ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

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日間総合30位と日間オリジナル11位頂きました。ありがとうごぜえます。

何だかんだ1章はもう数話続くかも……。


メイちゃんは転職する

「ダンジョンは至る所にあるけれど、メイちゃんが望むような相手を見つけるには、東が一番近いし、それに一番道中も楽しいかな。

 東の港町、そこから海を越えた先に50階建てのとんでもないダンジョンがあってね。

 途中から挑めたりもするし、死んだ時の保険も好きに決められたりする、ここよりも更に色々自由に挑めるダンジョンで、人の賑わいもここが田舎に見えるくらいの、すっごい場所。

 そこだとメイちゃんはうーん、30階くらいかなあ、だからそこに行けばメイちゃんの目に適う相手もきっと居るよ」

 

 勝手に話を進めるユーリ。

 

「えーっと、私はそこに行かなきゃいけない感じなのかな?」

「うん。まあ、人生っていうのは長いようで短いからね。マスターみたいに魂の質(レベル)がとことん上がった結果、寿命がとんでもなく伸びたりした人も居たりするし、メイちゃんだってもしかしたらそうなれる位の素質もあるけれど、まあ、置いておいて。

 とにかく、メイちゃんのその望みを叶えたいなら、そこに行くのが一番だし、こんなダンジョン務めで青春の全てを費やしてしまうのも余りにも勿体無いからさ」

「うーん……」

「不服かい?」

「いや、なんだろう、とにかく……私、いきなりそんな事言われて戸惑ってる」

 

 ユーリはそれに対して、すぐに何かを返したりはしなかった。

 戸惑っている理由をきちんと言葉として出せるのを待っているようだった。

 

「……ええっと、私、多分、ダンジョンで働くの何だかんだ好きだったと思うの。

 お給料が良いのはもちろん、美味しいご飯もあるし、みんな、厳しいけど優しいし。

 それと戦うのも、嫌いじゃないというか、時々楽しいって思う時もあるし。

 だから、私の為だと言ってもいきなりそんな事言われるのは、予想してなかったというか……決心する時間が欲しいっていうか……」

「まあね。でも、正直言うとメイちゃんに東に行って欲しいのはそれだけじゃないんだ」

「?」

「今回の件で、メイちゃんは色んな戦法をとにかく沢山の人に見せちゃったでしょ?

 足捌きで相手の攻撃を避けながら渾身の一撃を叩き込んだり、属性付与して斬撃を飛ばしたり、斧槍を体に纏わせて手数を増やしたり、薬を使って破壊力を倍増させたり。

 これからもダンジョンに挑む人達は、確実にメイちゃんの事を丸裸にするよ。

 どのくらいの速さで動くのか。どれだけの手数で攻め立てればメイちゃんは対応出来なくなるのか。

 その薬を使われたらどうしたら良いのか。何が有効なのか。

 得られた知見から仮説をとにかく組み立てまくって、かなりの精度で対策を立ててくる。

 だからと言ってメイちゃんが全く勝てなくなるとは言わなくても、死ぬ回数が増えちゃうのは確実だと思う」

「……それなら、サブマスターとかがまた鍛えてくれるのは?」

「それも良いんだけど、それだけの時間ももしかしたら無い可能性の方が高いから。メイちゃんが15階で戦ったパーティなんて、あの後全員開き直って殺意たっぷりだったし」

 

 あの人達、本当にぐちゃぐちゃにしちゃったけど、全員また頑張れるんだ。

 

「…………そっかぁ。

 それで因みに、私の代わりはどうするの?」

「ああ、それは僕がやるよ。最近、やっとヴァンパイアと同じ精度での分身を作れるようになったんだ。

 それに、メイちゃんが来てからというもののかなり暇だったしね。

 僕のところまで来たの、メイちゃんが14階のフロアボスになってからたったの2回だったから」

「……」

 

 戦う回数がこれから増える事に、まるで子供のようにワクワクしているサブマスター。

 負けず劣らずの分厚い壁になりそうだった。

 

*

 

「それで……ジュアンも付いて来てくれるの?」

「それなんだけどね、メイちゃんがこれからもっと強くなるには、何が必要だと思う?」

「えっ? うーん……?」

 

 サブマスターには結局何も通じなかった。疲れていなかったとしても、手荷物が万全だったとしても、きっと大して変わらなかっただろう。

 サブマスターより強くなるには、実戦経験もそうだけど……。

 

「防御力?」

 

 足捌きだけでは限界がある。

 

「うん。一番は、僧侶の能力の方をもっと鍛えましょうって事。

 僧侶の作る障壁だってさ、千差万別で。中には発動時間をとにかく短くする代わりにまず壊れないような障壁を作ったりだって出来るものもあるから、そういうのメイちゃんにはうってつけでしょ。

 それから足捌きももっと鍛えられるからね、ミノタウロスだから限界はあると言っても、まだまだメイちゃんの限界は遥か先だよ」

「……」

 

 自ずと、目指すべき道と、付いてくる人の想像がついた。

 

「要するにメイちゃんには、戦士から格闘家になってもらいます。僧侶とも相性が良いしね」

「ミノタウロスの格闘家って、前例あるのかなあ」

「いつだって生身で殴り合うのは好きでやってきた人は居るからね!

 爪とか牙とか、蹴りすら使わなくてもね、ただ拳を握って、殴るだけでも技術ってかなりあるんだよ!

 僕だって若い頃は色んな人と殴り合ったからね! メイちゃんの倍くらいあるムキムキなミノタウロスにも殴り勝った事だってある!」

 

 いきなり鼻息荒くしたのに少し驚く。

 殴り勝ったというのも、身のこなしの疾さを見るに信じられなくはなかった。

 

「そう言う訳で、メイちゃんにはこれをあげます」

 

 どこからか取り出して、ごとりと目の前に置かれたのはグローブ。

 鋲が数多に打ち込まれた、メイがそれを着けて殴ろうものならば、鎧すら貫通するのに疑いはない。

 そして、メイの持つ斧槍やユーリの持つ片手剣と同じくらいの業物である事も。

 ただ。

 

「……」

「…………」

 

 メイは思わずジュアンと目を見合わせた。

 何と言うか……斧槍と比べたとしても、余りにも男らしさにあふれたものだった。

 それに気付いたユーリがメイに蹴りを入れられようとした時よりも焦った顔をして、思わず補足する。

 

「ま、まあ、身なりを格闘家っぽくすれば、きっと似合うから!」

「だと良いけれど……」

「そこ辺りは全額ユーリさんが出してくれるんですよね?」

「うん、そういう服全部買い漁ってくるから待ってて!!」

 

 そう言うと、一気に上空まで飛び上がってどこかへと飛んでいってしまった。

 

「……サブマスターって、あれでも枯れてるの?」

「さぁ……」

 

 メイは残っていた果物を口に運びながら、目の前のグローブを何とも言えない目で見続けていた。




拳闘暗黒伝メイちゃん
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