ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

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メイちゃんはやり過ぎた

「フーッ、フスーッ、フーッ……フーー……ふぅ」

 

 ないまぜになった大楯持ちと戦士。壁にまで叩きつけられて染みになった僧侶やら。そして、最後に気絶したまま頭を踏み砕かれた魔術師。

 暴虐のままにパーティを全壊させたメイは少しずつ、少しずつ息を落ち着かせていく。

 腕も盾も突き刺さったままの斧槍からそれらが消え失せ、地面に突き刺したそれに凭れ掛かるように膝を付いて、気付いた。

 

「曲がってる……」

 

 今までどんなに乱暴に扱っても真っ直ぐで居てくれた斧槍の柄が、確実に曲がっていた。

 

「あぁ」

 

 無茶な使い方をしたからなぁ、とかそんな言葉を発する余裕もなかった。

 四肢の骨に皹が入っている。全身の筋肉が悲鳴を上げている。ぎゅるるるるとお腹が大きく音を立てた。

 

「癒しよ……いや、違くて、豊穣よ、その片鱗を私に授け給え……」

 

 すると程なくして、メイの体の内側からぱき、ぱきと骨が治るような音が鳴り始める。至る所で千切れた筋繊維も繋がり直し、体は無傷にまで戻った。

 手荷物から最後の魔力を回復する薬を取り出して飲み干し、それから慰め程度の携帯食料を一気に口に運ぶ。

 

「むぐ、もぐ、もぐ……」

 

 おにぎりを食べたい。あの、異様にしょっぱくて酸っぱい漬物が入ったの、今ならとっても美味しく食べられる気がする。

 今なら20個、いや、30個は普通にいける。

 

「うぅ……はぁ……」

 

 がらんと斧槍を落として仰向けになる。胸がすーすーした。手甲と足甲の片方も外れてどこかに落としてしまった。

 

「お腹減った……。もう寝たい……」

 

 ええっと、今日はここに来て何日目なんだっけ? 後何日したら帰らなきゃいけないんだっけ。

 もし踏破したら、このくたびれきった体のまま帰る事になるのかな。いや、これから死んでもそうかも。

 そうだとしたら、多分明日と明後日は横になってるしかないだろうから、せめてジュアンにご飯を沢山買って来て貰って……。

 おにぎりにパンに果物に、それから団子と、野菜と、ジュースもたっぷり。

 ああ、そうだ、帰る時は花も買っていかなきゃ。あっちで育てるんだ。

 

「うー……」

 

 そんな現実逃避をしつつも、寝たところで空腹が加速するだけだと分かっていた。

 寝ていてもここから出るには餓死するまで寝るか自死するしかない。

 嫌になりながらなんとはなしに腕を摩ると、同族の女の子に貰った腕輪が手に触れた。

 花の香油を詰めた硝子の球が嵌められた、不運と致命傷を避けてくれる効果のある腕輪。

 もしかしたら、ここまで来れてしまったのは、これの効果もあったのかもしれない。

 

「……それなら、ヤだとか言ってられないなぁ」

 

 言いつつも、少しずつ息を整える。胸当てがなくて、その度にゆらゆらと胸が揺れる。

 疲労こそ激しいが、五体満足。魔力ももう回復出来ないが、十分にある。

 斧槍は少し曲がってしまったが、切れ味はきちんとそのまま。

 さっさとここから出たいなら、負けるにせよ勝つにせよ、次の階層に行かなければいけない。

 

「ふー……すー……ふー……すー……」

 

 そう言えば、ここの階の人達ってちゃんと見れてなかったけど、多分私を殺した人達だよね。

 私、ひょっとしてあそこで勤めている間にも少しは強くなったのかな。魂の質(レベル)も上がってるのかも。

 単に薬を使ったからっていうのもあるかもだけど。

 

「ふー……うーー……うん、よいしょっ、と!」

 

 メイはゆっくりと寝転がって起き上がった。斧槍を掴み、持ち上げる。

 

「やっぱり曲がってる……。出たら直ってたりしないかなぁ」

 

