機械達の行進
⸻
第七外縁防衛ライン。
そこは元々、
巨大採掘都市だった。
山脈を掘り抜き、
地下資源を採掘する工業拠点。
だが今。
都市は燃えていた。
⸻
ガウス兵器の緑光が夜を裂く。
触れた物質は、
肉も鉄も関係なく崩壊する。
兵士達が蒸発する。
戦車が骨組みだけになる。
黒煙。
悲鳴。
そして。
ネクロン達は静かに進んでいた。
⸻
無音。
それが何より不気味だった。
オークのような咆哮も無い。
混沌の狂笑も無い。
ティラニッドの絶叫も無い。
ただ。
機械の骸骨達が、
一定速度で前進する。
それだけ。
まるで“死”そのものだった。
⸻
前線司令部。
アメストリア軍第十一防衛連隊は、
必死に抵抗していた。
「右区画崩壊!!」
「第三区隊壊滅!!」
「ガウス照射で装甲車両消失!!」
兵士達の顔に疲労が浮かぶ。
ネクロンは厄介過ぎた。
斬っても。
撃っても。
再生する。
倒したと思えば、
再び立ち上がる。
まるで不死者。
⸻
連隊長グラン少将が怒鳴る。
「脚を狙え!!
動きを止めろ!!」
アメストリア軍は即座に対応を変える。
関節切断。
視界破壊。
転倒誘導。
完全破壊が無理なら、
戦闘能力を奪う。
実にアメストリア的な戦い方。
だが。
それでも押されていた。
⸻
そこへ。
一台の黒い輸送車両が到着する。
兵士達の空気が変わる。
扉が開く。
黒い軍服。
外套。
二本のサーベル。
キング・ブラッドレイ。
⸻
彼が降り立った瞬間。
前線兵士達の目から、
恐怖が消える。
「総統だ……」
「総統が来たぞ!!」
士気が爆発的に上昇する。
帝国側観測将校は震えていた。
「あの男、
存在だけで軍の士気を変えている……」
⸻
ブラッドレイは戦場を見る。
炎。
死体。
崩壊する防衛線。
そして。
静かに進むネクロン軍。
老総統は目を細めた。
「……気味の悪い連中だ。」
副官セリムが問う。
「どう戦いますか。」
ブラッドレイは短く答える。
「首を落とせ。」
「再生します。」
「なら動かなくなるまで斬れ。」
あまりにも単純。
だが。
アメストリア軍は即座に理解した。
⸻
号令。
「総統命令!!
対再生戦闘へ移行!!」
兵士達が武器を変える。
大型斬撃武器。
杭。
爆薬。
拘束ワイヤー。
“完全破壊”ではなく、
“行動不能化”へ。
⸻
戦闘再開。
黒い軍服の兵士達が、
ネクロン群へ突撃する。
ガウス光線。
肉体崩壊。
兵士達が消える。
それでも。
誰も止まらない。
⸻
ブラッドレイも前進する。
ネクロン兵が一斉射撃。
普通なら回避不可能。
だが。
老総統は歩くように避ける。
半歩。
体傾斜。
最小動作。
光線が紙一重で通り過ぎる。
帝国兵が絶句する。
「まただ……
何故避けられる……」
⸻
ブラッドレイは理解していた。
ネクロンは合理的。
だからこそ読みやすい。
感情が無い。
癖が少ない。
つまり。
“予測出来る”。
⸻
彼の刃が閃く。
ネクロン首部切断。
さらに二体。
関節破壊。
武器腕切断。
だが。
ネクロン達は静かに再生する。
ブラッドレイは舌打ちした。
「面倒だな。」
⸻
その時。
地面が揺れる。
帝国側が顔色を変える。
「来るぞ!!」
巨大影。
建物を踏み潰しながら現れたのは。
ネクロン・スコーペクデストロイヤー。
異常近接戦型。
巨大な機械殺戮兵。
四枚刃。
高速回転。
完全なる白兵戦特化。
⸻
それは。
今までのネクロンと違った。
速い。
異常に。
瞬間移動のような加速で、
アメストリア兵達を切り裂いていく。
数秒で十数人死亡。
兵士達に動揺が走る。
「速過ぎる!!」
「目で追えん!!」
⸻
そこへ。
ブラッドレイが前へ出る。
スコーペクが反応。
即座に突撃。
轟音。
地面爆裂。
帝国兵達が叫ぶ。
「総統!!」
⸻
しかし。
ブラッドレイは笑っていた。
久しぶりに。
心底楽しそうに。
