ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

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メイさんは呆れてしまう

 喝を入れれば、木の幹から幹へと爪を食い込ませて跳び移り、時にきちんと自分の体重を支えてくれる枝を選んで掴み、一気に見えなくなる。

 

「私にはあそこまでの身軽さは、どうやったって無理だからなあ」

 

 そう呟きつつ、メイも走って追いかける。ついでに手にした鉄球に属性付与をしておく事にする。

 光り輝くその鉄球を投げれば、もう人の体など簡単に貫通しそうな予感がするが、気を練る事が出来れば一体どれだけ強くなれるのだろう? 複数人一気に貫いたりも出来るのだろうか?

 それはメイにとってちょっとばかり楽しみな事だった。

 

 坂を上り切ってもウトは木々に隠れてもう見えない。その代わりに、雑に作られていた寝床が目についた。

 木の枝と大きな葉を組み合わせた簡素な雨除け。

 その中を覗くと、悪魔を呼び出した人の……そしてその悪魔に取り憑かれたであろう人の、荷物が転がっている。

 少しの食べ物と、特徴的な臭いを醸し出す空き瓶。それから……濃い、死の臭い。

 

「……賞金首とかでもないか」

 

 悪魔にでも縋りたくなった、哀れなだけの人だ。

 

*

 

 ソレの背中が見えたところで、エロクーが大した警戒もなくソレの前へと降り立った。

 

「何だ。呼び出された側も哀れだったか」

「こ、この、鳥でも獅子でもない半端がぁ……」

 

 それは死にかけの病人が、どうにか延命しようと自らを触媒にして呼び出した悪魔だった。

 実態を持たない、呼び出されたばかりの悪魔は、獣が来ればそれに食わせて肉体を乗り換える事が出来たが、濃い病の臭いと悪魔の放つ不気味さが重なってそれを食おうとする獣は一匹たりとも訪れなかった。

 精々、虫か蛆か、その程度だった。

 出来た事は、その死にかけな体が完全に腐り切る前に、別の体に乗り移るだけのマナを体へと貯めて、動く事。

 その悪魔憑きはエロクーに向けて指を向けた。

 

「う」

 

 舐め腐った顔をしていたエロクーは思わず空を飛ぶ。障壁を作っても意味のない魔力の濃さがいきなり漏れ出してきた。

 指の先から純粋な魔力の光線が飛ぶ。そして、ゆらりと体を一回転。

 

「っぶねえっ!!」

 

 エロクーもウトもどうにか避けた。遅れて、切断された木々が崩れていく地響きが辺り一帯から鳴り響く。

 

「後2回だ!」

 

 エロクーがウトに向けて叫ぶ。溜め込まれた魔力はその位だと判断した。

 

「これを後2回避けろと!?」

 

 ぐるりと、悪魔憑きの人がこちらを向いた。土気色の顔をした、痩せこけたヒューマン。歯がぽろりと一本抜け落ちた。

 指先がこちらに向けられてくる。

 

「俺は魔力なんぞ感知出来ねえんだぞ……!!」

 

 指される指から必死に逃れる。近付くべきかも分からなかった。

 

「気持ち悪いものを纏っているなぁ……」

「お前に効くって分かったよ!」

 

 エロクーが炎を吐く。障壁で受けさせて魔力を削ごうという試みだろう、けれども。

 爆炎に紛れて、悪魔憑きの姿が見えなくなった。

 

「馬鹿……」

 

 避けようにも、自分の纏っている聖なる力は感知されていて……。

 死が間近に迫っている。

 けれど、だからこそか。すぐ前にそんな事があったからか。

 

 すぅ……。

 

 ウトは呼吸を整え、ジグザグに、不規則に走った。あくまで肉体は死にかけの病人。腕を素早く動かす事すら出来ないのだから。

 煙の中から未だ光線は飛んでこない。

 届くか……?

 

「突っ込むな! 二回分纏めて出してくるかもしれん!」

 

 エロクーの警告。

 お前がやらかしたから賭けに出ようとしたんだろうが! という心の中の叫び。

 けれど、もしかしたら……という事が。

 自分の両手両足は未だ光り輝いている。石ころを拾った。それを両手で強く握り締めて、開いた。

 石が淡く光っていた。聖なる、悪魔が嫌う属性が移っていた。

 

 すぅ。

 

 ただの石ころでも、気を練れれば、メイさんに及ばずとも!!