 そう言いながら一度背中に戻し、背筋を伸ばし。

 胸がまた揺れるのが気になる。ミノタウロスとしては平均的な、けれどとても形の良い乳房。

 ただ、今は支えるものがとにかく欲しくて、片方だけになった手甲と足甲を雑に組み合わせて胸当て代わりにした。

 

「不恰好だけど……」

 

 軽く跳んだりしてもそんなに気にならない事を確かめてから。

 

「何はともあれ、次で最後、ね」

 

 歩き始めた。

 

*

 

 16階。

 ダンジョンの屋上でもあり、開けた空が見える。

 更には少しばかりの観客席まで備えられていて、そこには衛兵の長のような格好をした人から、如何にも偉い格好をしたような人やらが座っていた。

 それより何より、そこで待っていた一人は。

 背中から生やす翼と尖った一対の角を備えるリザードマン……ではなく、ドラゴニュート。

 体躯こそリザードマンとそう変わらないが、その身に生やす真紅の鱗は、リザードマンのそれとは最早全くの別物であり、生半可な金属よりも硬ければ、魔法などに対する耐性も兼ね備えている。

 また背に生える翼はバードフォーク(鳥人)に匹敵する飛行能力を持ち合わせ、地上での身体能力もまた、リザードマンとは比較にならない。

 魂の質(レベル)が近ければ、そしてそうかけ離れた種族でなければ、異種で交わっても子供が生まれるのだが、生まれ持つその魂の質(レベル)が高過ぎて、今でもそう見かける事のない存在。

 そしてそれは……。

 

「サブマスター……なんでここに?」

 

 メイの務めるダンジョンの、20階を務めるフロアボスであり、ダンジョンマスターの右腕でもある。

 そして、素質のあるメイをフロアボスと成れるまで鍛えた一人でもある。

 

「薄々察してるかもだけどさ、ウチのダンジョンとここのダンジョンって、裏で繋がりがあるんだよ。

 メイちゃんがブチ切れた時に、こっちにも連絡が入って来た訳」

「それで、なんでここに?」

「悠々と全階層を突破されると面子が立たないとか言われてお願いされたのもあるけど、まあ一番は、こういう場所で久々に楽しく戦いたかったからだねっ!」

 

 ドラゴニュートらしくない軽い口調。

 けれどメイは斧槍を地面に突き立ててそれに体重を寄せつつ、げんなりした顔で返す。

 

「ヤだなぁ。私こんなボロボロなのに。斧槍も折れちゃってるし、もう手荷物もないし。

 結局、私に死ねって事でしょ?」

「うん、ここまで来れるかも半々くらいかなーって思ってたけど。それにまさか、それを折っちゃうとは思ってもなかったし!

 でも、メイちゃん本当にやりすぎちゃったから。お金出したにしても、全く足りないくらいにね」

「えー……そうなの?」

 

 私の年収の半分以上は出したのに?

 

「メイちゃんがトラウマを刻んで再起不能になった人達がそのままだったとして、その生涯で貢献出来たお金分には全く及ばないからねぇ……ま、そういう事。

 でも、もし、この僕に傷を付けられたら、ボーナスでもあげようかな」

「ボーナス……うーん、お金には困ってないけど、まあ沢山使っちゃったし。

 少しだけ元気湧いて来たかな」

「うん。じゃ、無駄話もここまでにして、やろうか」

 

 西のダンジョンの20階のフロアボスたるドラゴニュートのユーリは、腰に携えていた一本の剣をすらりと引き抜いた。

 これといった特徴のない、無骨で、その身の丈に合った長さの片手剣。けれどそれは、メイの持つ斧槍と等しく、ドラゴニュートの中でも強いユーリが持つに値する業物。

 

「うん、それじゃあ」

 

 メイも、曲がった斧槍を両手で持ち、今までの何よりも集中して構えた。




メイ(5月)
ユーニ、ジュアン(6月)
ユーリ(7月)

いつもは植物名から付ける事が多いんだけど、今回はメイから始めたので、まあそういう命名規則にしようかなという気持ち。
街に入る時メイが偽名で皐月と名乗る事もちょっと考えてた。
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