総統の目が鋭く光る。

 

「怒れるじゃないか。」

 

沈黙。

 

「恐怖も。

怒りも。

執念も。」

 

ブラッドレイは踏み込む。

 

「それが“生きてる”って事だ。」

 

 

次の瞬間。

 

二人が再び激突する。

 

凄まじい衝撃。

 

都市そのものが震える。

 

そして。

 

その戦いを見ながら。

 

アメストリア軍兵士達は、

再び立ち上がる。

 

傷付きながら。

 

血を流しながら。

 

それでも。

 

彼らの総統が、

まだ戦っているから。

 

 

銀河最果ての辺境で。

 

怪物達に囲まれた小さな惑星で。

 

人類はまだ、

終わっていなかった。

 

戦場は既に、

“都市”の形を失っていた。

 

崩壊した採掘施設。

 

燃え続ける輸送路。

 

半壊した防衛塔。

 

無数の死体。

 

人間。

ネクロン。

機械残骸。

 

その中心で。

 

キング・ブラッドレイとネクロンロードは、

なおも刃を交えていた。

 

 

二人の速度は、

既に通常兵士の視認限界を超えている。

 

踏み込み。

 

斬撃。

 

回避。

 

反撃。

 

一撃ごとに衝撃波が発生し、

周囲瓦礫が吹き飛ぶ。

 

帝国兵達は呆然としていた。

 

「……何だあれは。」

 

「本当に人間なのか。」

 

尋問官ヘルマンだけが静かに見つめている。

 

「人間だ。」

 

誰にも聞こえないほど小さな声。

 

「だから恐ろしい。」

 

 

ブラッドレイは疲弊していた。

 

呼吸が重い。

 

左腕感覚が薄い。

 

肋骨は折れたまま。

 

視界も滲み始めている。

 

当然だった。

 

相手は古代ネクロン王族。

 

数千万年戦い続けた怪物。

 

生身の人間が、

まともに戦える相手ではない。

 

だが。

 

老総統は止まらない。

 

 

ネクロンロードが杖を振る。

 

空間断裂。

 

ブラッドレイは最小動作で回避。

 

だが。

 

頬が裂ける。

 

血。

 

それでも彼は笑う。

 

「惜しいな。」

 

 

ネクロンロードは理解出来なかった。

 

この男は。

 

何故ここまで戦える。

 

何故折れない。

 

何故恐怖しながら、

前へ出られる。

 

ネクロンは恐怖を捨てた。

 

痛みも捨てた。

 

死も超越した。

 

だが。

 

目の前の老兵は。

 

恐怖も。

苦痛も。

老いも。

 

全て抱えたまま、

なお立っている。

 

 

『……何故だ。』

 

ネクロンロードが低く問う。

 

『何故そこまで戦える。』

 

ブラッドレイは静かに息を吐く。

 

「背負っているからだ。」

 

『何を。』

 

老総統は後方を見る。

 

そこには。

 

まだ戦う兵士達。

 

負傷者を運ぶ市民。

 

震えながらも武器を持つ少年兵。

 

瓦礫の中で泣く子供。

 

そして。

 

立ち上がる人間達。

 

 

「命だ。」

 

ブラッドレイの声は低い。

 

「人間はな。」

 

「一人じゃ弱い。」

 

サーベルを構える。

 

「だから誰かを背負う。」

 

 

ネクロンロードは沈黙する。

 

その概念が理解出来ない。

 

ネクロンは既に、

“個”を半ば失っている。

 

永遠を得た代わりに。

 

温度を失った。

 

 

ブラッドレイが踏み込む。

 

一閃。

 

ネクロンロード防御。

 

衝撃。

 

さらに連撃。

 

凄まじい速度。

 

老いた肉体とは思えない。

 

しかし。

 

それでも限界は近い。

 

 

副官セリムは遠くから見ていた。

 

そして理解していた。

 

総統の身体が、

もう長く持たない事を。

 

ブラッドレイは強い。

 

異常なほど。

 

だが。

 

あくまで人間だ。

 

肉体には終わりがある。

 

 

セリムの拳が震える。

 

「……総統。」

 

彼は知っている。

 

ブラッドレイが、

何故ここまで戦うのか。

 

 

昔。

 

アメストリアはもっと小さかった。

 

もっと弱かった。

 

怪物達に蹂躙され、

何度も滅びかけた。

 

その度に。

 

ブラッドレイは前へ出た。

 

誰より前へ。

 

兵士より先へ。

 

怪物へ向かって。

 

生身で。

 

 

最初は、

誰も信じていなかった。

 