「そうか。」
低い声。
「貴様、“速い”のか。」
次の瞬間。
二つの影が衝突する。
金属火花。
衝撃波。
誰も動きが見えない。
ただ。
斬撃音だけが響く。
⸻
スコーペクが高速連撃。
建物ごと切断。
だが。
ブラッドレイは全て避ける。
紙一重。
完全見切り。
未来予知じみた動き。
帝国兵達は息を呑む。
「人間じゃない……」
尋問官ヘルマンが静かに呟く。
「いや。」
「だから恐ろしいんだ。」
⸻
ブラッドレイは、
“人間の技術だけ”でここへ辿り着いている。
強化無し。
改造無し。
純粋鍛錬のみ。
だからこそ異常。
⸻
スコーペクが咆哮のような機械音を上げる。
超高速突撃。
ブラッドレイは踏み込む。
真正面から。
交差。
沈黙。
次の瞬間。
巨大機械兵の上半身が滑り落ちた。
完全切断。
⸻
静寂。
アメストリア軍が歓声を上げる。
だが。
ブラッドレイだけは冷静だった。
彼はネクロン群全体を見ている。
そして気付く。
「……居るな。」
副官セリムが振り向く。
「何がです。」
ブラッドレイの目が細くなる。
戦場後方。
瓦礫の上。
そこに。
一体の存在が立っていた。
金色装飾。
長衣。
杖。
緑に光る眼。
ネクロン貴族。
ネクロンロード。
⸻
周囲のネクロン達とは、
明らかに違う。
知性。
威圧感。
そして。
古代王者の空気。
ネクロンロードもまた、
ブラッドレイを見ていた。
まるで観察するように。
⸻
しばし沈黙。
やがて。
機械の王は低く言う。
『興味深い。』
その声は、
直接脳へ響く。
『脆弱な肉体。』
『有限の寿命。』
『それでなお、
我らへ抗うか。』
ブラッドレイは鼻で笑った。
「当然だ。」
『理解不能。』
「だろうな。」
老総統はサーベルを構える。
黒い外套が風に揺れる。
「貴様らは、
“死なない”代わりに忘れた。」
ネクロンロードが目を細める。
「何をだ。」
ブラッドレイは静かに答えた。
「生きる理由を。」
王達の対話
⸻
燃え盛る採掘都市。
崩壊した高架線路。
砕けた防壁。
無数の死体。
その中心で。
一人の人間と、
一体の機械王が向かい合っていた。
⸻
ネクロンロード。
数千万年を生きる不死王族。
銀河創世期すら知る古代種族。
対するは。
キング・ブラッドレイ。
ただの人間。
寿命ある肉体。
老いた兵士。
本来なら、
対等ですら有り得ない。
だが。
その場に居る全員が理解していた。
この二者は、
確かに“同格”だった。
⸻
ネクロンロードが静かに言う。
『有限生命体。』
『何故そこまで戦う。』
『貴様らはいずれ死ぬ。』
『文明も朽ちる。』
『肉体も衰える。』
『ならば機械となり、
永遠を得るべきだ。』
その声には侮蔑が無い。
純粋な疑問だった。
ネクロンにとって、
生物は脆弱過ぎる。
何故、
そんな不完全な形に拘るのか。
理解出来ない。
⸻
ブラッドレイは静かに答える。
「永遠だから何だ。」
ネクロンロードの目が細くなる。
「……何?」
老総統は戦場を見る。
傷付いた兵士達。
死体回収を続ける市民。
瓦礫の中でも、
立ち上がろうとする人間達。
「人間はな。」
低い声。
「死ぬから前に進める。」
⸻
ネクロンロードは沈黙する。
ブラッドレイは続けた。
「失うから守る。」
「終わるから繋ぐ。」
「限界があるから鍛える。」
サーベルを構える。
「それが人間だ。」
⸻
周囲のアメストリア兵達が、
静かに総統を見つめていた。
誰も口を挟まない。
この言葉は、
彼ら全員の思想そのものだった。
⸻
ネクロンロードが低く呟く。
『非合理。』
「当然だ。」
ブラッドレイは笑った。
「人間だからな。」
その瞬間。
ネクロンロードの周囲に、
大量の機械兵が集結する。
プレトリアン。
リッチガード。
スコーペク。
精鋭群。
都市空気が重くなる。
帝国兵達が顔色を変える。
「総統!!