 

「あ゛あっ!!」

 

 ばぎゃっ!

 

 投げた石は、展開されていたであろう障壁を砕いた音がした。

 直後、反撃として飛んできた光線が、今さっきまで居た場所から、こっちへと、思い切り投げて体勢を崩している自分へと動き始め……。

 だが。

 

 ずんっ。

 

 響いたのは、自分の体に光線が食い込む音ではなく、ただただ、余りにも重い音だった。

 光線が掻き消える。

 煙が晴れてくる。

 

「……うわ」

 

 頭がなくなった体が、血をびゅうびゅうと飛び出させながらも、どうにか姿勢を保とうとプルプルと震えていた。

 

「さっさと止め!!」

 

 追いついて、鉄球を投擲していたメイが叫ぶ。

 

「あ、ああ!」

 

 属性付与が保たれたままの足でその腹を蹴れば、首から吹き出した血と共に、黒い靄が空中へと飛び散り、そのまま日の下に消えていった。

 死体も崩れ落ちるばかりで、動く事はもうなかった。

 

*

 

 メイは血みどろな鉄球を洗いながら、ウトから事の顛末を聞いて。

 エロクーの方を向いた。

 

「何か言う事はある?」

 

 炎を吐いてその姿を見えなくしてしまった事。そして何より、最初に踏み潰して殺せただろうに甚振ろうとして反撃を許してしまった事。

 

「も、申し訳ない……」

「もっと具体的に」

 

 メイさん、怖いなぁ……。

 

 エロクーは完全に萎縮していた。何をするにしても敵わない相手に、じっと見透かされている。

 ユーリさんが来た時もこんな感じだったんだろうか。

 

「……悪魔を舐めていました。ダンジョンで、命の保障がある場所で戦い慣れ過ぎていて、本物の命のやり取りを、忘れていました」

「んー……」

 

 メイは、どうにも余り納得のいかない顔で少し悩んでから。

 

「今から言う事を復唱する事」

「は、はい」

「私は、甚振る事が好きなクズな本性をしています。それは生まれつきです」

「…………ワタシは、甚振る事が好きなクズな本性をしています。それは生まれつきです」

「今度そうして、仲間を危険に晒したら、どんな罰でも受け入れます」

「……今度そうして、仲間を危険に晒したら、どんな罰でも受け入れます」

「はい。

 私はそういうの治せるともう思ってないからね。どうせ、ダンジョンでもそうやって甚振っている間に逆転されて死んだりも何度かしてるでしょ。

 そういう事をダンジョンの外でやっちゃってる時点で、私、とても呆れてるから」

「……」

 

 間違っていたとしても否定出来ないだろうけど、間違っていないんだろうな。

 

「じゃ、今回の罰ね。そこの岩の上に足を出して」

「……」

 

 そう言うと、メイは鉄球をしまって。

 

「じっとしていてね。後でちゃんと治すから、一発だけね」

 

 ふーっ、すーっ……。ふーーっ、すーーっ……。

 大きく吸い込んで、細く吐く。繰り返して、呼吸を整えて、きちんと構える。

 俺とは比べ物にならない、雄のミノタウロスより細くもそれに比肩する剛の筋肉。腰溜めに構えられた拳。鋲のついた黒いグローブ。

 ウトは単純な疑問を抱く。

 

 ……折れるどころか、吹き飛ばないか?

 

「ふんっ」

 

 ばぎっ。

 

「いっ、ぎぃああああああああああ!!??!!??」

 

 ……やっぱり手加減した顔だ。

 

 グリフォンの巨体を支える前脚を一発で砕きながらも、メイは晴れた顔をしていなかった。

 

 ……多分、悪魔を本気で殴りたかったのは本当なんだろうな。




悪魔: 死にかけの病人が延命の為に自身を触媒にして呼び出された哀れな奴。

因みに、正拳突きには30%も出してないみたいです。
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