ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

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メイさんは腹を殴って跪かせてゲロ吐いているところを見下したい

「あ、居た居た。もう出たって言うし、まあ屋台だろうなって分かったけど……何かあったか?」

「ねえ」

 

 やってきたウトの方を振り向いたメイは、不機嫌な、それ以上に不安そうな顔をしていた。

 エロクーもいつものような傲慢さは見えない。

 

「な、なんだ?」

「私って、30日で覚醒まで使えるようになると思う?」

 

 その問い。もうメイと戦いたい誰かと会ったのだろう。しかも、メイが今のままでは勝てない実力者に。

 そこまで察しながら、ウトは答えた。

 

「……普通なら出来ないって答えるんだけどな。メイさんなら、もしかしたら」

 

 そこまで聞いて、メイは逆に項垂れた。

 テーブルに顎をだらりと置いて、脱力して。

 

「これから言う事は、ウトやエロクーからしたら……いや、誰が聞いてもムカつく気がするけど」

 

 意味ありげな前置きをしたのに、ウトはひとまずメイの向かい側に座った。誰かが直前まで座っていたようで温かい。

 

「私ね、強くなりたいって強く思っている訳じゃないの。

 お婿さん探しも、今一番やりたい事はってサブマスターに聞かれて捻り出した事だし、だから私が誰かを好きになるとか、そういう事自体全く想像出来ないままなの。

 ダンジョンでフロアボスをやってたのも、私がなりたくて成った訳じゃなくて、才能があるからって誘われてやっただけだし。

 私はこれまで流されて生きてきただけなの」

「……」

「でも、別にね、これまで強い事が嫌いな訳じゃなかったんだけど。もう7回本当に死んでいても、それは嘘じゃなくて。

 大体勝てていたからっていうのが一番の理由だと思うけれど、戦うのも楽しかったし。

 でも……、流石に今回はちょっと、私のこの先祖帰りなこの体の事を恨めしく思ってる」

「……何があったんだ?」

「スィニチっていうミノタウロスの男に、30日後の賭け試合で情けないところを見せたら娶るって言われた」

「えっ……あの人が……? いや、あの人、流浪の旅人って感じで、俺も数回会ったくらいだけど、本当に良い人なんだけど……?」

「……ちょっと訂正。娶るとは直接言われなかったし、30日の猶予も与えられたのもあって力づくで私をどうこうしようとするつもりはないみたいで。

 でもね、臭いがしたの。雄の……その、臭いが」

 

 ……それって、単純に朝に抜いたとかじゃねえのかなあ。

 

 そういう疑問も浮かんだが、勿論口には出さない。

 

「ただね、私が一番うんざりしているのは、そんな事を言われた事そのものじゃなかったの」

「……?」

「これから30日間頑張り続ければ、私は覚醒まで使えるようになるかもしれない。その事実そのものにうんざりしてるの」

「ええと、良く分からないんだが……?」

 

 メイはもう一度大きく溜息を吐いてから。

 

「言ってしまえば……スィニチも別に私を本気で娶ろうとはしてないと思う。……欲情したのは本当だろうけど。

 それで、私が頑張れば覚醒まで使えるかもしれないって、ウトに言われて確信した。

 スィニチが、それよりも望んでいる事は、私がもっともっと強くなる事。私の行先をそうして勝手に強い方向に捻じ曲げようとしている事。

 それが何よりもヤだ。今の私には、結局頑張るしか選べなさそうなのも、とてもヤだ」

 

 ……確かに、聞いていると結構ムカつくな。

 そう思っていると、メイは更に駄々を捏ねるように頭を振る。

 ずりずりとテーブルから音を鳴らしながら。

 

「私ね、海を見るのとても好きだったの。朝の海も、昼の海も、夕方の海も、夜の海も、見ているだけで、なんか私自身の意識まで海に溶け込んでいく感じがして。

 そういう音を聞きながら、暫くこの港町でゆーっくり過ごせたら良いなあって、思ってたの。

 ゆっくり、少しずつでも良いからお金を稼いで、毎日毎日、のんびりと。

 先祖帰りしたこの体質を除いたら、私の本性なんてきっと、そんな片田舎で外の世界も知らずに毎日を無事に過ごしているだけで、死ぬまでニコニコし続けていられるような、そんなつまらないミノタウロスなの」

「……」

「頑張りたくないなあ。30日も? ヤだなぁ……」

 

 それは、うーん……。

 

「……なら、せめてさ、何か前向きになれる目標みたいなの、作れたりしないのか?」

「前向きになれる目標……あるにはあるけど」

「何だ?」

「スィニチの腹に思いっきりパンチしてゲロ吐かせたい。

 跪いて、無様にゲーゲー吐いてるところを思い切り見下したい」

「……」

 

 あのさ……やっぱり、つまらないミノタウロスからそんな言葉は飛んでこないと思うんだ、俺は。

 

「ま、まあ。俺の居た道場に来れば、もっとコツとか分かりやすく教えられると思うけれど。そうしたらもしかしたら……」

「ウトが良い」

「えっ?」

「ウトに覚醒まで教わりたい」

「え、俺、そんな教えるの上手くないと思うけど」

「単純に私が人見知りっていうのもあるけど。でも、それ以上に、自分だけでダンジョンに挑み続けて、独力で覚醒まで辿り着いたウトの事を、私は信頼している」

 

 …………そんなに? いや、そんなに??

 

「私はこれまで手塩を掛けて育てられただけだから。これから自分で頑張らなきゃいけないなら、そうやって頑張ってきた人に教わりたい」

 

 ウトは、それでも少し悩む素振りをしてから、片腕で顎肘を着いて。

 

「責任重大だな……。でも、まあ、やってみる」

 

 メイは体を起こして、ぺこりと頭を下げる。

 

「お願いします」

 

 それから、やっぱりもう一度大きく溜息を吐いて。空を見上げて。

 

「頑張る、かぁ」

 

 

 

「……因みに、ワタシに何か出来る事はあるか?」

「宿代を稼いでくれると嬉しい」

「……」

「お願い」

「……はぁ」




今のところ一番好きなサブタイかもしれない
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