数が――」
しかし。
ブラッドレイは一歩前へ出る。
「数ならこちらも居る。」
その声と同時に。
黒い軍服の兵士達が整列する。
剣。
銃。
傷だらけの肉体。
だが。
誰一人引かない。
⸻
帝国側観測士官は震えていた。
「何故だ……」
「何故、
あそこまで戦える……」
尋問官ヘルマンが答える。
「信じているからだ。」
「何を。」
ヘルマンはブラッドレイを見る。
「自分達が、
“人間”である事を。」
⸻
戦闘再開。
ネクロン軍前進。
緑光線。
肉体分解。
アメストリア兵達が倒れる。
だが。
その瞬間。
黒い兵士達も突撃した。
⸻
近接戦。
火花。
鋼。
肉。
ネクロンは強い。
圧倒的に。
普通の人類では勝負にならない。
だが。
アメストリア軍は違う。
彼らは怪物との戦いを、
日常として生きてきた。
恐怖込みで、
戦術へ組み込んでいる。
⸻
一人が囮。
一人が脚部切断。
一人が拘束。
最後に首。
完全な連携。
ネクロン側も次々と行動不能へ追い込まれていく。
⸻
ブラッドレイはネクロンロードへ向かう。
ネクロン王族もまた、
ゆっくりと杖を構えた。
『来るか。』
「当然だ。」
次の瞬間。
二人が消える。
⸻
轟音。
地面爆裂。
杖とサーベル激突。
衝撃波で周囲瓦礫が吹き飛ぶ。
帝国兵達が絶句する。
「速い……!」
⸻
ネクロンロードは強い。
単なる指揮官ではない。
数千万年戦い続けた戦士。
動きに一切の無駄が無い。
対するブラッドレイもまた、
人類極致。
技術だけを極めた怪物。
⸻
連撃。
回避。
反撃。
未来予測のような読み合い。
二人共、
相手の動きを読んでいる。
帝国側には、
何が起きているのかすら分からない。
⸻
ネクロンロードが言う。
『貴様は理解している筈だ。』
『肉体はいずれ壊れる。』
『老いは止められん。』
『何故抗う。』
ブラッドレイが斬撃を弾く。
「老いるから面白い。」
『……理解不能。』
「だろうな。」
ブラッドレイの目が鋭くなる。
「貴様らは、
完成した瞬間に止まった。」
⸻
ネクロンロードが一瞬止まる。
その僅かな隙。
ブラッドレイは見逃さない。
踏み込み。
一閃。
ネクロンロード肩部切断。
火花。
緑液体飛散。
⸻
だが。
ネクロンロードは即座に再生する。
『無意味だ。』
「知っている。」
ブラッドレイは静かだった。
「だから壊し続ける。」
⸻
再び激突。
ネクロンロードが杖を振る。
空間断裂。
ブラッドレイ回避。
だが頬が裂ける。
血。
老総統は笑う。
久しぶりだった。
これほど純粋に、
“死”と向き合うのは。
⸻
その時。
戦場全域に異変。
ネクロン兵達の動きが加速する。
帝国側が叫ぶ。
「転送反応!!
