ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
呼吸を遮るマスクを身につけて日中は歩き通す。時々行き交う人々……早馬だったり、馬車やらを駆る人々には例外なく変な顔で見られるも、それも慣れてしまった。
宿に泊まる時は大体厩舎でグリフォンのエロクーに凭れて眠る。また、ウトとメイは寝る前に宿でそれぞれ雑用や、怪我の治療などで小銭稼ぎをする。
そうする内に街を出て3日。
目の前には分かれ道があった。
山の中を通る道と、山を大きく迂回する安全な道。登って下るのを含めると、労力としては大きく迂回した方がそれでも楽だとか。
また宿の人に聞くと、山の道は時折警護の人達が来て変な輩が住み着いていないか巡回すると言うが、最後に巡回したのは結構前で今はどうなっているか分からないし、入るのはお勧めしないとのことだった。
じっと山の方を見るエロクーとメイを見て、ウトが聞いた。
「……何か感じるのか?」
「何も感じないの?」
「人里でしか暮らして来なかったウトにそれを求めるのは酷というものだろうよ」
若干馬鹿にしたようにエロクーが言うのに対し。
「いや、私も多分、これは僧侶の素質があるからだと思う」
「僧侶の素質が? 何でだ?」
「言っちゃうと、誰かが悪魔か何かを呼び出してる」
「悪魔ぁ!? んな馬鹿な事をする輩が今も居るのかよ……それなら迂回するのか?」
「別に大それた気配でもないし、メイなら別に余裕で倒せる程度だろう?」
「能あるグリフォンは爪を隠すとか、そういう諺もあるし。
それに私、2人より戦闘経験が沢山あるって言っても、ダンジョン以外で戦った事はないから……。
ちょっと情けないけど、動きが鈍るかも」
「だからこそ行くべきだろう? ワタシもあっさり殺した癖に、そんな情けないミノタウロスのままでいいのか?」
エロクーはどうにも行きたいようだった。
「んー……」
メイは少し悩んでからウトに聞いた。
「この山道について、何か知ってる?」
「走れば一日で越えられるくらいの小山ではある。
道場の人達の中では、ここで一年間山籠りしたって自慢してる人も居たし、秋にはここで採れた山菜やらが街で見かけたりもしたな」
「……そう。
もし迷ったとしても、エロクーも居るし、食べられるものも幾らでもあるのかな。
ただ、悪魔って殺しても別に美味しくないんだよね」
「美味しくない?」
「呼び出した悪魔って、言っちゃえば少しの触媒で魂と魔力ばっかりの体を無理矢理実体化しているものだから、殺してもその触媒しか残らないんだよね。
それに、その触媒だって低級を呼び出すだけなら大したものじゃなくても良かったりするし。
もし賞金首だったとしても、それを殺したって言っても何にも証明できないの」
「……随分詳しいんだな?」
「だって、私のダンジョンの低層はそういうのを使って呼び出した悪魔が多いんだもの。
遠慮なく使い捨てに出来るしね。
でも、時々変なのが来ちゃうし、何回か私でも倒せないような強いのだって来た事があるし」
「ワタシの感覚からしても今回のはそういう気配ではないだろうと思うが?」
「十中八九、ね」
別にそんな危険を犯したいだとか、積極的に強くなりたいとか思っている訳でもないけれど。
ただ……舐められたくはないなぁ。
ここで平坦な道を選んだら、エロクーにはぶつくさ言われるに違いないし、その後私が何をしようともずーっとそのままな気がする。
そこまで考えて、メイは。
「……行こうか」
「当然だな!」
「……ま、メイさんに敵う悪魔じゃないなら」
「一応、マスクはもう外しておこうね」
*
荒れ果てた山道。時々川を跨いで、最近は余り手入れされていないような古びた橋を見かけると、エロクーの背に乗って飛んで貰う。
流石にメイを乗せるのは少し重そうにしていた。
また、魔獣の気配もちらほらと。
「魔獣はこの悪魔の気配とやらに関して気になったりはしないのか?」
「魔獣と言っても幅広いからな。そもそも魔獣と言いつつ魔法すら使えないのが大半なのだから、気付いてもいない恥晒し共が大半かもしれん」
「ふーん……」
悪魔の気配はするものの、ただするだけで夜を迎えてしまう。
野宿の準備の為にメイは枯れ枝を集めて、そこにエロクーが火を灯して。
そんな事をさも当然のようにする二人に対して、殆ど何も感じられていないままのウトは落ち着かない様子で聞いた。
「な、なあ、今日は普通に夜を過ごすのか?」
「夜に歩くよりはいいでしょ。それに私もエロクーも警戒しながら寝れるから」
「だとしても……」
「不安だったらワタシとメイの間で横になっていれば良い」
「う……ま、まあ、俺は何も出来そうにないから、素直にするしかない、のか?」
「気弱にしていると悪魔に取り憑かれるよ」
「えっ」
メイは意味ありげに拳を何度か握りながら、付け加える。
「体を乗っ取られてね、意志だけ残ったままになるんだって。
私なら追い出せると思うけど、属性付与したパンチでもする事になるからね」
「…………素直になっておきます」
……けれど、翌朝になっても結局悪魔は襲って来なかった。
エロクーは明け方に狩ってきた肉を食い千切りながら、憤慨したように言う。
「意気地なしな悪魔だな、呼び出した奴も何をしている!
……そうだ、なあ、メイ。ワタシから提案があるんだが」
「……なに?」
あんまり良い気がしないが聞く。
するとエロクーは歪んだ笑みを浮かべて。
「悪魔狩りをしないか? 狩っておいた方が良い事には越した事もないし、早い者勝ちで競おうじゃないか!」
「まあ、急いでないし、良いよ」
「えっ!?」
あっさりと受け入れたメイに、余り眠れなかったようでうつらうつらしていたウトが飛び跳ねる。
「ウトは私に付いて来て。ウトも私が属性付与をすれば悪魔にも有効打が与えられるようになるはずだから」
「ワタシは空を飛べるし魔法も使えるからな、そのくらいのハンデはくれてやろう!
ではワタシはもう行くぞ!」
そう言って一気に飛んで行ってしまった。
それを呆然と見つめていたウトは、メイにおずおずと聞く。
「あ、あの、なんで引き受けたんでしょうか……」
「聞くようなグリフォンじゃなさそうだったし。
それに私もそろそろ、何かを殴りたくなってきたかなあ、って。
マスクはきついし、治しても大したお金も貰えないし。ちょっとストレス溜まっちゃってる気がして。
悪魔を殴って粉々に出来たら気持ち良さそうだったから」
「そ、そうですか……」
メイはグローブの様子を確認して、そして近くにあった木にパンチを一発。
めりょっ!
折れるまでは行かなかったが、確実に内側の繊維まで砕けた音がした。
更にそこからキック。
ぐぞっ!!
靴で強化されたその爪先の一撃は、砕けた繊維の間に食い込むように、木の深くまで突き刺さった。
多分、この木は数日したらぼっきり折れてしまうだろう。
「うん、まあ、当てられるかは別として。
当てたら良い気持ちになれそう、かな?」
……いや、俺、もう悪魔に同情しているような気がする。
南無。