「人間だけで怪物に勝てる訳がない。」

 

当然だ。

 

銀河は狂っている。

 

スペースマリーン。

 

悪魔。

 

異種族。

 

化物だらけ。

 

普通の人間など、

塵に等しい。

 

だが。

 

ブラッドレイだけは違った。

 

彼は言い続けた。

 

 

『人間は弱い。』

 

『だから鍛えろ。』

 

『恐怖するなとは言わん。』

 

『だが恐怖へ膝を付くな。』

 

『怪物に人類を明け渡すな。』

 

 

その思想が。

 

アメストリアを作った。

 

 

戦場中央。

 

ネクロンロードが空間波動を放つ。

 

ブラッドレイ回避。

 

だが。

 

一瞬遅い。

 

左肩が吹き飛ぶ。

 

血飛沫。

 

帝国兵達が叫ぶ。

 

「総統!!」

 

 

しかし。

 

ブラッドレイは倒れない。

 

片腕を失いながら。

 

なお立つ。

 

ネクロンロードですら、

動きが止まる。

 

『……何故立てる。』

 

老総統は血を吐きながら笑った。

 

「慣れている。」

 

「何度も失ってきた。」

 

 

片腕だけでサーベルを構える。

 

その姿は。

 

異様なまでに美しかった。

 

ボロボロの老兵。

 

限界を超えた肉体。

 

それでも。

 

背筋だけは真っ直ぐ。

 

 

ブラッドレイは静かに言う。

 

「貴様らは勘違いしている。」

 

ネクロンロードが目を細める。

 

「何をだ。」

 

「人間は。」

 

老総統の目が鋭く光る。

 

「弱いから強くなれる。」

 

 

次の瞬間。

 

ブラッドレイが消える。

 

ネクロンロードが反応。

 

だが。

 

遅い。

 

老総統は既に懐へ潜り込んでいた。

 

 

彼は理解していた。

 

ネクロンは強い。

 

圧倒的に。

 

真正面では勝てない。

 

だから。

 

“人間らしく戦う”。

 

知恵。

経験。

執念。

読み。

 

全てを使う。

 

 

ブラッドレイの“最強眼”が、

ネクロンロードの動作を読む。

 

関節。

 

駆動。

 

エネルギー流。

 

そして。

 

核心。

 

 

「見えた。」

 

低い呟き。

 

ネクロンロードが初めて動揺する。

 

『何――』

 

その瞬間。

 

ブラッドレイの刃が閃く。

 

一撃。

 

ネクロンロードの胸部中央へ、

深く突き刺さる。

 

緑光暴走。

 

機械王が後退する。

 

周囲ネクロン達が異常反応を起こす。

 

 

『……馬鹿な。』

 

ネクロンロードが震える。

 

ブラッドレイは静かに笑う。

 

「永遠にも。」

 

血を吐きながら。

 

「綻びはある。」

 

 

だが。

 

同時に。

 

ブラッドレイの膝も崩れる。

 

限界だった。

 

出血。

 

疲労。

 

損傷。

 

もう立っている事自体が異常。

 

副官セリムが駆け出そうとする。

 

しかし。

 

ブラッドレイは手で制した。

 

 

老総統は。

 

最後まで前を見ていた。

 

ネクロンロードもまた、

彼を見つめている。

 

その緑眼には、

初めて“理解不能以外”の感情が宿っていた。

 

畏怖。

 

 

『有限生命体。』

 

機械王が低く呟く。

 

『何故そこまで戦えるのか。』

 

ブラッドレイは笑った。

 

疲れ切った。

 

だが誇り高い笑み。

 

「人間だからだ。」

 

 

その瞬間。

 

後方から。

 

アメストリア軍が再び突撃する。

 

黒い軍服。

 

傷だらけの兵士達。

 

誰も逃げない。

 

総統がまだ立っている。

 

ならば。

 

自分達も立つ。

 

 

ネクロンロードは、

その光景を静かに見ていた。

 

数千万年。

 

無数の文明を滅ぼしてきた。

 

だが。

 

こんな種族は見た事が無い。

 

弱い。

 

脆い。

 

すぐ死ぬ。

 

それなのに。

 

何故ここまで前へ進める。

 

 

ブラッドレイは静かに立ち上がる。

 

片腕だけで。

 

満身創痍で。

 

それでも。

 

黒い総統はまだ剣を握っていた。

 

 

銀河最果て。

 

怪物達に囲まれた辺境惑星。

 

そこで今。

 

一人の人間が。

 

全ての怪物達へ、

証明し続けていた。

 

人類はまだ、

滅んでいないと。

 

 

 

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