増援です!!」
空間が裂ける。
無数のネクロン転送門。
そこから現れる、
さらに大量の機械兵。
絶望的戦力差。
帝国兵達の顔から血の気が引く。
⸻
だが。
アメストリア軍は退かない。
何故なら。
まだ総統が立っている。
⸻
ブラッドレイは周囲を見る。
兵士達。
傷付いている。
疲弊している。
それでも戦っている。
彼は静かに息を吐いた。
そして。
二本のサーベルを逆手に持つ。
副官セリムの顔色が変わる。
「総統……!」
知っている。
あの構えは。
ブラッドレイが、
“本気で全滅戦をやる時”の構えだ。
ネクロンロードが目を細める。
『何をする。』
ブラッドレイは静かに笑った。
「決まっている。」
その目に宿るのは、
狂気ではない。
覚悟。
人間が、
人間のまま怪物へ挑む覚悟。
老総統は一歩踏み出す。
「人類を証明する。」
黒煙が空を覆っていた。
採掘都市は既に半壊。
高層施設は崩れ、
鉄骨が墓標のように突き出している。
緑色のガウス光線が夜を裂き、
人間も建物も分解していく。
その地獄の中心で。
キング・ブラッドレイは、
静かに立っていた。
⸻
ネクロン軍増援。
数。
質。
どちらも絶望的だった。
プレトリアン部隊。
リッチガード。
重機動型デストロイヤー。
さらに上空には、
巨大ネクロン艦の影。
帝国側戦術予測では、
既に敗北確率九割超。
普通なら撤退する。
だが。
アメストリア軍は退かない。
⸻
理由は単純だった。
総統がまだ前に居る。
それだけで、
彼らは戦える。
⸻
ブラッドレイは二本のサーベルを逆手に持つ。
古傷だらけの手。
老いた筋肉。
疲労した肉体。
それでも。
彼の立ち姿には、
揺らぎが無かった。
⸻
ネクロンロードが静かに問う。
『何故だ。』
『何故そこまで抗う。』
『貴様は理解している筈だ。』
『いずれ死ぬ。』
『いずれ滅びる。』
『ならば何故、
その脆弱な肉体へ拘る。』
⸻
ブラッドレイは少し黙った。
周囲では、
兵士達がまだ戦っている。
悲鳴。
怒号。
刃。
銃声。
死。
それを聞きながら。
老総統は静かに答えた。
「……簡単な話だ。」
その声は、
驚くほど穏やかだった。
「人間だからだ。」
⸻
ネクロンロードが沈黙する。
理解出来ない。
論理的ではない。
合理性が無い。
だが。
ブラッドレイの背中には、
確かな“力”があった。
⸻
「貴様らは永遠を得た。」
ブラッドレイは続ける。
「だが同時に、
終わりを失った。」
サーベルを構える。
「終わりが無ければ、
生に意味は宿らん。」
⸻
その瞬間。
ネクロンロードが動いた。
超高速。
空間滑走。
杖が振り下ろされる。
だが。
ブラッドレイは踏み込む。
真正面から。
⸻
激突。
衝撃波。
瓦礫が吹き飛ぶ。
二人の動きが消える。
帝国兵達には見えない。
ただ。
凄まじい金属音だけが連続する。
⸻
ネクロンロードは強い。
数千万年戦い続けた王。
動きに迷いが無い。
対するブラッドレイもまた、
人類戦闘技術の極致。
二人は似ていた。
極限まで無駄を削ぎ落としている。
だが。
決定的に違うものがある。
⸻
ブラッドレイには、
“熱”があった。
怒り。
執念。
守る意思。
恐怖。
覚悟。
それら全てを抱えたまま、
彼は戦っている。
⸻
ネクロンロードが問う。
『何故そこまで人類へ拘る。』
『貴様ほどの存在なら、
既に怪物へ至れた筈だ。』
『何故拒む。』
ブラッドレイは斬撃を放つ。
火花。
ネクロンロード後退。
