ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい 作:ムラムリ
絶え間なく打ち寄せる波の音。
故郷や山の中のように、獣の活動や虫のさざめきが雑然と鳴っている訳でもない。街のように人の活動が夜でも時折流れてくる訳でもない。
規則的に、けれど時計の針ほどに乱れない訳でもなく。途切れる事はなく、きっと遥か太古の時代より波は打ち寄せ続けている。
ただ、そんな音を聞いてぼうっと過ごしていると、とにかく身も心も落ち着いてくるような。
少しずつ、日が沈んでくる。東の海だから太陽が沈んでいくところは見れないが、夕焼けの色を反射する海の色はとても綺麗だった。
……今日は、よく眠れそうだなあ。
初めて街に来た時と同じように、そうしてずーっと外を眺めていると、扉がノックされた。
「ウトだ。入って良いか?」
「どうぞー」
「分かった……うわっ、布くらい纏ってくれよっ!!」
扉を開けてほぼ裸で居たメイを見たウトは、すぐに扉を閉めた。
「私は気にしないけどなあ」
「ワタシなんて常に裸だぞ?」
「うっせえ! 俺が気にするんだよ!!」
「はいはい……」
以前の会話を思い出す。
『そういえば、なんでメイさんって東のダンジョンに行こうとしてるんだ?』
『んー……言っちゃうと、お婿さん探し。異種族でも良いから歳と
『あ、ああ、そうなんだ』
それを聞いた時、俺はメイさんの事を雲の上の存在だと思ってたけど、多分メイさんからもそういう風に思われてるんだろうな……、と思った。
俺自身メイさんを魅力的だと思わなくはないけれど、それ以上に恐ろしい人だっていう印象の方が強いし、と納得してしまったのが、少し悔しかった。
聞こえないように、小さく溜息。
「つけたよー」
程なくして脱力した声が聞こえて再び扉を開けた。
局所だけを簡単な布で隠した姿。
首筋も腋も脇腹も太ももも丸見え。
ただ、山の中で鍛えている間とかにももう、見慣れてしまったのも確かだった。
「それで、ええっと……悪い話がある」
「えー……」
「なんだ? 勿体ぶらずに言え」
「東に渡航する船の運賃が、物凄く上がっていた。倍近くに」
「えっ……足りないよ?」
思わず財布を取り出して中身を確認するが、今日の宿代を含めなかったとしても普通に足りなかった。
「何でだ?」
「最近、ここらにクラーケンが出没しているようで。東のダンジョンとかから腕利きを雇っての渡航になるから、その用心棒代がかなり嵩んでいるらしい」
「私も水中で戦うなんてした事ないしなあ……」
「文句の言えない理由だな」
「ただ、良い話? もある」
「お金を稼ぐ話?」
「ああ。やっぱり漁師って血の気の多い奴が多くてさ。俺もその一例だし(……って言ってもメイさんに比べたら五十歩百歩なんだがな)。
だから、俺もなんだかんだ強くなって帰ってきたのもあって、その賭け試合に誘われた」
「んー……? それって、私も参加しろって事?」
「別に地道に働いて稼いでも良いけどさ。漁師は生傷も絶えないから、メイさんの僧侶としての能力の向上にも役立つだろうし。
でもやっぱり、一番手っ取り早く稼げるのはそれだと思う」
「んー……少し考えさせて」
そこにエロクーが口を挟む。
「考えさせてくれると良いがな」
「まあ……そうだな」
「えー……、私の噂がこっちまで届いているとかでも言うつもり?」
「そりゃあ、なあ」
「そうだな」
「ヤだなぁ」
*
ウトはその後また、挨拶周りとかで出ていった後、帰って来る事はなかった。
水浴びではなく、久々の湯浴み。魔獣の湯浴みのサービスもあるようだったけれど、それなりに金が掛かるみたいだったので、エロクーは断っていた。
元々野生だったからか、そこまでの清潔さには余り興味もないようだった。
ご飯は正直、ミノタウロスにとっては美味しいものではなかったが、量は食べた。
それから眠気も襲ってきたが、なんとはなしにまた夜の海を眺める事にした。
隣にはエロクーも並んだ。
夜になっても人の活動があるとは言え、街よりはとても少ないし、灯りも大してない。
けれど、他に人は居る、昼にある活気の中で皆が休みに就いているのだと理解出来る、ある種の安心。
月明かり、それは絶えず波を打っている海面に複雑に反射して目にまで届いてくるも、そこに刺すような眩しさはない。
太陽が力強く煌めきを主張してくるのに比べて、月はいつまでも優しい。
昼の海とは全く異なった顔で、そこに昼と変わらないさざ波の音が加われば、程なくして眠ってしまいそうでもあった。
けれど、もう少しだけ起きていたかったからか、メイは口を開く。
「……私が海沿いで生きるには、食べるものが合わなさそうだけど、でも海は好きだなあ」
「ワタシも、このキラキラは好きだ。飯が別に魚ばかりでも構わんが、ただ、ダンジョンのような愉悦を覚えられる仕事はなさそうなのが困る」
「……賭け試合、魔獣同士でもあるんじゃないの?」
「ダンジョンの仕事は、負けても金が入るのが良いんだ。
賭け試合は、負けたらきっと何も入らないだろう。
それにワタシは……メイと同じく、戦闘狂でもないからな」
「……まあ、ね」
……好きなのは戦いじゃなくて弱いもの虐めです、って言うのを綺麗に言い換えたなあ。
私も、斧槍で首をすっぱり刎ねたり、盾役が私の攻撃に耐えられないって察した時の顔が癖になっちゃってるから、あんまり人の事言えないかもだけど。
「それで、明日はひとまず僧侶としての仕事がないか探すのか?」
「うん。僧侶って言っても、蘇生までは出来ないから、本職ほどは稼げないと思うけど、それでも1日で宿代の倍くらいは稼げると思う。
エロクーも稼がなきゃでしょ?」
「そうだな。ダンジョンで勤めている証と、魔法を使える事も含めれば、色々出来るとは思う。
余りそういう仕事をしたい訳でもないがな、ワタシも東に行きたいならば仕方ない」
賭け試合には、積極的には出たくない気持ちは共通していた。
ただ。
外から足音が聞こえてきて、それは部屋の前で止まり。
「メイさんー……開けるよ」
申し訳なさそうなウトの声が扉越しに聞こえるのに、2人はげんなりした顔を隠さなかった。
メイ:
クリティカルヒットや防御貫通、一撃必殺が好き。
エロクー:
弱いもの虐めや甚振るのが好き。
ウト:
自分の体が思い通りに動かせるのが好き。
自分だけで難所を突破した時の全能感が好き。
ユーリ:
理詰めで相手を完封するのが好き。