ミノタウロスの♀でダンジョンの中ボスを務めているメイちゃんはそろそろ番が欲しい   作:ムラムリ

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メイさんは腹を殴って跪かせてゲロ吐いているところを見下したい 2

「覚醒の為には、ひとまず呼吸で得た力を肉体に還元させる基礎を、とにかく自然と出来るようにならなきゃいけないからな。ひとまず、それを意識してとにかく体を動かす事。

 朝に目が覚めたら、無意識の内に呼吸を使って寝る前に手にしていたクルミを握り潰していたとか。

 呼吸を使わないと持ち上げられないようなものを、前準備なしに自然と持ち上げたりだとか。

 そういう段階まで呼吸を体に馴染ませないと話にならない。

 だから20日はそれに費やして良いと思う。

 メイさんなら、もしかしたらもっと早くに慣れるかもしれないし」

「それって……漁港とかで働いたりでも良いかな」

「いや。今回はやめておいた方がいい。

 意外とあそこは繊細でさ。一尾ですっごい値がつく魚だとか、揺らさないように慎重に運ばなきゃいけない積荷だとかも良くあって。

 そんな別の事に神経を集中させている暇は流石にないだろ」

「んー、そうだね」

「結局働くのはワタシだけか」

「事が終わったら丁寧に毛繕いとかするからさ」

「…………んまあ、本当にスィニチの腹を殴る事が出来るなら、それを見れるだけでも十分だがな」

 

 メイには毛繕いされたくないというような感情が漏れ出していた。

 

*

 

 装備を身につけた上でウトに案内されたのは、人気のない岩礁だった。

 

「ここの岩礁は無駄に入り組んでてさ、小さい子供なんかが隙間に嵌って溺れたりとか、大人でも岩礁の上から釣りなんてしてたら、大きい波に攫われてそのまま死体も見つからなかっただとかそんな事ばっかりで。

 だから子供は近寄らせないようにしているし、大人が近寄る事もないんだ」

「人目を気にせず何かしたりするのにうってつけって事?」

「そうだな。

 俺が小さい頃に親父に殴られた時とか、反発してこっちにきた事もあるんだけど。岩礁の上で黄昏ていたら殴られた時とは比にならない怒声が飛んできてさ……、いやまあ別にそんな事はいいか。

 それで、メイさんはその装備があれば石も砕けるよな?」

「やってみるね」

 

 そういって岩礁に手頃な石を置き、呼吸を整えてそれを殴る。

 

 バギャッッ!

 

 下の岩礁までかなり砕けていた。

 

「うわ……やっぱり凄いな……。

 いや、とにかく、まず最初はそれを数をこなして欲しい。慣れてきたら蹴りとか肘打ちでもやっていく」

「先に聞きたいんだけど、ウトはそういう反復練習で何をしていたの?」

「呼吸を生かして街の周りを全力で走ったりとか、手足の爪で丸太を切り裂いたりだとか。そういう事ばっかりしていた」

「それを何年も、数え切れないくらいに?」

「何年もって言っても、3年くらいだけどな」

「3年ね……。ここの岩礁を全部壊せば追いつくかな」

「……まあ、手頃な石は俺が集めてくるから、メイさんはとにかく数をこなしてくれ」

「はいはい」

 

 

 

 呼吸を整えて全身に力を激らせる。

 肩を怒らせて、肘を後ろに逸らし、拳を固めて、グローブの鋲を石へと叩きつける。

 土台にした岩礁まで砕ける。

 場所を少し変えて、再び呼吸を整える。

 

 砕けた石の数々。この港町を出る前とそう変わらない姿形をしていた岩礁が僅かずつ、純粋な力で形を変えられつつある。

 

 ……集中、しているな……。

 

 そんな姿を見ていると、スィニチさんがメイを更に鍛えるように脅迫したのも頷けてしまう。

 山の中で呼吸を我が身にしようとしている時も、その集中力は凄かった。

 その時に、それも先祖帰りによる素質であるのか? と聞いたら。

 

『いや、サブマスターがね……』

 

 それだけ言って濁された。

 ……ただ、メイをダンジョンに雇ったユーリさんとかは、先祖帰りというだけでメイを雇ったのではないのかもしれない。

 普段は静かにしつつも、腹が立った相手を許さないような執念や、破壊に喜びを見出す性格。それまで含めて先祖帰りなのか、それともそれは自前で生まれ持って出てきたのか。

 強くなる事そのものを重視していないと言えど、きっかけを与えられてしまえば、凡人が躓くような壁をひょいひょいと飛び越えてどこまでも強くなっていきそうな予感。

 

 集めてきた、殴りやすそうな形をした石をメイの進路の先にごとごとと置いていく。

 

 ただ……その最初のきっかけは、ユーリさんは高収入な雇用という形で作った。

 次に、結果的にメイさんの魂の質(レベル)を一段階上げるに至った、過去にメイさんに敗北した挑戦者達は、改めてメイさんに殺され、その中には再起不能になった人達が多くいる。

 そして、スィニチさんも……かなりよろしくない形でメイさんを焚き付けている。

 

 バギャッ!

 

「……ふふっ」

「……」

 

 小さく笑い声が聞こえて振り返ると、次の石のある場所に歩いているメイが、口角を上げているのが見えた。

 草どころか、肉や骨まで擦り潰せるのに疑いのない臼歯と歯肉が丸見えにすらなっている。

 そのまま鼻から大きく呼吸を整えて、殴る為の筋肉を怒張させて、目に殺意まで滾らせて。

 もし、その顔のままこちらを向かれたら、背筋が凍って足も動かなくなるだろうと確信する、凶悪な笑顔。

 

 バギャッ!!!!

 

 スィニチを殴る事を想像して鍛錬に励んでいる事は確実だった。

 多分もう、土台にしている岩礁に入る皹の広さも深さも最初より大きくなっているだろう。

 

 ……あれ? スィニチさんもメイさんを焚き付けたけど。俺もか? 俺があんな事言ったから、メイさんはスィニチさんを殴る事を明確な目標にしたんじゃ?

 いや、もう……もう、どうにでもなれ。もしスィニチさんがボコボコにされても、だからと言ってそれは俺のせいじゃねえし。

 

 ウトは開き直る事にした。




石砕き2万回です。
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