老総統の目が細くなる。
「怪物になれば。」
低い声。
「人間を見下すようになる。」
⸻
その言葉に。
ネクロンロードの動きが、
ほんの僅か止まる。
ブラッドレイは見逃さない。
踏み込み。
一閃。
ネクロンロードの胸部装甲へ、
深い斬撃。
⸻
しかし。
ネクロン王は即座に再生する。
『非効率だ。』
『感情は判断を鈍らせる。』
『恐怖は弱さだ。』
ブラッドレイは笑った。
「違うな。」
ネクロンロードが目を細める。
「恐怖があるから、
人間は死に物狂いになれる。」
⸻
その瞬間。
ブラッドレイの速度が変わる。
帝国兵達が息を呑む。
速い。
今まで以上に。
老いた肉体とは思えない。
⸻
ネクロンロードも加速。
杖。
空間刃。
重力波。
だが。
ブラッドレイは避ける。
読んでいる。
完全に。
⸻
彼の“最強眼”は、
相手の癖を見抜いていた。
攻撃前動作。
重心。
エネルギー収束。
視線。
全て。
ネクロンロードの未来行動が、
手に取るように見えている。
⸻
ブラッドレイは思い出していた。
若い頃。
アメストリアは弱かった。
ただの辺境星。
毎日のように人が死んだ。
援軍は来ない。
帝国は遠い。
誰も守ってくれない。
だから。
彼らは戦った。
人間のままで。
⸻
最初は恐怖していた。
オークを見るだけで震えた。
ティラニッドの咆哮で失禁する兵士も居た。
混沌を見て発狂した者も居た。
当然だ。
人間なのだから。
だが。
それでも。
立ち向かった。
仲間を守るために。
家族を生かすために。
故郷を残すために。
⸻
ブラッドレイは呟く。
「人間は弱い。」
ネクロンロードが動く。
杖突き。
ブラッドレイ回避。
反撃。
火花。
「だから支え合う。」
斬撃。
「だから鍛える。」
踏み込み。
「だから足掻く。」
一閃。
⸻
ネクロンロードの片腕が飛ぶ。
機械王が後退する。
初めて。
その緑眼に、
僅かな動揺が宿った。
⸻
『理解……出来ない。』
ブラッドレイは静かに立つ。
血塗れで。
息を切らしながら。
老いた肉体は限界に近い。
だが。
その目だけは死んでいない。
⸻
「当然だ。」
ブラッドレイは言う。
「貴様らは、
“死”から逃げた。」
その言葉に。
周囲のネクロン達が反応する。
空気が変わる。
まるで侮辱を受けた王族のように。
だが。
ブラッドレイは止まらない。
「永遠を得た代わりに、
貴様らは“生”を捨てた。」
サーベルを構える。
「だから空っぽなんだ。」
⸻
ネクロンロードの周囲に、
異常なエネルギーが集束する。
怒り。
機械種族である筈の王が、
明確な感情を見せていた。
『……黙れ。』
低い声。
『脆弱な肉塊風情が。』
空間震動。
周囲建築物が崩壊する。
帝国兵達が叫ぶ。
「総統!!」
だが。
ブラッドレイは笑っていた。
心底愉快そうに。
「そうだ。」
「それでいい。」
ネクロンロードが止まる。
「何?」
老総統の目が鋭く光る。
「怒れるじゃないか。」
沈黙。
「恐怖も。
怒りも。
執念も。」
ブラッドレイは踏み込む。
「それが“生きてる”って事だ。」
⸻
次の瞬間。
二人が再び激突する。
凄まじい衝撃。
都市そのものが震える。
そして。
その戦いを見ながら。
アメストリア軍兵士達は、
再び立ち上がる。
傷付きながら。
血を流しながら。
それでも。
彼らの総統が、
まだ戦っているから。
⸻
銀河最果ての辺境で。
怪物達に囲まれた小さな惑星で。
人類はまだ、
終わっていなかった。
戦場は既に、
“都市”の形を失っていた。
崩壊した採掘施設。
燃え続ける輸送路。
半壊した防衛塔。
無数の死体。
人間。
ネクロン。
機械残骸。
その中心で。
キング・ブラッドレイとネクロンロードは、
なおも刃を交えていた。
⸻
二人の速度は、
既に通常兵士の視認限界を超えている。
踏み込み。
斬撃。
回避。
反撃。
一撃ごとに衝撃波が発生し、
周囲瓦礫が吹き飛ぶ。
帝国兵達は呆然としていた。
「……何だあれは。」
「本当に人間なのか。」
尋問官ヘルマンだけが静かに見つめている。
「人間だ。」
誰にも聞こえないほど小さな声。
「だから恐ろしい。」
⸻
ブラッドレイは疲弊していた。
呼吸が重い。
左腕感覚が薄い。
肋骨は折れたまま。
視界も滲み始めている。
当然だった。
相手は古代ネクロン王族。
数千万年戦い続けた怪物。
生身の人間が、
まともに戦える相手ではない。
だが。
老総統は止まらない。
⸻
ネクロンロードが杖を振る。
空間断裂。
ブラッドレイは最小動作で回避。
だが。
頬が裂ける。
血。
それでも彼は笑う。
「惜しいな。」
⸻
ネクロンロードは理解出来なかった。
この男は。
何故ここまで戦える。
何故折れない。
何故恐怖しながら、
前へ出られる。
ネクロンは恐怖を捨てた。
痛みも捨てた。
死も超越した。
だが。
目の前の老兵は。
恐怖も。
苦痛も。
老いも。
全て抱えたまま、
なお立っている。
⸻
『……何故だ。』
ネクロンロードが低く問う。
『何故そこまで戦える。』
ブラッドレイは静かに息を吐く。
「背負っているからだ。」
『何を。』
老総統は後方を見る。
そこには。
まだ戦う兵士達。
負傷者を運ぶ市民。
震えながらも武器を持つ少年兵。
瓦礫の中で泣く子供。
そして。
立ち上がる人間達。
⸻
「命だ。」
ブラッドレイの声は低い。
「人間はな。」
「一人じゃ弱い。」
サーベルを構える。
「だから誰かを背負う。」
⸻
ネクロンロードは沈黙する。
その概念が理解出来ない。
ネクロンは既に、
“個”を半ば失っている。
永遠を得た代わりに。
温度を失った。
⸻
ブラッドレイが踏み込む。
一閃。
ネクロンロード防御。
衝撃。
さらに連撃。
凄まじい速度。
老いた肉体とは思えない。
しかし。
それでも限界は近い。
⸻
副官セリムは遠くから見ていた。
そして理解していた。
総統の身体が、
もう長く持たない事を。
ブラッドレイは強い。
異常なほど。
だが。
あくまで人間だ。
肉体には終わりがある。
⸻
セリムの拳が震える。
「……総統。」
彼は知っている。
ブラッドレイが、
何故ここまで戦うのか。
⸻
昔。
アメストリアはもっと小さかった。
もっと弱かった。
怪物達に蹂躙され、
何度も滅びかけた。
その度に。
ブラッドレイは前へ出た。
誰より前へ。
兵士より先へ。
怪物へ向かって。
生身で。
⸻
最初は、
誰も信じていなかった。
「人間だけで怪物に勝てる訳がない。」
当然だ。
銀河は狂っている。
スペースマリーン。
悪魔。
異種族。
化物だらけ。
普通の人間など、
塵に等しい。
だが。
ブラッドレイだけは違った。
彼は言い続けた。
⸻
『人間は弱い。』
『だから鍛えろ。』
『恐怖するなとは言わん。』
『だが恐怖へ膝を付くな。』
『怪物に人類を明け渡すな。』
⸻
その思想が。
アメストリアを作った。
⸻
戦場中央。
ネクロンロードが空間波動を放つ。
ブラッドレイ回避。
だが。
一瞬遅い。
左肩が吹き飛ぶ。
血飛沫。
帝国兵達が叫ぶ。
「総統!!」
⸻
しかし。
ブラッドレイは倒れない。
片腕を失いながら。
なお立つ。
ネクロンロードですら、
動きが止まる。
『……何故立てる。』
老総統は血を吐きながら笑った。
「慣れている。」
「何度も失ってきた。」
⸻
片腕だけでサーベルを構える。
その姿は。
異様なまでに美しかった。
ボロボロの老兵。
限界を超えた肉体。
それでも。
背筋だけは真っ直ぐ。
⸻
ブラッドレイは静かに言う。
「貴様らは勘違いしている。」
ネクロンロードが目を細める。
「何をだ。」
「人間は。」
老総統の目が鋭く光る。
「弱いから強くなれる。」
⸻
次の瞬間。
ブラッドレイが消える。
ネクロンロードが反応。
だが。
遅い。
老総統は既に懐へ潜り込んでいた。
⸻
彼は理解していた。
ネクロンは強い。
圧倒的に。
真正面では勝てない。
だから。
“人間らしく戦う”。
知恵。
経験。
執念。
読み。
全てを使う。
⸻
ブラッドレイの“最強眼”が、
ネクロンロードの動作を読む。
関節。
駆動。
エネルギー流。
そして。
核心。
⸻
「見えた。」
低い呟き。
ネクロンロードが初めて動揺する。
『何――』
その瞬間。
ブラッドレイの刃が閃く。
一撃。
ネクロンロードの胸部中央へ、
深く突き刺さる。
緑光暴走。
機械王が後退する。
周囲ネクロン達が異常反応を起こす。
⸻
『……馬鹿な。』
ネクロンロードが震える。
ブラッドレイは静かに笑う。
「永遠にも。」
血を吐きながら。
「綻びはある。」
⸻
だが。
同時に。
ブラッドレイの膝も崩れる。
限界だった。
出血。
疲労。
損傷。
もう立っている事自体が異常。
副官セリムが駆け出そうとする。
しかし。
ブラッドレイは手で制した。
⸻
老総統は。
最後まで前を見ていた。
ネクロンロードもまた、
彼を見つめている。
その緑眼には、
初めて“理解不能以外”の感情が宿っていた。
畏怖。
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『有限生命体。』
機械王が低く呟く。
『何故そこまで戦えるのか。』
ブラッドレイは笑った。
疲れ切った。
だが誇り高い笑み。
「人間だからだ。」
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その瞬間。
後方から。
アメストリア軍が再び突撃する。
黒い軍服。
傷だらけの兵士達。
誰も逃げない。
総統がまだ立っている。
ならば。
自分達も立つ。
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ネクロンロードは、
その光景を静かに見ていた。
数千万年。
無数の文明を滅ぼしてきた。
だが。
こんな種族は見た事が無い。
弱い。
脆い。
すぐ死ぬ。
それなのに。
何故ここまで前へ進める。
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ブラッドレイは静かに立ち上がる。
片腕だけで。
満身創痍で。
それでも。
黒い総統はまだ剣を握っていた。
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銀河最果て。
怪物達に囲まれた辺境惑星。
そこで今。
一人の人間が。
全ての怪物達へ、
証明し続けていた。
人類はまだ、
滅んでいないと。